FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「――」
表情は何一つ変えず、しかし目を大きく見開いたそこに『何が起こったのか』という疑問がありありと現れている。無理もない、自分達も呆然としている。周りの黒武者達ですら、自分達の指揮者の方へ振り返るのがワンテンポ遅れていた。
……唯一の例外はと言えば。後ろで、特大のため息を吐きながら呆れたように天を仰ぐお婆さんくらいなものである。何をやってんだい、と呟く声が聞こえた気がした。
「なぎこ、香子さんは!」
「任せんしゃい! 上手くやってる!」
「ナイス!」
――瞬間、揃ってしゃがみ込んだ二人の頭の上を、太刀と爪が行き過ぎる。
流石にアレだけの暴力をいきなり浴びせかけられた故か、特に振り払うようなその爪には明確な殺意が滲んでいて。しかし。
しかし苛立ちを抑えきれず、冷静さを欠いているからなのか。大ぶりで、拙い。生まれた明確な隙を、狙い澄まし。二つの影が飛び出す。少年は、上へ。少女は、前方へ。自然と打ち抜かれるのは、リンボの顎と脚。打ち上げられ、足を掬われて。どう、と重たい音と共に強かに背中を打ち付けた。
衝撃で口元から押し出されたのは、声にもならないうめき声。驚愕、困惑、苛立ち、十色の感情を内に孕んだ声を吐き出しながらも――そのまま転倒せずして、両腕のばねをもってして瞬時に後方へと飛び下がる。
「――やってくれるっ!」
「うるせぇセコい真似ばっかりしやがって! いい加減、お前だけでも地獄に引きずり込んでやらねぇとな――本日限りの特別タッグだ! なぎこ、パス繋げ!」
「あいよぉ!」
康友の令呪が光り輝く。仮契約の証。
状況はイマイチ呑み込めていないけれど――それでも一つだけ分かった事がある。なぎこさんは、自分達の味方だ。
「マシュ、リリィ! 二人の援護を!」
「はいっ!」
「分かりましたっ!」
――直後。
二人に背後から襲い掛かろうとした黒い影が、盾と剣に薙ぎ払われて地に這う。マシュとリリィの一撃は、今まで戦った時以上に冴えている様な気がする――なんとなく、自分も重くなっていた肩が軽くなった様な気がしている。
湧き上がる嬉しい気持ちが、背中を押してくれていた。
「二人共サンキュ!」
「はいっ、此方はお任せ下さい!」
「お二人の邪魔はさせません!」
康友となぎこさんの背を守る様に、マシュとリリィが黒武者達の前に立ちはだかる。
頷きを返しながら、二人はリンボに向かって駆け出した――しかし同じ物書きの英霊の筈なのだが、式部さんと違って大分なぎこさんは大分アグレッシブだなぁ。今も全身を使った伸びあがる様な頭突きがリンボのお腹に突き刺さって、その巨体を綺麗に吹っ飛ばしている。
「ぬぅっ……逃がさぶほぉっ!?」
そして立て直した所に拳がもう一発。痛打にはならずとも、その頭から伸びた雷の如き角の与えた力は、間違いなくその攻撃を通し。彼の身体をグラつかせる。
「――んじゃあ、任せていいんだな?」
「応ともさ!」
その隙に、なぎこさんがリンボの脇を駆け抜けて部屋の方へ――それを見送ってから康友は、改めてゆっくりと体を起こしたリンボに向き直った。
口元に浮かんでいた笑みはいつの間にか消えていた。そして、一方のリンボの肉食獣の様な獰猛な笑みは、未だに消えていない。
マシュの盾で吹き飛ばされた黒武者が、康友の近くへと落ちる。どずん、という重たい音が此方にまで聞こえて来たけれど……それでも尚、康友は一切反応せず、ただ一点、目の前のリンボに視線を向け続けている。
「……良いのかよ、行かせちゃって」
「其方一人始末して追いかける程度は易い事――と、言って欲しいのですかな?」
視線に言葉、康友のそれは何方も挑発的。しかし、リンボはそんな少年の仕草に欠片も揺らぐ様子は見えない。寧ろ、不気味な程に悠然と構えている。
「ちっ、まぁそりゃあバレてるか」
互いに踏み込まない。リンボの視線が、手首の令呪へと向かう。それはまるで――早くしろ、とでも急かしているかのよう。
