FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「――先生的には、どう見立ててる?」
「何がだね」
「僕らのパトロン、について。考えが無いわけでもないんだろ?」
「……」
――戦局は、やはり現皇帝ネロの率いる正規ローマ側の有利から始まった。
此方もそれなりには戦力を整えているし、サーヴァントも居る。精力的に言っても、此方の方が総力では上かも知れない。此方には、『聖杯』というインチキがあるのだからそれが当然なのだが。
それでも現状、ネロの側が圧している理由として……個人的な感想を言えば、向こうと此方では、圧倒的に向こうに『熱』と『勢い』という物がある、と僕は思っている。
戦というのは、戦略と戦術、そして総戦力。その合計で決まる……のであれば、らくなのだけれども。
やはり、人同士がぶつかり合うのだ。不確定要素でひっくり返る事だってある。
その内、重要な要素の『熱』と『勢い』だ。
彼らは、自らが正当な皇帝を頂き。そして、その皇帝がローマを守るために奔走しているという、その自覚がある。祖国への熱、敬愛する皇帝への熱。それは正しい形の『熱』に他ならない。
自らが『白』の中に居る事を強く実感している人間ほど、ここぞという時に強い人間はいない。迷わず、全てを傾けられる、というのはとても重要な事なんだ。
そして……『勢い』。
ネロ帝率いる現行ローマは、今まで、負け続け。それこそ僕でも分かる程、暗雲立ち込める状況だったと思う。
でも、カルデアという、僕らのマスターが始末しようとしている組織が味方に付いて、そこからの逆転劇は、正に天啓に等しい。
今までが鬱屈とした状況だったからこそ、溜まりに溜まった不満は、連続の勝利によって裏返り、爆発的な『躁』を生み出した。
こうなった群れは、兎に角強い。勢いに乗った軍勢の勢いを止めるには、生半可な作戦じゃどうしようもない。
結論。
一応、先生の作戦等もあるけど、それで止められなかったら、多分彼らはこのまま勝利するだろうというのは、未熟だろうが余りにも分かりやすい結論だと思う。
まぁそうならないようにするのが、僕と先生の役割な訳だけど。
正直、あんまり気乗りはしない。ので。まぁ……こうやって暇つぶしするのも、やむなしと思って欲しい。
「彼らが如何な組織なのか……目的が何なのか、という事かね」
「いや。それは流石に先生でも分からないでしょ。状況的に、向こうは資金、というか戦力提供を積極的に行って、その代わりに自分の情報を殆ど明かしてないんだから」
「ふむ、その辺りは理解しているか。その通り、彼らは自分達の情報を決して明かさぬように徹底している。その点において、私はこの人理の異変を起こした犯人よりも、別の意味で厄介だとは見ているよ」
で。今回の話題は、といえば。
僕らの傍にこうして控えてる、シャドウサーヴァントの提供主様。世界を亡ぼす為の恐ろしい一勢に戦力を提供するという、奇特を超えて狂気の所業を行っている輩だ。
マスターと、あんまり相性が良くない僕に対しても、気前よくこのシャドウを寄こしてくれたりもした……正直、良く分からない輩だ。
「じゃあ、やっぱり恐れているのかな」
「ふむ。恐れているとは……我々を使役している勢力を、パトロンが、かね?」
「うん。彼らの正体は分からなくても、動機は想像する余地がある。一番あり得そうなのは……恐れから」
「戦力を提供する事で、レフ・ライノールと、その首魁に取り入ろうとしている、また自分達だけでも。そう考えれば、自分達の事は知らせないのも、迂闊に知られて弱みなどを握られるのを恐れての行動、という事かな」
僕としては、それが一番自然な気がするのだが……どうやら、先生はそうは思ってはいないらしい。
「その仮説であれば、何故マスターを確保しようというパトロンの意向が反映されているのかが、大きな疑問になるな」
「あー……そう言えばそれがあったね」
「そしてもう一つ。向こうが情報を隠しているのが、恐れから、という理由であれば……寧ろ自分達の腹を晒して無抵抗を示し、その内を隠すような事はしないだろう」
そうした方が、自分達は無力であり、付き従う存在だと示せるわけだからな。という先生の言葉に、確かにと言わざるを得ない。
