FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「――今更ながら……どうやって『辿り着かせる』つもりだ?」
「ンンン――唐突ですねぇ。どうしました、いきなり」
「単純に疑問に思っただけだ」
――彼女は、机の上に広げられた地図を眺めながら、そう呟く。
自分の名前は……未だ、カルデアには伏せるように主には命じられた。自分が名乗った所で、真名に何の価値があろうか。逸話的な弱点も、そもそも存在そのものが胡乱な自分にある筈もなく。
それでも尚――万が一を考える、知恵者というには些か執拗で、ともすれば臆病とすら感じられるのが、自分を使役する男だ。
この村を特異点とし、カルデアと共に標的を誘い込み――最初の戦いの時点で、既にその首を掻っ切れる状況に至っても尚……『まだ殺す機ではない』とすら言い切って見せたのだから、その度合いは群を抜いている。
『――いいや、それではダメだ。無暗に首を掻っ切れば、残った者たちが更に奮起してしまいかねない。その僅かな負けの芽も摘んでおかねば。だからこそ……今は、ダメだ』
完璧に孤立無援にしてから、首を切る――念には念を。カルデアという組織から、あの小僧を引き離してから、その上で潰せば。後に僅かな禍根すら残さず、勝ちだけを手に入れる事が出来る、と。
それだけの慎重派だ。この『回りくどい』計画にも、納得は出来る、が。
「元々から、この村の住人共は自らの秘密を隠す様に動いていた」
「えぇ。彼らの『行い』は、残念ながら表に出せる類のモノではありませんし」
「まともに調べようとも、強引に暴こうとも、何れにせよ辿り着くことは容易ではないときている……」
この計画を成功させる為に、この村の秘密に辿り着くことは、殆ど必須条件になってくるというのに。
此方に不利になる情報を自己都合で絞っている以上、余計に辿り着く為の難易度は必然的に上がっている。どれだけ頑張っても、たどり着けない可能性が十全にある事は、彼女自身容易に想像が出来た。
これだけ回りくどい手を打って、結局計画そのものがおじゃんになった……なんて事になろうものなら。
「――その為の、『伏兵』でございますので」
「……あの『娘』か」
そんな彼女の言葉にも――此度の計画の『絵図』を描いたリンボは、不敵な笑みを浮かべて自信満々に言葉を返す。
「えぇ。ああ見えて、頭は回る方です。頃合いを見て、内から上手に誘導してくれるでしょうとも――村を守る頑迷な老人の策を、未来へと生きようとする娘が暴き……狂う鬼を打ち取るは我らの仕事。実に良く出来た台本でありましょう?」
自分の計画に一切の綻びは無し、とでも言いたげなその表情。
確かに、景清から見ても悪辣極まりなく、良く出来たシナリオだとは思う――それが目の前の男一人で仕上げたものであれば、その自慢げな表情も納得できたのだが。実際の所は、主が作った草案を元に、この男が仕上げた、というのが本当だ。
それ自体を悪いとは思わないが……それを当然の様に自分一人の手柄を言わんばかりのふてぶてしい態度を信用できず。
その延長線上で、脚本にも綻びがあるのではないかと思ってしまうのは、流石に斜めにモノを見がちであろうか。
「裏から見れば滑稽極まりないがな」
「人間というのは、見たいように物事を見てしまうもの。裏から見る視点すらも無ければ猶更に……違いますかな?」
「……」
――彼女は、怨念の集合体だ。
しかし……この身には、怨念以外の記憶も渦巻いている。『平家』であった頃の、暗がりでの政争の、僅かな断片が。
その記憶が。目の前の男の言葉が、間違いではないことを、教えている。
そうして視野狭窄に陥った者こそ……その脚を掬いやすいという事も。
実際。
目の前のリンボが、カルデアが『どういう風にモノを見るか』を上手に誘導しているのは確かである。その辺りは、嫌な意味で信頼は置ける。
このままいけば、嘗ての政敵の様に策に嵌るのも時間の問題だ――と、ここで素直に思えれば、良かったのだが。
「まぁ、多少のアクシデントはありましたが……それ以降は順調そのもの」
「その一件について、何も報告がないという事でなければ、その前の言葉も信用できたのだがな……未だに掴めんのか」
「……ンンン、いやはや全く」
