FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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ただいま(小声)


断章・内:惨状

「――」

「これは、一体……」

 

 見慣れてはいる筈なのに、まるでこのお屋敷は同じ『モノ』と思えない。そんな中で出会ったその少年は……『見慣れてはいない』筈なのに、彼女の脳裏に浮かぶ彼と確かに重なるのだ。

 

 ……本造院康友。

自分の知る彼の、幼い頃の姿――の筈だ。ありえない状況の連続で、どうにも思考がはっきりと定まらない。だからなのか、自分でも断定するだけの自信が無いけれど。

 しかし、どうしてこの奇妙な空間に……彼が?

 

「……どうしたの?」

「えっ?」

 

 疑問と共に思わず、その顔をじっと見つめ……不意に、問いを返された。小首を傾げる彼に答えようとして。しかし、そこで回答を持ち合わせていない事に気づいた。自分もいきなりこんな所に来てしまって、訳も分からず屋敷の中を彷徨っていたのだから。

 

「『ここ』から出たいの?」

「え……えっと、はい。その、急に、迷い込んでしまって……」

 

 どうすれば良いのか、と口ごもっている間に再び少年に尋ねられて。思わず頷いてしまった。そうすると、少年は此方へとすっと掌を伸ばして来た。

 

「案内する。一緒に来て」

「あ、はいっ」

 

 その手を、恐る恐る手で取る。そうすると……少年はにっこりと此方へと笑いかけてくれる。その顔が、やっぱり自分の知っている少年の顔と重なって。

この異様な雰囲気の屋敷に来てから初めて。とても穏やかな気持ちが胸の中を満たしていくのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

「ここ、俺の家なんだー」

「そうなんですか」

 

 知っている。自分も、此処で何度も遊んだ事がある。雰囲気は大分、というか完全に別物になってしまっているのだが。そんな中を……彼は当たり前の様に普通に歩いているのだから、彼も『普通の存在』でない事は、いい加減に察しも付いた。

 そもそも、ここに来たこと自体が超常の出来事なのだ。そこに居る少年が、凡そ真面な訳が無いというのは至極簡潔な結論だ。

 

 ……だが、掌で感じる、この温もりは。彼女に、目の前の少年が『悪いモノ』ではないと信じさせるには十分なモノで。先に行く彼の屈託のない笑顔に、思わず頬を緩ませて笑みを返してしまった。

 

「それで姉ちゃんは……えっと、なんて言うの?」

「あ、私は――」

 

 そのまま……自分の名を口にしようとして。寸での所で言葉を止めた。

 なんだか、子供の頃の彼に、この頃の自分の成長した姿が……という事を知られてしまうのが、なんだか急に、物凄い恥ずかしくなってきたのである。いや、特に何か理由がある訳でもないのだけれど。なんとなく、だ。

今のこの格好も別にしたくてしている訳ではないし……別に変な恰好、とかは思っていない。美しいドレスではあると思うけども。身体のラインを見せ付ける様な……うん、やっぱり偽名で行こう、と決めた。

 

「えっと……し、『式部』と言います」

「へー、式部姉ちゃんか」

 

 ……でも咄嗟にそんな偽名を考えるなんて事も出来なくて。頭に想い浮かんだのは、自分の蔵にも置いてある様な、日本一有名な『作家』の一人の名前であった。

 なんとなく好き……ではないのだが。気になるのだ。目につくのだ。どうしてか。読んでいると『ん゛~~~』と唸り声上げて、なんだか憂鬱な気分になる。だってあれ、外面綺麗な言葉で綴られている様に見えるが、内実殆ど『夢小説』である。昔の人を尊敬するよりも共感性羞恥が勝る。

 

 ……共感という事は、と。深堀はしないで欲しい。

 という事で、頭に浮かんだ奇跡的なまでに『どうなんだろう』と思う様な偽名を名乗って見れば。少年は特段怪しむ様子も無く、素直に受け入れてくれた様であった。

 

「じゃあシキブねーちゃん、俺の手を離すなよ! 行くぞー!」

「は、はい。お願いします……」

 

 結果としてなんだか物凄い申し訳ない気持ちになった。純粋な子供をキチンと騙しているという最悪過ぎる事実を目の前に付きつけられて。とはいえ、今更『ごめんなさい本当は香子です』という訳にも行かず。取り敢えず『式部』で通すしかなかった。

 まぁ……大きなお屋敷とはいえ、そう遠くない道のりだ。多分ここから出るのであれば玄関を使うだろう、というありきたりな発想に寄ったものではあるけれども。

 

 もう直ぐ出られる、という期待が、少し思考を冷静にさせてくれた。周りの赤い異界を見回して……そう言えば一つ、疑問が浮かんでくる。

 

「……あの、えっと。ご家族は、いらっしゃらないのですか?」

「ん?」

 

 ここは、様子が違うと言えど……あのお屋敷であるのは間違いない。目の前に幼い本造院康友が居て、此処を自分の家だとはっきり言っているのだから。だというのに、あの明るい妹さんも、豪快なお婆さんも居ない。

 

 訪ねてみたのは、ただそれだけの理由だった。

 その問いに、彼は此方へと振り返って――此方を透き通った瞳で見つめてくる。

 

「――『もう』居ないよ?」

「え?」

 

 ……開いた口から紡ぎ出されたその言葉に耳を疑った。

 

