FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
――愚かな妹だった。
気が利かなかったし。デカいし。私達と違って、成長する。変に気にしいな、小心者な所もあって……だから出来るだけこき使ってやった。何も気にならない様に、と。
ああでも――私の妹。たった一人の、妹。
あの子の匂いがする男にあった時。それを見た。
焔の中で、あの子を討ち果たす……男の姿を見た。
それは、あの子が私の妹だったからこそ見えた物だったのか。それとも……あの子の無念が。滅ぼされた怨念が、私に景色を届けたのか。
ああ、本当に、愚かな子。
私は。生前ですら滅多に抱かなかった、どす黒い物を、胸に抱いた。私達に傅いた、愚かな勇者気取りに抱いた、憐れみや侮蔑ではなく……そんな、立場が下の者に抱くそれじゃなくて。
ここに在るのは、明確で、しっかりとしてて、そして。他者へと抱く……ああ。そうだ。これが……
「――あら、其方の殿方は、少し残って下さる?」
リアルな、怒りという、感情なのだと思う。
「――くっ!」
「あら、どうなさったのかしら? 私――か弱い神なのに。もっとか弱い存在が目の前に居るわ。とっても不思議。ああでも……仕方ないかしら」
――日ノ本において、御霊……神という物は、男神、女神に関わらず、あらぶれば恐ろしい物として語り継がれてきた。では。外の国では?
その答えとなるかは分かりませんが……目の前の女神、ステンノ様は。間違いなく神と呼ぶにふさわしい力を有している、と思いました。
彼女は、確かに御自ら戦う苛烈な力を有している、とは言えません。それでも、適当に魔力を振るうだけで、それなりの『力』へとなるのは、正に神の御業かと思いますが、しかし。そこではありません。真に恐るべきは……
「こんなにも逞しい勇士様達が、力を貸して下さるのだから……」
「くっそ。なんだ此奴ら……おんなじローマの兵隊だってのに、迫力が、って言うかパワーが全然違うぞ!? ドクター!? そっちはどう!?」
『ダメだ、通信が繋がらない。完全に分断された! それより、気を付けてくれ。彼ら明らかに正気じゃないぞ!』
「そんなん見てわかるわ! この可笑しなパワーはなんだってんだ!」
彼女は、マスターを呼び止めて、こう言いました。
『何も聞かず、ここで散ってくれるととても嬉しいのだけど』
『え、いやですけど……?』
その直後。
いやでもそうなって貰う、と言った女神様の、その号令一つで現れたのは……無数の兵士達。ネロ陛下の指揮する側、ではなく。我々に敵対する側のローマの兵隊達ではあるのでしょうが何処か、様子がおかしい事は直ぐに察しが付きました。
胡乱な目。一言もしゃべらず、ただ彼女の周りに跪くのみ。
「たくっ! 式部さん、平気か!?」
「申し訳ありません……引き剥がせません……!」
『くっ、キャスターのサーヴァントの腕力の貧弱さに加えて、五人がかり、』
まるで、女神の操り人形。
彼らは、油断していた私を、凡そ五人がかりで拘束し……そしてマスターに、残りの五人程が差し向けられたのです。その間も、一切の言葉を紡ぐことも無く、一つ頷いて動き出す。
不気味でした。
熱狂的なあのローマの兵士達とは対照的に過ぎるその姿は……
「――一つ聞く。アンタは」
「どっちのローマにも付いていないわ。嘘は吐いていない」
「じゃあこの兵隊は、なんだ」
「彼らは、私に力を貸してくれる、勇士様よ?」
「はっ……力を貸してくれる勇士様が、こんな精魂抜き取られたような無気力野郎と、ちょっと見る目が無さすぎないかい?」
「いいえ? 現に、貴方を苦戦させるくらいは出来ているわ。私の為に……全てを燃やし尽くして戦ってくれているのよ? 権能すら持たないか弱い女神の為に」
そこから、何となくですが、想像が出来ました。彼女の、本当の力という物……恐るべき力とでも呼ぶべきもの。
