FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「…………えーと、だな」
お屋敷の中。若干気まずい空気が流れていた。
目の前には、二人分の背中。その片方が、なんだか普段より大分小さく見えるように見えるのは気のせいだろうか。いいや、多分ほんのちょっとだけ、物理的にも小さくなっていると思う――その奥から溢れ出す、妙な威圧感に潰されて。
いや、実際影響があるのは片方だけだし、影響を与えているのも片方だけなのだ。揃って向き合った二人組二つの内の。
それぞれもう片方……説明をする側の方はひょうひょうとしているし。される側はといえば、隣の合い方から溢れ出す物凄い圧力に規制を削がれているし。
「それで。申し開きはありますか――康友君」
「……あ、あのですね。いや本当に違うんですよ香子さん。ですので、ちょっと、一旦、落ち着いて頂けたりは……そのですね」
……なんだか更に少年の背が小さくなっていっているように見える。二人とも記憶はない筈なのだが……なんだか、とても良く見た事がある光景が広がっていた。
「……あの、これってどうなってるんですか?」
『いやー……選択自体は悪くなかったけど、言葉選びがねぇ』
「そういえば、あの、巌窟王さんは……」
「『狗の餌にもならないやり取りは御免被る』だってさ」
まぁ、本当の所を言えば。適当な言い訳を使って、彼一人だけでも屋敷回りの警戒に行ってくれたのだろうが……これを見ていると、本当にそう考えて一人逃げ出した可能性もゼロではない気がしてくる。
こうして、マシュ、リリィと共に、諸々の不満が爆発した香子の色んなものをぶつけられる光景を見せつけられていると……
――さて、何処からこんな事になったのか、と言えば。
『――成程……それだけ凄い皆さんでも、俺のコレについては、ハッキリとした事は分からないのか。そうか』
『そ、そうだね……此方でも始めて観測する様な現象でね。いやもう、情報不足で申し訳ないというか……』
玄関から顔を覗かせた康友に、通信先のカルデアのメンバーを紹介した後。
康友は……当然というか、自分の額から生えた角に関して、此方に問うてきた。明確に此方の領分だと判断できたのは、ある意味冷静に過ぎると言うべきか……もうちょっと取り乱しても、誰も責められないと思っていたのだが。
『いやまぁ……俺が取り乱してると、伝わるじゃんか、なぁ?』
……何処か疲れたように笑う彼を見ていると、恐らく無理矢理に抑え込んでいる部分もあるのだろうというのは、直ぐにでも伝わって来る。妹も、幼馴染にも。変な心配を掛けたくない、という気遣いで。
が、しかし。そんな健気な彼に対して……このカルデアとの諸々を伏せて、となって来ると、存外と喋れる事も少ないというか。
喋れる事はある。しかし、それらは彼がカルデアで暮らして、その上で調べが付いた事も多い。故に……その辺りを伏せようとすると、どうしても色々喋れる部分が限られてくるという事に、今更ながら気が付いた。
結局……ロマニとダ・ヴィンチちゃんが慌てて検閲した結果――『多分だけど、其方の調査で出て来た、鬼の関連で……君の身体に眠ってた力、なのかなぁ?』位の、物凄いふわっふわした、曖昧極まる事しか伝えられないという結果となってしまった。
『いや……構わねぇよ。少なくとも、可笑しなものが俺に取り付いた……とかじゃないだけ安心できた。ありがとな、優しいお兄さん』
『や、優しいお兄さんなんて、照れるなー……あの、此方でも改めて、君の事についても調べて見るから、その……あんまり落胆しないで、ね?』
『お、ずいぶん親切にしてくれんじゃねーの。ありがとな』
頭から生えた角に関して……不安も色々沢山あっただろう。
それでも尚……強く唇を噛み締め、明らかに色々と湧き上がって来たであろう感情を、ぐぐっと呑み込んで。此方の言い分を信じてくれた彼の誠実さに、逆に胸が物凄い締め付けられて。カルデア側の空気は、完全にお通夜と化す事となった。
『……とはいえ、これ俺の眠れる力的な何かってなると、あー……どうしたもんか。こりゃあ……はぁ、参ったなぁ』
……完全にお互いの間の空気が死んだ中で。
先に、動いたのは康友の方だった。大きなため息を一つ。それから、頭をガリガリと搔きつつ、屋敷へと戻ろうとした――その時だった。
『あ、あのっ……康友さんっ……!』
屋敷の方から聞こえて来た声。其方に皆が視線を向ければ……玄関から顔を覗かせた、香子の姿が目に入った。
康友は、恐らく何も言わないまま屋敷を出て来たのだろう。それを追いかけて出て来たと思われる彼女は、此方に収束した視線に、少し委縮してしまった様子であった。
……記憶を失っている、とはいえ。かつてのカルデアでも、彼が先走って動き、彼女が少し困った様子でその後を追う光景は、良く見られたものだ。お互いに何も知らずとも、二人がこの関係に収束している、というのは、少しばかり微笑ましい所もあって。