その視線に大きくため息を一つ吐いてから――康友は、大きく空を見上げ、そして些か困った様にポツリと呟いた。
「……これ、呼んで来なかったら馬鹿らしいな」
「その場合は私が直ぐに冥土に送って差し上げましょう」
「そりゃあどうも――来い、アサシン!!」
澄み切った空に、康友の叫びが響き渡る。
その声に応えるようにして、蒼穹に濃紺の艶やかな着物の袖が翻り。音も無く、白磁の如く透き通った肌の足先が、大地に降り立つ――という事は無く。
――つんっ♪
「お゛わぁっ!?」
「ふふふっ――そないに大きい声で呼ばんでもええのに♪」
直後、康友の背中から少女がひょっこりと顔を出したと思うと――その二本の角の先が彼のわき腹を軽くつっついた。
突然の不意打ち、飛び上がらんばかりに驚いて目を見開いた康友を見ながら。おかっぱ頭の女の子はにこにこ楽しそうに……いや、愉しそうに笑って見せた。さながら、クラスの男子を揶揄う令嬢の如く、その微笑みはたおやかで。
「旦那はんに呼ばれたら、何処からでも馳せ参じますえ?」
「ったく……それはどうも」
アサシン、酒呑童子。康友のサーヴァント――並び立つ、一人と一匹の『鬼』。
久々だ。マスターとして、サーヴァントの隣に立つ彼の姿を見るのは。何も知らない明るい笑顔から、舌先に苦い記憶を転がす様に、その瞳に意思のギラつきが宿る。
「漸く現れましたか、全く……拙僧が言うのも奇妙ですが、些か慎重に過ぎるのでは?」
「ええやないの。うち、こんなええ舞台観るの初めてやさかい――ひろーい目で、長めさせて貰いましたわぁ」
リンボの、何処か呆れた様な物言いに、くすくすと笑うアサシン。暫し睨み合う両者の視線がまっこうからぶつかり――突如として細められた目を見開いたのは、リンボの方だった。一瞬背後を振り返ってから、改めてアサシンに目を向ける。
「成程、合点がいきました……拙僧の細工を潰していたのは、貴女か!」
「えぇ? うち、なにかしてもうたん? 困ったわぁ――なーんや、よう鼻に香るのが仰山おったさかい、ちょっと『構うてた』けどぉ」
唇に指先を当てて微笑むアサシン――何の話かと一瞬思ったが、しかし思い出す。リンボはお婆さんに何かを仕掛けていた。しかしそれは成功していなかったようで、思いっきり不意打ちを食らっていた。
眦を釣り上げ、牙を剥けば、まるで野獣の如き憤怒の面――薄紫の瞳を睨み付けるリンボの視線は、激情に震えている様にも見える。そしてそれは……鷲のかぎ爪の如く、広げられる掌も同じ。
「やってくれましたねぇ――その『身体』自体を囮に、誘き寄せましたか……!」
「うちはそないに香は焚いてへんのやけど……ねぇ?」
「抜かせ、アレは自然と惹かれる類……己の血族か、己が求めた存在そのものに!」
――瞬間、激昂と共に指から飛んだ符が、宙を舞う。
ほんの刹那、気が付いたらその手に呪符が握られていた。目にも止まらぬ早業、荒野のガンマンを思わせるそれに、しかしアサシンは一切揺らぐ様子は無い。
返しには、片手の大刀、一閃。鬼の剛力による、力任せ。破壊力は埒外のソレだ。容易に千切られ、千切られたリンボの符が、虚空に舞う。
しかしそんな一発に怯む処か――大柄な影は既に、アサシンとのお互いの距離を詰めて来ている。爪も術も、何方も熟す、リンボの厄介な部分はここ。
「ぬぅっ!!」
「あはっ!」
しかし――リンボの多才を持ってして、アサシンの圧倒的な『力』を出し抜く事は敵わず。先んじて仕掛けた速攻に、後から仕掛けた攻勢が追いつく理不尽。
二人の爪がぶつかり合い、まるで鋼の如き火花を散らす。そして、なお力負けするのはリンボの方。弾かれ、僅かに血を流しながら後ろに下がる――同じく平安の世の出身、されども双方には確かな力の差。
これがアサシン――酒呑童子。京の人々の心胆を寒からしめた恐るべき妖魔。久方ぶりに目にする鮮烈な暴れぶりに、背筋が粟立つのを感じた。
「おのれぇ……!」
「ほな――答え合わせでもしよか。ねぇ?」
今回もどれくらい更新できるか不安定ですが……がんばります。