FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「貴方は――誰、なんですか」
そう、先ずは問いかける。
「うーむ……『誰』か。さて、なんて言えば良いのかね。取り敢えずは、アンタの知らない何者か、とでも言えば――」
「そうでは、ありません」
「ん?」
恐らく。その本質は、変わっていない――そんな確証がある。先ほど、廊下に倒れていた人を見るその目は……酷く褪せて、沁みついて取れなくなった……そんな悲しみが確かに見えた。零れた言葉には、深い哀れみか滲んでいた。
この少年は、自分が知っている『彼』だ。それは間違いないだろう。
しかしながら、自分が『しっている』彼であるかは分からない。
「わ、私は……幼馴染として過ごして来た貴方しか、知らない、です。ですけど……貴方は、そんな彼とは、違う、気がするんです」
「ふぅん」
「きっと私の知りえる『貴方』なら……」
「この光景を前に……そんな乾いた反応は到底できない、か」
――まるで、此方の頭を覗いて言ったかのような一言だった。
笑える、と。彼は小さく呟いた。それは自分に対して言ったのか、と一瞬考えたがしかしながら。何処か消え入りそうなそれは、半ば偶然、聞こえてしまったようにも思えたのだ。だとすれば、それは彼自身に対しての……
「……ま、取り敢えずさ。向き合ってお話しねぇか? このまま、アンタの背中に語り掛け続けるってのも……なんか、な」
「話ですか……部屋の中の人達は?」
「残念ながら、これは俺の『記憶』の景色だ。どうしようもねぇ。アンタが感じた『血溜まり』の感触も、あくまでリアルな幻覚みたいなもんだよ」
見てみな、と言われ。恐る恐る、先程血だまりを踏んだ足裏を見て見れば……黒の仕立ての良い靴下には少しも汚れらしいものが付いていない。改めて、この空間が尋常のそれではない事を自覚させられる。
……最後に、せめてと思い目の前の少女の瞼へと掌を伸ばす。しかし、その身体はまるで放置された粘土のように、嫌に冷たくそして酷く硬い。どうしようもない、という言葉に嘘が無い事を確認させられて。改めて、ゆっくりと立ち上がる。
せめて、冥福を祈る為に小さく一礼をしてから、振り返り――
「――あぁ、久しぶりだ」
視線を合わせた自分に……知っている『彼』とは、随分と様子の違う青年は。
「貴女をちゃんと見れたのは」
くしゃっと顔を歪めながら、笑って見せた。
……今にも溢れてしまいそうな何かを。頑張って堪えるかのように。
「……あの、お聞きしていいですか?」
「っ……あぁ、ごめん……何かな。式部さん」
「その、その頭は、えっと。どうなされたのでしょうか」
「あ、えっと。うん。それはー……これからまた説明する、って事で。頼むわ」
……再び、彼の後を付いて歩く。惨劇の広がるあの部屋から――今度は、何処か明確な目的地がある訳ではない。取り敢えず、ここで話をするのは精神的に宜しくないだろうという彼の言葉に従って。
台所。食事処。お風呂場――色んな部屋をめぐって、彼が足を止めたのは。
「……ここは」
「式部さんが寝てた部屋――向こうじゃ客間、つーか空き室だったけど……元は、両親の部屋だったんだ」
俺と妹も、昔は同じ部屋だったっけか、と。『彼』は呟いた。
自分もそこで……一緒に遊んでいたのだろうか。分からない。自信が無い。
この場所に来てからというもの、どうにも記憶が曖昧だ。ここ数日の思い出があまりにも濃いというのもあるのだろうが、それ以外をあまり思い出せなくなってしまっている。
……違和感がある。いや、強くなっている。なぎこに言われた通り、どうして思い出せないのかを考えて、でも幼い頃の彼に出会って、何か少しでも思い出せるかと思ったのだけれども。そう言った気配がまるでない。
というよりも――何も、引っかからない。霞でも掴もうとしている様な気分になる。
「んじゃあ、ここで……って、あれ。んだよ、ここの扉も開かねぇのか」
