FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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断章:あの日の中心点

 今更だが、と。康友は一つ言葉を置いた。

 

「事の最中の記憶は……残念ながら、今もねぇ。だから、その日の事実を全部話せるわけでもないから、そこは許してくれな」

「うん。大丈夫だよ」

「おっけぃ――んじゃ、先ずはどっから話したもんか……」

 

 その日。

家の中で遊んでいた康友は……屋敷に、何人もの村人が入っていくのを目撃していた。若者も少ない――香子さんは除くとして――『あぁ、今日はそういう日なのだな』と理解したのは、そのタイミングだったと。

 

 康友は、それまでその行事に一度も参加したことはなかった。当然ながら。それでも、この家の住人として『行事』がある事だけは、お婆さんから聞かされていた。

そして、妹と共に……初めて、それを目撃したのだ。あの日。

 

「……家に、何人も、何人も。ずらずら入っていくんだ――真っすぐな列になってな。

 

正直な話をすれば、不気味極まりなかった、と。康友は口にした。

 

陽炎でも立つような、鮮烈な陽の光に照らされる真昼時は、子供たちにとっては自分たちの時間である……そこには、自分たちを脅かすものは一つもない、筈だった。

しかし――裏手から、外へ遊びに出た、その時。

彼は屋敷の入り口へと伸びる……人の群れを、目撃した。

 

陽の光による逆光で。それらは人ではなく――康友からは影法師のように見えた。個性も何もない、酷く無機質な『何か』に。

揃いも揃って、同じような動きで。彼らは、自分の家の中へと、吸い込まれるように入り込む……その、彼の知る日常とは明らかに『異質』な景色に。怯えと共に垣根の陰に隠れて――そのまま、動けなくなってしまった。

 

「……他の人とも話したりも、なんもしないんだ。能面みたく、眉一つ動かさない。人形みたいなのに――その癖、動きは人の動きでさ。人間らしくないのに、人間臭い。気持ち悪いったらありゃしない」

 

住人たちのその陰が。寝物語の怪物よりも遥かに、幼い彼にとっては恐ろしいものに見えた。それは――普段を知っているからこそ、より深い恐怖となったのだという。

 

「だってよ。普段は、挨拶だって返してくれたんだぜ? こんにちは、って言ったらさ。同じくらいに元気だったり、逆に無愛想だったり……それこそ、個性豊かに、こんにちはって言ってくれる様な人ばっかりだった」

 

 ……知っている人が、突如として自分の知らない、何者かへ変貌してしまった。

 人間とは、未知を恐れるものだ。そんな言葉を思い出すと――少年の頃の彼にとって、既知が反転したその時の恐怖は、どれ程のものだったろうか。

 

 が――そんな彼の心情とは別に、確かにその光景は異質だ。

 

 二十人を超える数の人が、何も言わず、無表情のまま、一つの建物へとぞろぞろ入っていく……普通に考えれば、ちょっと不気味だと思うのは当然だ。自分でも、何事だろうと目を向けてしまうかもしれない。

 

「お葬式っぽい、感じかな」

「いや、アレは――ともすりゃ、カルトのそれだよ」

「か……っ!?」

 

 想像以上の返事に、思わず声が詰まってしまうが……しかし、その言い回しが、やけにしっくり来てしまう自分がいる。

 

 悲しみに暮れる。楽し気に語らう。怒りと共に歩を進める――そう言ったとっかかりがあれば、まだ良かったのだろう。しかし……人とは思えない、とすら口にする程だ。そこには日常とはかけ離れた、何かがあってもおかしくない。

 それを形容する言葉としては。些か言葉が強いとしても……相応しいのかもしれない。

 

「……それこそ、ただの『集会』とは思えなかったよ」

「でも、村の会合……なんだよね?」

「元から本当にそうだったかは分からんさ。少なくとも、ただの会合だったら、もう少し楽しそうな空気を出してもおかしくないとは思うがね」

 

それ故に……とても。何か怖い事が起こるんじゃないか、って。康友は、そのまま家の中に戻ったのだという。

 

「妹が危ない、って咄嗟に思ってね」

「なぎこさんが?」

「んー……まぁ、アレくらいパワフルだったら、心配しなくても良かったんだが」

 

 昔は、ああじゃなかった、という事か――兎も角。彼は、家の中に駆け戻り、なぎこさんを探し回って。それから……

 

「父さんと、母さんにも相談しに行ったっけ。アイツ、どこ行ったんだって。そしたら……」

「そしたら?」

「大丈夫だから、お前はあっちで遊んでなさい、って。背中を押されてさ。別の部屋に案内された。そこには、俺一人しか居なかったっけ」

 

