FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
視線の先――もう、そこには『多芸』を自称していた男の姿はない。完全に、魔力の塵となって、空気に溶けて消えた。だがしかし……その言葉は、嫌でも頭の中にこびり付いて離れない。本当に、言うタイミングとしては最適だった
お陰で……巌窟王へと振り返る今、自分の眉間に深い皴が寄っているのが、自覚できてしまうのが、非情に嫌だ。
「アレは……どういう意味だと思う?」
「……贅言を弄する狂言師は、此方の思考を廻し、惑わせるだけでも、それ良しとして空言を吐くものだ。あの陰陽師もその類では、あるだろうが」
巌窟王も、明らかに顰め面をしている――そう確定できるならありがたかった。もしもただのハッタリで、明らかな苦し紛れだと、そう言い切れるならば。
しかしながら、そう言い切るには相手が悪い。自称、とは言ったものの……それが間違っているとは、正直誰にも言えない。
キャスター・リンボ――正しく、変幻自在、様々な術や罠、謀略を使いこなす、敵方のブレーン。前線にて戦う事も、後衛にてサポートする事も、幾らでも可能……今回も、もしも一手違えば、大惨事に繋がりかねない罠を仕掛けていた男だ。
「もし――奴の口にした事が妄虚の類ではなく。未だか此方は内に『毒』を孕んでいるのだとすれば。確信があるのだろうよ」
「絶対に、見破られない、っていう?」
「策士が、自分の術数を明かす時というのは……凡そ、既に『勝利』を己が手の内に握りしめた後の事だ」
……この村、という相手の敷いた盤面の中には、リンボの潜ませた伏兵、あるいは罠がまだ隠れている。そして、自分達はそれが何なのか、思い当たる節すらも見えてこない。
成程、巌窟王の言う通り。リンボから見れば、そんな此方の動きは、見ていてそう確信したくなる程に滑稽に映るのかもしれない――
『――ふ――君――藤――る君……藤丸君っ!? 聞こえてるかい!?』
そこで、通信機から聞こえて来た声に、はっとする。どうやらリンボの仕掛けた通信妨害が解けた様である――慌てた様子で何が起こったのかを問いかけてくるドクターに、先ほどまでの事の顛末を説明する。
「――って事で……今、何とかその分身リンボを倒した所です」
『そっか、本当にご苦労様……いやぁ、恐るべきは極東の陰陽師の技量かな。使い切りにしたとしても、それだけのトラップを仕掛けられるとは……』
話を聞き終えたロマニは。そう言って、一つ、呼吸をした後――再び通信が途絶してしまった後の事を話してくれた。
丁度マシュがそのタイミングでお風呂から上がり、此方の姿が見当たらなかった事で事が発覚し……リリィとマシュが屋敷の周りを、ドクターが通信での呼びかけをずっとしてくれていたらしい。
「心配かけてごめんなさい」
『いや、魔力パターンを掴んだからもう好きには刺せない、とか言っておいてこのザマっていうのは僕らに全面的に非がある……本当に申し訳ない、藤丸君』
「そ、そんな……今、マシュは?」
『ダ・ヴィンチが連絡してくれてる。そろそろ――』
――と、そうして話していたタイミングで。
屋敷の方から、鎧の立てる金属音と共に、駆け寄って来る影が見えた。盾を構えて物凄い勢いで突っ込んでくる彼女――なんだか、心配して貰えるのが嬉しくも照れくさくなってしまって。敢えて見えやすいように、手を振って見せた。
「――マスターっ!」
「マシュ、こっちこっち」
取り敢えず――心配しなくても大丈夫、という事を示せるように。出来るだけ元気に大きく。それが見えたのか。マシュは少しほっとしたような顔を見せてくれた。
それでも、駆け寄ってから自分の頭のてっぺんから爪先まで、何かが怪我が無いか、念入りに確認していたけれど。
「良かった……お怪我等は、ありませんね」
「うん。頼もしい人が居てくれたから」
そう言って、巌窟王の方へと視線を向け――しかし。
「……あれ、居ない」
先ほどまで、リンボが消滅した辺りを眺めていた彼は……何時の間にか、闇に溶けるようにして姿を消していた。
「エドモンさん、ですか?」
「うん……行く前に一言くらいは欲しかったんだけどな」
