FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第十六章・裏:城門前の攻防 後編

「――式部さん。前面に出た俺に釣られた奴を叩く作戦は続行」

「えっ、ですが……!」

 

 事ここに至り、敵には多少の知恵が付いている状況。適当にマスターを前面に出しておけば、そこに一点で集中してくるという理想的な展開になる……とは限らなくなったと思われます。

 こうとなれば、普通に護衛しつつ敵の撃退を目指すしかないでしょう。そう思っていた所なのですが。

 

「ちょっとくらいのリスクは許容範囲でしょ。ここはネロ陛下の本拠なんだから。全力で護衛しないと……ねぇ?」

『ちょ、本造院君!?』

「ああいう手合いは、厄介だよ。直ぐに仕留めないと」

 

 ドクターの言葉にも耳を貸さず、マスターはもう一度、前へと踏み出しました。流石に放っておくわけにもいかず、傍に控える積りで動いていますが。

 

「マスター!」

「――頼む。ああいう顧みない特攻ってのは、巻き込まれたら危ない。人の命ってのはそれだけの重みがある。俺達の足をきっちり引っ張るだけのな」

 

 目が、合いました。

 私から目を逸らさない。いえ……寧ろ私の瞳の奥を見通す様な。そんな……真っ黒な瞳でした。自分のやる事に自信を持っている目でした。いえ、自信というより。確信している様な。イヤな事になると。

 

「ま、アレが人にカウントされるかは微妙だが」

「……それは、ご自身の、経験から?」

「さて、な。兎に角、ヤバい事になる前に、アイツ等を釣って……」

「――狩る、か。うむ。良かろう」

 

 そんなマスターの言葉を継いだのは、隣にいつの間にか剣を構えて立っていた、ネロ陛下でした。相手を睨みつけるその迫力は、ローマの皇帝として相応しい眼光。先ほどよりも明らかに険しい顔は……此方へとにじり寄って来る黒い影達へと。

 ですが、それがただ距離を詰めてきている訳ではない事には、直ぐに気が付く事が出来ました。

 

「――あれは、もしや……味方を、盾にしているのでしょうか」

「ふむ。戦にさして慣れている、とは思えぬ其方の術師もそう思うのだから、余の見立ては間違っていない模様だな」

「だってなぁ。あからさま過ぎるだろ、幾らなんだって」

 

 その形は……酷く歪な形でした。

 前に位置し、広く展開した黒い剣士たちは、一様に剣を下ろし、ハンズフリーの状態。そのまま、此方に掴みかかるかのように大手を広げ、近寄ってきている。そして、その後ろでは、普通に刀を構えた剣士たちが見えます。

 一見して、此方を包囲しようと近寄ってきている様にも見えますが……しかし、そうではありません。寧ろ、壁の様に歩幅を合わせて先頭が近寄ってきているのです。

 

『要するに、本造院君を叩ければ何人だろうが……って事かい!?』

「でしょうなぁ――ここでドクター、本造院君からのワンポイントアドバイス」

『えっ、なに?』

「覚悟ガン決まった連中相手に消極策は愚策だ。勢いで負けたら一気に瓦解する」

 

 そう言うマスターは……再び、先程の様な、薄っぺらな笑顔を顔に張り付けて。目は全くもって、笑っていないのです。

 

「ソースは俺の親族」

『……』

「凄いぜ? 一般人が、それこそ地元癒着の極道とかに気迫で勝つんだ。そしたら向こうさんはなんと捨て台詞しか吐けなくなる――今も同じさ。一つの事に固執する、って言うのは尋常じゃないパワーを生む」

 

 ――婆ちゃんの目、今思い出しても、怖かったなぁ。

 

 それはきっと。嘗ての記憶を思い出しての顔なのでしょう。

 ご家族との経験を戦いに適応して良いのか、という問題は兎も角として。その言葉には一定の説得力があるように思えました。

 

『狂奔、って奴かな』

「向こうが実際狂ってるかどうかは分からんが……こっちから見れば狂ってるようなやり方取ってるんだから、そう言う事だ」

『だから、向こうを狩るつもりで行かないと、って事か……筋は通ってるような』

「偉そうに説教できる立場では無いけど。一応、ね」

 