胡乱な感覚に、頭の中を掻き回されながら。目の前の彼の言葉に顔を上げる。
普段の……いや、私の知っているその姿と違い、目の前の青年の頭頂部は綺麗に『禿げて』いる。後ろから差し込む明かりに照らされて光るそこには、物凄い存在感がある。
というか、普段の青々と茂る黒髪が違和感に見える程に、似合っているというか。鋭い目つきを良い感じに中和してくれているのだろうか。
……いや、遂に体重をかけてまで扉を開こうと奮闘している、青年のコミカルな姿が大分作用している気もする。
「ふぎぎぎっ……やっぱダメか。すまん。こりゃあ部屋の中は無理っぽい。悪いな、どうにも融通の利かねぇ記憶空間でよ」
「くすっ。いいえ、大丈夫ですよ」
「こうなると、縁側くらいかねぇ」
……結局どれだけ踏ん張っても扉が開く様子はなく。
此方に向けて頭を下げるそのしょぼんとした姿に、少し笑ってしまう。
「こんな真っ赤な中で風情も何も無いが……ま、我が家の自慢の庭でも見ながら、ちょっとゆっくり――えっと、してくれるかな?」
「えぇ。お付き合いさせて頂きます」
そのまま、揃って縁側へと腰を下ろす。
視界に移るもの、全てが赤に染まっている。僅かな濃淡だけが木々の形や庭の岩を浮き彫りにさせていて……辛うじて、自分が見慣れた庭である事を認識させてくれる。こんな赤い色の中では、見慣れた者でも落ち着きはしないけれど。
「「……」」
……いけない。黙ってしまう。別に、何か気まずい事があるのではないのだけれど。でも正直戸惑っている。隣の彼が自分の知っている男の子……なのが、余計にこの気分を増しているというか。不思議な気分だ。
「……あの、その……」
「あ、その……何かな」
「えっと……『康友君』、なんですよね。私の知っている彼とは、その……」
そう、言葉を選んで尋ねてみれば。
彼は此方を見つめ。繰り返し瞳を瞬かせて。それから……その目をほんの少しだけ伏せた。やっぱりそれは、先程と同じ様な、寂しそうな表情で。それを見て、言葉が詰まってしまう。
暫しの無言の時間の後……目の前の彼は、小さな声と共に頷いて見せた。
「そう、だな。アンタから見れば……そうだ。今はそう呼んでくれ」
「今は、って」
「こっから色々と見て貰う事になるから――その後の話だ」
そう言って、彼は徐に腕を上げ。真っすぐに庭の方を指し示して見せる。どうしたのだろう、と思って同じように顔を上げ、視線を向けた先――目を見開いた。
先ほどまで、何も居なかったその場所に、まるで滲みだす様に現れたその影達。小柄なその二人は……恐らくは、それぞれ男の子と女の子なのだろうか。
アレは、と一瞬疑問が思い浮かぶも……ふと隣の少年の事が思い浮かび。そして、その子に手を引かれている、という事は――それはきっと、その少年にとって親しい間柄である事は想像がついた。つまり……彼らは。
「……この庭は、俺達にとっちゃ楽しい遊び場だったよ。広いし、緑一杯で、なんか冒険してるって気分になれたしな」
「あれは……もしかして、康友君と」
「あぁ、妹だ。記憶の世界だしな。そういうのが浮かび上がってくるのさ」
……色々と見て貰う、というその意味が、そこでなんとなく分かった気が下。
隣の少年の顔を見る。ここが誰の記憶の世界なのか――今更問いかける必要もない様な気がした。その二つの影を見つめるその視線が、あんまりにも寂しげだったから。それこそ、まるで……あつらえたかように、その案内人に相応しい少年が、目の前に座っているのだから。
……互いに、見つめ合う。
「――本造院康友の、これまでの人生の鑑賞会だ。まぁ、楽しんでくれとは言わねぇ。どうせロクでもない景色ばっかりだしなぁ」
「わ、私に、ですか……? けれど」
「一緒に見て来た、かい?」
まるで、胸の内に浮かび上がってきたその疑問を見透かされたようで、ドキッとしてしまった。目を丸くする自分に向けて、彼はからからと笑いかけてくる。
「ま、そう言わずにさ。じっくり見てってよネタバラシは……ちゃんとやるからよ」
大変纏めるのに苦戦してます……