「会いたいの?」

「は、え、あの……ちょ、ちょっと待ってください。居ないって……?」

「じゃあこっち。行こ」

 

 玄関に向けられていた足の行き先が、変わる。今の言葉を意味を問いただそうとしたけれど、口を開く前に彼に手を強く引かれてその機を失ってしまい……そのまま連れられ、入り口から離れた、屋敷の奥の方へと。

 

「……あら、此方は」

 

 そこで気が付いた。この先にあるのは確か……例の部屋だ。目の前の、幼い頃の彼が惨劇に巻き込まれた場所。今も大広間として使われている。あぁ、そうだ。そこの角を曲がれば直ぐに見えて来るであろう――

 

 ――ぱちゃ

 

「……え?」

 

 踏み出した脚が、何かを踏んだ。視線を下ろせば……自らの足の下に広がる水たまりが目に入った。誰かが水でも零したのか、と考えて――ふと、この世界の『色』に染まった水が何だか酷く、不吉なものに見えてしまって。僅かに、呻き声が漏れ出して。

 

 ……そこで、気が付いた。

まじまじと見れば、『それ』は水というには、些か、周りの赤よりも、濃く、深く、そして濁っている様な。鼻と、喉の奥に、嫌に、錆臭い匂いが、漂って来て――思わず、足元から広がる紅を目で追って行けば。

 

「――ひっ」

 

その先に――倒れ伏す『ヒトガタ』が目に入った。

この赤い流れは、そこより生じたものだ。それでは、これは。

 

「うっ……く」

 

 口を押える――『今はダメだ』、こんな状況で自分が吐けば、それだけ足を引っ張る結果となる、せめて安全な所にまで――いや、待て。落ち着け。

 自分で、自分の思考に疑問が浮かぶ。誰の足を引っ張るのだ。ここに居るのは、自分の他にはあの少年位しか居ないではないか。

 

 いや、違う……『彼』の傍には、もう二人――

 

「――シキブ姉ちゃん?」

「っ……」

 

 声をかけられて。俯けていた顔を上げる。

 此方を見つめる少年は、酷く気遣わしげな様子で此方を見つめている――しかし。

 

「大丈夫?」

 

それは、目の前の……『死体』におびえ、そこから生じた様には、とても見えない。自分の手を両手で包み込み、見上げくる彼は。あくまで、自分の様子を『心配』しているとしか思えなかった。

 

「あ……なた、こそ……?」

「……俺は、別に平気だよ」

 

 ちら、と。その視線が倒れた『誰か』に向けられる。

 その視線は……怯えではなく。ただただ、酷く澄んだ『哀しみ』に満たされていて。唇を引き結ぶその表情に――寧ろ、此方が僅かに怯えを抱いてしまう程。

 分かっている。彼は、目の前で起きている事を、しっかりを分かった上で。真正面から目を逸らさず受け止めている。

 

 彼は、こうなっている事を――『理解』している。

 

「……『――』のおっさん、ここに居たんだな」

「やす……とも、くん」

「行こう」

 

 呆然とするしかない。そんな自分の手を引いて、彼は再び歩き出す。

 やめて、と。そう言いたかった。いや、思いたかった。でも……この向こうから漂うここよりも更に『濃い』匂いを前にしてなお、それでも。どうしてか。

 自分は先の景色に向き合わなければならない、という想いが、僅かに背を押している。

 

 ぴちゃ、ぴちゃ、と。水音が響く――乞われた襖、地面に落ちている刃物、倒れ伏す人影を抜けて……そして。

 

「――あ……あぁぁぁあああああ……っ!?」

 

 ――そこへ、辿り着く。

 

 散らばっている砕けた器、まき散らされた、豪勢だった料理の成れの果て。そして……それらと混ざり合う血漿――それらを垂れ流す、無数の死体達。

 

 部屋の端まで這いずる様に逃げている者がいる。苦悶の表情を浮かべて中心で転がっている者がある。力なく折り重なっている者達がいる。

 

 皆、一様に歯をむき出して、顔を歪めて、赤に塗れて――そしてその多くが、自らの手に凶器を持って。

 

「っ……!」

 

 その中を、駆け抜ける。どうして、こんなものを見て、自分は気をやらずににいれるのだろうか。それが不思議だったけれど……それよりも、視線の先の『二人』の元へ。

 辿り着く。『見覚えのない』二人に抱えられた少女と……その傍らに倒れ伏す年老いた女性の元へ。知っている。知らない訳が無い。

 

「おばあさん……『――』さん……っ」

 

 それは――彼にとって、最後の。

 

「……どうして」

「――平気なんかじゃねぇよ。でも『どうしようもない』んだ。俺には」

 

 振り返らない。彼はまるで此方が何を言いたいのか、分かっているかのように口を開いてみせた――幼かったその声も、気が付けば酷く聞きなれたそれに変わっている。

 拳を握り締めて。湧き上がる怒りに任せて、口を開いた。

 

「ここは、何なんですか……私は、どうして、こんな所にっ……!」

「……夢で繋がるらしいぜ。『――』と『――』は。だからまぁ、それに巻き込まれたんだろうけど。丁度いい。アンタには……最初に見て欲しかったからな」

 

 その……酷く乾いて、それでいて、寂しげな声が。

 今だけは、とても、苛立たしく聞こえた。

 




今回の更新でラスト一歩手前まで行ければいい……かなぁ……?
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