FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「それで、香子さんは?」
「まだ部屋で寝てる。いやー、相当疲れてるんだと思うよー」
成程――今の彼女は、飽くまでこの村で暮らして一般人。人理修復の旅を戦い抜いた頼もしいキャスターとしての記憶はない。であれば、ここ最近の騒動で消耗が激しくなっているのも当たり前だろう。
……という事で。翌日。
とりあえず、この村の墓地について調べようと再び香子さんが現在暮らしている家へと向かったのだが――彼女の姿が見当たらない。すわ一大事と慌てて本増員の屋敷へとんぼ返りして彼女の姿を見ていないか、と聞いた所……屋敷の一室で寝ているとの事。
「ごめんねー、昔っからかおるっちがウチの部屋で寝てるとかフツーだったから、言い忘れてた! ワハハ!」
「いえ、むしろ早とちりして、騒ぎ立ててしまってすみません」
……その昔っから、な記憶に関してはバッチリと偽物なのだが。香子がこの村に馴染み過ぎていて、時折その事を忘れそうになってしまう。
その事を口にしても、余計な混乱を生むばかり。今はどうしようもない、というのがロマニ、およびダ・ヴィンチちゃんの共通の意見だ。解決するかどうかは、今の所ロマニの執念の仕事ぶりにかかっている――
『――なら、ちょうど良いかもね』
「おっ、その声は……確か自称天才の!」
『自認だけじゃなくて他認も天才だとも……ではなくて。実はカルデアには、ちゃんとしたお医者様もいるんだ。良ければ、彼に香子君を診てもらうのはどうだろうか?』
そんな事を考えていた、ちょうどそのタイミング。起動した通信機から聞こえて来たのは、ダ・ヴィンチちゃんの声。
『疲れというのは万病の元だからね。寝込んでしまう程のモノなら猶更に』
「えっ!? マ!?」
『マジだとも。調子を崩してしまう前に、というのは悪くないかもしれない』
「んじゃあお願い!」
……何か言葉を差し挟む暇もなく。なぎこさんは、自分に割り当てられた部屋を出て行ってしまう。いや、そもそもいきなりの事でこっちは何が何やら分からないまま、ダ・ヴィンチちゃんとなぎこさんの会話を聞いてるしかなかったのだけど。
マシュと、どういう事なんだろうと目を合わせる。今の彼女は普段とは状態が違う。ロマニに調子を見てもらうというのもごく当たり前の提案ではある。
それにしても……些かに唐突で、若干強引な提案がしないでもない。そもそも、本当に何か異常があるなら、様子を見ていたなぎこが気が付いていると思うのだが。
『――さて、これで後はロマニを呼んでくるだけかな?』
「あの、ダ・ヴィンチちゃん。どうして急に?」
「もしかして、香子さんに何か異常が……いや、あるっちゃあるけど、それ以外に何かあったの?」
記憶のこと以外に何かあったのであれば――と、そんな此方の言葉に、ダ・ヴィンチちゃんは『いいや? 特に何も?』とあっけらかんとした様子で返してきた。
「え、それじゃあ……」
『でも――そもそもの特大の異常を放置するわけにもいかないだろう? 不幸中の幸いっていうのは失礼だけど、今なら合法的に調べられるってものさ』
……それで、ようやく納得出来た。成程。彼女を診察するというのはあくまで建前に過ぎず。本当は、今の彼女の霊基の異常をじっくりと調べる為の時間を確保するのが、真の目的という事か。
実際、ロマニが物凄い頑張っているとはダ・ヴィンチちゃんからは聞いているが……現地でじっくりと調べる時間を取らないままで調べるのは限界がある、とも言っていた。
「確かに。式部さんの記憶については、無視できるものではありません。出来る限りの精密な検査は、解決する為に必要な事だとは思います――なぎこさんを騙してしまっている事は、大変心苦しいですが」
マシュが、物凄い微妙な顔になる。今まで一緒に旅してきて初めて見る顔だった。とはいえ、自分も同じ気持ちである。正直に自分たちの事情を説明出来ればどれだけ良いかと思う……が、今回ばかりはそうもいかないのが、物凄い心苦しい。
『――待たせてごめんね。それじゃあいこうか……って、どうしたの二人とも? 凄い顔してるけど』
『私たち汚い大人の理屈に微妙に納得できなかったんだよ。良い子たちだよね』
『え、二人が良い子なのは当たり前じゃないか?』
「――どうかな、何か分かった?」
