FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
『――魔力反応増大っ! 対軍宝具に匹敵するエネルギーだ!』
――瞬間、片手を握りしめて叫んだ。
「令呪をもって命ずる! マシュっ! 宝具展開! 全力で防御をっ!!」
「はいっ!! 宝具、展開しますっ……!!」
瞬間、康友が飛んだ。向こうにいるお婆さんの身体を抱えてマシュの後ろへと飛び込んだ。しかしこれは――マズい、もしもこれが全方位への放射攻撃なら、防ぎきれない。
咄嗟に、なぎこさんが戻った方へと視線を向ける。位置を変えれば、と思うがしかし間に合うだろうか。もしも、配置転換の間に攻撃が来てしまえば。
一瞬でも時間を稼げれば――もう一画令呪を切る事を考える。リリィの宝具をぶつけられれば、もしかしたら攻撃を一瞬でも遅らせる事も出来るかもしれない……と。そこまで考えた時だった。
『――お前は其方から意を逸らすな。此方は引き受ける』
脳裏に聞こえる、パスを通した念話。
静かだが、決断的な強固な意志に溢れたその声は――思わず、口元に笑みが浮かぶ。
「――」
「先輩、なぎこさん達は……」
「大丈夫、間に合ってくれたみたい!」
マシュにそう告げれば、直ぐに伝わってくれたらしく――力強く頷きを返してから眼前の敵へと向き直る。リンボが『丑怨御前』と呼んだ大怨霊は、既にその口内の一点に淀んだ魔力を収束させて……広げられた顎が、砲口となって此方に狙いを定めた。
直後、空に浮かび上がる複雑な紋様、カルデアを表す魔法陣。かの騎士王の宝具すら凌ぎ切った守護の輝きが今、顕現する――!
「……ご先祖様」
「婆、喋るんじゃねぇ。舌噛むぞっ……!!」
――業ッッッ!!!
「「「っ……!!!」」」
皆の口からうめき声が漏れ出た――足元から伝わる揺れ。身体を貫く衝撃。耳を劈く轟音。身を竦ませるには十分に過ぎる。着物を纏た童女だけが、僅かに顔を顰めている。
巻き起こったのは、正しく嵐。マイナスエネルギーの大噴火。溢れ出て、荒れ狂い、指向性すら殆ど存在せず、暴風雨が如し。ただ吹き付けるだけでも、マシュの守りを軋ませる程の奔流――破壊の余波で、瞬く間もなく本造院の屋敷が吹き飛ばされてしまう。地面が容易く砕け、割れて、削れた土すらも塵となって消えていく。
マシュが守る僅かな範囲以外、近くに居たら致命傷は避けられなかっただろう。
……時間にして、多分十数秒くらいだったろう。しかし、受け手の自分達には永遠にも感じる程の時間だった。
「っはぁ……くぅっ……」
「皆さん、大丈夫ですかっ……?」
身体に響く疲労感。疲れ。それらを頭を振って払い飛ばし、周りを見渡した。一応の確認だが……誰も大きなケガはしていない。自分と同じように、疲労はしている様には見えるが、まだまだ元気そうだ。
「……頭ガンガンする」
「おなじく~……喧しいわぁ」
「か、関節がっ……ったく、年寄りにはキツいねぇ」
「大丈夫です。まだまだ、戦えますっ……!」
取り敢えず、カルデアチームは少なくとも戦闘継続に支障なし。お婆さんも無事――少し安心した。そう思って、姿勢を正し顔を上げて……ふと、空を見上げた。
――その瞬間だった。
『まだだっ! 二人共油断しちゃダメだっ! まだ、まだ敵の宝具が来る!』
「あ――」
天に浮かぶ、黒い太陽を見た。
その元に浮かぶ、黒い影。緩やかに掌を天に向けて、微笑みを浮かべた男、芦屋道満の姿が嫌にハッキリと見えてしまう――次に体を突き抜けたのは、先程とは比べ物にならない程の心臓を抉る様な悪寒だった。
間に合わない。防げない。そう理解してしまったからこその。もう一画を切るか、一瞬の惑いの間にも、リンボの内の魔力はどんどん膨らんでいって――
「光の時間……ここまで!」
「――いいや、そうでもない」
