FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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断章:月明かりの元で

「――」

 

 満月。

 

 月明かりの降り注ぐ縁側を、青年は静かに踏み締めて――ふと、足取りが止まった。

自らの足元に、深い影を作り出した存在を見上げながら、彼はその黒髪をがしがしと掻き回す。遠くの空を見つめたまま、暫し足先で木目をなぞり……よし、とだけ呟いて再び歩き出した。

 

 また暫し、歩いた後。再び足が止まる。今度は、月ではなく、目の前で縁側に座る、少女に目を向けて。

 

「……よう」

「おう、兄貴」

 

 二人は、互いに向けてひょいと片手を挙げ。それから、兄と呼ばれた青年の方が、先に座っていた少女の隣へと、腰を下ろした。

 

「どうだ。香子さんは……って、今更か」

「ん。全く起きないっすわ。アタシちゃんがしでかした事ながら、コレ不安になって来たわね~……ちゃんと起きんのかな、かおるっち」

「おいコラ。そこはちゃんと断定してくれ不安になるから」

 

 訝し気な『兄』に、『妹』はケラケラと笑って見せる。冗談、大丈夫だよ、と口にする少女に、青年は何処か呆れたように特大のため息を吐いて見せた。嘘を吐いていない様には見えるが、なんでか心配が勝ってしまう――何処か困ったようなその笑顔からは、そんな内心が透けて見えている様。

 

 ……暫し、無言の時間が流れる。

 再び口を開いたのは、兄の方だった。

 

「……なぁ、今更なんだけどよ」

「ん~?」

「どう思った? 俺が兄ってさ。ぶっちゃけ言うと全然似てないじゃん、ね」

「え、無茶じゃねって思ったけど全然。マンボちゃん頭いいけど頭悪いんだよな~」

 

 再び、空白。けれど、直後に『ブフッ』と兄の方が我慢しきれず噴き出した。此方を見つめる綺麗な真顔に耐え切れなかったようで。再びチラッと見つめた先の、最早美しいまでの真顔に再び口元に大爆発が巻き起こった。

暫く静かな夜を破壊する事の無い様に、必死になって続く爆笑が漏れない様に、と思って必死になって口を引き結び。隣からは『してやったり』と言わんばかりの引き笑いが漏れ出して来ている。

 

 二人の笑い声が、暫し月光の元に響き渡り……

 

「……っ……はぁ。良かったよ」

「ん?」

「最後まで、お前と『喧嘩』する事にならなくてさ。ホントに」

 

 ――その言葉が、互いの笑い声を静かに止めた。

 

「んー……意外だったかも」

「何がさ」

「だって、兄貴の大切な人の居場所に、勝手に座っちゃった訳じゃん?」

 

 徐に『妹』の視線が、自らの胸元へと降りていく。それは、自らの身体を……というよりももっと別の何かを見ている様で。

 

「そんな事されたらさ、アタシちゃんだったら――ガチで『絶ッ殺』って感じだし?」

 

 ……薄暗がりに、静かに言葉が零れる。底冷えする様な鋭い殺意が、そこには込められていた。ちらりと『兄』が『妹』を見れば。ただ静かに、彼女は空の月を眺めていたけれど、その目に宿る光は、巌に連なる氷柱の如く、冷ややかで、鋭くて。

 同じように、再び夜空の望月に目を向け――ほんの暫しの時を置いてから。『兄』はその言葉に応えるように、そうだなと呟いた。

 

「思う所が無い、訳じゃなかったよ」

「……んー、やっぱり?」

「うん……でもさぁ」

 

 ……それでも。

 

遠くを見つめる彼の顔に浮かんだ表情は。

抑えきれぬ激しい怒りや、煮えたぎる様な大きな憎しみの『其れ』ではなくて。降り注ぐ月光の如く……酷く穏やかで。それでいて優しい、そんな――笑顔で。

 

「俺達も、なんだ……ちゃんと『兄妹』だったじゃん」

 

 少し、照れ臭そうに。そう『兄』は、『妹』に向けて口にした。

 

 ……ぱちくり、と。若草色の瞳が、瞬く。

目をまん丸にして見つめてくる『妹』から、『兄』はその顔をそっと逸らした。

だからだよ、と。照れ隠しでもするような、そのぶっきらぼうな言い方。月の光で耳元まで真っ赤になっているのは丸わかりで。その内に、くすくすと可愛らしい笑い声が再び聞こえて来る。

 

「へへっ……へへへっ♪ 照れながら言ってんじゃねぇよ~兄貴ィ~♪」

「るっせ。慣れてねぇんだよ、こういうのは……」

 

