FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「――リリちゃんって、意外ところ、ズバっと聞くね」
「すみません。でも、さっきまで皆さんと一緒に居た時に、気になってしまったもので」
リリィが、少し申し訳なさそうに丁寧に頭を下げる――正直な話をすれば、度肝を抜かれた具合では、多分なぎこさんとどっこいだった。普段からあんな感じで誰に対しても礼儀正しく、真面目な彼女が……かなり、センシティブというか。そんな話題を振るなんて。
なぎこさんは、もう大分夕日も沈んで。茜から濃紺へと染まり始めた空へと視線を向けてから……改めて、縁側に腰かけ直して、ぶらぶらと足を揺らして。ちらりと、リリィを流し見ながら呟く。
「似てない?」
「――いいえ。そもそも、そう思ったから聞きたかったわけでもないですし」
「ただ純粋に、なんとなく聞きたくなった感じか」
そうですね、と。リリィは、なぎこさんのその言葉に頷いて見せて――なぎこさんも、本当に短く。そっか、とだけ返してから。また空の彼方へと視線を向ける。
そう呟いた彼女の横顔が。何処か憂いを帯びているのに、隣にいるリリィが気が付かない訳もなくて。
「あっ……ご、ごめんなさい。その、変な事を聞いてしまって……」
「あっ、いや、別に、気にしてるとかじゃないって!」
「でも……」
「いやホントに! だって二人してチンピラフェイスとか、んなコワイ兄妹イヤ過ぎじゃろ! なははっ!」
直ぐになぎこさんは、先程と同じ様に快活に笑って見せるも、やっぱり互いの間に漂う気まずい空気は、そう簡単に晴れてくれる訳も無く。
そこで、リリィはすっと佇まいを正し。ゆっくりと目の前のなぎこさんに対して向き合う様にして、すっと三つ指突いて頭を――深々と下げようとしたのを、血相を変えたなぎこさんが、肩を抑えて止めた。
「いやいや流石にそれはいらんって!?」
「ですけど……」
「ほ、ホントだからっ! アタシちゃんは別にどっちでもって感じだし! 今、兄貴と一緒に兄妹やってんのが幸せだから。似てないとか、そういうのは気にしない、ってだけ!」
慌ててそう口にするも、リリィは申し訳なさそうに顔を俯かせたままで。なぎこさんは少し困ったようにぽりぽりと頭を搔いてから……さて、どうするかと言わんばかりに、くるりと周りを見回して――そこで。
廊下の角から覗き込む、此方と目が合った。
「ちょっ、お二人さん! リリちゃん元気づけんの手伝って! あたしじゃ何言ってももうどうにもならんし!」
「あ、はいっ」
そう言いながら手招かれ。取り敢えず、一旦は元の目的は置いておいて、マシュと共に二人の元へと歩み寄る。とはいえ、元気づけてと言われてもどうすれば良いのか。
リリィの質問は……似てないからどうだ、とかいう聞き方をした訳でもなく。特に悪意があったようにも見えない訳で。
「あの、リリィさん。なぎこさんも気にしていない、と言っているので。必要以上に気に病むのも、失礼に当たってしまいますし」
「うぅ……ですけど」
取り敢えず、リリィの事はマシュに任せ。なぎこさんに向きなおってから……『覗き見しちゃってごめんなさい』と先に謝罪を入れる。
何も言わずに二人のやり取りを覗いていたが、まぁ正直褒められる事じゃないし、何ならリリィよりこっちの方が余計に怒りを買う事もあるだろうと。そう思っての謝罪に、なぎこさんは先ほどリリィにしたのと同じ様に、気にしてない、とひらひら手を揺らして見せた。
「いやー……カルデアの皆、ホントに真面目~って感じだよねー。こんなの別にさっと流しても誰も文句言わんし、普通!」
「まぁ、マシュもそうだけど、リリィは特別に真面目だから」
まぁ……だからこそ、リリィがあんな風に、誰かのパーソナリティに大きく踏み込むような事を、ハッキリと聞いた事が少し意外だったのだが。
……実際、気にならない訳ではなかった、というのは確かである。
おばあさんと康友の持ち合わせる、表情というか、雰囲気の、独特の鋭さ――修羅場を越えた極道のそれにも通じる様なその迫力を、なぎこさんは全くと言っても良いほどに感じさせない。とはいえ、この世に似てない兄妹、なんていうのは幾らでもいる訳で。態々指摘したりする必要はないだろうな、と――
