FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

359 / 373
断章:逢魔が時の邂逅

「……もう、到着しているでしょうか」

 

 マシュは小さく、誰にも聞こえない位の小声で、そう呟いてから。振り返り、背後の敵に向き直る――胸元で、ぎゅっと拳を結んだ。

 今回のミッションの上手く行くかは、自分の働きにかかっている事は未だに変わりないが。それでも、少し気持ちが軽くなった気がした。彼のおかげで、自分は前だけ見て動けるようになった。

 

 ごとん、と。盾の先を地面に突き刺す。敵がこちらへと近づいてきている。此方の探索が成果無しで終わった、と判断したのだろうか。

 

「後は、退却するだけ……」

 

 自分を残して先に撤退しろ――と、彼にはあらかじめ言われている。

これでも追手から逃れるのには慣れている、とも。

 

「……でも、やっぱり」

 

 ゆっくりと、腰を落とす。盾を構え直し、敵に向き合う。同じマスターに仕えるサーヴァント、カルデアの大切な仲間――そして、今回であれば、未熟な己に気を使ってくれた優しい先達。彼をおいて、自分だけ逃れる、というのはやはり出来なかった。

 

 一人で全員倒せるかどうかは……正直怪しい所だが。

そもそも特異点攻略において自分の役割は、敵を打ち倒す事じゃない。マスターに敵の刃を届かない様に守り、耐える事こそが仕事だ。

であるならば。

 

「――大丈夫」

 

 彼が返ってくるまでの時間は稼げる。戦っていれば、彼に居場所を伝えられる。合流できる可能性もその分上がる。

 それに、だ。自分一人で離脱すれば、何れにせよ『どこかに潜んでいた』可能性が完全に零になってしまう。そうなれば、完全に孤立したエドモンが狙われるかもしれない。それを防ぐためにも、二人で合流して撤退するのは、決して間違ってはいない判断……の筈である。

 

「マシュ・キリエライト――行きます!」

 

 ――その声に応えるように、黒い影が吠える。

 

 ずしん、ずしん、と。重たい足音。しかしながら、此方へと歩み寄るその動きは実に機敏そのもの。大柄で、ともすれば鈍重に見えてしまうかもしれないが……その全身が筋肉の塊であれば、さもありなん。

 木々の間を、それこそ獣を思わせるような足取りで抜けて来る。

 

日暮れの茜に照らされた大太刀の刃が、赫灼に弧を描き――

 

「はぁっ!」

 

 ――その切っ先を、振り払った盾で弾き返した。

 

「やあぁっ!」

 

 そのまま、盾を構え直して一歩前進。

そして、更にもう一歩――刀をはじかれて、体勢を崩した懐に飛び込んで。身体ごと強くぶつかる。ごうん、という音ともにかかる、重たい感触。でも、負けない。引かない。ただ、前へと愚直に進む。

 ぐぐっと、押し込む。一歩、一歩。踏ん張って、歯を食いしばって、精いっぱいに力を込めて。お腹の底から、声を上げて。

 

「これで――倒れてっ!」

 

 最後の一歩。その瞬間のインパクト――黒い巨体が、ついに背後へと大きく押し出されて、宙を舞う。吹っ飛ばされて、ぶつかって、転がり……地面へと倒れ伏す。

 どずん、という重たい音と共に。再び盾を構え直す。

 

「次――っ!」

 

 咆哮。続けて突っ込んでくるもう二体。今度は、愚直に突っ込んでは来ない。左右から回り込んで。挟み撃ちの姿勢。今の自分ではアレだけのエネミーを二体を同時に捌いて相手にするのは、難しいかもしれない。

 けれど……無理にどちらも取らなくていい、とは。先人からの言葉だ。

 このまま二対一を強制される位なら――

 

「――こっちっ!」

 

 僅かな差だが。突っ込んで来るタイミングは――右の個体の方が早い。ならば、其方に狙いを定め、再び自分から一歩、前へと出る。

 迎撃させるつもりだったのが、急に此方から出てこられて。まるで表情の見えないその巨体が、僅かにたじろぎ、仰け反る。分かりやすい動揺。今なら、そこを突ける。

 

 こうなれば、もう『見ない』――盾に身体を預けて、全身全霊でタックル。僅かな拮抗も許さない。半ば捨て身の特攻染みた突撃である。

 

——ゴ ウ ン ッ!

