FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「結局、見つかりませんでしたね。それらしい何かは」
「そうだね……」
マシュと二人、縁側に腰を下ろし、ゆっくりと一息ついた。
最初に行ったカルデアの探査には、それらしい反応も引っ掛からず。
となれば、既に役目を終え、沈黙している可能性が高いと。今度は件の部屋の中を『目視』で探し回って見たものの……何かしらの『痕跡』が残っている物は見つからなかった。それこそ、小さい頃の思い出の品から、消耗品のティッシュ一枚に至るまで……念入りにやった。が、小石程の何かも無かった。
棚の裏まで念入りに攫うレベルで総なめして……それでもとなれば、もう『ここには無いのではないか』という雰囲気になって来て。一応は、明日もう一度探すという事だけは決めて、自分達を残して一旦解散、という事にはなったのだが。
「あったとしても、流石に痕跡を残す程は間抜けじゃないって事かな」
正直、そう考えてしまうのは、否めない。
康友以下、なぎこさんや香子さんも、協力して貰ったというのに、特に結果が出る事も無く。気にしてない、とは言って貰えたが、どうにも徒労と落胆の色が隠せていなかったのは流石に申し訳なかった。
とはいえ……その言う印がもうない、または元から無かったと分かった事は、良い事である。もしそんな印が残っていたら、もう一度同じ様な事が起きるかもしれない。空振りした虚しさと共に、零れた吐息と共に安堵が内を満たしていくのも、また事実で――
『……いや、そうとも限らない』
けれど。
自分が零したその言葉に、ロマニはそう返した。
「そうなの?」
『うん――そもそもだけどね。あの室内に向けて突如として敵を送り込んだアレは……例の『渦』を使った空間転移とは、恐らく『構造』からして違う……と思うんだ』
――顔を上げる。
隣のマシュと顔を見合わせてから。通信先のロマニに尋ねた。
「それって……」
『さっきは空間転移という手で『送り込んだ』という前提で僕らも話をしていたけど……でも、おばあさんの言葉を考えれば、違和感がある』
「えっと、急に黒武者が現れた、とは言ってたけど」
先程の彼女の発言を思い返そうとして口にしたその一言に――隣のマシュが何かに気が付いたのか、ハッと顔を上げる。
「その前に――『何の前触れもなく』と……言っていました、おばあさんは」
「あっ……!」
『うん。そこが僕も引っ掛かった。幾らなんでも、あんなあからさまな異変が室内で発生したのを、見逃すわけがない』
言われて気が付いた――そうだ。敵を呑み込むあの禍々しい渦が、あの大きな敵を送り込む時にも使われていたのなら……サイズも、それ相応になる。どう足掻いても目立つし、見逃さない訳も無い。
そうではなく。その言葉通りに『何の前触れもなく』、『湧いて出た』というのなら。その二つの事象は、明らかに別物だと言って良いだろう。
『そうだと考えると……マシュ、何が考えられるかな』
「……元から姿を消して接近して来ていた、とするなら。途中で解除して襲い掛かるというのは道理に合いません。最後まで姿を消して強襲した方が……気づかれにくく、確実に仕留められる筈です」
一つ一つ。事実を確かめる様にマシュが呟くのに頷きながら、考えてみる。やはり、敵が唐突に室内に出現したのは間違いないのだろう。
そうなって来ると……脳裏に思い浮かんだのは、第一特異点の時の事。敵方のキャスターであるジル・ド・レェが、宝具によって海魔を呼び出していたような――
「召喚術」
『うん。僕も其方で考えてる。それこそ『印』……というか、召喚の為の陣をこっそりと敷いておけば、理論上は遠隔からでもあの黒武者を室内に召喚する事は可能だ』
事実を一つ一つ確認した上のこの結論が、もし正しいのなら……印ではなく。召喚する為の魔法陣が必ず何処かに存在する事になる。
「ですが……家の中にそれらしい印は見つけられませんでした」
