FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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断章:呪いの伝承者 其之四

 ――くつくつ、と笑い声がする。

 

「悲劇ですなぁ――なんとも。『五度目』を如何にせんとする村人たちの健気な抵抗、まさかそれが、眠っていた無慈悲な虎……否、鬼の眼を覚ます事になろうとは!」

 

 ……彼の背後から聞こえて来るその朗々とした声が、静かな部屋の中に響き渡る。噛み締められた歯が、ギリっと嫌な音を立てた。何処か楽し気ですらあるその言い方を、どうしても許すことが出来なかった。

 

 だが……自分が咄嗟に踏み留まれたのは。

 そうして、好き勝手に言われている当人が――誰よりも静かで。そして。そのリンボの言葉を、受け入れている様に、見えたから。

 

「……三人を埋められたのは、暫く何にも出来ずに、ボーっとした後だったよ」

 

 そして、何も否定せず。

 

「そっから、またボーっとして……か。まぁいいや。そこは。だろ」

「ンンン――そうですなぁ? カルデアの皆様にとって重要なのは……この男が、紛れもない『殺人者』である事! そして、その力が暴走した結果が、如何様かという事!」

 

 リンボが両腕を広げる――あたりに広がる凄惨な景色を、殊更に強調して見せるかのように――そんな事をしなくても、嫌でも見えている。嫌でも、分かっている。ここで起きた惨劇の跡が。

 マシュが、盾の持ち手を強く握りしめている。周囲の惨状から目を逸らさない様に。

リリィの片手のカリバーンの切っ先が、震えている。それでも尚、悲鳴は上げない。

 

『――それは、確定していないだろう』

 

 その中で……ドクターが、静かに言葉を紡いだ。

 

「途中で意識を失った……その間の事は確認できない、ですかな?」

『そうだ。彼の記憶を信じるとするなら、意識がある間だけだ。その間に、何が起きたかまで、前後の状況で『犯人』を確定させる程、僕等だって愚かじゃない』

「ほう、良くぞ言えたものです――逆にこの状況下で、他に何者がコレを引き起こせるというのでしょうかねぇ?」

 

 ドクターの反論に対し、しかしリンボも何処か愉快そうに、当然と言わんばかりに切り返してくる。これ以外の回答などない。言い返せるものならとすら言いたげな様子、口元に浮かんだ笑み、その歪みは深い。

 ……なんとなく分かる。敵の目的は、この一瞬の為に有ったんだろう。康友の過去のこの一件を、自分達の目の前に引きずり出す為の。

 

 でも、どうしてそうする必要がある?

 自分達から、彼を切り捨てさせる為――いいや、そんな訳がない。だって、確かにこの一件は凄惨なものだ。けれど……康友の言ってる事が本当なら、その事で彼を責めるというのも、何かが違う。

 

「……」

「それに――関係ないのですよ。貴方達が如何に言葉を尽くそうとも。この、当人が、納得している訳が、ございません……ふふふ。そうでしょう?」

 

 それに、リンボの態度も、妙だ。さっきから、ずっと康友の背後に立ったまま。やけに彼に馴れ馴れしく話しかけるというか……康友は、ずっと彼らの兵隊を叩き潰し、第五特異点では直接相対した筈の敵だ。それなのに。

 

 記憶が戻っていない、なら兎も角として……記憶が戻り、能力も戻っている。その状況だ、倒される心配は無くとも、自分達に同時に仕掛けられれば、痛打を叩きこまれて不思議じゃない筈。

 この、異様なまでの余裕は、一体。

 

「何せ、己の手で家族を殺し……そして、のうのうと、ここまで、死にそびれた」

「っ……キャスター・リンボ! それ以上、康友さんを愚弄する様な言い方は……!」

「ンンン――貴女には、分からないでしょうねぇ……この少年の、何処まで行っても惨め極まりない、この気持ちはぁ……!」

 

康友の肩に、リンボの手がぽんと置かれた。

くつくつと笑う声。己を糾弾するその声にも、まるで窮せず……目の前に立つ彼を背後から見つめる目には、寧ろ何処か憐れみすら感じられる。

 

「貴方達と出会い、人理修復の旅という大義名分を得て……この日の贖罪の為に、この少年は駆けてきた! いいやそうせざるを得なかったのでしょうなぁ! そうしないと、自分の中に巣食う罪悪感に食いつぶされそうだった……そうでしょう?」

「……」

 

 まるで代弁者の如く、堂々と振舞うリンボ。

その爪の先が、頬を撫ぜる。大丈夫、自分は分かっている、安心して……と、透けた同情を張り付けた、その軽快な語り口、唇を強く引き結んで――それでも康友は何も言わない。ぐっと拳を握りしめて、耐えている。

 

 ……贖罪。だから、ずっと前で戦い続けた。後ろに下がる事を良しとしなかった?

