FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
リンボの言葉に、マシュが僅かに唇を噛みながら構えを解き。リリィがゆっくりとカリバーンの切っ先を下ろしてみせる。
「話し合い……ですか」
「左様。我々も今は事を荒げる積りはございません――まぁ始めはこの様な交渉などするつもりもありませんでしたが。最初の方針に拘った事で余計な損失を増やすのは、此方としても避けたい事態ですので……拙僧、臨機応変な対応も得手としておりますれば」
二人を牙を覗かせて笑う不敵なその顔に、苛立ちを抑えられない。話し合いで解決できるのであれば、それは良い事だがしかし――人質を取った上で、僅かにでもこちらが不審な動きをすれば、ずらりと並べた黒武者達を問答無用で突撃させてきかねない。
そも話し合いだと向こうから口にしているのに、未だ黒武者達に太刀を構えさせて戦う姿勢を崩していない辺り、その内心が透けている様にしか見えなかった。
……それでも、香子さんが向こうの手にある以上は、迂闊な事は出来ず。悔しいが一旦は向こうが出してきた提案に乗るしかない。
『話し合い、というのであれば……何か要求があるのかい?』
先ずはロマニがそう口火を切った。
リンボは口元に笑みを浮かべたまま、その言葉にゆっくりと頷いて見せてから――その視線を、此方の背後へと向けてみせる。いっそ、わざとらしい位にあからさまなソレが一体誰を捉えているのか――分からない訳が無い。
「……ま、そうだろうな」
「えぇ。そうですなぁ――此方の予定通りならば、とっくの昔に此方の手中に入っていたのですが……ままならぬものです」
――やはり、康友か。
顔を顰め、ため息を一つ吐いてから……更に一歩前へと踏み出した。マシュが、咄嗟にその動きを止めようとしたが、軽く手を上げて『大丈夫だ』と一言。
その通り、康友はマシュの盾より前には出ない辺りでその足を止め――リンボを真正面から睨み付けた。
「他人の背に隠れてる分際で言えた台詞じゃねぇが――ご婦人を人質に取らねぇと交渉も出来ねぇとは、随分と弱腰だなぁオイ」
「ンンンッ――仕方ありますまい。確実に互いが一旦矛を収めるには、少しばかりの劇薬も必須という物ですから」
……康友に睨み付けられても、リンボの表情はいたって涼しいもの。流石に、挑発に乗って来る様な相手ではない。
主導権を握られてしまっている以上、此方から仕掛けられる選択肢はほぼ無いといっても等しく。となれば、現状は相手の出方を伺うしかない、が。
巌窟王が戻って来てくれれば――いや、リンボがそれを許すだろうか。あの黒武者を呼び寄せて陣を固めているが、それだけで終わるだろうか。幾度もその罠を掻い潜って来てはいる……しかしそのどれもギリギリ。決して手緩い相手じゃない。
「さてさて……我々の要求は単純明快。そちらの少年の身柄のみ――」
『のみっていうには、あまりにも大きい提案だ。乗ると思うかい?』
「えぇ、えぇ、道理ですな。故に……それさえ果たして頂ければ、他のカルデアの皆さまはお帰り頂いても何ら問題はありません」
――それ故に、その言葉は、静まり返った中で酷くはっきりと聞こえた。
『……どう言う事だい?』
「言葉通り――呼ぼうと思えば直ぐにでも、というのはご覧になっている筈ですが……それでも尚、我が方の復讐者はここに居ない。それが此方の誠意にございますれば」
今は全力を出して殺すつもりはない。逃がす余地を見せている。言葉ではなく、行動で示すと――ロマニも、周りを探査したのだろう。小さく『確かに』と呟いた。
あの武者のサーヴァントは、恐らくアサシンではない。カルデアの探査を掻い潜れる位に気配は消せないのなら……今、この近辺に居ない、というのは間違いない、と思う。
『……仮に、あり得ないだろうけど。此方が君たちに彼を引き渡したとして。それこそ直ぐに彼女を呼び寄せて奇襲を仕掛ける、という事もあり得るとは思うけど?』
「そう言わず……そもそも、我々が貴方達を分断していた時点で、此方としてはどうとでも出来た事をお忘れなきように」
そんな追及にも、リンボは飽くまで穏やかな口ぶりで言葉を返す。
「よく言うぜ、こっちに選択肢を残さないようにしてから、言う事聞けば無事に返す、なんて。まんまドラマのド三流の悪党の台詞じゃねぇか。何言っても逆効果だ」
