FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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ただいま(疲労)


断章:一方の盾の乙女

 ――自分の一歩先を行く、黒い影を追う。

 

 自分はシールダー、前衛の適性が非常に高い能力をしている。故に、自分が先んじた方が良いのではないか……という提案をしたのだが。

その提案に、彼――巌窟王エドモン・ダンテスは静かに首を振ってから。

 

『ここから足を踏み入れるのは、入り組んだ木々と、山岳の悪路で作られた檻の中。先んじて求められるのは砦の如き不動の構えではなく、獣の如き敏捷……暗中を切り開くのはオレの役目だ』

 

 そう焦るな、と。最後にそう付け加え、先んじて歩き出した。

 彼の言葉は正しい。見通しも悪く、不安定な足場。そんな中では、前衛としてのパフォーマンスを最大限に発揮できるかどうかは、怪しい。

 

 普段の自分であれば、少し考えれば分かる事だったろうが。彼女としては、焦っている積りは無かったのだが……この任務はとても重要である、とは思っていた。

 それ故、より一層気合を入れて望まないといけないと、気負っていた部分があって。それが知らず知らずのうちに、焦りを産んでいた、のかもしれなかった。

 

「……この辺りには、それらしい痕跡は見当たりませんね」

「次に向かうか――それで、どうだ」

 

 ……大きく息を吐き出し。冷えた空気を、少し熱を持った身体に行き渡らせて。気持ちにかかる『曇り』を拭う。

 

「やっぱり、一定の距離を保って追跡して来ています。こちらに襲い掛かる気配も、引き続き見られません」

「……此方の目的を察して追跡して来ている、と思って間違いないだろう」

 

 探索の進捗は順調だ。ここまで、身を顰められそうな場所を二つ確認できている。しかしながら……肝心のゴルゴーンの姿を、発見出来ていない。

 

 その代わり……には、到底ならないだろうが。

かかったのは別の獲物――恐らくは分かれて動いた自分達を監視する為であろう、敵の影、数体の黒武者。

 

その図体で隠密行動は不可能であろう事を分かっているのか、堂々と晒したままで。自分達との距離を一定に保ち、ずっと此方の背を追い続けている。

 大人しいのは……自分達が今の戦力であれば、十分に黒武者達に対応可能できる――その事を向こうも分かっているからなのか。

 

「しかし、これでハッキリしたな」

「監視している、という事は……」

 

 ――それとも。

 

「向こうも未だ、ゴルゴーンさんを補足出来ていない、という事でしょうか」

「そうでなければ、俺たちを泳がせる理由は向こうにない」

 

 元から此方を監視し、追跡する事自体が。彼らに下された任務なのだろうか。

 その答え自体は、教えて貰える訳もないが……しかし、相手の動きからある程度の意図を『察する』事は可能である。

 

 既にゴルゴーンを発見できているのであれば。ああして此方をただ監視する様な事はせずに……寧ろ、むやみやたらに探し回られて合流されてしまうのを阻止するために、分散した此方を叩いてくるだろう。

 マシュが此方の任務を志願した時、その可能性を考えていなかった訳は無かった。

 

――しかし、だ。

 

 此方がゴルゴーンを熱心に探しているのを邪魔して来ない。しかしながら、監視の目は外さない、という中途半端な動き。それは、此方の動向を伺う必要が敵方にある、という事実を如実に示している。

 

 ……向こうも探しているのだ、彼女を。カルデアの最大の戦力の一角を。此方が探しているのに便乗しながらその行方を追う程に、必死に。

彼らがゴルゴーンを発見しているのであれば、先ずあり得ず。ましてや、もし彼女を既に『倒した』のであれば、更なりだ。

 

「此方が蛇眼の女神を見つけるのを待っているのだろうよ――そこを突いて一網打尽にできれば、向こうにとっては一番都合がいい」

 

 そうして、見つけられなければ、その時はその時である――少なくとも、此方が探している最中に襲い掛かってくることは先ずない――

 

「……構わん。此方も捕捉できている訳ではない。精々無駄足を踏ませてやれ」

 

 ――そう言って、再び先んじて歩き出す巌窟王。少し遅れ、慌てて彼の後に続く。

 

「あの、一応ドクターやダ・ヴィンチちゃんが周辺の地形から『隠れられそうな場所』をピックアップしてくださっているので、無駄足で終わるとは……」

「否定はせん。が、その程度で考えていた方が可笑しな気負い方をせずに済む。後ろを気にし過ぎて見落とすのも、間が抜けているだろう」

 