 なぎこさんの事を聞いては見たが……ご両親は、答えてくれないまま。仕方なく、二人の言う通り、その部屋の中で大人しくしていたのだという――後で、彼女もここへやってくるのだと思いながら。

 

 そうして、部屋の中で暫く過ごす間に――彼は、眠ってしまった。怯えて、焦って、想像以上に消耗していたのかもしれない、と彼は言った。

 

「んで……そっからは、少しばかり、記憶が曖昧でな」

「事件が起きるまでは、ずっと寝てたって事かな」

「いや。その前に俺は起きてた、と思う――断定はちょっと出来ないけど」

 

 康友が覚えている、その次の記憶は。案内された部屋の中で目覚めたときのものではなくて……部屋の中に沢山の大人たちが居並ぶ光景、だったという。

 状況的に考えるのであれば――そこは、村人たちが集まって会合が行われていた部屋、という事なのだが。しかし。

 

「でも、お婆さんは、行ってないって……」

「そうだな。でも……俺の中には、この屋敷の大部屋の宴会の席に行った記憶がある」

 

 額に掌を当てながら。掠れた深呼吸を、康友は一つ。

 固く閉じた瞼。眉間に寄った険の深さは、一見するだけでも見て取れる。ぎり、と。微かに歯ぎしりする音が聞こえた気がした。

 

「右を見ても、左を見ても。大人たちがずらり……拳一つ分、位かな。間を置いて並べられた座布団の上に正座して。高い壁に見えた――普段見慣れた筈の空間なのに、家具とかが無くなって、あんな大量の人がいて、まるで異世界に迷い込んだみたいだった」

 

居並ぶ大人たちの姿。家の前で目撃した時とはまた別、圧の様なものを感じる、異様な景色……その顔の一つ一つを、彼ははっきりと覚えている。住人自体は少ない村だ。それぞれが誰で、何処へ座っていたかだって。

 

 何よりも――と。康友は此方を見つめながら、呟いた。

 

「……忘れられる訳ねぇよ」

「何を?」

「あの、目の光を、だ」

 

――縋る目だった。

 

「……砂漠を放浪して、漸くオアシスでも見つけたみたいだった――目の前の希望しか見えなくて、狂気にも近い何かに取り憑かれてる」

 

 沢山の、目が、目が、目が――じぃっと、見つめてる。

黒く、淀んで、底の見えない。奈落の穴の様で……その奥に揺らめく、得体の知れぬ、炎とも、閃光ともつかない輝きが、目に焼き付いて離れない。確かな熱と、目を刺すような尖った輝きが、身体の内に入り込んで――体の『芯』が、いつの間にか、ねじれてく。そんな嫌悪感に、苛まれる。

 

インク染みてあふれ出す無数の腕が、掴んで、絡みついて、入り込んで――!

 

「う……」

 

 ……お婆さんの言う『ただの気のせいだ』という言葉が信じられない位には……彼の語るその景色は、とても具体的で、鮮明で。少し……いや。大分、こっちも『やられて』しまっていた。

 

今までの、特異点の旅だって安全な時間はひと時も無かったし。肝の冷える思いなんて何度だってして来たけど……これは、それらとは別ベクトルの――

 

「――兄貴!」

「んぉ?」

 

 ……そこで割り込んで来た声に、顔を上げる。

 

 廊下の曲がり角へ視線を向ければ――そこには、此方を覗きこんで手を振る、なぎこさんの姿。その傍らには、香子さんも立っていて。こちらに頭を下げているのが見えた。

 どうしたのか、と康友が声をかければ。なぎこさんは、食事の支度が出来たから呼びに来たと言いながら此方へと走り寄って来る。

 

「……そっか。今日はなんだっけ」

「鳥の煮物! かおるっちも読んだし、パーっと食おうぜい!」

「そいつは美味そうだ――悪い、話はまた後でって事で」

 

 ……その言葉に、頷きを返す。

冷たい汗が、身体を伝って流れていく。最初は、ちょっとしたつもりでの提案だったのだけれども――その話に、まさかここまで。

 

 想像していなかったところからの、思わぬ一撃。立ち上がる、その身体が酷く、重い気がしてしまう。詰まっていた息を吐き出して……そこで、ふと思う。

 

「……でも、あの話し方は……?」

 

 アレだけの臨場感――その場に『居た』だけで語れるだろうか。それこそ、その視線の中心にでもいなければ……あそこまで。話せないのではなかろうか。

 会合の中心は、その屋敷の当主であるのが普通だと思う。村人たちの視線も、会議の中心たる当主一人へと向けられていると思うのが、当然の流れだ。

 

 では――彼は?

 




ちまちまと伏線を回収していきたい
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