酒呑童子の暗躍は未だ止まらず。カルデアとの通信も回復してしまった。加えて、姿の見えない敵を捕らえる事も未だ出来ておらず――おまけに、例のゴルゴーンも発見こそ出来たが……場所が場所だけに、手出しも難しいと来ている。
派手に暴れれば……余計な情報を相手に与えかねない場所。『いつの間にか』そこへと陣取った大蛇を、最早静観するしか出来ない――先ず、何かしらの入れ知恵あっての行動という結論は、既に出ている。
「そ奴を捕えられれば、後顧の憂いを断って万全の体制で挑めるというのに……」
「まぁ――去れども飽くまで『憂い』を超える事はないでしょうな。ここまでの敵方の動きは、あまりにも惰弱極まりない」
……リンボは。飽くまで余裕を崩さない。
「此方の『箱庭』に直接手出しをしてこない辺りを鑑みても、派手に動けるだけの戦力はない……既に酒呑童子、ゴルゴーンと協力体制を敷いているというのに、裏でこそこそとするしかないのも、それを裏付けているかと」
それこそ、見たい物を見ているだけではないか――という言葉は、ギリギリで飲み込んだ。それを口にした時点で、目の前の法師と殺し合いになるのは目に見えていた。
仲間やら、同士やら、そんな関係になったつもりもないが……無駄に互いにつぶし合って消耗するのは、流石に馬鹿らしい。
……とはいえ、リンボが弱気と断じるその意見も、分からないではない。
酒吞童子とゴルゴーンの二人は、その何方も強力なサーヴァントである事は疑いようもなく。彼女達と連携して力攻めでもされていたら、更にこちらが苦労することは目に見えていただろう。
それでも尚……ほぼ『静観』と言ってもいい程の動きのなさ。慎重さの具合に限って言うのなら、此方の大将と『同格』と言っていいだろうか。
ここまで消極的ならば、盤面的に『居ない』ものと同じではある……が、しかし。
本当に『無い』のと一にも見たないが『有る』のとでは、話は大違いだ。
「……とはいえ、五分の虫の一噛みで策が瓦解した、という話など……それこそ、そこらに転がっている」
たった一人、落ち延びた武士が……後に、ほぼ天下をその手中に収めていたと言ってもいい一族を攻め滅ぼし。一つの名として冠される程の偉大なる『幕府』を作り上げた。
そこら、処の話ではない。こちとら『当事者』だ。忘れたくても出来ようか。
「あれらがたどり着くのに手間取れば――その分」
「承知しておりますとも」
この『身体』の奥の、生来の将としての才覚が。内に宿る『魂』の記憶からの苦い経験を無視できない……積極的に協力するつもり等なくとも、つい口を挟んでしまう。
しかしながら――目の前のこの男、こちらの話を真剣に聞いているのか、いまいち分からない。恭しく頭を下げてはいるが、それが何処まで本気の仕草であるのか。
……実績がある分、どうしようもないが、本当に厄介極まりない。
「故に――そろそろ。『駒』を動かす頃合いかと」
「ほう?」
「かの娘には一枚『呪符』を持たせてあります……丹精込めて織り上げたモノ、多芸ゆえに通信の一つも可能。故に――あれを通じて、盤面を掻き回す事も! 先んじての襲撃にて、あの娘には『被害者』としての印象も植え付けてあります故、仕込みは万全!」
――ヂパァ、と。男の口の端が、三日月の端の如く鋭く裂ける。
くつくつと笑う目の前のサーヴァント、蘆屋道満。手元に取り出した札から、そして彼の全身から、あふれ出す邪気は此方の肌を焼くほどに濃く、そして淀み、歪んでいる。
これだ。この男には……この、悪辣な策略を回すだけの器量がある。術の腕も合わせて確かに、あの時代に『天才陰陽師』が居なければ、という評価もあながち――
「さあ始めましょう――我が人狂舞台、その第二幕を!」
――ぼっ!
「……」
「……」
「……燃えたが?」
「……ンンンンンン?」
……そう思った直後に掲げた札が燃え尽きた。
何かの演出か、この男にならあり得るか。と思って一応聞いては見たが……頬を伝う脂汗、見開かれた目と、明らかに思っていたのとは違う展開であろうことは見て取れた。
煤塗れになった指先へと。酷くぎこちない仕草でギギギ、と首を回してから。
からくり染みた動きのまま……改めて此方へと視線を向ける。
もしかすれば、ここはとんでもない泥船ではないのか、と。思わず、ため息を吐くのも仕方ないのではないだろうか、これは。
「……『自らの部屋の何処か』へと、隠す様に、と……伝えおいたのですがなぁ……?」
告げられましたか……?