「んー……じゃあ多分、リリちゃんも必要だと思って聞いたんかね。知らんけど」
「いや、そう言うんじゃないとは思うけど」
「――ま、それはいいや。ね、りっちゃん。一つ聞きたいんだけど」
「ん?」
そこまで考えた所で。
なぎこさんの問いかけに、視線を上げる。
「アタシちゃんに、なんか用あったりする? さっき、角からこっち覗いてたけど」
「あー、いや――」
「まぁでも丁度いいか。ちょっと頼まれてくんない? さっきまでいろんな所に頭突っ込んで、服ドロドロになっちゃって……替えをさ、風呂までもって来てもらえん?」
――えっ、声を出さなかったのは奇跡だったと思う。
先ず前提として、『女性の服を、自分が?』というのもあったし。しかも服を取って来るとなると彼女の部屋へと入らなきゃいけない訳だし……二重の衝撃で、思わずぽかんとしてしまった。
とはいえ、流石にそこまでしなくてもいいとの事で。山暮らしになれている故、着替えは何時も手の届くところに一着は置いてある。それをもってくればいいだけとの事。兄も慣れているので、決して不埒者、とか言われる事もない、と。
……成程。
結局は彼女の部屋に入って、女性物の服を自分でもっていかなければならないのは変わらないのだが。少なくとも、自分が考える様な最悪の事態にはならない、と思って良いのだろうか。
「分かったよ。えっと……お風呂は」
「向こう向こう。部屋とか何処にあるか分かんなかったら、兄貴に訊いて」
「了解」
聞いた時点で不審な目で見られない、と良いな。うん。
「――おらリリちゃん! マシュッチも、皆で風呂いくべ!」
「「えっ」」
……とか考えてたら、何時の間にかマシュとリリィがなぎこさんの腕の中に捕まっていた。物凄い勢いで行われた一連の行為に、完全に度肝抜かれてしまってるのか、二人ともされるがままに――
「……連れていかれてしまった」
手を伸ばしたまま、呆然と呟く。
嵐の如き勢いだった。最近のギャルというのは、かくもパワフルな物か。まぁ、嘗ての偉人たちが積み重ねた人類の歴史の先に待っているのが、そんな英雄達すらも圧倒する様なパワフルなギャルというのは、結果としては納得も行くか……納得して良いのだろうか。
兎も角。頼まれたし、取り敢えずは先ずなぎこさんの部屋を探す所からか。そう思って踵を返した所で――
「……あれ? これって、チャンスだったりする?」
そう言えば、先ほどまでそんな事を考えていたというか。本題はそっちだった。
お風呂場で女性の脱いだ服を漁る、というのは……色々と絵面がアレだが。しかしながら彼女の服に、実際に『仕掛けられているのか』を確かめるチャンスではある――なんなら部屋を改める暴挙を犯さずに調べられるのは、このタイミングだけかもしれない。
「お風呂の中は……いや、マシュが気が付かない訳ないか」
正直、頼れる後輩サーヴァントは自分よりも圧倒的に良く出来たお嬢さんである。自分が気が付く様な事に彼女が思い至らないとは考えにくい。任せても大丈夫だろう。
しかしながら。
余りにもタイミングが渡りに船、と言えば良いのか。ちょっと都合が良すぎると言えば良いのか……まるで、なぎこさんによって此方が誘導されたのではないか、なんていう気分にすらなってしまう。
「なんて、ね」
ちょっと苦笑してしまう。
流石に色々と起こった日だからか、大分疲れてしまっているらしい。変な事を考えてしまうのも、多少は仕方ないか――と。廊下を歩きながら、そんな事を考えた。
「――って事だ。あん時いなかったのは、本当に山の方に深入りして、迷ってただけ」
「三十分も、迷ってた……ねぇ」
「あのなぁ婆ちゃん。どうしてそんなに俺を疑うのかは知らねぇけどよ。今は、こんな身内でバチバチやってるタイミングじゃあ――」
「そんな『線香の香り』をさせて、一体何処まで迷い込んでたんだい?」
「……」
「康友。アンタが何をしてるのか、今は聞きやしないよ」
「あぁ、そうかい」
「ただ、一つだけ――少しでも、『マシになるように』自分で選んで、行動しな。馬鹿孫」
今時のギャル(諸説あり)