FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「それで――どれくらい話した方が良い?」
その問いかけに――思わず首を傾げてしまう。
何をどれだけ、と言われても――思いだした事をそのまま話してもらえれば、それ以上に望むことなんて別にない……のだけれども。
どういう事かと頭をひねる此方を見て。康友は、少し困った様に『ん~』と唸るみたいな声を漏らしてから、口を開いた。
「話すのは、良いんだよ。でもなぁ……それこそとっかかりもない、取り留めもない事ばっかりだし。話すなら――『一緒』に話した方が、分かりやすいと思うんだよな」
「一緒に、って……」
「ガキの頃の『一件』について。俺が思い出したのは……その辺りの話だからな」
事件について。何が起きたのか、どれだけの犠牲が出たのか――そういった事は話していたとしても。その日、当事者が一体何を見ていたのか。そういった所は、誰も何も聞かせてはいない。
彼の視点での記憶ならば、その日の出来事と絡めて話した方が、分かりやすいのではないか……と、彼は語った。
確かに道理ではある。断片的に話してもらうよりも、一つの流れを追いながらの方がしっかり理解できる、っていうのは。
「でも……良いのかな。話して貰っちゃって」
「あー。まぁ、気になるか、そりゃあ」
「そりゃあ、ね」
けれどそれは、彼の記憶の中にある悲劇を掘り起こすことに他ならない。
記憶を操作されて、偽の記憶を植え付けられている。だから、こうして思い出したことも偽りの景色の可能性がある――なんて事は言えない。否、例えそれが本当に偽りの記憶でも関係ない。それを思い出させること自体が苦痛だろう。
少しは胸の内に蟠ってしまったものを吐き出すことが出来れば、というつもりだったのに、むしろ逆効果になってしまいかねない。
「くくっ、新しく情報が欲しかったって言ってなかったっけ?」
「いや、それは……」
「はぁ。大丈夫だよ――婆に緊急事態なんだから、なんて自分で言っておいて。いざ俺がその側に立ったら話さない、なんて出来ねぇよ」
くつくつ、と彼は笑う――その、何処かチンピラチックなその笑い方は、カルデアでも良く見た事があるそれで。なんだか、少し懐かしい。何か隠して居たり、って感じもしないその自然な笑顔が。
きっと、本当に大丈夫なのだろう。それこそ、彼は心配され過ぎる、というのもあまり好んでいなかったし……それならここは、遠慮なく。
「……じゃあ、ここは。欲張りに、全部――で良いのかな」
「おうおう、遠慮がねぇなぁ。おう、それで大正解だとも」
にやり、と不敵に笑ってから。
康友は、腰を下ろしたまま姿勢を正し。膝の上に置いた両手をしっかりと組んで……庭の方へと目を向けながら、一息吐いて。それから――静かに口を開いた。
「……あの日は――うん。なんか、特別な予兆があった、とかは無かったな。普通に、何時も通りの長閑な……晴れの日だったよ」
静かで。そして、落ち着いていて。けれど、平坦って感じはしない。そんな声。
そして。一つ一つ……思い出した光景を、噛みしめる様な言い方だ。
「親父と、お袋と、婆と……あと、俺たち子供組二人……家族五人で、それこそ何時も通りでさ。ケーキ食ってたっけなぁ。確か」
彼が上げた家族の数は五人――成程、と思った所で。ふと気が付く。上げられた住人の中に必要な人物が、一人足りない
「えっと……お爺さんは?」
事件の後に、お婆さんが臨時で当主を継いだ、という話だったはず。それなら、本来の当主であるお婆さんの旦那さん――すなわち、康友にとってのお爺さんは事件当時にはまだ存命で。自宅にいるはずなのだが。
ちらりと此方に目をやって。彼は……少し、困った様に頬を掻いた。
「……居なかった、多分だけど」
「多分、って?」
「少なくとも、俺は家の中では見かけなかった――あの日も、子供組二人で家の中で遊び回ってたからな。それでも、影も形も見なかったし」
とはいえ――確定はしていないけど、と彼はそう続ける。
自分の肉親の事を話しているにしては、彼の語り口はまるで他人事の様に聞こえてしまうのだが……そこで、ふと思い出す。
