FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
――礼装が再び起動すると同時に。咄嗟に、背後を振り返った。
もう一歩、足を踏み出していた。歯ぎしりの音は、感情の爆発の証左だ。それを責められない。誰だって怒りを抑えきれるものじゃない筈だ――そして、リンボにとってはその肉親としての情こそが、付け入る隙に他ならない。
「(――でも、どうやったら止められる……!?)」
ほんの一瞬の惑いの間にも、彼は更なる一歩を――
「はいそこまで」
――すてぇんっ!!
「へぶっ!?」
「「あっ」」
……思わず、リンボと声が被ってしまった。思いっきり足を払われてた。康友が。酒呑童子に。鼻先から地面に突っ込んでいた。物凄い痛そうだ。というか、リンボの方まで完全に虚を突かれていたからか、呆然と倒れたままの康友を見ているだけだ。
酒呑童子に首根っこ引っ掴まれ、康友が間合いから引っ張り出されていくのを確認してから。リンボは、初めて絶好の好機を逃がした事に気が付いたようだった。
呻き声を漏らしながら、康友がゆっくりと立ち上がる。振り返った三白眼からの恨めしそうな視線に対しても、彼女は飄々と微笑んで見せた。
「危なかったねぇ。あとちょっとで『ぱっくり』いかれてたんとちゃう?」
「……だからってなぁ」
「ふふっ♪ うち、これでも『ますたぁ』想いの『さぁばんと』やし?」
「わざとらしい……まぁ感謝しとくよ」
康友の表情はまだ険しいが。我を忘れた様子はもう無い――リンボが舌打ちを一つ。
向き直った両者の間に、再び酒呑童子が立つ。仕切り直し。康友が、深呼吸を一つ。
「――悪いな、話を聞きもせずに殴りそうになっちまって」
「……いいえ」
「んで、だ。あれは俺達のご先祖様の成れの果てで合ってるんだよな?」
ばきり、と握り込まれた拳が鈍く鳴る。
落ち着きを取り戻した康友は――内から溢れんばかりの怒りを、ただ一点鋭い視線に込めた。束ねられ、密度を増したソレは指向性の『殺意』へと変わり。刃の切っ先の様に目の前の術師に向けられていた。
今回は、一切の返答は無かった。もう『揺さぶり』が無意味な事を理解しているからなのだろうか。無言を貫くリンボに、康友は『まぁいいや』とだけ零した。
「ドクターの言ってた事をちょっと考えりゃ、別に言われなくても想像は付くし」
ちら、と。その視線が、マシュとリリィの方へと向かう。
「――やぁっ!!」
振るわれたシールドバッシュが、今度こそ、黒武者の鎧を打ち砕く。入っていた亀裂に対しての更なる追撃――『瞬間強化』によって力を増したリリィの斬撃が、二体のそれぞれに突破口を作っていたのだ。
悍ましい見た目になり果て、内から這い出た腕を蝕むが如く振るっても。武者としての技量という片翼を捨てた二体は、悲しいかな著しい弱体化を果たしていた。
最後の抵抗と言わんばかりに、鋭く伸びた爪で引っ掻かいても、鞭の様に掌を叩きつけても。どっしりと構えられたマシュの盾は小動もしない。
それぞれを分断する事すらせず、ただただ叫んで、駄々をこねる様に暴れているだけのエネミーになんて、二人は負けない。
『ア――あ゛ぁ――』
――ぞしゅっ!!