 その言葉通り……険しい山道を進む彼の足取りは、実に軽い。その険しい表情とは裏腹に、無駄な力を抜いてリラックスした動きは実に自然体そのもの。

しかして、雑に気を抜いている訳でもない。

 

 これが、英霊としての経験の差か。そもそも、生命としての積み重ねた歴史の差というものが大きいのか。

無駄にロスを増やさず、最低限の消耗で済ませつつ。大切な要点だけに対して全力を傾ける……適度な気の抜き方とでも言えば良いのだろうか。彼のその自然な振る舞いは、マシュにとってはまだ経験の浅い部分であった。

 

「……それで、次の場所は」

「えっと……方角でいうと、彼方になります」

「ン――そうか」

 

 自分にそれが自然に出来るかと言えば、難しいとマシュには分かっている。それならせめて……背後を気にしない事だけは、と。しっかり、盾の取っ手を握り直して視線を前へと向ける。

 ゴルゴーン探索の任に集中する。それが今の自分に出来る最大限の事だ、と。

 

 そう思って、一歩を踏み出した所で――先を行く背中から聞こえて来たのは。何処か呆れた様な溜息だった。

 

「……とはいえ、そう小器用に熟せる様な質ではないか」

「えっ?」

「真面目、というのも。些か考え物だな」

 

 しかし。その後に聞こえて来た声は。冷たさを含んだものではなく。まるで、我が子でも見守っているかの様な穏やかさに満ちている。

 普段は物静かながら。常にその身に宿した暗い焔で、自らを焼いている様な。凡庸な言葉で言うのであれば『厳しい』人だ

 

 しかし……今、此方を眺める彼の視線は――

 

「いや……『任されている』というのが多分にあるということか」

「え――」

「今までは『マスターと共に』というのが普通であった、というのも大きいか?」

 

 ……その言葉に、はっとして。

そして、ほんの少し俯いてしまう。どうして気づかれていたのだろう、という疑問もあったけれど。それよりも……気を遣わせてしまっていた、というのが大きかった。

 

「……もしかして、最初から、なのでしょうか」

「先んじて行動していたのは、説明した通りの理由だ。それ以外にはない」

 

 それは、実質的に答えを言っている様なもので。少し恥ずかしくなってしまった。透けて見える程だったのは間違いないらしい。

 基本的に、どんな時でもマスターと共に特異点を攻略して来た自覚が、マシュにもあった。それは、人類最後のマスターである彼を危険から守る、という理由からしても当然の事だった。故に……マスターが傍に居ない状況で、特異点解決に関して大切な任を負うといのは、初めての事だった。

 

 カルデアに居た頃、『Aチーム』と共に行動していた時に、自分一人で仕事を任せられた事が無いか、と言えば。それは嘘になるが……それでも、必ず誰かが気を使って傍にいてくれたような気がする。

それは、カルデアの人達が善き人たちだった故の、親切。

 

「……はい。少し、緊張をほぐすのは。難しい、かもしれません」

 

 マスターが傍に居なければ何も出来ない、等と。

甘ったれた事を言うつもりは更々ない――いや、寧ろ逆だ。

 

 自分は単独でフィールドワークも熟せる様にと、座学は受けている。サーヴァントとしての能力も把握している。故に、こうして彼に任されるには十分なスペックはある、と。思う。だからこの任も、熟せる。

 だからこそ……この盾を握る手の力を、抜くことが難しい。

 

 責任がある。

 自分に、『出来る』という自負があるからこそ。失敗してしまったら、という不安が頭を過る。信じて任せてくれた人たちに、応えたいという思いが。くるりと裏返しに回ってしまう。

 

「……我が共犯者は、些かお前を盲目的に信じすぎる所がある。それが責められるべき事かと言えば、些か疑問だが。此度は悪手であったか」

「せ――マスターには、非は無いと、思います」

「その辺りは『お互いに』未熟という事だ」

 

 俯いていた顔を上げ、前を見る。

 

 此方を見つめる彼は……普段の煌々とした、虎の如き眼光を。まるで蛍の明かりの如き柔らかなものに変えている。

 

「その辺りの『調整』も、今の俺の仕事か――マシュ・キリエライト」

「は、はいっ」

「提案がある」

 

 まるでそれは。生徒を見守る、学校の先生の様だ――と、マシュには感じられた。

 




話の間にマシュの成長も書いてぇ……(欲張り)
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