天より、悠然とした微笑みが此方を見下す――その視線の眼前を『青白い流星』が瞬間に、横切った。
「……ンン?」
「ここまで耐えた、我が共犯者の勝利だ――墜ちろ」
間の抜けた声が、口から漏れた――いつの間にか引き裂かれたリンボの胴。その直後に輝く軌跡が、今度は大怨霊の瘴気を噴き散らす。
風切り音と共に重なる無数の飛翔。怒涛の連続攻撃が、相手に抵抗する事すらも許さず正しく敵を『削って』いく――隣で、マシュがほっと一息ついたのが分かった。宙に靡く黒い外套、何時も美味しい所を持っていくニクい彼。
その果てに分かれた『無数の人影』の掌に、煌々とした明かりが灯る。
そこから放たれるは浄罪の焔。光線の様に一点へと収束した熱量は――ビッグバンの様に、急激な増大を成すと共に、一気に弾けた。
「――っ……!!」
目を焼く程の眩い旭光。
それを遮る様に、目の前に降り立つ、その頼もしい背中に……少しの愚痴と、冗談交じりに呟いた。此方を振り返るアンバーの瞳が弧を描く。
「もうちょっと早く来てくれても、良かったんじゃない?」
「そう言うな。これでも急ぎ済ませて駆け付けたのだからな」
――『虎よ、煌々と燃え盛れ』
巌窟王――エドモン・ダンテス。彼の宝具は誰よりも『疾い』。それが、リンボの宝具を潰す大きなアドバンテージとなった。
ふと空を見上げれば……黒い太陽は消え失せて、血の様に赤く染まっていた空もいつの間にか、抜けるような青空に変わっている。リンボの干渉は、打ち払われたのだろうか。
「……やってない、よね」
「あぁ。油断するな。ここからだ」
――この程度で倒せているのであれば苦労はしない。
光のドームが晴れた先。先ず見えたのは、巨影。そしてその前に立つ男の姿も。ダメージを負っている様子は……あるが。それでも此方を嘲るようなその笑みに滲む、確かな余裕が。此方の緊張の糸を張り直させた。
「全く……無粋な事をなさる。折角のもてなしだったのですが」
「付け入る隙を見せたのは其方だ――それに、其方からのもてなしなら、もう十分程に受けている。誰もがとっくに飽いているだろうよ」
巌窟王のその言葉に応えて。
マシュとリリィが、隣に並ぶ。くつくつと笑いながら、酒呑童子と康友が更に一歩前へと出た。そうして、臨戦態勢に入った此方を威嚇するかの様に――
――K i y a a a a a a a a a a A A A A A A Aッ!!!!
リンボの背後から、再びけたたましい金切り声が上がる。
空気を震わせ、纏わりつく泥の様に淀ませる、邪気を孕んだ怒りの叫びだ。
巌窟王は――そんな恨みの塊である巨躯を一瞥して。それから『フン』と何処か苛立たし気に鼻を鳴らしてみせる。その瞳に、焔が宿ったのが、自分からもはっきりと見えた。
「……ここまで見抜けなかったとは、オレの嗅覚も鈍ったか。それとも、その内にいたから見抜く事も叶わなかったか」
「どういう事?」
「外を調べてみて、漸く分かった――この村そのものが、アレの『土壌』だ」
彼の一言に目を見開く。言われてみれば……アレを作り上げた瘴気は、村全体から吹き上がっていたようにも見えたが、しかし。ドクターやカルデアの調査にはそんなものは引っかかっていなかった。
……いや、それとも。
それが『普通』になってしまう程に、あの呪いは、遥か昔からこの村に?
「……案外、その辺りなのやもしれん」
「え?」
「兎に角、今はあの怪物をどうにかするのが先決だ。そうすれば――中々に面白いものが出て来るやもしれんぞ」
……彼にしては珍しい言い回しだ。そして、その視線の先には、康友の姿。
その意味を考える前に――リンボの指し示すままに、黒い影が爪の切っ先をだらりと下げて……此方へ向け、前進を開始した。慌てて思考を目の前へと向け直す。
伽藍洞である筈の髑髏の眼窩が、此方を真っすぐに睨み付けた様な、そんな気がした。
ちょっとずつ伏線を回収していってる……つもり。