FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「あの、辛気臭いのは……今はおらんみたいやねぇ」
「はい。あの、助けて頂いて、ありがとうございました」
「ええよ。そないにかしこまらなくても……それに。別に、うちがなんもせんでも、よろしゅうやれてたんちゃう?」
そう言って、微笑む酒呑童子。
「……ですけど、酒吞童子さんが居てくれたおかげで、とても助かったのは事実です」
そんな彼女に、改めて『ありがとうございます』一礼。そもそも、自分としてはエドモンが戻ってくるまで耐えきるつもりだったのだから……追って来た敵を全員制圧するまで行ったのは、彼女が手を貸してくれたおかげに他ならない。だから、と。
一瞬、酒呑童子は目を見開いてから。何処か詰まらなさそうにため息を一つ。
……何か、可笑しなことを言ってしまっただろうか。そう思って咄嗟に謝罪の言葉を口にしようとして。それよりも先に、僅かに開いた唇から、ぽつりと声が漏れた。
「んー……やっぱ、おきれいすぎるのも、考えもんやねぇ」
その言葉に首を傾げれば、酒呑童子はぱたぱたと手を振って見せた。
「あぁごめんねぇ。こっちの話。それより、どない? あの娘、見つかったん?」
「あ、えっと……いいえ。今の所は見つかっていないのですが。どうしてその事を」
「えぇ? 二人してお山の中、えっちらおっちらしとるさかい……気になってねぇ。後を尾けてたんよ。『草』の真似事も、それなりにはやれるもんやねぇ」
……思わず、顔が『しょも……』となってしまった。
それはつまり、こっちを見つけて声をかけずにこっそりと尾行して。何をしているのかもちゃっかり盗み聞きした上で。多分だが『楽しいから』という事で傍観していた、という事だろうか。
正しく『鬼』の所業であった。本当に鬼だが。
とはいえ、こういう感じの為人である事は、多少は分かっていた。そんな彼女の力を貸して貰っているのだから、非常に困るけれども……まぁ、しょうがない。
後は……一応、聞くだけ聞かなければならないだろう。
「……あの、それで、なのですが」
「あぁ、うちは知らんよ? 見かけた、とかもあらへんなぁ」
……なんとなく、そんな返事が返ってくる気がしていた。
彼女は、此方の一挙一動を見て楽しんだりはしたとしても。無駄な隠し事をして、味方が右往左往するのををあざ笑う様なタイプではない、とは思っていたから。知ってたなら話してくれているだろう、と。
「うちはそもそも――こうやって『離れる』のが目的やさかい。それ以外はぼーっとしとっただけやしねぇ」
――とはいえ、だ。
あくまで『無駄な』隠し事をしないだけで。その行動に関しては、未だに分からない部分も確かにあった。それ故に。彼女が零したその一言を、マシュは聞き逃さなかった。
視線を上げる。酒呑童子は、『あら大変、言っちゃった』とでも言いたげに目を丸くしている――何処かわざとらしい仕草。目と目が合えば、彼女は……『愉しげ』な笑みを浮かべ、此方を見つめ返す。
「離れる、というのは……康友さん、からですか?」
「――せやねぇ」
特異点で再開した時から、酒呑童子は一貫して自らのマスターを気にして……気にしているとは、違うかもしれないが。その行動指針にある程度は本造院康友が関わっている事は間違いない。
……彼と、彼女の共通点と言えば、やはりその角――鬼としての血だ。
ここまで、彼の家、先祖、そしてそもそもこの村の成り立ち自体にも、その『鬼』という存在が関わってきているのだから。目の前の彼女がそうして離れている事に、何の意味も無いと考える方が、可笑しい。
今、彼は近くに居ない。何か聞くのであれば、このタイミングだ。
「それは……遠くに居る事が大切、なんでしょうか。それとも……彼の近くに居ない事が大切なんでしょうか」
「――うふふふ」
……その問いに。やはり愉しそうに。そしてどこか、曖昧に。笑ってみせて。
