FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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断章:三文芝居

 呼ばれて、ご飯をごちそうになりに来るのは、何時もの事だ。

自分が最低限一人で家の事を管理できるようになってからも……彼や、彼のご家族には、とても良くして頂いて。今回もなぎこさんに誘われたのは、珍しい事ではない。

 

そして。

その、何時も通りの提案は。何よりも嬉しかったのだ。正直な話をすれば――今回の一件で、家の中に一人で居るのは、少し不安だったから。

 

自分の家の蔵書が、この村に起きている事を解決するの必要だという話ならば。ここの管理をしている自分が離れるわけには行かない――と、似合わない変な責任感を発揮してしまって。今でも、そう決めた事を後悔するつもりはないけれど。

だからと言って。夜闇に魔性の跋扈する、この状況下で。一人で堂々と本を読める程に肝は太くはなかった。

 

「いやー、美味しかったねー――えっと、何時もの部屋でいいよね?」

「は、はい。お願いします」

 

 だから……折角だし泊まっていくか、というその提案にも自然と頷いていたし。こうして普段お泊りする時に使っている部屋に案内されていると。なんだか、無理に張っていた気持ちが少し、解れていくのを感じていた。

 

 ――だから、なのだろうか。

 

「……覚えていましたか?」

 

 先を行くなぎこへとそう声をかけたのは。何か、特別な考えがあった訳ではなくて。

 なぎこは、一度此方へと振り返って。それから少し明後日へ目を逸らして――改めて、視線を戻して、口を開いた。

 

「――兄貴の言ってた事?」

「はい。なぎこさんは……どれくらい?」

 

 先程。屋敷にやって来て直ぐの事――食事の支度も終わり。なぎこと共に、康友を探していた時。耳に入って来たのは、縁側で話していた二人の会話。

 声をかけようとした所で――こっそり盗み聞きしちゃおう、と。なぎこのちょっとした思い付きに引っ張られる形で、二人そろって角に隠れ、通路の向こうの二人の会話を聞くことになって……『聞くことになった』のだ。

 

今。彼女の胸にあるのは。

無性に――というには弱くて、けれども、どうしても無視できない。引っかかり。秘めていても問題なかったものが……緩んで、溢れて来た。

 

「んー……多分、かおるっちと『同じ』だと思うけど?」

 

 そんな言葉に、言葉を選ぶ様子もなく。普通に、なぎこは言葉を返す。そこには何の『陰りの色』も見られないように見える。

 であるならば……この胸の違和感と、彼女はきっと同じことを考えている、筈だ。

 

「私は……彼の話していることが、嘘だったり、偽りを離している様には……本当に、到底思えませんでした。堂に行った、滑らかな喋り口で。その時の情景が……それこそ、脳裏にはっきりと思い浮かんで来るようで」

「でも、それを聞いてもなにも――引っかかんなかった?」

「……」

 

 自分は――あの日の事については、ぼんやりとしか覚えていない。

それでも、流石に物心つく前、という訳でもないのだから。彼の話を聞けば多少は……と、初めは思っていた。しかし。

 彼の語る、あの日の出来事を、ずっと聞いていても……何か、胸に来るものや、思い出す記憶が、あるのではないか。そんな覚悟を決めていた。

 

 最悪……何か、凄惨な景色を思い出すかもしれない。そんな怯えすら――胸の何処かにあったというのに。結局、そんな心配は……肩透かしな位に、杞憂に終わった。

 あっけない位に、何も、無かった。

 

「……どうしてなのでしょうか」

「人間の記憶なんてそんなもんじゃね? 割と何がきっかけになって、ふーってでてくるかも分かんないしさ。んな気にしなくてもへーきへーき!」

「それは……」

 

 ……彼女の言う通りではある。人の記憶とは、そう上手く行くものではない。

 

 別に彼があんな噓を吐く理由も無い。何も引っかかる事は無かったのは単なる偶然。それですませてしまえる、話ではある。

だが……それでも、喉に魚の小骨が刺さってしまったように。どうしても気になってしまうのは。どうしてなのだろうか。

 

「でも……何故……?」

「およ? かおるっち?」

 

 ――足を止める。

 

 考えるのをやめられない。先を行っていたなぎこも、此方の動きに気が付いたのか、その歩みを止めてしまう。足音でそれを察することは出来た。

 

 何故だろう。その事が酷く重要な事な気がしている。

自分は、この村の異変で『何も出来ない』立場にいる。であれば、せめて得意な方の頭脳労働位は……と。そんな小心者染みた責任感で、どうしても――

 

