FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第十九章・裏:女神の戯れ 後編

「――妹を殺した人間が、目の前に立ったことはあるかしら?」

 

 どうして、こんな事をしたのか。

 その、ドクターの問いかけに帰って来たのは、その言葉でした。

 

 息を飲んだ音が、自分の耳にもはっきりと聞こえた気がしました。

 メドゥーサ。蛇の女怪。彼女の妹……先ほどまでは、全くもって結びつかなかった一人の顔と、その名前が結びついたのは、二つのヒント。

 私……いえ、私達が打ち倒した女性。そして、藤色の髪。

 

 覚えがない、訳がありません。

 

『――やはり小癪にも、サーヴァントを召喚していましたか。諦めの悪い事』

 

 あの時、燃える火の中で討ち果たしたシャドウサーヴァント……彼女は、しっかりと話しそして、その美しい姿も、ハッキリと保っていました。

 彼女は、魔性と成りながらも、その美しい貌を失わず。そして、その特徴をよく覚えていました。

 私とマスターが討ち果たしたあの女怪こそが、恐らくは……

 

「……そうか。じゃあ、妹さんの敵討ちって訳かい」

「敵討ち、なんて面倒臭いししないわよ。けれど、目の前に立たれると、案外と目障りに感じるのよね」

「目障りかぁ」

「えぇ。だから目の前から排除する。出来れば、永遠に……失敗したけど」

 

 漸く。彼女がマスターを急襲したその理由というのは、そこに有るという事を理解したのです。彼女にとっては……マスターは、サーヴァントとはいえ、妹を殺した存在に他ならない、と。

 

「……一つ、聞かせなさい」

「何かね」

「アンタは、どうしてメドゥーサを殺したの」

「やれなきゃやられてたから」

 

 ……それをマスターも理解していると思われるのに、何故マスターは顔色一つ変えずにそういう事が言えるのか。

 

「直球ね」

「嘘ついても何の慰めにもならないってのは、一番良く知っておりますから」

「あら、貴方も誰か殺された事がございまして?」

「んー……殺されたかどうかは兎も角、近しい人が亡くなった事はある、かな」

 

 そう言うマスターは、お嬢さんの気持ちに寄り添えはしないけど、と最後に付け加えて。岩の上でぱたぱたと脚を揺らす、ステンノ様の前にどか、と腰を下ろしました。如何に体格差があろうとも、地面と岩との高低差もあって、多少見上げる形になります。

 状況的に、追い詰められているのは多分ステンノ様なのですが、しかし地面に座り込むマスターを見下ろすその姿は、実に様になっている気がします。

 

「ふふ、私の怒りを鎮める積りが無いのかしら?」

「そう言われても。最初の発言で『あぁ、これは何もしようがないな』って言うのは悟ったし」

「悟った?」

「近しい人が亡くなった。その想いは、他人にそう簡単に慰められるものじゃない。ましてや、神様の心なんて慰めるやり方知らんよ」

 

 一方のマスターはと言えば。

 何か特別、気持ちを顔に出しているという感じではありません。世間話でもするかのような感じで、ステンノ様に話していらっしゃいます。

 人の死について話しているとは思えない程にあくまで普通な……恐らくは、もうしっかりと心の整理を終えて、その方との別れを済まされて……話をしているのでしょう。

 

「……とはいえ、まぁアンタと話しが合う部分があるとすれば、亡くなったのはアンタと同じ、妹だった事かねぇ」

「――!」

 

 ですが。

 その次に出て来た言葉には、私の方が度肝を抜かれました。

 

 顔に出来た傷を撫でるその仕草で、ハッキリと思い出せます。マスターの顔に傷を作ってしまった、というエピソードを、恥ずかしげに、でも懐かしそうに、楽しそうに話していたのが。

 あの時のマスターは、ただ妹さんとの思い出を語った訳では無く。二度と戻らぬあの日を思い出して……

 

「……そうなの」

「あぁ。可愛い盛りでな。本当に。俺より先に……あんときは、結構きつかった」

「ふぅん」

「今のアンタの気持ちとは、まぁ違うだろうが……妹を想う気持ちは、一応知ってるつもりでは、ある」

 