しかし結局は――そこに帰結してしまう。寧ろ、単純な目印ではない分、前提として目立つ形をしているのではないか。加えて、想像しているサイズの物であれば見つけやすいだろうし、アレだけ探して見つけられない、という話が出てくる。。
空間転移で無いのなら、部屋の屋根裏や床下など、多少は融通も効くのかもしれないのだが……そうなって来ると、今度は何時の間に仕掛けたられたのかという話になって来るし。
「敵に侵入された形跡は、今まで見つかってない、よね」
「はい。そもそも、ずっと敵は此方が村などを出ようとしない限り、アクションを起こそうとする様子も無かったですし……」
敵にとっては、単純な物量で押し潰すのも不可能ではない。守りも何もない村だ。やろうと思えば、罠をこっそり仕掛けるなんていう回りくどい真似をしなくても、幾らでも真正面から捻り潰せるはずだ。
搦め手、というのは真正面から戦うと難しいから使うのであって。正面切っての攻勢で勝てるのであれば、それが一番いい――それをせず、急に搦め手染みた一手を打ってくるのは些か道理に合わない気がする。
となると……
『うん。僕も、『家の中』にあるとは思ってないよ』
――そんな此方の心境を読み取ったかの様に、ドクターはそう言った。
「どういう事?」
『……術式の大きさに関しては、術者の腕次第である程度はコンパクトに収める事は難しくない。西洋と東洋では形式すら違うからね――そこから考えると、態々家の中に忍び込んで仕込まなくても、あと一つ。『勝手に家に帰ってくれる』最適の場所がある』
勝手に――その一言に、もう一つの言葉が思い浮かぶ。
あの黒武者は……なぎこさんの背後に突然現れたという話だった。という事は。もしかして、召喚する為のその『何か』がある場所、というのは――
「人……」
「えっ?」
「リンボは、確か陰陽師だった。陰陽師って……式神を手持ちの符から呼び出したりなんかもする、よね。それって……」
その一言に、マシュも合点が言ったように目を見開いた。
もしも、気が付かない様に細工されたその符を何処かに、潜ませていたとするならば。ああいうのは、着物の裾から巣ッと取り出せるほどに薄い札だ。やろうと思えば、それこそズボンのポケット、スカートの裾、僅かな隙間にだって仕込めるだろう――つまり。
「『人間』に、仕込んでいた……!?」
『……上手く行ったら、態々忍び込む必要だって無い。その人が、家の中に勝手に持ち込んでくれる。やっぱり無いって言う可能性もあるけど……まだ、此方でしっかり調べられていない所に、相当上手く隠蔽されたまま残っているとすると』
――マシュと二人、さっとその場から立ち上がった。
「先輩……っ!」
「行こうマシュ。先ず可能性があるのは、なぎこさんだ」
二人して、先ほど以上に顔を引き締めて走り出す――こうなれば、場所も何も関係なくなった。『次』があれば、今回の様に守り切れるかなんて保証は何処にも無い。
無辜の民が再び危険にさらされる――今までずっと後手に回らされていたからこそ。次は、そんな事をさせたりしない。強い思いが、身体を突き動かしていた。
「本当に良かったよ。二人とも元気そうだ」
「うんうん――で、そんなカルデアのバックアップ無しで苦難を乗り越えた二人には、もう一つの『低い可能性』は言わない訳だ」
「……あぁ。これは僕の責任として、口にしない事を決めた。全く、酷い話だとは自分でも思うけどね」
「まぁ、否定はしないさ――その理由も分からない訳じゃないし」
「……『彼女』も気づいていた、と思うかい?」
「多分ね。そうじゃなきゃ件の部屋に入るでもなく……見ていた子達に『だけ』、何やら話を聞いていたりはしないと思う。特に、『彼』には念入りに聞いていたね」
「そうだとすれば――本当に強い人だね。それでも、隠すのではなく自分なりに真実を探ろうとしている」
「もし――自分の身内に、敵方の『間者』がいるかもしれないと、その可能性を認識した上で冷静に動けたのなら……本造院君のお婆さんの精神の強さは、もはや英雄のソレに比肩するレベルだと思うよ」
色々こねくり回してたら夜が明けてた(震え声)