 

「——ッ!?」

「ハァァァアッ!!」

 

 今度、刃の切っ先の様に弾き飛ばされ、弾丸の様に放たれたのは――黒武者の身体の方である。重たい音と共に、僅かな隙に最大限のインパクトを食らって、堪える事すら敵わなかった。

 

「次っ!」

 

 直後、振り返れば――此方の背に追い付きつつ刀を振り上げる巨体が目に入る。

 体ごと、盾と前後を入れ替えて。ギリギリの所で、その一撃を受ける事には成功した。

 それでも、自分も全力で突撃した直後である。迎撃の体勢は、整っていない。完璧には受けきれずに、芯が揺らいでしまう。姿勢を崩された。

 

 僅かに、苦悶の声が口元から漏れてしまう。しかし、相手は待ってくれない。軋む体で無理矢理に踏ん張りながら、次の一撃に向けて、今度はしっかりと盾を合わせる。

 

「あぁあああっ!!」

「————ッ!!」

 

 刃と、衝突。体勢の優位の分、僅かに相手の方が勝ってはいる。だが……ほんの僅かに後ろへと押されただけで。今度は、崩されていない。

 

「これ、ならっ――!?」

 

 ――が。

 

 喜んだのも、束の間の事。がしゃり、という重たい音がしたのは、その直後。冷たい汗が、背筋を伝う。

 

 音のした位置的に、恐らくは最初に撃退した黒武者。自身の想像よりもはるかに立て直しが早い――そう思った時には。既に視界の端に僅かな光が閃いたのが見えた。

 腰だめに、力強く構えられた太刀。今、無防備な背をアレで叩き切られれば間違いなく致命の一撃になるだろう。

 

 かと言って、競り合っている目の前の敵から意識を逸らせば、その時点で押し切られてしまって。此方に襲い掛かってくる敵の攻勢を凌ぐのは、難しい。

 余りにも容易く想像できる、死の未来。

 

「っ……!」

 

 目の前の盾に視線を向け……深々と地面に再び突き刺して。

瞬間『あえて』盾越しに競り合う敵に背を向ける。

 

 此方が隙を見せた、と判断し。盾の向こうで俄かに強まる圧力。怖気づきそうになる心を強く 咤し、膨らんだそれが弾けるよりも一歩早く――盾の裏に足をかけ。

そのまま、地面に突き立てたその盾を足場として、背後から襲い掛かろうとした敵に向けて。飛び出した。

 

 一気に距離を詰め、叩き切ろうとした相手の懐に先んじて飛び込んだ。次の一撃は何とか封じた。体の上下を入れ替え。爪先を向けて――

 

「――ええ動きしとるなぁ」

 

 目を見開いた。

 そのまま、伸ばされた足先が。相手の赤い仮面を深々と穿ち――仮面の割れる乾いた音と共に。その巨体の後ろから、ざしゅ、と。深く、濡れた音が聞こえてくる。

 地面に着地すると同時に。ぐらり、と。力なく鎧武者の身体が傾ぐ。膝を突き、そのまま地面へと倒れ伏す。その後ろから現れた小柄な姿に、思わず目を見開く。

 

「貴方は……」

「後ろ」

 

 そう言われ、咄嗟に背後を振り返ると、身を伏せる。

 盾を乗り越え、此方へととびかかって来る黒い巨体。その足元へと、地面を滑る様に潜り込んで、奥へと抜けた。

 その先には、自分の盾。足場として崩れない様にと、地面に深々と突き立てたそれを僅かに踏ん張りながら引き抜いた。

 

 そのほんの少しの間にも。

 既にその黒い巨体は、此方との距離を詰めている――でも、一歩遅い。

 

「やぁっ!!」

 

 抜き放ったその勢いを乗せて――盾の曲面をハンマーの様に、思いっきり叩きつける。

 先ほどとは違い、万全の態勢、渾身の一撃。今度は、拮抗しない。相手の身体を大きく背後へと吹き飛ばす。感じた手応えは、砕ける刃と、ひしゃげる鎧のソレ。

 

 間違いなく、クリーンヒット。

 

「音も……悪ないわぁ」

 

 どしゃり、と。重たい音を立て、巨体が地に転がる。

 その死体を――まるで、玩具でも払いのける様に。細身で、しなやかな脚が彼方へと蹴っ飛ばし。起き上がろうとしていた最後の一体に直撃させる。

 そのまま縺れて倒れ込み。そのまま、黒武者がピクリとも動かなくなった。

 

 ……適当に蹴っ飛ばした敵の死体で、相手を討ち果せる人外の膂力。顔を上げれば。果たして、その頭の『紅い角』が目に入る。

 

「……酒呑童子さん」

「はぁい。元気そうやねぇ」

 

 此方を見つめながら。彼女は、優しく微笑む。

 日が落ち切る、その直前。逢魔が時の闇の中で。

 




バトル描写久しぶりで狂いそう……!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。