 ステンノ様は、その言葉に微笑みを……嘲笑うかの様に、浮かべました。

 

「だから元気を出せって?」

「そうは言わんよ。俺自身、そんな事言われたら言った相手ぶん殴りたくなるからな」

「じゃあ私はどうすれば良いのかしら?」

「――さて、な。逆に聞きたいんだが。女神様」

 

 相手は、サーヴァントです。それも神霊の類……もし戯れに彼女が目の前のマスターに手を出せば。どうなるか。

 だというのに、マスターは、時折、此方に視線を寄こすのです。私が動こうと、そうする前に。私を制するように。

 

「俺を粉みじん、肉片に変えたとして……それで気が晴れるか、って話」

「何を言うかと思えば。敵討ちとかではない、といった筈だけれど?」

「あぁそうかもしれない。でも俺が目障りなのには変わりない訳だ。それで? その目障りな気持ちは……俺の醜い死にざまを見て、晴れるようなもんなのかね」

 

 マスターは、酷く自然体でした。

 恐れている様には見えません。ステンノ様の目を、真正面から見ていらっしゃいます。ただ、見ているかと言って、何かしらを伝えたいような……そんな気迫もありません。

 本当に、世間話でもするかのように。

 

「俺は……もし妹に、仇が居たとしても。そいつを八つ裂きにした所で、なんの気持ちも晴れないし、どうにもならんと思うよ」

「あら、どうしてかしら?」

「想像出来るからかなぁ……多分、妹は喜ばないし、だからといって俺を叱ったりもしないんだよ」

 

 優しい子だからなぁ、と。マスターは、笑っていらっしゃいました。

 

「多分、困ったように笑うだけだと思うんだよ。うん」

「何も言えなくて?」

「そうそう。まぁ死者がどういう反応するかは分からないけども。少なくとも、俺が知ってるアイツはそう言う反応をするんだろうなぁー……って。思っちゃうわけで、さ」

「……」

 

 マスターのお顔は、何方かと言えば、険しい方に属すると思われます。表情を見て居れば、どんな気持ちなのかは分かる位、表情は豊かですが、それでも顔つきの険しさは多少印象には残る方です。

 ですけど……今のマスターの顔は。普段の険しい顔つきが薄れるほどに、優しくて。それでいて、何処か寂しげで。

 

「なぁ、神様よ。アンタの妹さんは……どんな顔すると思う?」

「――さぁ、どんな顔をするかしらね。そんなの考えるのも面倒だけど。でも。えぇ。少なくとも……」

 

 その先をステンノ様は、呟きはしませんでした。

 けれども。その顔には、マスターと同じような色が含まれている気がしました。嘗てを思い出す様な。懐かしむ様な。戻らないそれに、手を伸ばすような。

 

「……」

「だから、許してくれって懇願もしない。だからって好き勝手にしろとは言わない。アンタが……アンタの妹さんが、どんな顔をするかで、決めてくれ、とは言うかな」

「――別に、メドゥーサの為なんて言って無いでしょうに」

 

 ――その後、ステンノ様は、マスターに何をするでもなく、岩に腰かけたまま。

 ドクターからの追及をするすると躱しながら。マスターのハゲ頭に、時々その足を乗せたり、額を軽く蹴っ飛ばしたり。マスターは、それに特に何をするでもなく、されるがままになっていました。

 何と言うか、その姿は……女神というか、何処にでもいる少女の様にも見えて。

 

「ねぇ」

「なんですかい」

「貴方の妹は、どんな子だったのかしら」

「あー……お転婆な子でしたよ。俺の顔面、こんなにするくらいには」

「そう。手が掛かったでしょうね」

「そりゃあ、ね。でも、手が掛かる分、本当に可愛かったですよ」

 

 マスターは、ただ女神の言葉を聞いていました。慰めを言う事なく。此方から声をかける事も無く。ただ、ただ女神様の言葉を、黙って。落ち着いて。先を促す事もせず。ステンノ様の赴くままに。

 ロマニ様の救援要請を受けて、駆け戻ってきた藤丸様達が、その光景を見て、首を傾げるまで。ずっと、ずっと。

 




お転婆(包丁を事故で顔へポーイ)
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