神にも、色々あるとは、あの女神様もおっしゃっていた事。しかしながら、彼女の言う自らの在り方……『愛玩される女神』というのは、少し違ったのかもしれません。
正確には『人を狂わせる程に、魅了する女神』。その凄まじき美貌で、それに惹かれた人間を操り人形にすら変える。そんな力。
権能を持っていない、という言葉は真実かどうかも分かりませんが、しかしながら彼女は……
「……俺、何かしたか?」
「えぇ。少しばかり」
「心当たりがないんだが……教えてくれないかね」
「あらそう。じゃあ――知らないまま、死んでいってくれないかしら?」
今、彼女は目線一つでマスターへと、兵隊を向かわせている。その兵隊たちは、自らの国、ローマも忘れ……目の前の女神に心酔し、彼女の手足としてマスターに襲い掛かっているのです。彼女の美貌に、魅了され。
彼女にとっては、人をそうして操る事等、権能すらなくても容易い事なのでしょう。
そんな屈強な男達に囲まれながらも、マスターは器用にそれを避けていますが……動にもおぼつきません。戦場において、彼らと同業の相手に、一歩も引かずに戦っていた時とは、明らかに違います。
「ったく、戦場ではどれだけ式部さんの存在がデカかったか……実感する!」
「きょ、恐縮です!」
「あら、よそ見している余裕があるのかしら?」
「ねぇけど唯の現実、逃避だよ! くそっ、四方八方から本当に……!」
マスターが戦場で戦って来た時。極端な話をすれば『多対一』という事はありませんでした。私に向かってくる兵を真っ向から、一対一で叩き潰しているだけでしたから。しかしながら……今は?
周りに二人どころか、五人がマスターを取り囲んで、襲い掛かっている現状。
マスターの顔には目が幾つもあるわけありません。人間ですので、二つほどしかありません。死角も多いです。向こうの方が数も多ければ目も多い単純計算、相手の方が五倍は有利なのです。当然、マスターが暴れられないのは必然でしょう。
故に。
「ったく……怪我してもしらねぇぞ……!!」
起動するは、マスターの礼装。
額より生える電の如き角と……その輝きとは正反対の苦々しい表情が、女神に向けられました。
「――へぇ?」
「ったく、何度起動しても慣れねぇな、この感覚……」
「面白い芸を持ってるじゃない」
「芸かどうかは、その屈強な勇士様で試してみたらどうだ」
それに返されたのは言葉では無く、彼女の言う所の勇士である、ローマ兵の襲撃。静かな、低い突進を前に、マスターは何か身構える事も無く。
まず、突撃を一歩、左に寄る事で横に躱す動きを……その後ろから、もう一人。
危ない、という暇もなく、マスターの裏拳がその後ろからの襲撃者の中心に。直撃。声も無く、後ろに崩れ落ちました。
間髪入れず、自分の目の前を通り抜ける男の胴に、膝。一撃。
「勘弁しろよ」
「「「――」」」
そこから、崩れ落ちた二人を一切気にすることなく、残り三人が三方向から、ゆっくりゆっくりと、距離を詰めようと――した所で、マスターから見て前方に先に距離を詰めたのは、マスターの方でした。
踏み込み、振りかぶり、一発。横っ面を殴り飛ばし。
揺らいだ体を土台に、反対へと跳躍し。後ろから迫っていた男達に向けて、自らの体を振り回し、蹴りを以て、薙ぎ払う。
勢いそのままに、豪快に砂浜にそのまま転がりながら態勢を立て直した時には……もう、男達は砂浜に全員崩れ落ちて居ました。
「幾ら様子がおかしいって言ったって、体は人間だろ? だったらやれない事も無いわけでさ……つっても、パワーに振り回されちまってるか。これじゃ。やっぱあんまり慣れてないなぁ。やっぱ、あんま乱発するもんじゃないなコレ」
「――」
「で? どうする? そっちの奴らも、嗾けるかい? ただ、そっちは一人でも欠けたら一瞬で吹っ飛ばされると思うけど……」
マスターの言葉に。
ステンノ様は、ただ……少し、肩をすくめてから。ゆっくりと、両の手を天へと掲げ。
「降参」
とだけ、言ったのです。
礼装起動状態をちゃんと書いて無かったので。取り敢えず。