FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
――先ほどが槍ならば……次は、波が如く。
振り抜かれた片手。指先から溢れ出した、浄罪の焔が……今度は逆に、押し寄せる悪意の大波を押し留め、焼き焦がし、そして、打ち払う。ぶつかり合って弾ける、魔力の飛沫のその隙間で――リンボが『にぃ』と笑みを浮かべたのが、見えた。
「――気を取られていて宜しいのですかな?」
瞬間。
使役する魍魎達を壁にしながら、リンボは、巌窟王のその眼前へと――咄嗟に、起動させる事は出来たが……援護が間に合うか。思わず顔が歪む。それでも、一秒先の未来へ、叩き込むつもりで、伸ばした指先を向けて。
けれど。瞬間、口元が歪む。自分が動くより、一歩早く。その腕は、振り抜かれる。
――陽炎を纏わせる程の、黒い焔の渦と共に。
「そう燥ぐな――貴様の撒き散らす腐臭、襤褸幕越しでも見失えるものではない」
「……随分と、鼻の利く事で」
一歩、踏み込む爪先。魔法陣の描かれたマントが、大きくたなびく。
振り下ろされようとしていたリンボのその腕を――ぐるりと、渦を巻く身体そのままの勢いで、弧を描いた巌窟王のもう片方の掌が、力強く掴み取った。
ぎり、と音がする程に力強く握りしめられた掌。指の間から溢れだした焔が、リンボの白い肌を焼き焦がす。
「――ぬぅっ!」
「迂闊だったな――辺獄への導も必要あるまいよ、貴様の罪と諸共に……ここで焼き尽くしてくれる!!」
そして。既に『引き絞られた』側の手には……零れるそれとは比べ物にならない程の轟炎が、再び煌々と燃え盛り。銃口を向けるかのようにして――掌の照準は、目の前のリンボのその心臓へと合わせられている。
僅かに、リンボはその表情を顰め――しかし、それも、僅かに一瞬。
「それは、貴方も大概では?」
一瞬。
浮かべられた笑みと共に。此方、首筋に寒気が走ったような気がした。
咄嗟に飛び込むようにして地面へと転がった――その直後。自分の真上、首があったその辺りの空間を、五つの『斬傷』が引き裂いた。
呼吸が浅く。僅かに視界が眩暈に揺れる。後一歩遅れていたら……何時の間にやら背後に現れた、黒いゴーストの爪の先に、頭を細切れにされていた所だった。
先ほど、巌窟王の焔に焼き払われたのを確かに見たが……と、そこで。視界の端で、散らばった瘴気の飛沫が寄り集まり、再び形を得て行くのがはっきりと見えた。
「あっぶな……」
「――チッ」
……何時の間にか、巌窟王は自分の傍へと戻ってくれていた。ごめん、と一言入れてから改めて。此方を挟み込むように布陣した、リンボとその配下の亡霊たちと向き合う。
「廃品集めが得意な様だな」
「いえいえ……私、御存じの通り日ノ本出身なれば。『勿体ない精神』でございます」
打ち払い、破壊しても……もう一度その残骸を用いて次なる刺客を再生する。如何なる方法かは検討も付かないが、しかしながら。息をする様にやって良い様な事ではないのは、流石に分かる。
印を結んだその指先が――ゆっくりと、御仏の手の如く掲げられる。
焼かれた側の腕は、力なくだらんと垂らしたまま。しかしながら……それを気にも留めぬかの様に、その口の端をぐぐっと釣り上げて見せた。
「マスター、という足手纏いを負いながら――この! 死のうが構わぬ分体の猛攻、如何に凌ぎますかな……『伯爵』よ!!」
深く沈んだ体が――僅か一足跳びにて、此方の目の前へと迫る。反対側には逃げ場を塞ぐように、四方から襲い掛かる亡霊たちの群れ。
――瞬間。
向けられた虎の瞳と、僅かに視線を合わせて。
そして……黙って、地面へと伏せた。
「ぬっ!?」
「――クハハハハッ!!」
まるで。氷上のスケート選手の如く――その身体が、廻る。
はためくマントを、空に滑らせ。両腕から迸らせた焔をもって。巌窟王は、己が周囲を薙ぎ払う。咄嗟に一歩止まったリンボは兎も角、ただ愚直に此方へと襲い掛かって来ていた亡霊たちは、その焔からは逃れようもない。