続いて康友が声を上げた。声に呆れを隠そうともしない、何処か小馬鹿にしたような感じまでするような其れに、リンボの目が細められる。
「そうは言われましても……此方にとっては、これほどまでに大きな譲歩をしなければならない程度には、本気の提案なのですがねぇ」
「なら最低限、腹の内をぶっちゃけろよ――そこがハッキリしねぇ限りは、テメェらがどれだけ本気かもわからねぇ。全部バラして、漸くこっちが話を判断できるかどうか、だ」
康友の声は、その内心が顕れているかの様にドスが効いている――真っ向から視線をぶつけ合う二人。先に視線を逸らしたのは、リンボの方。やれやれ、と言わんばかりに肩を竦めて見せた。
一度閉じて、瞼が開いた後。
その瞳には――ほんの僅かに剣呑な光が宿っていた。睨み付けられたのが自分ではないというのに。背筋に冷たいものが走る。餓えに餓えた獣の如き、研ぎ澄まされた視線。
「やれやれ。良く吠えなさる……此方の手の内に――」
「理解してるよ」
一言。リンボが告げる前に。康友の更に低い声がそれを切り捨てた。
「それが無ければ今すぐにでもお前の面をぶん殴ってる所だ。今まで好き勝手やってくれた分の積み重ねもあるって、そっちこそ理解出来てないらしいな」
ぎり、と。強く拳を握りしめる音がした。リンボが、一瞬目を見開く。歯ぎしりの音が此方まで聞こえて来そうな、憤怒の形相――彼の顔を見たリンボは、再び口元にゆっくりと……そして、刃の如く鋭く、ほの暗い影を纏った弧を描いた。
「それはそれは……これは、とんだ失礼をば」
「……」
「申し訳ありません。確かに、そちらは如何ともし難い現状にて、無力に歯噛みせざるを得ない状況――何も言われずに、というのは納得もしかねますか」
ちらり、と。康友の顔を見てから――リンボは、ちらと此方の背後へと瞳を滑らせた。
柄だけになった薙刀を、それでも力強く握りしめたお婆さんの姿を眺め、ふ、と。吐息を零す。それだけの仕草が……何処か此方を嘲笑っている様にも感じられるのは、ただの考えすぎか。それとも。
「……こんな回りくどいやり方をしたのは、なんでだ」
「万全の身体が欲しかったのですよ。本造院康友、という人間のね。万が一にも大きな傷がついては此方の目的に差し障りが出ます」
康友の問いかけに、冷静に答えるリンボ。
向こう方にとって理想の展開は、一切無傷でその身体を手に入れる事――だから狙ったのは……康友が、自分からカルデアを進んで離れるか。そうでなければ、カルデア側が康友を放逐するか。
何れにせよ、向こうから自らの手元に転がり込んで来る展開。
「そんな事、どっちもあり得ないよ――康友は、仲間だ」
「しかし大量殺人を犯した罪人である事は事実……よしんば後者、其方が放逐する事は無くとも、前者であれば十分に」
――そこで、何かに気が付いた様に声を上げたのは。
『……成程、特異点の舞台がこの場所だったのは、その為か』
「――ダ・ヴィンチちゃん、それは一体……?」
『恐らくだけど、一度本人の罪と向き合わせて――精神的に追い詰めた上で、贖罪の機会を与える、とかいう積りだったんじゃないかい。私達と居ても過去の罪が足を引っ張るとか、そんな風に唆してね』
ダ・ヴィンチちゃんは、続ける。
先ほどの、リンボに過去の罪を追及されていた時の康友の様子と、そして特異点で戦う姿――身を捨てるかのように戦うその質。
その後の言葉を継いだのは、ロマニだった。
『元々、自分の身を軽く見る質だった彼に、更に自罰方向にバイアスをかけさせれば十分に……彼自ら、カルデアを去る様な精神状態に追い込める、と』
「自ら、彼の過去の所業が明らかにしたその後であるならば、其方もそう口を差し挟む気にもならないかとね」
……悪質極まりない。
例え本当に罪を犯していたにしても――それは、きちんと償うべきものだ。だというのに本人の贖罪の意思を利用して、自らの目的に沿う様なやり方に追い込む、というのは。
恐らく、先程の過去の光景を再現したのも……その為か。
そう結んだリンボの視線が、再びお婆さんの方向へと向かう。
「その為に態々『罪の証言者』まで準備していたのですが……いやはや些か、その辺りは計算が狂いましてねぇ」
互いの視線の間で、軋む様な音が聞こえた気がした。
一連の話、もう一回推敲してぇ~……!(無念)