FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
――今更ながら、だ。
俺の妹は『健千代』っていう。俺が康友で、二人共『健康』から取った名前だな。
二人共、健康に幸せに暮らせるように、って両親が考えてくれた名前……俺は分かり易く友達が多く出来ますように、健千代はずっと長生き出来ますように、って。
……だから今でも、罪悪感しか無いんだ。親父や、お袋が、その名前に込めた、大切な意味を……寄りにもよって、兄貴の俺が無為に帰す事になるなんてな。
『――ちよ! こっちだ! こっちにデカい魚いたぞ!』
『にいちゃん! ちょっと待ってよ!』
あぁ、仲が悪かった訳じゃねぇぜ? 正直、自分で言うのもなんだが、世界一仲のいい兄妹だったって自慢できる――両親にも『兄妹仲良く』って全く言えないのが寂しい位に仲良しだねって、揶揄われた位さ。
だから……最後に健千代を埋めた時は、ホント、なんていうか……ダメだったな。ちゃんと弔ってやらないといけないのに、手が震えて、みっともなくゲロ吐いて……両親の時で、もう涙が出なくなってて。頭の痛みに呻いてた。
自分の手で殺したってのによ。
……あぁ、悪い。余計な話だったか――あの日は、そうだな。
そもそも始めは別の部屋に連れてかれてたんだよ。母さんと、父さんと、健千代は先に会場に向かってた。部屋で一人、ぶーたれてた。誰も居ないし、遊んでもくれやしないからな。それに……なんだろうな。兎も角、なんかその日は妙にぴりぴりしてた。
まぁ、多分だけど……家の中に流れてた緊張感を、子供ながらに感じ取ってたんだろうな。だからまぁ、部屋の中でバタバタしてた。
『――時間だ。来な』
そこの婆に連れられて、会場にやって来て……もうその時には、部屋の中から怒鳴り声が聞こえて来てたよ。内容は――俺、っていうか『五代目』をどうするか。
『――それで、どうするんですかい。村長』
『このまま放っておいて同じことになったら……っ』
『そうならない様に……話し合いの場を設けたんだろう!』
『短絡的なんだよ、アンタ達は!』
まぁ、より正確に言うなら……その話し合いが一番に盛り上がり始めたタイミングだったのかね。俺が部屋の前に着いたのは。
白熱するのは当然。調べた通り、四代目の時点で自分達の村が壊滅しかけたんだからそりゃあ……次があったら一体どうなるか、っていう話にもなるわな。その辺りを責められる訳もない。何せ、俺の所為でそうなってる。
……何時も見ていた気のいい村の人達が、障子を一枚隔てたその先で、見た事も聞いた事も無い様な剣幕で怒鳴り合ってる――正直、足が竦んだよ。
んで、その中には俺の名前が時々出てる。俺、なんか悪い事したのかな、って。呆然としながら、何処かで思ってた。
『ここで待ってるんだよ。良いかい――何があっても、ここで待ってるんだ。良いね』
婆は、先に中に入って行った。まぁ俺が迂闊に中に入れば、その時点で話し合いが余計に拗れるのは想像してたんだろうな。念を入れてたよ、俺がこの中に入らない様に。障子の影に俺を残して、ね。
……そん時、ちゃんと言う事聞いてたらな、とは思うよ。
まぁ、結果として、俺は婆の言いつけを守れず、中に入る事になった。
何でかって……単純な話だよ。配膳をやってた人に見つかったのさ。ぼーっと、何が起こってるのかも分からないままで、突っ立ってたらな。
『――ほら、中で、呼んでいる――早く、入りなさい』
……背中を押されるまま、何も考えず、戸を開けちまった――笑えるぜ。どうして婆が入るな、って言ってたのか。それを考えれば少し位は抵抗しようかな、とか考えられたはずだったんだけどな。
まぁ、情けない話だが。中から聞こえて来る大人たちの騒めきも、たった一人で暗い所に居る事も……兎も角、色々と怖くて堪らなくてな。誰かの傍に居たかった。
結局開けちまったよ――それが終わりの始まりだってことも知らずにな。
『――あ』
一斉っていうのは、ああいう事を言うんだろうな。
無数の眼が、一斉に此方を向いた。ああいう時、自分に向けられた視線がどういうもんなのか、感覚的に分かって怯える、ってのは物語の定番の流れだが……現実はそう上手くも行かないらしい。
俺に分かったのは――皆の眼が、酷く血走っていた事だけ。
