FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
隠し通せる訳もない――何時だってそう思ってた。
だって、俺の『罪』は誰よりも俺が知っていて。その『罪の証』は……いつだって、この額にくっきりと浮き出ているんだから。
さぁて――何処から説明したものかな。
彼の言葉が、そんな風に、酷く、酷く遠くから聞こえた様な気がした。
少年は、穴の底に跪いて、静かに祈りを捧げてから……その場に立ち上がり、穴の縁にそっと腰かけた。頭の中は『どうして』で一杯だった。
マシュも。リリィも。ロマニも。
誰も、何も言えなかった。自分も、ただ、彼の背中を見つめる事しか出来なかった。そんな中で――たった一人だけ、口を開いたのは。
『……なら、一つ確認したい事がある』
「ん。なんだい。『ダ・ヴィンチちゃん』」
「……え?」
そう――レオナルド・ダ・ヴィンチちゃん。確かにそうだ。
でも、それはおかしい。だって、その呼び方は……確かに、カルデアについても、ある程度は開示していたが、その名前についてまでは、彼には話してはいなかった筈で。どうしてその名前を、彼が知っていたのか。
その理由は……ただ一つ。
『――そっかそっか。記憶は戻ってたんだね。良かったよ』
「え……あ゛っ!? カマかけたの!? ちょ、酷くないダ・ヴィンチちゃん!?」
『君が隠しておくのが悪いんじゃないかな? まぁ、考え無しでやった事じゃないとは思うけれど、さ』
康友は、顔を顰めながらがしがしと頭を掻き毟り……頭の天辺の青々とした黒髪が、金色の粒子となって溶けて消えていく――あ、そうなるんだ、と思って咄嗟に噴き出しそうになるのを、何とか堪えた。
……いや、流石に今、この雰囲気で笑うのは、ちょっと色々ダメな気がする。
『――ぶほぉ゛っ……!』
ロマニは普通にダメだったようである。まぁ元からちょっとだらしない部分はあったので、もうこれは放っておく。とはいえ……自分も、久々に彼のつるっとした頭頂部を見ると、やっぱり堪えるので精一杯だった。
「……ハァ……ったく。藤丸、後でドクター〆といてくれ」
「あ、うん。えっと……お帰り、でいいのかな?」
「一旦はな――さて。悪いリリィちゃん、婆に付いといてもらえるか? マシュは藤丸の所に。何があっても傍を離れちゃダメだぜ?」
「「えっ? あ、はいっ!」」
重かった雰囲気が、なんだか一気に緩んでしまったのを感じる――しかし自分の気分まで緩めちゃマズい。頬が緩みそうになったのを、ぱしぱしと叩いて引き締め直す。
……改めて、目の前の青年へと向き直る。普段の礼装姿ではないシャツとジーパン姿が若干新鮮に思える。少し寂しそうに、俯いてから――
「……康友」
「……話した後の処遇は、皆に任せるよ。もし『許せなかった』時は、煮るなり焼くなり好きにしてくれ。ただ、その前に、だ――」
その視線を……この場で、唯一の自分の肉親へと向けた。
カルデアと彼との関係はまだ――話していない。結果として、ここまで一切話す事無く来た。しかし、ここまでのやり取りで、多少なりとも察する事は難しくない。
お婆さんは、その視線を真正面から受け止めてから――少しだけ、寂しそうに。クスリと笑って見せた。
「……ったく。そんなになっちまって。老けたねぇ、康友」
「これに関しちゃ自業自得だ。仕方ねぇよ……最も、あんなクソみたいな因習ずっと残しといた件については、許せそうにねぇけどな」
そう言って彼は、今度は視線をちらと明後日の方へと――いや、待て。
違う。彼方にあるのは確か……例の事件があった。
「……ま、話すのは一旦、現場に行ってからの方が良いとは思うんだが。『犯人』の自白ってのは、やっぱり現場でってのが、定番だろうし」
「「――っ!!」」
思わず……強く、こぶしを握り締めてしまった。
マシュと、リリィと。二人の、声なき悲鳴が響く――康友のその言葉は、皆で昨日言っていた『最悪の事態』を肯定するもので……彼の口から、一番聞きたくなかった言葉。でも口にしなければならない、懺悔の言葉。
僅かでも、重たい空白の後に……今度の沈黙を破ったのは、ロマニの方だった。
『信じたくは無いが……『五回目』を引き起こしたのは、君なんだね。本造院君』
……僅かに、俯いて。康友が、口を開く。
「……うん。そうだよ――」
『――ンンンッ! その通り! 真の罪人は彼の者にて!』
その時。
ここ最近で随分と聞き慣れた声が、響き渡った。この場に居る全員が、突然の事に目を見開いた……僅かな、ほんの僅かなその一瞬の事。
目の前に見えていた景色が――ぐるりと、瞬く間に入れ替わる。青は、赤に。白は、黒に……光の時間は、これまで?