再び焼き尽くされる亡霊たち。しかし。時間が経てば、再び再生してしまうだろう。
「行って! 巌窟王!」
そこへと、今度は礼装の起動を間に合わせる。
瞬間強化――彼らの霊基からの出力を、短時間だが補助する為のもの。
持続は無いに等しいが、その分ある程度の効力は保証できる。そして……例えほんの僅かな時間であっても。『最速』ならば決して古代の英雄にすら劣らぬ、彼ならば。
「俺を――呼んだな!!」
――闇に刻まれるは、蒼の軌跡。
豹を思わせる足の『ばね』にて、間合いから逃れようとしたリンボだったが、しかし。
飛び出した弾丸の如き巌窟王の疾駆が――その獣の敏捷の一歩先へと、凌駕する。単純な速さに加え、常人には成し得ぬ、思考の速さが為せる技。
ごきり、という音と共に。無防備になった背中に叩き込まれるのは。鋼鉄の如く、固く握りしめた、巌窟王の右の拳。
「ぐっ……がぁ……!?」
「良くぞ嘯いたものだ――あるいは、俺すらも呆れる程に愚かな、我が契約者を前に!」
ピンボールのように弾け飛ぶリンボの身体。が、吹っ飛んだ先にすらも、彼は容易に追いついて見せ――今度はくの字に折れ曲がるように、地面へと叩きつけられてしまう。
「……ご……は……っ」
僅かな呻き声。その後……ばたり、と地面に落ちる四肢は、最後に指先だけをぴくりと蠢かせて。そこからぴたりと動きを止める。
――たった二撃。
瞬間強化が終了するまでのその短時間にて。完膚なきまでに決着は付いた……様に、傍からは見える。
ゆらり、と。立てていた片膝を上げて立ち上がる巌窟王――対照的に、リンボは地面に縫い付けられた様に動かず。聞こえてくるのは、隙間風にも似た、掠れた呼吸音。
分かりやすい、勝者と敗者の構図ではあるが……一応は、尋ねてみる。
「……巌窟王」
「仕留めた――が、やはり『本体』の手応えではないな」
彼が言うのであれば、と。漸く、少し気を緩める事が出来た。相手は、先ず間違いなくリンボなのだ。例え……その身体が偽物だったとしても。
「式神――真に器に魂が宿ったが如き、その立ち振る舞いは見事な物だが」
「……拙僧、多芸、なれば……くくっ……自慢の、仕掛けに……其方、二人しか食いつかなかったのが、無念で、なりませんが……っ」
解け、崩れて行くその身体。しかしそれは、サーヴァントが消滅していく時の、真エーテルの輝きではなく……黒く、淀んだもの。呪符が破壊されそうになったり、最後に大きな傷跡を残す為の、奥の手という事だろうか。目の前のリンボの姿をした『式神』は。
当人と同等、とはいかずとも。この式神は間違いなく、サーヴァントを相手取るに相応しい性能をした。一定時間、こちらの通信を妨害できる腕前も、本物染みていると言って差し支えない。
危なかった。屋敷の人達がいる場でこれを態々見せていたら……それこそ、撒かれた油に火を点ける様な結果になっていたかもしれない。
先ほどまでゴーストだった者達が、漸く魔力の塵となって空気に溶けて行くのを見ながら……少し、ゾッとしながらも、リンボへと視線を戻す。
――そこで。目が合った。
「――まぁ……しかし」
にやり、と。その口元が、笑みを形どる。
「見事に……この、分体を討ち取ったのですから……ンンン……ご褒美の、一つでも……差し上げましょうかねぇ……」
此方の奥を覗き込む、底の見えない深淵渦巻くその瞳。その奥に一瞬――ぎらり、と。血に濡れた刃の如き、怪しい輝きが宿ったように見えた。
少しずつ、自らの身体が塵に還っていく、その直前であっても。口元に浮かべたその、薄笑いを、彼が消す事は無く――
「――『そちら』に残した仕掛けは、あと一つ」
「とっておきの『大仕掛け』が、残ってございますれば……是非に! 心行くまで味わって頂きましょう!」
そう、口にして見せた。
どっちの巌窟王が好き?
って……やりたいから、帰って来てくれよ……なぁ……共犯者……