FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
……結局、康友とおばあさんの姿は見当たらず。
自分へ屋敷中を探し回って部屋を探し回る事となり。そして、明らかに女性ものと分かる可愛らしい服と下着を、なんだか物凄い申し訳ない気持ちになりながらも、なんとかお風呂場へと運んでいって。
そこからは……もう完全に眩暈を起こしながら……何とか、なぎこさんが、脱衣所に、置いた服を、上着と、ズボンを、調べて行って。
「――それで、此方が見つかったと」
「うん。この、目の付いた人型っぽい……呪符、でいいのかな」
……赤い隈取のされた、独特の眼が描かれた、不気味な札を見つけ出したのだ。
こっそりと、なぎこさんの短パンの後ろポケット(下着まで調べる前で本当に良かったと心から思った)から回収したそれを――ドクターに解析して貰えば。
案の定、先程のスキャンでは測れなかった……黒武者と同質の、魔力の残滓が僅かに残っているのが確認できた。
『間違いないね。恐らく、彼女に襲い掛かった黒武者は、これを通じて呼び出されたんだと思う――遠隔からでも発動可能とは、恐れ入るよ本当に』
でも、と。
続けるロマニの声には、普段の朗らかな色の中に――確かな力強さが満ちている。
『この魔力のデータは値千金だ。これがあれば、また同じような手を使ったとしても、先んじて探知が出来る様になった――それに『例の一件』に対しての解析も、必ず進む』
それは……康友や式部さんに対して行われたであろう、洗脳と記憶の改変に対しての強い憤りからのモノなのだろう。必ずや自分の手で解いて見せるという強い意志が、そこには確かに込められている。
ここにマシュが居ないのが、少し残念だ。こんなにカッコいいドクターの姿を見せてあげたい所であったが……今は、中々に立派なお風呂の中である。ずっと頑張ってくれていたのだから、偶にはゆっくりとして欲しい。
――という事で。
「じゃあ、後はコレは処分しちゃっても……?」
『うん大丈夫。とは言え、此方の解析ではどうしても解き明かせなかったブラックボックスも、幾つか含まれているのは確認している――処分する時は、必ず彼と一緒にやってね』
「分かった――お願い、巌窟王」
「……あぁ」
壁際へと視線をやれば……琥珀色の瞳と目が合って。
それから、巌窟王は此方へとゆっくりと頷いて見せる――室内で待機している彼を見つけたのは、呪符を発見した後である。自分が持っている符を見た後、何も言わずに近くに待機してくれている――若干機嫌が悪いのは、危険な物を持ったまま無防備に歩いていたからだろうか。
「んー……でも、一旦処分する前に他の人達にも見せておいた方が良いかな。こういうのを見かけたら注意してください、って」
「――やめておけ」
……それとも。単純明快に、この札に対して、強い警戒を見せているのか。
少なくとも。先程、目が合うその一瞬まで……彼がその視線を、手元の呪符から外す事は一切なかったのは確かだ。
「性悪の道化師、手製の仕事道具だ。如何な『悪戯』が仕組まれているか。火の粉を枯野に撒き散らし、その果てに身を焼く劫火を産む等、笑い話にもなるまい」
「まぁ、それは確かに」
変な所で欲をかくよりは、安全の確保を――普段は饒舌にしゃべる事のない彼が、ここまではっきりと口にするというのが、どれだけ手元の呪符に警戒をしているのかを如実に表しているかの様で。
ちらり、と手元のそれを確認した。
中心に書かれた黒の瞳と目が合う。ただの紙の筈なのに……どうしてか指先から、不気味な脈動を感じる様な気がする。
……得体が知れない、という部分でも。巌窟王の意見に同意できた。
「……お屋敷の外、かな?」
「そうだな――手早く済ませるに限る」
やると決めたなら、直ぐにでも――という事で、そのまま腰を上げて外へと出て行こうとした所で……手に握った呪符を持っていかれてしまう。
