FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
さて。早速調べてみる事にした。
もしもそんな印が、この家の住人の誰かに残されているとすれば、直ぐにでもなんとかしないと危ない。とはいえ、『気付かれた』事に向こうが気付いてしまったら。
その『符』が残っていた場合、恐ろしい事になりかねない。
「とは言ったものの……それらしい跡はやっぱり見えませんね」
「うーん」
と、意気込んだは良いのだが。
今の所、廊下の曲がり角からそっと覗き込んだ、なぎこさんの背中には、それらしいものは何も見えない。
襲われたのはなぎこさんなのだから、先ず順当に行くのであれば彼女が一番ありえるんじゃないかという推論を立てた――が。半ば勢い任せでの突撃だった事もあり、なぎこさんの身体チェックは速攻で頓挫する結果となりかけている。
そもそもの話、札が服の何処かに仕込まれている、というだけでなく……彼女の肌に直接刻まれているという可能性も、ゼロではないが確かにあるのだ。
もしそうだった場合……なぎこさんにきちんと説明して、肌を見せて貰わねばならなくなってくる訳で。
「でも、軽率にその様な事を言う訳にも行きませんし」
「どうやって上手く説明しようかな……」
彼女は大丈夫だ、とは言っていたものの。だからと言って『貴方の身体に化け物を呼ぶ為の印が付いているかもしれないので調べさせてくれないか』と直球に口にするのは、流石に人の心とか無いのか、と言われても仕方ないというか。。
かといってまた変に嘘を付くというのも、なんだか憚られる。隠し事がようやく無しになったのだから、というのもあるし……
うんうん、と二人して暫し唸って見るが。先程の自分達の様に、縁側に腰を下ろして庭をぼんやりと眺めるなぎこさんに、一体何を言えば良いのか。
ばれない様に、と気を遣った言い方を考えてはみるが……もう何を言っても若干胡散臭くなっていく気がしてくる。
言葉のプロたる『式部さん』が居てくれれば……とは思わないでもない。いや、今の彼女もきちんと文学についても造詣が深いのは間違いないけれども、だからと言ってそっちに事情を話してはほぼ意味がなくなってしまうというか。
「……よし」
――そこで、一つの確信を得る。
「何か思いつきましたか、先輩?」
「マシュ、俺が先に先行してなぎこさんを羽交い絞めにして抑える。その間に、なぎこさんのTシャツからスカートの確認を済ませて欲しい。そこにも無ければ服をまくり上げて、二人でお腹とか背中を確認して――」
「先輩!?」
もはやここまで至ったならば言葉を紡ぐは無粋……全ては我が身体で語るのみ。肉体言語にて押し通る。ゆらり、と。その場に立ち上がり。頼りになる後輩の肩へとそっと手を置いてから、悠然と一歩を踏み出す。
口元が、胸中に手立ち上る気炎に弧を描く。向かうは元気ハツラツの妹系ギャル娘。相手にとって不足なし、いざや――!
「落ち着いてください先輩」(ゴッ)
「あげっ」
鎮圧された。
……しゃがみこんで、頭を押さえて『おおお……』と唸る。
流石は我が優秀なファーストサーヴァント。錯乱し始めたマスターを制圧するのにも躊躇いは無いと来ている。力強いゲンコツで、頭が陥没するかと思った。
見事だ、と呟きながら顔を上げれば。『ありがとうございます……?』とマシュが心底困ったように眉を顰めているのが見えた。
「取り敢えず、流石にその強硬手段を年頃の娘さんに行うのは、確実に論理に反するかと思われます先輩。ご再考を」
「うん、そうだよね……と、言ってもなぁ……!」
改めて。曲がり角の影からじっと座り込んだなぎこさんを覗き込む。いや、セクハラ染みたやり方は論外なのは間違いないし正気に戻ったのでもうやる気にもならないが。そのマシュの見事な制圧があって、その上で、問題はふりだしに戻ったに過ぎないのだ。
「……となると。この御屋敷にはお風呂とかあるし……そのタイミングで、マシュ、それにリリィに確認して貰うのが一番かなぁ。服と体を」
「そう、ですね。今すぐは叶わずとも……」
次善のタイミングを。
