FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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断章:封じられていた物

『――良し、こっちの準備は完了した!』

『観測、通信、全て良好! 其方はどうだい、藤丸君』

 

 ――礼装の調子を確かめる。問題なし。

 

 四肢にも違和感なし。意識もはっきりとして澄んでいて、変な眠気も無し。睡眠をしっかりと取って、体調は万全だった。何が起きても完璧に対応できると思う。

 隣で、マシュが盾の持ち手を握り直してから、此方に向けて頷いてくれた。リリィの方に目を向ければ、深呼吸を一つしてから、ガッツポーズを一つ。

 

 しかし、完璧――とは言えない。近くに、黒いポークハットを被った男の姿はない。結局、彼は夜が更けても尚、戻っては来なかったけど……それでも、なんとなくだが『まだ仕事をしている』という予感があった。

 だから……不安はない。

 

「――大丈夫です!」

 

だから。ロマニからの問いに対して、真正面から――通信越しに真正面というのも変だけど――しっかりと答えた。

 

『良い返事だ! よし、行こう!』

『うーん。これからやる事が墓暴きじゃなければ文句なしだったんだけどねぇ』

『いやレオナルド……君、それを言っちゃダメだろ……っ!』

 

 ……若干意気軒高とはいかなかったけれど。まぁ、取り敢えず。準備は完了した。何かが起きても、大丈夫だとは思う――とはいえ、これは何処まで行ったとしても『状況が大きく動く』切っ掛けに過ぎない。

 

 鬼門は、この後だ。

 この村に伝わる『鬼の血』について暴く事で、今度は敵方がどう動くのか。そもそも相手が、どうしてそこを暴かせようとしたのか、それすらも分かってない。カルデアの戦力は揃っていない状況下でもある。

 

 最初から、不利に不利を重ね続けている状況。カルデアとの通信が回復したのが唯一の大きな好転と言ってもいい。

 

『――それでも、ここで二の足は踏んでいられない』

 

 ……それでも、ロマニの言葉に、自分は躊躇わず頷いた。

 

『罠である可能性は高い。というか、十中八九トラップだよね』

『正直、こんな無茶な命令、したくはないけれど……でも、そこを食い破らないと、どっちみち、僕達に明日は無い』

「……はい。私たちは、一度負ければそれまで、ですから」

 

 リリィの言葉通り――なんなら、自分達は今、自分達の勝ち筋すら見つけていない。このまま行ったら『負け』が確定している。この箱庭に囚われ、向こうの目論見や仕掛けは幾つか打開できているものの……脱出の切っ掛けすら、満足につかめていない。

ここから抜け出す為の何かを掴むには、踏み込まなければならない。向こうの用意した、この道筋のさらに奥へ。

 

『……確かめて来て欲しい。敵側が手招く、この村の『奥深く』を』

「――了解しました!」

「マスター・藤丸、及びサーヴァント、マシュ・キリエライト、アルトリア・リリィ、計三名、調査任務を開始します!」

 

 

 

 

 

 

 ……と言っても、まずやる事は墓暴きで、穴掘りな訳だけど。

 

「ホントに良いのかい?」

「はい。この中で最も膂力があるのは、サーヴァントの私ですから――」

 

 そう言って、マシュはお婆さんに頷いて見せる。勿論、此処を掘り返した途端に下からゴーストタイプのエネミーが出て来ても可笑しくは無いので、その対応が出来る様にと彼女に前に出てもらっている、というのもあるが。

 ……因みに似たような事をさっき言って、マシュにやんわり諭されたのは内緒だ。だって可愛い後輩が一人で掘ってる所見てるだけって言うのは、ちょっとアレだし。

 

 兎も角。周辺警戒をリリィにお願いし、万が一掘り当てた穴からとんでもないものが出てきた場合はマシュの盾に防いで貰う――確認の為に、お婆さんと康友が同席し、未だに目の覚めない香子さんになぎこさんが付いているので……今ここに居るのは、自分を含め五人になる予定。

 

 誰も欠けている人がいない事を再確認し……『始めます』という声と共に、シャベルの先端が深々と土に突き立った。

 

 流石、怪物相手でも力負けしないマシュのパワフルな事。他に比べ、確かに少し締まっていない様に見える地面相手とはいえ、それでも常人なら一時間以上はかかるであろう重労働を、汗一つもかかずにものの十数分で進め、そして――

 

「よいしょっ……」

 

 ――カツン

 

「――あっ……マスター」

 

 少し低くなった穴の底から、マシュが此方を振り返る。

 チラリと、今度は自分が背後に目を向ければ。お婆さんが静かに頷いて。康友は……ただ、黙って穴の方を見つめている。構わない、やってくれ――恐らくは、此方への無言のメッセージ。