「あっ」
「行くぞ」
憮然とした様子で歩き出す巌窟王の、その後を追って歩き出す――不器用な所もあるという事なのか。それとも『敢えて』なのだろうか。
有無を言わせないその背中を見つめながら。思わず、くすりと笑みを零して……すっかり日の落ちた、村の中へと足を踏み出す。
山間に位置するこの場所は、明かりらしい明かりは無く。ここに来た時から人気がない事もあってか、完全に暗闇を静寂が支配している。
「あの岩の辺り……はマズいかな、流石に」
「フッ……破滅の趣味があるとは、随分と奇特だな」
「ないよ。となると……流石に集落の近くはマズいだろうし……」
そうして話している内に……自然と、何処へ行くかの目標も凡そ定まって来て――村の入り口、少し出た辺りに辿り着いて――梢がざわめくと共に、山間から下りて来た生温かい風が、頬を撫でた様な気がした。
「ここら辺かな」
「一歩、後ろに下がっておけ――始めるぞ」
――その直後
巌窟王の声色に、明らかに一つ『ギア』が入ったのが分かった。気を引き締め直して一歩後退。何時でも援護が可能なように、礼装を起動させて待機する。
ちらりと、巌窟王は一瞬だけ此方を振り向いてから。
再び深い夜闇へと、視線を移し。そして……黒手袋をはめたその指先から、カードの如く白い呪符が、無造作に闇の奥へと投げ放たれる。
伸ばされた指先が解け――緩く広げられた掌中へ……轟、と暗い焔が灯った。
「――燃え尽きろ」
もはや、指先から零れる程に気勢を増した劫火は。一呼吸と共に掌から弾丸の如く解き放たれ――深い夜闇をも呑み込みながら、ひらひらと舞う『白』へと、砲弾の如き勢いで迫る。
……刹那。
一陣――湿気った生ぬるい風が。
鼻につく様な腐敗臭を纏わりつかせるかのようにして、吹き込んで来た。
『――ンンンンンンゥッ!』
闇夜に響き渡ったその声は――その内に、僅かに憤りを孕んでいた様に聞こえる。
直後。宙に舞う呪符から、ねばついて溢れ出すのは……黒煙のように黒く淀んだ瘴気の渦。まるで台風一過の直後、文字通り瀑布の如き圧倒的な物量が、呪符へ突き進んでいた焔の槍を堰き止める防壁となった。
「っ……! この、声は」
「……火の粉どころか、ロクでもない『火薬』仕掛けとはな――笑えん『舞台』を準備してくれたものだ」
ごぽり、と。いやに濁った音が耳を撫でた。
視線の先――大地へとわだかまる不定形の怪物と化したその悪性の泥が。今度は、間欠泉の如き噴出音と共に、吹き上がる。
それらは呪符を中核として集まり、固まって……段々と、一つの形へと収束して纏まっていく――人とは思えない程に鋭い爪を構える指先。大柄な身体から伸びた両脚は、ネコ科の猛獣の如くしなやかながらも逞しい。
そして何よりも特徴的な――白と黒に分けられたその髪色。
『下手に欲をかいてくだされば良かったものを……されど、まぁ」
くつくつ、と。笑い声が聞こえる。
凶暴な獣性の光を宿したその瞳が……此方をねめつけたのが分かった。
「戦力を分散し……取り敢えずは一対一で当たれたのですから、良しとしましょうか」
「……っ、また通信が?!」
「ご安心を、今回ばかりはただの一時的な妨害に過ぎませぬとも――その間にカルデアのマスター、貴方の首を飛ばせばいいだけの事!」
――突如として現れた男の名は、キャスター・リンボ。
幾度もカルデアと矛を交えた敵の参謀。呪符による奇襲を仕掛けた張本人。その指先が、空間にするりと五芒星の呪紋を描き――そして。
「いざや、お覚悟!!」
地面にこびり付いた瘴気の残骸が……いくつかの形を作り出した。
それは、黒く淀んだ無数の亡霊。キャスター・リンボの使役する無数の魑魅魍魎。耳ざわりな叫び声と共に、その両手の指先に並んだ凶器が、此方へと向けられる。
迫りくる狂奔に応えるかのように――巌窟王の掌に、再び青黒い焔が灯った。
まぁリンボだし……で済ませられるレベルで万能だよね……ホント。