という事で。場所は移って香子の寝ている部屋。お婆さん、康友にも許可を取って、カルデアメンバーだけで目の前の布団に横になっている香子さんを取り囲んでいる――いや屋敷回りの護衛に巌窟王が付いてくれているので、彼を除いて全員というべきか。
こうして、寝ている彼女の近くに自分とマシュという、この特異点とカルデアを繋ぐ一番の楔がいる事が大切だ。カルデアからドローンを飛ばしている訳でもなく、当然千里眼染みた超絶便利な能力がある訳もない。
という事で、自分たちを起点として調べるのであれば……対象が近くにいるのが一番いいのである。基本的に――で。
『……うーん』
「ダメだったの?」
『いや、分かった事は多いよ、間違いなく――これで此方の解析も、少しは進むとは、思う。うん、間違いないけど……』
「それじゃあ!」
とりあえず、一安心。
まるで幽霊染みて枕元に正座し、式部さんの顔を覗き込みながら待っていた甲斐があるというもの。正直、傍から見れば大分不気味な景色を展開していた自覚はあった。
これで、不安材料の一つが解決するか――と、思った所で。
『……でも、想定はしていたが……むぅ~……!』
ロマニが唐突に唸りだした。
色々な事が分かった、と口にする割には。なんだか微妙な反応である。向こうで首をひねっているのが、見なくても分かる位には歯切れが宜しくない。ついでに、声も大分低くなっていってる。
収穫は多いという言い方からは、程遠い反応な気がするのだけれども。
「どうしたの?」
『……相手方が使ってる術式は、一応解析は出来た。出来たんだけど……いやホントなんなのこれは……違法建築かなんかなの……!?』
……苦しみつつロマニが話して曰く。
紫式部に施されたのは、何か特定の魔術――という訳ではない。無数の要素を組み合わせて作られている。間違いなく『日本式』なのは間違いないのだが……本来の使い方をされていないもの組み込まれていて。
どこから、どうやって紐解いて行けばいいかも分からない。プログラマーが『なんで正しく動いてるか分からない』をわざとやっている様なもの、らしい。
「……それってマズいの?」
『エンジニアとしては、明確な問題があって動かない、って方が嬉しいかな。後者は直す所が分かるけど。前者は直すとなると先ず全部解体して『何処を直すのか』を探るところから始めないと。変な所を弄って他が全部バグった、とか目も当てられないし』
ダ・ヴィンチちゃんが、こういうのは経験しないと分からないよね、と楽し気に口にする横で、明らかに嫌がらせだよとロマニがドデカいため息を吐いている。
『……多分、一つ一つ解いて行けば、何とかなるとは思うけど……とはいえ、この特異点を解決するまでに間に合うかってなると……』
「直接、やった張本人を締め上げた方が早い」
『そうだね……っていうか、こんな七面倒な事やるくらいなら、普通に術を行使した方が絶対に手っ取り早いし制御も楽だし手間も掛からないしトラップだって仕掛けやすいだろうし……絶対出来るけど敢えてこっちを選んだろ!』
成程。調べてみたら『どうにかなるけどどうしようもない』と分かったなら、そりゃあ微妙な顔もするだろう。あの白と黒の髪色が特徴的な、大柄なキャスターが『ンンン♪』と愉しそうに笑っているのが目に浮かぶ。
実際、効果はバッチリと出ている辺り、本当に厄介というしかない。
「式部さんの事は、置いておくしかないのでしょうか」
『今の所は、かな……』
……重苦しい空気が、部屋の中に流れる。式部さんが『こう』という事は。恐らく、これと同じことが康友にも行われている可能性が高い。故に、彼の記憶に関しても、殆ど今すぐに取り戻すのは不可能と言われたようなものだ。
特異点を解決すればなんとかなる――というのなら話は簡単だが。当然、この特異点と二人の記憶の消失自体は関係がない。もし特異点が終わっても記憶が戻らなかった場合の事を考えると。
『……一応、どうして動いているか分からないなら、どんな切っ掛けでも解ける可能性だってありはする、とは思うけど』
「ほとんど無い、って言っても過言じゃないか」
『本造院君のマスターとしてのパスがあるから、
残念ながら、康友の記憶は未だに完璧に戻っているように見えない。
一つ進展したかと思えば、一つ戻る。どうしようもないもどかしい時間は、まだまだ続くようである。
くー、カルデアでの記憶が戻ってればなー!