「――そういえばさ、かおるっち!」

「……はっ、はいっ!?」

 

 ……そこで。不意に声をかけられて。

ワンテンポ遅れで、思わず上ずった声を出してしまった――慌てて顔を上げれば。足を止めたなぎこが、振り返って此方を見つめている。金色に近い萌黄の瞳には、何時もとは少し違う、真っすぐで、でも何処か暖かな光が――

 

「かおるっちのお父さんって、どういう人だったの?」

「……えっ?」

 

 ――あまりにも、唐突に過ぎる質問で。

 

香子は、反応がまた一歩遅れてしまった。

 

先ほどまでの二人の話の流れを完全に無視した質問であるし。それまでそういった話題が出た覚えもない。本当に、聞きたいから聞いたのだろうか、と推測する事しかないレベルの唐突さ。

頭の中で考えていたことが、一瞬真っ白になって……それから、あっという間にはてなマーク一色に染まる。

 

「えっと……えっと、どう、して、ですか……???」

「うわ。かおるっちのそんな顔初めて見た。うんまぁいきなりこんな事聞かれても困惑するよねー……でも答えてちょ?」

「は、えー……わ、かりました……」

 

 ……向こうも唐突な質問をした自覚はあるらしいが。それはそれとして、回答しないとダメらしかった。まぁ、別に難しい事はない。自分の肉親の話だ。

 最後に言葉を交わしたのが何年も前だとしても。その顔を忘れる事はない。それ以上に詳しい事は話せるかどうかは分からないが。少しだけ、思い出すのには時間がかかってしまうかもしれないのは間違いない。流石に、何年もしまい込んだままの記憶だから。

 

 あぁ、しかし、そうだ。最後に出会ったのは、それこそ、彼の言っていた事件当日ではないだろうか、と思って――

 

「……あれ?」

 

 気が付いた。

 

 そうだ。きっとあの日……自分は、村の会合に向かう『親』を、見送った筈だ。

 大人たちが皆集まる場所で――でも、子供の自分は、家で留守番を、していたはず。家に居たのなら……きっと、彼と一緒に遊んでいたと思うけど。そんな記憶は、どこにも。

 

 けれど――居た。自分は、会合のあった屋敷に。そうして、泣きながら、なぎこと、康友と。二人と一緒に、片づけを……何時だ、何時気が付いたのだろう。

 屋敷自体が村の奥。他の家から一歩離れた所へ作られている。家が破壊される程の轟音なら兎も角、自分の家まで屋敷の中の惨劇が届く要素は、あるのか?

 

「で、でも……どうして……っ?」

 

 欠けている記憶があるのか――しかし、ミッシングリンク、というには。この二つの記憶の間には、決して埋めようのない深い溝が。

 

 いや、そもそも……あの日、幼い自分が見送ったのは? 母親か? 父親か?

 アレだけの家の蔵書を把握できる様になるまで、どれだけの時間がかかった?

 彼らに良くして頂いたとは言うけれど……具体的には、どれくらいだった?

 

 一つの違和感が、彼女の頭の中の『うすぼんやりとした景色』から、かかった靄を取り去っていく。

 

 ――指先が、つるつるとした球体の表面を撫でている様だった。

 

 滑らかで、歪みもなく、傷一つ付いていない。一見すると、完璧な真球。違和感なんて何処にも感じられない。けれど……そこへ触れてみると、その完璧な感覚に、一つの綻びが確かに生じてくる。

 

 触れれば……触れるそのつるつるとした感触は、薄皮一枚ほどの厚みしかなくて。その下には、何か別の――異質な何かが蠢いている。

 

「っ……!」

 

 これが――原因なのか。彼の言葉に、自分が何も引っかかりを覚えなかった事の。

 自分の頭の記憶は……本当に、正しいものなのか。力強く踏みしめていた足元が――突然ひび割れて、崩れていく様で。身体の震えが、止まらない。

 

 思わず――助けを求めるように。再びなぎこへと目を向けようとして……けれど、脚に力が入らなくて。身体が、崩れ落ちてしまう。

 

「っと……あちゃー、やり過ぎたかなぁ……」

 

 ……遠くなる意識の中で。

 

「まぁでも、そろそろ三文芝居も後編――準備はしとかないとね」

 

 そんな、なぎこの声を、聴いた気がした。

 




なぎこさんの三文芝居発言、実はお気に入り。
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