FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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ただいま


断章:どうして貴女は

 ――多くの視線が、一点に集まった。

 

 その中心で、お婆さんは小さくため息を吐いてから。

手元の包丁を、そっと置いて。ゆっくりと康友の方へと振り返る。何処か、ばつの悪そうな表情を浮かべ、彼女は頭を軽く搔いて見せた

 

「……何の話だい」

「別に隠す事ないと思うけどなぁ――この村の厄介ごとを解決してくれるって人たちに、不義理ってレベルじゃねーぞ?」

「だから――」

「家の裏手」

 

 酷く、冷たい声がした。

 

「蔵の方だっけな……あぁ、そっちだった気がする。気の性だったかな?」

「……アンタ。それを何処で」

「色々あったからなぁ……」

 

 康友は、とんとん、と指先で額を叩いてから。ちらり、と。壁の向こうを見つめる――この村に泊まった最初の日に、黒武者と交戦した方角を。

 

 突如として生じた異形の角。それ以上に禍々しい物の怪を、自らの手で殴り飛ばしたという景観――自分の記憶を揺さぶるには十分な衝撃。

 思い浮かぶ景色の中の一つと、お婆さんの言葉はどうしてか一致しない。彼は、何処か背筋が冷える様な、酷薄な笑顔を浮かべながら、そうつぶやいて――。

 

「……今、中々の緊急事態だって分かってるよな?」

 

 そこから……細めた瞳を、鋭く。刃の様に、一気に釣り上げてみせる。

 お婆さんに向けられる康友の視線は、この部屋の誰よりも鋭い――僅かな呆れと、あまりにも分かりやすい怒りとで構成されたそれは、殆ど睨み付けているといっても良いレベルのものだ。

到底肉親に向ける類ではない、鋭く、冷たい康友の表情――思わず、といった様子で、マシュも二人の間に割って入ってしまったのも、仕方ない。

 

「あのっ、康友さん、一旦落ち着いて」

「そいつは無理だなぁ……命張って俺らを守ってくれてるアンタ等に対して、大切な事を隠しておくような事は――『それこそ』ダメじゃねぇのかい?」

 

 けれど……そんなマシュの横を通り抜けるようにして。彼は構わず、もう一歩を詰めてくる。相手を詰める様な、硬い声色は……まるで、尋問でも始めるかのような剣幕。

 その瞳に浮かぶ真っすぐな光は、真剣そのもの。

 

「なぁ……知ってるなら、言える事があるなら――」

「――勘違いするんじゃないよ」

 

 しかし――お婆さんは、そんな彼の視線も、圧も。まるで気にもせず。むしろ、それを容易く払いのけて見せた。

 

「隠してる訳でもないし、不義理でもないさ――確かに、あの子たちの亡骸は、新しい墓とは別のところに運んではいたけど、そいつは……『始末』をつける為さね」

「……始末だと?」

「あぁ。アンタ等には任せられないと思った。あんな有様を……見せられるもんじゃないだろうと思ってね」

 

 天井を――いや、恐らくは記憶の向こうに滲む『景色』を見ているのだろう。遠い所にあっても、どうしても目に入ってしまう……『忌々しい』と、言葉にせずともお婆さんが思っているのが、一目で理解できた。

 一つ。重苦しい、大きなため息と共に。彼女は、改めて康友へと向き直って……ゆっくりと、口を開く。

 

「『損傷』が、本当にひと際酷かった――そこまでは『覚えてなかった』みたいだね」

 

 ……その言葉に。部屋の中の空気が、一瞬凍り付いた様な気がした。

 

「……損傷、って。それ」

「酷いもんだったよ。獣に『漁られた』後でも、あぁはならない。頭のてっぺんから、脚の先まで……見れた場所は何処にもなかった」

 

 なぎこさんが目を見開きながら、お婆さんに問いかける。

 問われた側のおばあさんが口にする言葉に……康友も、分かりやすい顔を顰めている。

 

 けれども……話す当人は、それ以上。

 眉間に寄った、深い皺。反吐が出そう、とでも言いたげな暗く険しい、その表情を見てしまえば。彼女が見た惨状がどれ程のものだったのかは。嫌でも想像させられてしまう。

 

 マシュも、口をきゅっと引き絞ったまま話を聞いていたが――それでも、彼女は部屋の中の誰よりも先に、その次に訪れた沈黙を破ってみせた。

 