「それ、何が違うん?」
「――はい。前者は『どちらとも取れます』が……後者は、可能性が絞られてきます」
即ちは。本造院康友という少年の周辺――または、彼自身に『何か』がある、というそれに。そしてその中でも最も訝しい部分は、彼ら彼女らを繋ぐ要素でもある。
もし。彼女の言葉が後者の意味であるならば。享楽主義的の酒呑童子ですら『距離を置く』という選択肢を取る理由が、そこにある筈だ。
「後者であるのなら……酒呑童子さんが、康友さんの傍にいる事が。何かを引き起こしかねない、とも。取れます」
「……ふぅん」
自分達は、そもそも敵がここで何をさせようとしているのか、その入り口にも辿り着いていない。それを調べようとしている最中だ。聖杯の行方も、特異点を解決する方法もはるか遠くにぼんやり見えるかどうかである。
正直な話。じりじりと一つ一つ、分かった事を積み上げて、にじり寄っている感覚は確かにあるのだけれど……それ以上に、目標ははるか遠くにあって。
彼女の知っている事――もしかすれば、知覚すらしていない、予感の様な何かなのかもしれない。そんな何かが、今は欲しかったのだ。人ならざる何者かの、その予兆染みた感覚が。大きく、理外から踏み出す一手が。
「……うちと『アレ』は、ちゃうもんや」
「えっ」
――ところが。
いきなり酒呑童子が口にしたのは。そんなマシュの予想を裏切る言葉だった。
「せやけど――それでも、どないしてもうちに惹かれてまうみたいやねぇ」
「惹かれてる……?」
「どないになっても、人を『のろう』事をやめられへんから……ほんま。そこかしこに跡つけてしもて、ねぇ。楽しそうやないの」
酒呑童子は、くつくつと笑う。目の前の彼女の言っている『アレ』というのは……康友の内にある『鬼の力』、なのだろうか。しかし……まるで、彼女の口ぶりは。その力そのものに、なんらかの意思が宿っているかのような言い回しにも聞こえる。
「うちが傍に居れば、起こしやすくなってまう。ずぅっと、抑え込んで来たのにねぇ」
――違和感。とっさに、自ら口を挟んだ。
「待ってください……酒呑童子さんがカルデアに来る『前』から、康友さんは特異な能力を発揮していました――そう言う事ではないと?」
「ちゃうねぇ。そこは同じ『枕』や。せやけど、中身が小豆か、そば殻か……そこでおっきな違いはあるやろ?」
……
特別であるという理由が、自分達が『思っていた方向』に無いのであれば。彼らが村の中で英雄の如く振舞う理由も、そこに在ったのであれば――自らを律する為の『枷』であったのであれば――源泉を考えればあり得ない可能性ではなかった。
そして……村の人達が、こうまで念入りに『隠す』理由も。もしかしたら、そこに。
今まで、バラバラだった要素が、一つの線となって、マシュの頭の中で一枚の絵に変わっていく。しかし、まだ確証には至らない。
「エドモンさんは……っ」
「――ええよ。うちが送っといてあげるさかい」
自分の葛藤を見抜いたかのような一言。
一瞬、互いの視線が交差する。にやり、と。彼女は笑って見せた。
「――お願いしますっ!」
それなら。大丈夫。
彼女に背を向けて、急いで山道を駆け降りる。自分の頭に浮かんでいるこの想像を確かめるのなら――あの村の各所を、此方とカルデア側の皆と情報を共有して、改めて調べ直す必要があるだろう。
……だが、もしこの想像が正しいとするならば。
きゅっと口の端を噛みしめる。
「……私たちは、この村の、『傷』を……」
「……なーんや、調子狂うわぁ。小僧ともちゃう。なんやろ、アレ」
「ま、丁度ええし。迎えに行く序に――向こうさんの顔でも拝みに行こか。ふふふっ」
「うちも、そろそろ退屈やったさかいねぇ。えぇっと……あぁ、向こうやね。この焦げた様な匂い、ほんま分かりやすくて助かるわぁ」
伝えたいことをキチンと書けて居るか不安なこの頃。もっと精進してぇなぁ……