 ぐりぐり、肘でわき腹を突く『妹』。余計に顔を赤くしてそっぽを向く『兄』。その態度が面白かったのか、ツインテールを揺らしながら、彼女は実に機嫌良さそうに『うりうり~♪』と隙だらけのわき腹を、肘で小突き続ける。

 

 突かれ、逃げて、捕まって、こんがらがって。

 反撃して、擽って、蹴飛ばされて、転がって。

 そうして最後には……再び『兄』と『妹』として、縁側に並んだ。

 

「――わははっ! そっかそっか! なぎこさんは、兄貴の妹か!」

「そうだよ。んで、俺はお前の兄貴だ。今は、それ以外なんでもねぇよ」

 

 ……そんな『当たり前』の事を、二人はただ確認して。

それだけでも、楽しそうに二人は、からからと笑った。

 

「っはぁ……ん。ねぇ、兄貴」

「ん?」

「――ありがとな!」

「……ん」

 

 ……再び。静寂。

 

ただ、二人は黙って月を見上げる。小柄な影が、ぱたぱたと脚をぶらつかせ。もう片方が、眠そうに欠伸を一つ。不意に、後ろを振り返ったのは――『兄』の方。

そこには、未だに目を覚まさない女性が……深い『夢』を見ている。

 

「……任せていいんだよな」

「うん。大丈夫。ちゃんと連れ戻す」

「なら安心だ。あ、でも無理すんじゃねぇぞ。荒事は無理なタイプだろ」

「お、ケンカか? アタシちゃん、これでも運動神経は悪くないぜい」

「良く言う。ま、そんだけ元気があるなら大丈夫か――うし」

 

 ゆっくりと、縁側から『兄』が腰を上げる。ぽんぽん、と尻の辺りを叩いてから、上げた顔は――実に、晴れやかな表情をしていた。

 ちら、と。『妹』がその顔を見る。

 

「……婆ちゃんとは?」

「話した。ま、俺が予想出来てた程度の事しか分からなかったけど」

「今更だけどさ。マジでパワフルだよね、婆ちゃん」

「あぁ。こっちが呆れる位にはな……一応人間なんだから大人しくしてろってのに」

 

呆れ交じりに『まだ薙刀の刃、研いでるぜ』と零せば。見上げるその瞳が、分かり易く引き攣った。二人して……暗がりで、念入りに刃を研ぐ老婆の姿を思い出し、または想像し、顔が青ざめていく。

 この話はやめよう、と言ったのは、何方だっただろうか。

 

 話題の老婆の自室がある方へと目をやったのは、『妹』の方。しばし、其方を見つめてから……再び、『兄』と目を合わせた。

 

「――あたしちゃんは、マジで行かなくていいの?」

 

 ……ぽつり、と。

小さな雨の、たった一滴の様に。その次の言葉は、あまりにも静かなもので。

 

「元々、そう言う役割で来たんだし、向こうに怪しまれない様に……」

「いいよ。俺が自分で話さないと、意味ないし」

「っ……でも、さぁ」

「それに、明日はどうしたって戦力を向こうに割かざるを得ない……香子さんが襲われたら、そっちの方が事だ」

 

 その言葉に。『兄』は改めて、背後を振り返って、そう答えた。

 

「信じてる。だから……預けたぞ」

 

 ……再び、視線が絡む――何か言おうとして、何も言えない――互いの間に静かに、ため息が漏れ出た。呆れ半分、そして何処か……嬉しそうな。そんな。

 次いで。彼女もまた『兄』の隣へと並び、立つ。

 どんと胸を叩いて、にかっと笑って見せた。

 

「……しゃーねーな! 任された!」

「おう。任せた。頼むぜ、なぎこ」

 

 ――背を向けて『兄』が歩き出す。

 

 心なしか……その足取りは、やって来た時より、少し重い。二人共、それを分かっていて。それでも、それ以上の言葉は交わさなかった。『妹』は、黙って彼の背を見送った。

 そうして、残された彼女は、再び縁側に腰掛け、膝を抱える様に座り直してから……ふ、と。その口元を綻ばせた。

 

 がんばれ、と。誰にも聞こえない位に、小さな声で。エールの言葉を送ってから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明日で全てが終わる。

 この舞台も。仮初の関係も――『彼』にとって夢のような優しい時間も。

 

 長い、長い時を経て……決して逃れ得ぬ『断罪の時間』がやってくる。

 




伏線回収……出来ると良いな……(震え声)
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