 そう言ったマスターの言葉を裏付けるかのように……先頭の黒い影達は、少しずつ此方へと近寄る速度を上げ……先ずは、と言わんばかりに、ネロ陛下へと向かおうとしています。盾、兼邪魔者を排除する捨て駒、という事でしょうか。

 しかしネロ陛下はこれに焦る事無く、一撃で、先ず一人を切り捨て……そして飛び掛かってくる残りは、私が術で足止めをしました。

 

「分かりました。マスターが、そう命を下すのであれば」

「おう……ありがとう」

 

 ……その表情は、ありがとう、の物では、とてもではありません。無理をして笑っているというより、笑うしかない、とでも言いたげな、物でした。

 

 

 

『――殲滅成功! お疲れ様!』

 

 そのロマニ様の言葉に、ほっと一息を吐きました。

 結局の所は多少策を練って来たところで、それに対応できる位に意識すれば、単調な動きには変わりなく。ネロ陛下と、私の援護で、自然とその数は減っていき。特に問題無く黒い影達は一掃されていきました。

 

 正に快勝、と言わんばかりに、ネロ陛下は笑顔で堂々と胸を張っています。

 

「うむ! やはりお主らを引き入れた余の目は間違って居なかったな。攻勢の際も、この調子で頼むぞ!」

「まぁ主に戦力になるのは式部さんなんで、其方を期待して頂ければ」

「何を言う、お主の指揮の仕方も堂に入っていたではないか。どうだ? 二人共、客将としてではなく、正式に余の元へと来ぬか?」

「いや、絶対にまぐれですから」

『引き抜きは止してください皇帝陛下……』

 

 とはいえ、幾度か危険な場面も無かったわけでは無かったです。それこそ、私達では想像もしなかったような、捨て身の攻撃等……しかし。

 それを止めたのは、マスターの指示でした。

 まるで『知っている』かのように相手の動きに反応し、私に其処を撃つように伝えてくるのです。実際に其処へ打ち込めば、ネロ陛下の足元に暗い影がいつの間にか忍び寄って居たり、という事もよくあって。

 ネロ陛下がお褒めになるのも決して不思議ではありません。

 

「ご指示、お見事でした。マスター」

「あー……ははっ、まぁマスターなんて仕事にもちょっとずつ慣れて来たの、かな?」

 

 ……しかしマスターはと言えば、それに喜んでいたり、誇らしげにしていたり、という事は無いのです。寧ろ、何処か困ったように笑うだけで。

 

「なぬ? 指揮の経験は浅いのか?」

「そうですよ。だからまぐれなんで、そんな期待しないで下しあ」

「ぬぬぬ、それにしてはどうにも的確に……」

 

 そもそも、ネロ陛下に結構寄られているので、そんな顔をしているのかもしれないというのは、多分、あるとは思いますが。

 

「まぁ良い、今は大分疲れた……話は改めて、城の中でするとしようか」

『いやだから引き抜きはご勘弁願いたいんですけど』

「――あーいや、皇帝陛下。ちょっと俺は後から戻るんで。お先に戻って頂ければ」

「ぬ? 何故だ?」

「んっと、言ったじゃないですか。慣れてないって。だからちょっと、空気に酔ったというか、まぁ気分が悪いというか……」

 

 ――とはいえ、そういう方面、という可能性も無いでもありませんが。

 取り敢えず、マスターが残るというのであれば、私が残らない訳にも行きません。ネロ様にその旨を伝え、そして振り返った所……マスターは、先程の黒い影が倒れていた辺りに立っていました。

 

「……どうしたんですか? マスター」

「いや。ちょっと、な」

 

 顔色は、言っていた通り悪い様に見えます。見えますが……それが私には、体の不調から来るようには見えませんでした。

 思い出すのは、政敵との丁々発止に些か疲れ果てた、宮の内の官僚様方の姿。思い出したくもない、といった様な顔をしていた人たちの顔。

 

 そう言った事に興味の無い私にとっては、そう言った方たちが、どうして死ぬような顔をしてまでそう言う事に命を燃やすのか……些かと、理解に苦しむ部分もありましたが、けれど。

 

「――ヤな事思い出させやがって、ホントによぉ」

 

 そう言った方々の、どうしようもない程に疲れた表情というのは、本当によく覚えているのです。何処か、病んでいる様な……

 今の、マスターの様な。

 




ハゲの憂鬱フェイス
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