「……埋葬のお手伝いをされていたお二人に、ご両親の惨状を見せないように、と」

「私だって、それ位の情はあるさね。急いで、家の裏手に埋めた」

 

 僅かな頷き。静かに凪いでいて。それでいて、何処か哀し気な光の揺れる瞳は――そのまま、自らの肉親である少年へと向けられる。

 その視線から、決して目をそらすことはしない。彼は、やはりお婆さんの事を真正面から見据えていて……それでも。

 

 彼の表情からは。先ほどまでの苛立ちと不信の色が大分薄れていて……その代わりに、何処か気まずそうな色がはっきりと浮かび上がっている。

 

「今まで話さなかったのは、悪かったと思ってる。これも、嘘偽りない本音だ」

 

 証拠が見たければ、家の裏手を掘り返してみろ――苦々しい表情のまま、そう話を締めくくってから……再び、康友に向けて背を向ける。

 

「――なぎこ」

「あっ、えっ……う、うん」

 

 再び、部屋の中に響き始める包丁の音。促されるまま手伝いを再開するなぎこさんと、夕飯の支度に戻ったお婆さん――視線を、康友の方へと向ける。

 

 苦虫を嚙み潰したみたいに、口元を歪めながら。

 康友は……ただ、黙って俯いたまま。

 

「……ごめん」

 

 祖母の背中に向けて。彼は。聞こえるか、聞こえない位に、小さく……つぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 康友は……黙って、縁側に腰を下ろしていた。

 

 あの後。部屋から立ち去った彼の後を追いかけた。到底、あれ以上何か聞ける様な雰囲気でもなく……それなら、と。一緒に追いかけてこようとするなぎこさんを、マシュにお願いして。自分一人で。

 彼自身も『分かっている』と思う。だからこそ……今は、出来るだけ一人で居たい、という気持ちを汲んで。一人で来た。

 

「大丈夫?」

「……ホント。醜態だ。俺も不安定になってるんだって思いたいよ……あんな喧嘩腰に聞く必要もなかったってのに」

 

 項垂れたまま、彼は言葉を返してくる。やっぱり、酷く弱弱しい声色で。

 うん。とだけこちらも口にしてから。彼の隣へと腰掛ける。どうしてあんな言い方をしたのかは――問わない。というか、自分には分からないから、問えない。

強い言葉を使ってはいたが……何か言いがかりをつけてた訳でもない。そもそも、自分たちに気を使ってくれていたのは確かではあるのなら、此方から言える事は何もない。

 

 そもそも。お婆さんも、隠していた事は悪い、と言っていたし。ちょっとしたすれ違いに過ぎないと思う。彼としては、罵倒して欲しい位に思っているだろうが、それを責めるのはお門違いじゃないだろうか。

 

「助けようとしてくれた……って事で。実際、こっちも手詰まりだったし」

「それで皆まとめて不快にしてたんじゃ意味ねぇよ。ったく……もうちょっとなぁ」

 

 でも……それじゃ、納得できない、気がする。流石に『世界を救う旅』なんていう物凄い難行を一緒に潜り抜けて来た仲だ。それ位は分かる。という事で。

 

「それなら――思いだした事を、聞かせて欲しい」

「……アンタに?」

「うん」

 

 一つ。提案。

 

「もしかしたら……思いだした事の中に、意外な新事実があるかもしれないし」

「いや、そうは言うけどな」

「情報はあるだけ助かる――さっきまでのもやもやを吐き出すついで。それと……空気悪くしちゃって申し訳ないな、って思うなら。その代わりって事で」

 

 ……ホントはそんな事、かけらも思ってないけれど。こういった方が色々と吐き出しやすいんじゃないか、なんて。まだまだ人生経験の浅い、子供の浅知恵ではあるけど。それでも少しでも彼の気分が楽になれば、なぁなんて。

 そんな風に考えて口にした言葉に……彼は、一瞬。キョトンとしてから。少し、苦笑して見せてから。

 

「……ホント、人類を救う男ってのは。器が違うなぁ」

 

 申し訳なさそうに頭をガシガシと掻きながら。そう言った。

 




投稿再開します。

今回は、大分途切れ途切れになってしまうかもしれませんが、出来るだけ頑張って投稿したいと思います。
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