とはいえ……お風呂の中でも、身体をじろじろと見られるというのはなんだか不審に思われてしまうかもしれないが。そこはマシュの透き通った心の清さをもって、ギリギリごり押せると信じよう。服の方は、間違っても男性陣には任せられないので、リリィが適任になって来る。
……嘘は吐いていないとはいえ、何も知らない内に全てを調べ上げる様な真似は、無礼の度合いが大して変わらないのではないかという話になって来るが。
「それまでは、異変が起きない様に気を張ってる必要がありますね」
「巌窟王とかリリィにも伝えておかないと」
――先ほどの探索の後。
巌窟王は『外を見張る』と告げてから部屋から姿を消し。リリィは、『まだ自分の調べが甘い処があった気がするので、そこをもうちょっと調べてみます』との事で、まだ部屋の中に残っている。
という事で、先ず合流するなら部屋の中に残っているリリィか――と、思った所で。なぎこさんの後ろの障子がすっと開いた。
「――お、リリちゃん終わった?」
「はい……やっぱり見つかりませんでした……」
「なはは! ざんねーん!」
ぱたぱたと、なぎこが足を揺らしながらけらけら笑う。それとは対照的に、開いた所から出て来たリリィは、しょぼくれた表情のまま、肩を落として彼女の傍に腰を下ろした。
「ごめんなさい……結局最後まで付き合って貰っちゃって」
「ええって事よ! そもあたしちゃん途中でギブしたし」
「ギブアップって、私が最後の所を念入りに探していて、それで先に出て待ってくれただけじゃないですか」
差し込む夕日の中。くすり、と。互いに彼女達は笑い合ってから。揃って茜に染まる庭をのんびりと眺めて……二人の間に、静寂の時間が暫し流れる。
その静寂の水面に。ぽつりと、波紋を作る様にして言の葉を零したのは。やっぱりというか、なぎこさんだった。
「リリちゃんってさ。お洒落とかせんの?」
「えっ? どうしたんですか、急に」
「いや。説明されてもサーヴァントとか良く分からんけど、ずっとそのカッコだし。綺麗だし似合ってると思うけど……もっとこう、アタシちゃんと香子さんみたくさ、ラフな格好もいいんじゃねって。こういう、気負わない感じもやっぱ『エモ』じゃん?」
そう口にしたなぎこさんに。リリィはくすっと笑ってから、ちらりと自らの衣装へと視線を降ろした――白銀の鎧と、ワンピースタイプのドレスを重ねた、バトルドレスとでも言うべき、その恰好を。
キャミソールと短パン姿ののなぎこさんからすれば、『気合いの入った衣装』と言った印象になるのも不思議ではないか。
「うーん……出来るかどうかは兎も角として、ちょっとやってみたいな、って思う事はあります。正直。生前は、そういうのは、微妙に縁がなかったというか」
「んじゃアタシちゃんのこれ着てみる!? ちょい待ち、今脱ぐから……」
「ちょちょっ!? なぎこさん!?」
――咄嗟に背後を振り返った。
その代わりに……マシュの手を、とんとん、と叩いておく。それだけで、何を言いたいのかは伝わったのか。ちらりと見上げる此方の視線を受けて、マシュはゆっくりと頷いてから二人の様子を見つめている。
「だ、大丈夫ですって……! 誰が見てるか分からないですからっ」
「うははっ、婆ちゃんみたいな事言うじゃん! だーいじょーぶだって! 怖いおっちゃんは外だし、りっちゃんはまだマシュちゃんと一緒っぽいし……まぁ兄貴だったら別に見慣れてるし!」
――そこで。
あ、と。何かに気が付いたように声を零したのは……多分、リリィだった。わたわたとした慌ただしい空気が、ぴたりと収まったのが、背中越しにも感じられる。
……マシュに確認を取ってから、改めて振り向けば。
小首を傾げたままのなぎこさんは、自分をじっと見つめるリリィを見ていた。
「どしたん?」
「いえ……やっぱり、なぎこさんは愛らしい雰囲気をしてるなって」
「えっ、何よ急に? そんな事言われたら、なぎこさん照れちまうぜい?」
……そこまで、二人の間に流れていた穏やかな空気が。
「おばあさんと、お兄さんの二人は、ちょっと怖めの顔で、似た雰囲気をしていらしたんですけれど。なぎこさんは……きっと、ご両親に似たんですかね」
リリィが口にしたその一言で――僅かに、張り詰めた様な気がした。
多分悪意なくこういう流れてズバッと聞くのはこの娘。