『その、先程のはっ……』
『あー……なんだ、なんでもない。大丈夫だよ香子さん』
少し、冷え切った空気に熱が差した気がしながら……二人のやり取りを見ていた。
またいつか。お似合いの相棒として、二人が笑える時間が戻って来る。そんな、確証も無いけど、感じられた希望を、胸に抱きながら。
……と、良い感じで終わればよかったのだが。
『――だ、大丈夫ではありませんっ……!』
康友が、彼女の追及を躱そうとしたそこで。恐らく、何かの潮目が変わったのだろう。
『いや、本当に大丈夫だって。怪我とかしてねぇしさ、ホラ』
『いいえっ! あのような鎧を身に着けた相手を殴って……今は痛みを感じていないかもしれませんが、後になって気が付くなんて事も珍しい事ではないのですし。あ、あんな物凄い力を、いきなり振り回して……それで身体を壊していてもっ』
『あー、アドレナリンだとかそれで気づかない、って事もままあるか……いいじゃん、その時はその時でさ。火事場の馬鹿力で体壊すだって、経験ない訳じゃないし』
香子が、食らいつく。
だがしかし、康友はと言えば、心配を掛けさせたくない、という先程の言葉通りに。今、自分の身体に何が起きているのか――彼自身、此方から詳しい事情を聞けなかったというのも、当然あるのだろうが――話すつもりはないらしく、のらりくらりとやり過ごそうとしていたのだが……それでは香子も納得できなかったのだろう。
横を抜けようとした康友の手を、彼女は咄嗟に取って逃がさない様に握った。
『ダメですっ……先ずは手当をしますから。その間に……何があったのか、キチンと話してくださいっ』
『いや、俺だってあんな化け物が急に出て来てさ、ビックリしてんのよ? さっきだって無我夢中で殴り飛ばしたから、もう頭の中真っ白で、何が起きたのかも覚えちゃいないし』
……その腕を、無理に払いのけようともせず。少し困ったようにしながらも。康友は香子の追及を躱し続ける。掴む手を両腕へと変えて……香子は彼を見上げる、その濃い藤色の瞳を僅かに、潤ませて。声が震え始めながらも、追及をやめない。
その涙声に、彼も気づいていない訳もない。
傍から見ても、少し寂しそうにして――彼女の感情を無下にする様に誤魔化し続ける事が、どういう結果を招くか。それも覚悟の上だったのだろう。
『どうしてっ……どうして、隠すのですか……っ?』
『何も隠してなんかないよ。それに、よしんば何か隠してたとして……』
『アンタに話す様な真似は、俺はしないな』
あ、と。
誰かが、そんな声を漏らした。
明らかに、冷たく突き放すような言い方。それに、香子がその目を見開いて――それが、決定的な亀裂になってしまう、と。そう、誰もが思っていた。
『……そう、ですか』
しかし。しかしである。
香子が、感情を抑えきれなくなってしまう。そんな景色を幻視していた所を……彼女はそれを『越えて』来た。
声のトーンが、一つ落ちて。酷く平坦に、彼女は声を零す。さっきまでとは違い、逆に感情を削ぎ落した様な声で――ここで立香は『おや?』と首を傾げた。
それに続いて……ぎゅっ、と。何かを締め上げる様な音が、聞こえた気がした。もしやと思って見てみれば。康友の腕を掴む両腕が、ぷるぷる震えている。先程よりも強く、指先が彼の腕に食い込んでいるのが見えた。
『……あ、あのっ、香子さん。痛い。痛いデス。まって』
『痛いのですか。やっぱりお怪我をしている様ですね』
……瞬間の事である。
腕を締め付けられた事で上がった悲鳴を起点にするかのように――先ほどと違って、あくまで優しそうな微笑みを浮かべた(細められた目は笑ってない)香子さんと康友の優位がひっくり返った。
その光景もまた……最近のカルデアで良く見る様になった光景であった。
大の男が、麗しい婦人に詰められる。彼は、抵抗する事も出来ずに、ただただ頭を下げる事しか出来ない。
『香子さんこれ違う。角由来じゃない。香子さんのお力でやられてる奴』
『角、ですか。やっぱり見間違いではなかったようですね』
『あっ……いや違くてですね、あのちょっと待ってください、ホント待って、折れちゃう骨折れちゃうからっ……!?』
『話す事は無いのでしょう? 聞こえません』
『いや待ってそんな都合よく言葉を使わないでアンタ本当にさっ……!?』
結局。康友はそのまま、のらりくらりと躱そうする隙間もない程に、彼女の言葉に絡められて行って……
「……えっと、どっから話すべきっすかね」
「全てを」
「…………はい……」
こうして、屋敷の大広間にて。正座で聴取される事となったのである。
もう知らない、となると思ったか!? 残念!
という事で、今回の更新はここまでです。次回は……九月になると思います。とはいえ、最近忙しくなってまいりましたので、確約は出来かねますが。出来るだけ頑張って戻って来たいと思います。
またその時、見かけたら読んで貰えれば、幸いです。