……まぁ、巌窟王がそんな報連相を毎度キッチリする様な会社員の様な人と言えば、それもちょっと違うというか。必要な事は、必要な時になったらちゃんと話してくれるので、別に構わないし。
それよりも……だ。式神のリンボの残した言葉は、決して無視できるものではない。屋敷への道すがら、マシュにも何か気付いた事等無いか、聞いてみる事にした。
「ごめんなさい。私からは特に何も……結局、なぎこさんのお身体にも、何かしらの異常は見られませんでしたし」
「そっか。となると……やっぱり、見落としてる事があるって事なのかな」
何かがある、というのは、もう前提にする事にした。
あの言葉を決して無視は出来ない――何かがまだ残っている、という結論が、自分の中にある。正直、高を括って警戒しなかった時、それが大凶と出た時の被害は、もう想像なんて出来ない。
カルデアのバックアップも復活し、これまではどうしようもなかった事だって調べられるようになる。だったら、調べられるようになった事を、より注意深く見るのは、決して可笑しな事じゃないし、無駄じゃないだろう。きっと。
「……まぁ、何にせよ。それを考えるのは、明日にしようかな……っ!」
しかしながら……今日からそれを実行するのは、流石に難しい。今日は丸一日ずっと働き詰めだったような物だ。
今までの特異点と同じではあるが、しかしこの村に来てからは今までよりも緩やかな時間を過ごす事が多かっただけに、この久しぶりの忙しさというのは、格段に身体に重く伸し掛かって来ている様な……軽く伸びをすれば、体からぽきぽきと良い音がなる。
……一度撃退した後に、再び攻勢を仕掛けようとしている様子は今の所ない。であるならば、変に警戒し続けても、無駄に疲れてしまうだけだ。
「そうですね。本日は、かなり忙しかったですし。また明日、サポートも万全となったチーム・カルデアとして、頑張っていきましょう!」
「うん」
特異点解決の道筋の先にあるものは、未だはっきりと見えては来ない――今までの戦いと、違う部分も多く、しかして道のりは変わらず険しい。焦らずじっくりと進んでいかないと、持たなくなってしまうかもしれないのだから。
先を行くマシュの後へと続いて歩き出して……ふと、背後のリンボが塵になった辺りへと視線を向ける。
「……大仕掛け。大きな出来事」
キャスター・リンボは今まで、多くの策略をもって此方と相対して来た。
真っ向からの取っ組み合いにも等しいやり方だったり、此方を分断して叩こうとしたりと、やり方は様々である。かの剣士に、アメリカでの凶行を平然とやらせていた辺りから考えれば……やはり、どう考えても立派な人格者な感じではない、気がする。
歴史において。一大事、とされる事態。時の権力者の死、大災害や流行り病、侵略者の侵攻――そして……有力な家臣や身内の裏切り、内応。
ユリウス・カエサルの暗殺と、その実行犯であるブルートゥス。円卓を割った騎士ランスロットの逸話。中国は三国志、反骨の雄たる呂布奉先。日本においては……織田信長が斃れた『本能寺の変』だろうか。
「――誰かを、自分の側に付けようとしてる……?」
それこそ――第二特異点のブーディカさんの様に。
思えば、あの時、ブーディカさんを襲った怨念も、キャスター・リンボのシャドウサーヴァントから生じたものであった。
……裏切り、内応、そして自らの敵を、味方へと惹き込む策謀。そんな言葉が、どうしてか、頭から離れなかった。
「んー……漸く居なくなったか~。マンボちゃんにず~っと監視されてるみたいで、肩重かったんだよなー……まぁマジで監視してたんだろけど」
「つーか、疑い過ぎじゃろ。一応は『そっち側』だってんだけどなぁ。ったく、縁で無理矢理に喚んでおいてさ。あーやだやだ、こんなギスギスすんのなんて――いかんいかん、アヴェンジャルな、落ち着け~私~」
「私のお仕事は、最後の最後、この舞台のオオトリだ。そこまでにバレたら全部台無しになっちまうっての。あ゛~……ホント、宮中以来か、こんな面倒な事任されるの。狐も猫もどっちもガラじゃないってのに」
「……うし! やめだやめ! ぐちゃぐちゃ考えんのはもうおしまい! どーせ私が此処に『居る』以上の事を、向こうさんだって期待してないだろうし!」
「そこまで私は――アタシちゃんは、兄貴の妹の『なぎこさん』なんだからさ」
昔は猫も怖いあやかしとして見られてたんだって!