いいや、まだ朝早く、日が落ちる時間な訳が無い――疑問で一瞬遅れながら、この異変が何者によって引き起こされたか、へ。咄嗟に思考が移る。
「――リンボ!」
『ンンン……まさか当人が自ら評定の場に首を垂れるとは! これは好都合!』
キャスター・リンボ、蘆屋道満。姿は見えずとも、今この場をかの陰陽師が、掌握している――その事実に、リリィとマシュが一呼吸かけず戦闘態勢に入った。リリィは、お婆さんの傍らに。マシュは、自分の元へ。
しかし……その一瞬。嫌な予感がした。どうして、彼が態々、リリィとマシュを、他二人に付くように、口にしたのだろうか?
「――違うっ!! マシュ、リリィ! 康友をっ……!」
『いやはや、まさか自ら隙を晒すとは――』
空間から、滲み出るように、その男は姿を現した。いいや……術を用いて、姿を隠してここまで近づいたのか。まるでアサシン染みた芸当。底知れぬこの法師であれば、不可能ではないという嫌な説得力がある。
碧と黒の着物姿――リンボは、まるで自らのマスターへそうするかの様に、康友の隣へと静かに佇んでいた。
しまった。油断していた。本造院康友はそう言う男だった。彼の記憶が戻っているのであれば、独断専行でこう言う事をしても、決して不思議ではない。
「ご自身を囮に? 些か、豪胆に過ぎるのではないですかな? お陰で……まぁ労せずして、この様に! 首を掻っ切る事も今や容易く――」
「――うるせぇってんだよ」
――だが、目を丸くしたのは。
今、窮地を迎えている少年以外の……ほぼ全員。
傍らに立つ獣の如き陰陽師から突き付けられた、刃染みた鋭い爪を前に、康友は眉一つ動かさず――鋭く、静かに、ただ一言で。リンボの続く言葉を遮った。
「そんな下らねぇ煽りする為に来たんじゃねぇだろ……下種が」
「――ンン。まぁ、そうなのですが。風情という物を知りませぬな。貴方は」
……何処か不服そうに、リンボが康友の喉元からその凶刃を引く。
驚く程に、康友は冷静だった。まるで、リンボがそうする事を分かっていたかのようだった。動揺一つ無し。額には冷や汗一つ流れちゃいない。しかしながら、背後の男へ向ける瞳は、今にも噛み付いてやろうと言わんばかり敵意に満ち溢れている。
抜き身の拳を硬く握りしめ……何があっても、一糸は報いてやろうという闘志。久しぶりだった、彼のそう言う姿を見るのは。
「砕かれた筈の死者が蘇り、そして
しかし……康友の背後に回り込み。改めてその両肩に手を置いたリンボの表情は、その僅かな間に、実に気分の良さそうな笑みの形に歪んでいた。
「こうして自ら、嘗ての同士に罪を自白し……そして、踏み躙った信頼が貴方への『正義の怒り』に変わる瞬間。それもまた、味わい深い」
――再び、景色が移り変わる。
赤と黒の、影の中。目の前に現れるのは……惨劇の起きたあの部屋だった。
しかし。自分達が見ていた時とは大きく違う――それは、そこに居る人々の姿。自分達の知らない顔ばかり。そして、その顔に浮かぶのは、怒りや、苛立ち、渦巻く劫火の様な負の感情ばかり。あの日、殺された村人たちの、姿。
「ご覧下さい! 過日のこの景色! 喧々囂々! それは当然――村に宿りし五人目の鬼の子についての大評定!」
「――先に言っておくが……間違いや、偽りはねぇよ。俺の記憶、そのままの景色だ」
……掲げたリンボの腕の下、康友が静かに呟く。
「折角、ここまでお膳立てもされたしな……話そうかね。あの日、何が起きたのか」
漸くこのパートに入れた……!