こうしてこの村で共に過ごしている間、ではあるが……康友も、なぎこさんも、自分たちのご両親の事は話していたけれど――祖父の事については、何かを口にした事はまるでなかったような気がする。
「……もしかして、お爺さんと仲良くなかったりした?」
「あー……いや。そういう訳ではねぇな。虐待されてた、とかいうのも無いし」
「いやそこまでは言ってないけど」
「でもそういうのって、こういう村を舞台にした話だったら定番じゃね?」
それを、村の住人でありその当事者が自分で言うか、とは思ったが。しかし、そういう酷い経緯がないのは良い事ではある。
しかし……彼の言う通り、仲が良くない、という訳でもないのなら。猶更に、あんな言い方をするのは何故だろう、と思ってしまう。
そんな此方の疑問に応えるように。康友は、すっかりと暮れた夜空へ目を向けたままでぽつりとつぶやいた。
「仲良くなる、ならないのラインに立ってない……っていうのが、正しいか」
交流したり、反目したり、というのには最低限の関係がいる。
康友曰く……肉親でありながら、彼の祖父との関係は、その『最低限』にも満たなかったとの事らしい。
「えっと……同じ家に住んでた……んだよね?」
「ん。それは多分。でも、不思議なくらいに俺たちと顔を合わせる事も無かったし。家庭内別居ってあるだろ。アレのレベル100って感じかなぁ」
康友が知っていた事と言えば……お婆さんに負けない位には、背筋がピンと伸びた若々しい人であった事。非常に寡黙だった事。そして、自分たち子供組と違って、村人からは慕われていたらしい事――くらい。
「爺さんは、なんていうか……良く分からない人だったんだよなぁ、最後まで」
そう、しみじみと康友はつぶやいた。
彼が、遠くから眺めるお爺さんは――いつも、着物の帯をきっちりと締めた、一本真ん中に芯が通ったような出で立ちで。
その傍には誰かしらが付き従っていて。その口から漏れ出すしわがれ声で、淡々と何事かを報告してくるのを、眉一つ動かさずに聞いている。
自分と目が合っても、直ぐに何事も無かった様に目を逸らされて――まともに話した事も全然なくて。
「まぁ……想像だに出来ない位に偉い人、なんだろうなってだけは。分かってたよ」
「村の人たちから、慕われてたから?」
「あぁいや――そういうレベルでもねぇんだよな、アレは」
屋敷の軒先辺りへ、顔を上げて――その眼光の鋭さに、少しびくっとしてしまう。
眉間に、口元に、浮かび上がるその『歪み』が、どうしても目に入ってくる。それは先ほどの、ご両親の事について話していた、お婆さんを思わせるような形相ではあるけれど……しかし、それよりも更に、生理的な嫌悪感と、憎悪を滲ませて。
「だって、あの人が真ん中を歩くだけで、その左右の村人たちが、それこそドミノでも倒すみたいに、ずらぁって順々に頭下げてくんだもんなぁ――気持ち悪い位に、凄い綺麗に、さ」
――その表情を、何処かで見た事がある。
あれは……そう、セプテムでの事だったろうか。
神祖の為にと――狂信を胸に、彼我の実力差など気にせずに襲い掛かって来た、ローマ市民を見ていた時のそれだ。
酷く冷たく、酷薄に。とてもそうは見えないような表情で。彼は――それでも、笑って見せていた。
「あぁ……いやだ、いやだ。本当に」
「……大丈夫?」
そんな彼が心配で、思わず声をかければ――はっとした様子で、彼は此方へと振り向いてから、ごめん、と言いながら軽く手を振ってみせる。
「平気平気。もう昔の事だしなぁ……今更ってやつ。まぁ、そんな関係だからなのか……どれが『そう』だったのかも、あの日は結局分からなかった、かな」
「……そう、なんだ」
「ん。まぁ、つってもホント、酷かったし……少し位、違っても。分かるかどうかも怪しかったけどさ」
そのまま、彼は背後の屋敷を振り返る。
目元から、口元から、いつの間にかあの冷たい笑みはすっかり消え――そこから一転、まるで全ての色が抜け落ちた様な、無表情のままで。彼は、またポツリと言葉を零す。
どれだけ忘れたくても。
どれだけ経っても……忘れられる訳がない、と。
怒涛の伏線回収!ってやるのは夢ですよね……出来ないから夢って言うんですけど。