FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
ローマの皆さんもそうだが、マスター同士も親睦を深めるのは良いことだ。
そうおっしゃった藤丸様は、先ず当たり障りのない、マスターが何方の出身であるかという所から、お話を始めました。
「何処出身ねぇ……」
「うん」
「……山奥?」
「いやそういう凄い曖昧な答えじゃなくて」
「いや、実際そう言う答えしか出来んのよな。うん」
そんな藤丸様の話を受けて、マスターの答えは……曰く。分からない、との事でした。
分からない、というのは、本当に文字通りの意味のようで。自分のご実家が、一体何処にあるのか、マスター自身も本当に分からないそうです。
「……そんな事ある?」
「あるよ。マジでマジの山奥だったし、なんか近くに『何処の県だ』って分かるもんがあった訳でもないし。ビビる位田舎。スマホだって、実家から出て来てから初めて見たくらいだし」
藤丸様が目を丸くしておられます。
私が暮らしていた頃などは、そもそも日ノ本で、多くに知られている場所の方が少なかったですし。私に話しかけてくる殿方などは、何処かへと旅に出た時の見聞を手土産にやってくる事もありました。新たな知見を得ただけで、十分な宝物となり得た時代。
しかし、マスターの居る時代は……そうではありません。多くの情報が手軽に手に入る様になり、未知の地など、それこそ数える事すら出来るかどうか。
そんな中で、その様に外界から隔絶した……まるで『隠れ里』の様な場所があるなんて。当世に詳しくない私ですら驚いてしまいました。
「いやどんな僻地に住んでるのご家族!? ホントに日本!?」
「僻地、って。ちょっと言い方酷くない?」
「不便だとか思わなかったの?」
「んー……いや? 飯を食う分には問題とか無かったし。遊ぶ場所とか色々あったしなぁ。そこ迄では……ああいや、ああいう僻地故の迷信とかはうざったかったけど」
「め、迷信かぁ」
……マスターの家のそれは、迷信というよりも、因習と呼ぶべきものだと思うのですけれども……とはいえ。
確かに異様な言い伝えだとは思っていたのですが、しかしそこまで外界から切り離されているのであれば、ずっと伝えられていっているのも不思議ではないと申しますか。
――いいえ、寧ろそれを子々孫々にまで永遠に伝える為に、その様な閉鎖的な生き方をしていた、という事も……
「……考えすぎ、ですかね」
「しかし、お主……魔術師か何かだったのか?」
「……それ本物の魔術師に殺されると思うんですけど陛下」
「む、そうか? 余にとっては、いきなり額から稲妻の如き角を生やす輩は魔術師とそう変わらぬ程度に胡散臭いのだが」
「胡散臭いと思われてたんすか俺!? ひでぇ!?」
……ネロ陛下がおっしゃっていたのは、マスターの礼装によって運用される、鬼の力の事でしょう。
使ってみたマスター曰く『なんか頭バチバチする』だそうで。その後頭から角が生えてきて大層驚いた様子でした。本当に生えるんだな、と。それは私のセリフだと言いたかったですが、我慢しました。それくらい綺麗に生えてました。
藤丸様などは『カッコいいね!』と言ってらして。マシュ様には『なんだか綺麗です』と言われ、少し照れてらっしゃいました。
「しかし、余にとってはその程度の胡散臭さなど大したことではない。どんな者でも受け入れるのがローマの懐の深さである」
「――ま、元敵のアタシだって受け入れるんだしね。そりゃあ広い、広ぉいでしょうよ」
そして、そんなマシュ様を可愛がっているお人――ブーディカ様にそう言われ、ネロ陛下は若干、お顔を顰めてらっしゃいました。
「……」
「安心しなよ。嫌味で言ってる訳じゃない」
「う、うむ……分かっている」
先ほどお会いになられたスパルタクス様もそうですが、ブーディカ様も時の為政者……特に彼女は、ローマに抵抗されていた方です。そんな方々を客将として引き入れて居られるネロ陛下の人材コレクターぶりは凄まじいモノが在ります。
……彼らが、既に死している者。英霊、サーヴァントと呼ばれる存在である事は一切知らなかった模様ですけれども。