本当に怯えた時ってのは、悲鳴すら漏れないもんだな。その場に釘付けになって、頭の中が真っ白になった。
『ば――バカッ! 何で入ってっ……!』
『奥方殿、下がってくれ。話し合いも出来ない輩から、その子を保護しないと』
『喧しい! 奥さん、頼む。その子を……もう、こうするしかねぇんだよ!』
『こっちだ』『此方だ』『おいで』『来い』『逃げるな』
……ホントに、爆発したみたいに、周りが騒ぎ始めた。
情けない事に、その時点で俺はその場にへたり込んじまったよ。迫力に圧されて、完全に。お陰で、逃げ出す事も出来ないまま、後ずさる事しか出来なかった位でさ。
視界が、滲んで、優しかった村の人達が、黒い影にしか見えなくなった。聞こえてくる声もその内、ただのノイズみたいな騒めきに変わっていった。
『縺昴?蟄舌↓隱ー縺九r谿コ縺励◆蛯キ繧定レ雋?o縺帙k豌励°??』
『縺?°繧峨▲縺ヲ蜻ス繧貞・ェ縺?炊逕ア縺ォ縺ェ繧九o縺代↑縺?□繧搾シ?』
『險ア縺輔l繧倶コ九§繧?↑縺??縺ッ蛻?°縺」縺ヲ繧九?縺?°繧?』
『閾ェ蛻?#繧ら峩縺舌↓蠕後r霑ス縺?→??シ?』
ぐるぐる、色んな影が揺れる、うねる、踊る。耳障りな音が、頭を満たす。どうにかしきいけなかったんだろうが……どうしようもなかった。完全に情報過多で、パンク状態って奴さ。何をするかの選択肢も、頭の中には浮かびやしなかった。
……俺がそのザマだったお陰で、動かざるを得なかった。
『――康友、こっちへ』
『お母さん、どうか無茶だけは……!』
『にいちゃんっ、にいちゃんっ、しっかり……!』
父さんと、母さんと……健千代。三人が、俺を周りの黒の渦から守るみたいに。その三人の隙間から――見慣れた着物の裾が見えた気がした。
でも、それも一瞬で。その姿は黒い渦の向こうに消えて……俺と健千代を抱えて、両親は部屋の端まで逃げた。でも、黒い影達が逃がしてくれる訳もなくて。
……怒号と、ノイズと、影と人の姿が、ぐちゃぐちゃに混ざり合って……その中で、ただ茫然とその景色を見ていた。
『――だめ』
『にいちゃんを、つれてかないでっ!!』
――赤いものが、俺の目の前で散った。
妹が、包丁を持ってた。振り回したそれが、目の前に突き出された、その『手』に突き刺さってた。噴き出した、どす黒い何かが、俺の前に滴り落ちてた。
何が、どうなって、どうしてそんな事になったのか。分からなかった。ただ、妹が必死になって、俺を守ろうとした事だけは分かった。
ただ、怖かった。
妹は、そんな事する娘じゃなかった。村の誰とも仲が良かった。だから……村のゴツイおっさんにちょっとケガさせただけで、びーびー泣いて、ごめんね、ごめんねって……だから、そんな娘が、顔を青ざめさせながら、人を、刺すなんて。
『驍ェ鬲斐□蟆丞ィ倥?螯セ縺ョ雍?r蟇?カ翫○』
――その手が、妹の首に伸びた。
『が……う゛……ぇ』
見上げる事しか出来ない先で、妹は首を締め上げられたまま、宙づりにされてた。それでも包丁だけは離さなくて……なんども、なんども、影の中から伸びた、その腕を……なんども、なんども、なんども、なんども。
これは悪い夢なんだって思いたかった。でも……鼻先に臭う錆臭くて、生温かいそれが現実から逃げる事も許さなかった。
このままじゃ、健千代が死ぬ。それだけは、分かった。
ぐちゃぐちゃで渦を巻くようだった頭の中の何かが……一点に集まっていく様な感覚があった。いいや、その全てが、火傷するみたいな熱い何かに、変わっていく、って言えば良いのかねぇ。
……覚えのある感覚だよ。
まぁ――しかし、残念ながら、それが制御できるようになったのは『今』の話だ。
気が付いたら……俺は、部屋の真ん中に倒れてた。
――さっきとは比べ物にならない位、むせ返る位に『濃い』臭いが満ちてた。
何がどうなったのか……それを考える前に、掌が濡れているのに気が付いた。水とは違う、ぬるぬるとして。障子の隙間から、差し込む月明かりに、手をかざした。
俺の手は、真っ赤に染まってた。
呆然としたまま、周りを見回したよ……でも、何処を見回しても、
俺『以外』の人影は……誰も、ピクリとも動かなかった。
『……あ゛……ぅ……え゛……』
せり上がって来たのを、びちゃびちゃ吐いてさ。
そんな中でも……いやでも理解できたよな。この状況を引き起こしたのが、誰かって事くらいは、さ。
少年から見た景色の話。