 

 リンボのその言葉は、今までの彼の行動の裏付けそのものだった。前線で暴れているのが性に合ってる、と言うのも間違い……ではないとは思うが。

 それでも、世界を取り戻す為の戦いで、誰よりも率先して前に出る事が。自分が犯した罪を、少しでも雪ぐための物だった、というなら。

 

「……それは」

 

 リリィの声は、何処か寂しく、哀しそうな響きだった。

 確かに……自分の身を、半ば投げ捨てて、薪にする様な、そんなやり方は……認められるものではない、認めてはいけないものだ。

 

「あの日の狂気の景色が、彼の頭に染み付いて、離れる事は無かった。故郷が伝えていた忌むべき秘密も、その伝承に狂った村人達も――そして、何よりも、彼らを自らの手で悉く誅戮した己自身も! 許せるものではなかった!」

「……こんな、クソみたいな俺と、クソみたいな力が……もし、誰かの役に立てる、っていうなら。それは、あぁ」

 

 ……しかし。今の彼の表情を見て、一体誰が、康友の選択を否定できるだろうか。

彼自身にとっては心の傷の象徴、トラウマの形そのもの――それが、背負った罪を償う為の、か細い光の糸になるというのであれば……ぼんやりと光る程の熱量に、触れただけで肌を焦がされて、痛みに苦しむ事になったとしても。

 

それは、きっと。

 

「俺にとっては……『救い』だったよ」

「――しかし、矛盾ですねぇ!!」

 

 ……そんな彼の想いを、リンボは、ここぞとばかりに、嘲笑う。

 

「顔も知らぬ何者かを救う? ンンン――隣人を、家族を、妹を! 無残に磨り潰したその拳で?」

 

どうやら、自覚はおありだったようですがね、と。両肩に置かれたその手が力強く、彼の身体を掴む。此方に向けられたリンボの瞳が……不意に、三日月の如き鋭い弧を描いて歪んだ。

 

「――あの日、無残に殺された側からすれば、納得しようも無く」

 

 そのまま、リンボの手によって康友が振り向いた先。

あの日、全員が彼の手にかかった、というのなら。その中に、彼女も居た筈だ。本造院康友の――祖母である彼女が。

 

 康友が、顔を上げる。此方からは……僅かに、震える肩と。今にも消えてしまいそうな小さい背中しか、見えない。まるで今の彼は、処刑台を登る罪人みたいで。

 そんな彼を……お婆さんは、黙って見つめていた。壁に立てかけていた白い布に包まれた何かを、片手に握りしめて。

 

「自ら守ろうとした血族のその手に引き裂かれる、無念――このリンボ、心中お察しいたします……さぁ、吐き出しなされ! その胸の内!」

 

 康友の傍らから離れ……今度は、お婆さんの方へと、リンボが歩み寄る。

 はっとしたリリィが剣を構えた。しかし、そんな事を気にする素振りも無く、一歩、また一歩と……まるで、勝ちを確信したかのように、不気味な程に殊更、余裕綽々と、歩み寄る。少女騎士の剣の切っ先の間合いだとしても。

 

 お婆さんの、澄んだ瞳が、ちらりとリンボに向けられる。

 リンボは……その掌で彼を指し示しながら、道化の如くにわざとらしく、その頭を下げて見せた。

 

「今なら、お孫さんも、存分に聞いてくださいますぞ、何せこの時が、彼にとって懺悔の時なれば! さぁ、さぁ、さぁ――!」

「言いたい事はそれだけかい、この外道」

 

 

 

 ――ざくり

 

 

 

「………………おや?」

「アンタも物の怪の類なんだろうが、生憎だったね。此奴も『平安』から伝わる三条の業物さ……『神秘』とやらは、十分に宿っているだろうよ……!」

 

 思わず、瞠目してしまった。

 

 目にも止まらぬ早業だった。不意を突かれ、()()()()反応が遅れていた。

 思い出すのは――第五特異点で見た、スカサハ技の冴え。流石にアレに及ぶ程ではないが……しかし、決して見劣りしない、あまりにも鋭い一刺し。はらり、と。解いた布が一歩遅れて、地面に落ちる。

 お婆さんの、研ぎ澄まされた薙刀の一撃が――確かに、リンボの身体を貫いた。

 




という事で、今回の投稿はここまでとなります。
次回更新は……多分、九月だと思います。

もしその時に見かけたら、宜しければ読んでやってください。
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