「でも角が生えるって、なんか凄いね。今時の子ってそんな事出来るの?」
「あー……まぁ一発芸みたいなもんだし、あんま気にしないで貰えると」
「どんな一発芸?」
とはいえ。
ネロ陛下の人柄を考えれば、例えサーヴァントだとしてもあまり気にしていなかったと思われます。だからこそ、元敵のブーディカ様を、こうして信頼できる戦線に送っているのだと思いますし。
「まぁでも、それが無くてもさっきのコンビネーションを見てれば十分戦力になるのは分かったからそれは良いけど」
「お、やったぞ式部さん、褒められた!」
「はい。良かったです」
……一方のブーディカ様は、ネロ様への確執をわすれている、という訳では無く。単に我々の敵、歴代皇帝たちが連合という形を取ったもう一つのローマ帝国が気に入らないのだそうで。
『ローマ相手に恨みを晴らしている』のは、基本的に変わらないのだそうですが、ああしてマスターと朗らかに話す彼女からは、そんな暗い感情は、少しも感じられません。
「うーん素直! こんな良い子ばっかりだったら、世の中苦しい事もないんだけどね」
「いやいやそんな……言うてそんな良い子でも無いですし」
「何言ってんの。君達は、こうやって知らない時代で、慣れない戦場に必死に立ち向かってる。それだけで、とても頑張ってる……それでも文句ひとつ言わないんだから」
「……あ~」
ブーディカ様はそう言ってマスターの頭をぐりぐりと撫でまわして居ます。つるつるとした頭を撫でまわされて、マスターはグラグラと揺れています。
困ったような顔をされているのが、ちょっとおかしいと申しますか。
「良い子良い子、ってね」
「それに関して言えば、まぁ俺ら以外居ないんだからしゃーないって言うのもあるし。まぁ良い子ちゃん、って言いきれる訳でも」
「ハイハイ言い訳は良いから。素直に褒められてなさい」
「あー首がゴキゴキ鳴るぅ~~~」
……しばしの間撫でまわされてから解放されたマスターは、『目が回った』と言いながら地面に寝っ転がってしまいました。適当な所で止めるべきだったでしょうか、と思いながら取り敢えず、傍に付いている事にしました。
マスターは寝っ転がったまま、マシュ様を猫かわいがりするブーディカ様を見てます。
「楽しそうでしたね」
「ブーディカさんね。いやー、ああいうなんていうか、気持ちのいい女傑、って言う感じの人。嫌いじゃないよ」
「えぇ……」
「俺の母さんが、ああいう人だったなぁ」
……そう言ったマスターの目は、とても懐かしい物を見るような、そんな光を湛えています。
「お母さまが」
「うん……俺の家って、田舎も田舎だって、前に藤丸に言ったじゃない」
「はい」
「母さんは、そんな事を全然気にしない人だったし……遠くから買い出ししてくるのも文句一つ言った事なんて無かった」
家から町までは、最短になるように特定の道を辿って、それでも一時間どころか二時間以上も余裕でかかる……自分は、そんな所にどうして住んでいるんだろうと、不満を漏らす事が多かった、とマスターは話します。
「そんな俺に、母さんは何時もちゃんとお説教をしてくれた。適当に流すんじゃなくて」
「……ちゃんと、マスターに向き合ってくださったのですね」
「不満たらたらのガキの文句なんか、適当に流しても良かっただろうに。一回一回しっかりとなぁ。愛されてたと思うよ。うん」
ブーディカ様とどこか似ているのだそうで。あの様に、気風の良い、堂々とした話し方など、本当にそっくりなのだそうです。
「……その頃の俺は、良い子なんかじゃなかった」
「そう、ですか」
「うん……その頃の事、思い出しちゃって。今はお説教してもらう事も、もうない。だから何か。誤魔化すのも、嫌で。まぁ」
……そこまで言って。マスターは黙り込んでしまいました。
その先を促す事はしませんでした。それを聞かせて欲しい、等というのは。些か以上に野暮で……そして、酷であると思ってしまったので。私は。
「……頑張りましょうね、マスター」
ただ、そう還す事にしたのです。
難産ってこういう事を言うんですねぇ!!!!!(疲労困憊)