「これで、最後ですっ……!」
面皰の口元に突き立てられる剣が、最後まで躯の腕をバタつかせ足掻いていた側に、確実な止めを刺した――足掻いている、と言うより……必死になって、何かを求め、藻掻いていた、のだろうか。
兜をかぶった頭が、地面に崩れ落ちる。隙間からあふれ出す瘴気が、まるで、長い髪の様にも見えた。
「……それが『アレ』っていうのも、ちょっと情けないけど」
箱入り娘ならこんなもんなのかね、と康友が呟く。
「ふふ……随分と淡白な物言いでいらっしゃる。ご自身の身内が、あの様に利用され尽くしているというのに」
「そんな事を言われてもなぁ。見ての通りあんな終わりしか出来なかった一族だ。愛着なんざ欠片も残っちゃいねぇよ。俺自身も含めて、な」
――ただし、と。
続けられたその言葉には、確かな熱が籠っている様に見えた。
「こんな『茶番』やってくれた事に関しては話が別だ。こんな墓荒らし染みた真似しやがって。皆纏めて死んで、漸くクソみたいな『しきたり』から逃れられたってのに……その分は、キッチリ返してやらねぇと気が済まねぇよ」
ぐぐっと、前のめりに。尖った視線と共に口元が吊り上がる――何処か挑発的で威圧的でもある、チンピラ染みたと言っても良いかもしれない。そんな攻撃性を剥き出しにした笑顔が、リンボに向けて牙を剥く。
……酒呑童子が、殊更愉しそうに片手の杯を煽る。
マシュとリリィと共に、康友の背後から歩み寄る。警戒は緩めない様に、此処は敵地なのだ。まだまだ応援はやってくるだろう。大規模な兵力が揃ったら、どうにか出来るかは非常に怪しい。拳を、ぎゅっと握りしめた。
「その前に――決着を付ける!」
「そうした所で、ここを解決する手段も分からないというのに? 些か短絡的な決断に過ぎるのではないですか?」
「お前たちの言ってる事が本当だって証拠もねぇだろ。それに……とっくにそっちから白手袋投げつけてるっていうのに、今更何を言いやがる」
――互いの視線が交錯する。
「…………全く、致し方ない」
先に動いたのはリンボの方。片袖から零した呪符を確認した時点で、酒吞童子とリリィが左右から襲い掛かるが――しかし、それよりも噴き上がる黒い奔流が、彼の前に壁を作る方が早かった。
次いで酒吞童子が一歩下がり、背後から『突撃』を仕掛けたマシュとスイッチ。リリィと共に改めて黒い壁へと突き進む。
「私が割り込みます――リリィさん、カリバーンで!」
「分かりましたっ!」
穢れ無き守りが、赤黒い渦に風穴をこじ開け。僅かな揺らぎに向け、若き騎士王の剣が唐竹一閃! その禍々しい障壁を引き裂いた。散り散りになった障壁の中から、リンボが姿を現すも――すでに何か印を結び終えた後。
マシュとリリィを見上げる表情には、何時もの不遜で、余裕たっぷりの、薄笑いが戻って来ている。
「拙僧とて、本当は動かしたくは無かったのです――ですが!」
「何をっ……!?」
「彼方と違って転移の回数も限られている身故! 此方、切り札を切らざる得ず――急々如律令!!」
直後、リンボの指先に挟まれた形代が燃え尽きる。彼が何かを仕掛けたのはそこで分かった。しかしそれが一体何なのか迄は分からない――咄嗟に耳を澄ませたのは、通信機から聞こえて来るドクターの報告を聞き逃さない様にする為。
『魔力反応! しかも、これはっ……さっきとは比にならないぞ! トップクラスの幻想種にも匹敵する神秘だ!!』
「っ……何処から!?」
『真下から! そうか、土地に染み込むみたいに、ずっと……!?』
リンボの足元――地面の下から、先程の黒武者からあふれ出したモノとは比べ物にならない程に濃密な、瘴気が噴き出して来る。そしてこれは屋敷からだけのものではない。
周りを見渡せば、村のあちこちから、瘴気がガスの様に噴き上がり。そして……一点に向けて収束していく。
最初は入道雲の様に、ただただ大きいだけだった。しかし……濃度と密度を増すに連れて、それらは一つの確かな形を得ていく――ただのヒュージゴースト、と呼ぶにはその姿は異質。溢れ出した瘴気が全身を覆いながら長い髪の様に揺らぎ、その身に纏った『白装束』は、どす黒い赤が滲んで斑に。
「これはっ……!?」
「……ははっ、なるほどな。グレイが祓ったあのヒュージゴーストは、コイツを作るための実験体だったって訳かよ……っ!!」
淀んだ魔力だけではない。
山の方から湧き出でた無数のゴースト達をも呑み込んで。最早、小山程にもなろうかと言う『大怨霊』に、それは変じつつあった――髑髏白面、そして般若の如き二本角。鬼の呪い。まるでそれを具現化したかのような!
「これなるは! 『ふるごう』が背負った業の果て!」
「人に怨成す、旧く果て無き大悪霊――名付けるならばそう、『
――~~~~~~~~~ッ!!!!!
錆びた鉄を割く様な、音が、脳髄を軋ませる。
リンボの背にて、四つの腕が天に開き。食らい尽くさんばかりに開かれた顎より上がるは、文字通り底無し、恩讐の絶叫――!!
もうちょいネーミングセンスが欲しい今日この頃