 

 ……マシュに向けて、一つ頷いて見せる。マシュは、ゆっくりとその手に持ったシャベルを穴の縁へと立て掛け。その手で、地面の土をかき分けていって――

 

「――え?」

 

 漏れ出る様な、困惑の声。咄嗟に、穴の傍へと駆け寄ってしまいそうになるのを、何とか堪えて。マシュに向けて、どうしたの、と声をかけた。

 が、反応が無い。何か異変が起きているようにも見えない――ロマニに確認を取ってから、改めて、マシュの元へと歩み寄った。

 

 マシュは……穴の中で、何かを手にしたまま、佇んていて。自分がやって来た事に気が付くと、此方へと手に持った物を掲げて見せる。

 

「マスター、これは……」

 

 ――それは、箱だった。

 

 大きさとしては……凡そ『文箱』が適切だろうか。過度な装飾も無い木箱。恐らく、腐食対策が万全にされていたのだろう、土の中に埋められていたというのに、大きな損壊などはあまり見られない。

 

 ……状況的に、恐らくはこれが――康友の祖父が、此処へ隠していた、という。

 

「でも……どうして?」

 

 お婆さんの話が本当なら……『これ』が出て来る前に、ご両親の死骸が出て来るはずだったが、しかし……女性の両手でひょいと持ち上げられるような大きさだ。これに遺体を詰められる訳もなく。

取り敢えず、マシュの手から、その箱を受け取って――そこで、ふと気が付く。

 

 穴の底、マシュの足元。そこのある一点だけ、周りの土と色が違う。

 

「――あ」

 

 思わず、声を出して指差してしまった。文箱を退かした下から現れた、『白い何か』。細い枝の様な物が、計五本。

 此方の声に、マシュは指差す先を追って足元に視線を向け……瞬間、目を見開いて。それから何かを堪える様にぎゅっと口元を引き結んだ。

 

其れは恐らく――いや、間違いなく人骨だ。

恐らく、ご両親の何方かの物だろう。掘り返した時の衝撃等で、変に傷ついては居ない様に見える。今更ながら良かった、と思ったけれど……

 

「……あ、れ?」

 

 ――そこで、気が付いた。

 

 土から出た指先は……関節までが、短い。そして、大人の骨にしては。その手は、妙に細い――強烈な違和感が、ゾッとした感覚となって背筋を駆け抜ける。

 次いで。マシュの身体が、びくっと跳ね。そして……通信機から聞こえて来るドクターの声も、少し震えている。

 

『――いや、いやいやいや……ちょっと、ちょっと待ってくれ』

「ドクター、この、この骨って……?」

『成人した人の物じゃない、子供だ……『子供の骨』だよ!?』

 

 ――しん、と。周囲に沈黙が下りる。

 

「ど……どう言う事なんです……!? だって、子供の骨って……!?」

 

 リリィの悲鳴のような声が、辺りに響き渡った。

口元から溢れる吐息が、酷く冷たく感じる。此方を見上げるマシュの瞳が、動揺に揺れている――だって、この骨が誰のものか、という思考が出た時点で。自分の中で、あっけない位に『その結論』は出てしまった。

 

消去法だ。香子さんは、そもサーヴァントであり、この村の住人じゃない。そして康友は……自分達とずっと旅を続けてきた。元から『死人』ならとっくに分かっていても可笑しくはない。

という事は……あと一人。この村の住人で、十年前に子供だったのは――

 

「マスター……まさか、まさか、こ……この、子供の、骨は……っ!」

「なんで、なんで……だって、なぎこさんはっ……!?」

「――間違いないよ」

 

 その時。

 

 酷く……場違いな位に落ち着いた、そんな声が聞こえてきた。

 咄嗟に背後を振り返る――此方を見つめる康友は、此方をまっすぐに見つめている。取り乱す様な様子も無い。酷く……酷く、平坦で、冷静で、

 どういう意味だ、と問いかける前に――彼は、掘り返した穴の近くに歩み寄る。

 

「……マシュ、ごめん。ちょっと、退いてくれるか」

「え……で、ですが」

「久しぶりに、手を合わせてやりたいんだ――頼む」

 

 ……でも。その声は、酷く静かで。それでも、穏やかなもので。

 

「……」

「……康友、どういう、事なんだ」

「想像は付いたんじゃねぇか? 状況を考えりゃ、難しい事じゃねぇ」

 

 

 

 

 

 

「コイツは――妹の骨だ。俺がここに……この手で、埋めたんだ」

 




ネタバラシタイム。
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