「そうか。うーん。些か視界が狭かったかな」
そう考えれば、酷く不思議なパトロンだと思う。
パトロンというのは、自分の目的があって投資をするか、さもなくばその投資先に相当の思い入れがあるか……何れにしても、投資する利があってこそなのは大前提だ。
そこを前提として、彼らにとっての『利』という者は、自らの生存ではないか。と思っていたのだが。
彼らにとっての利というものが、他に存在するのか? 正直な話をすれば、僕には一切思いつかない。
何せ、僕らのマスターはシャドウサーヴァントを使い潰してばっかりだ。マトモに運用できているかと言えば微妙に過ぎる。彼は有能ではあるが、戦を上手に運べるタイプかと言えば首を傾げざるを得ない。
そんな相手に戦力を提供する必要が一体何処にあるのか。僕たちのマスターを恐れていないとすれば、提供するだけじゃなくて、自分達で上手に使おうとするのではないか。そっちの方が、自分達の利になり得る。
されど、その僕の考えは、些かどころでは無く、浅い読みだったらしい。
「彼らにとっての利、とは何だろう」
「――君は、酔拳、という物を知っているかね」
「スイケン?」
「あぁ。中国の拳法の一つで、地を転げて『負の中より勝を見出す』という物だ。この拳法の特筆すべきは、『マイナス』の状況の中から自らにとっての『プラス』を見出すという所にある」
「へぇ……」
「この思考は、存外と万物に通じるのだよ」
先生曰く。何時でもプラスの状況からプラスを見出すのではなく、敢えてマイナスの状態になってから、そこより利を見出す、というのも立派な戦術の一つだという。
「彼らが利に合わぬ行動を取っているのなら。その利に合わぬ……一見マイナスの行動の中にこそ、彼らにとってのプラスがある、と考えても良いかもしれないな」
「成程。という事は……彼らを使い潰される事こそ、目的だったりするのかな」
「それは断定できないがね」
使い潰されて。消えて。そして無駄になる筈の戦力提供。それが彼らにとっては、大きな利点となり得る。だから彼らはマスターに問題無く戦力を提供し、浪費させ続ける。そう考えれば。寧ろ、確かにしっくりくる気がした。
それ程に、彼らは無作為に、そして何の躊躇いも無く戦力をドンドンと送り込んで来るのだから。さて、それが分かった所で、僕の脳裏には、新たなる疑問が。
「そうだとして、彼らにとっての利とは何だろう」
「それに関しては、詳しく探るには要素が少なすぎる、と言わざるを得ない」
「それはそうだけど……まぁ、思考実験というか、一つの余興として。やるだけやってみるのも良いじゃないか。どうせ暫くは、僕らも動かないんだし」
それをこうして、相手の戦力を見ているこの段階の時間を使って、少し考えて見たくなった。どうせ『目標』としている彼女を攫うには、まだ時間がかかる。少なくとも、目論見通り『事』が起きてくれないと。
確立次第だが、分の悪い賭けでは無いとは思っている。なら、それまで考え事にふけるのも悪くない。
こういうのは、若い僕の良い所だと思う。大人の僕よりも、更に好奇心という物が疼いてたまらない。
「であれば。まぁ想像を遊ばせる位の事は出来るが」
「例えば?」
「そうだな。例えば、彼らを使い潰す、という一点において思考を巡らせてみようか。敗北において生じる『利』と言えば。何が存在する?」
「失敗、敗北は次につなげる事こそ寛容。『経験』かな?」
「そうだな。多くの敗北、失敗は。沢山の経験を生む。それを生かし、次の成功に繋げる事こそ成功者の秘訣と嘯く事もある」
「彼らを使い潰した、『敗北』の経験を欲している?」
「実験というのであれば、多くの失敗は寧ろ賞賛されるべき事ですらある」
シャドウサーヴァントを大量に送り込み、敗北させ。いや、無数の敗戦を重ねさせる。そこから多くの経験を得る。もし、その先に大きな成功を見据えているのだとすればそれは確かに大きな『利』となり得る。
「敗北こそが、目的」
「と言った想像も、出来ない事は無いという話だ」
無数の敗北を重ねた結果として……彼らが成長し、強くなったりすれば。それは確か大きな利点となり得るだろう。
「だが、それ以上にあるのやもしれん」
「というと?」
「……些かと生々しい話になるが。敗北によって生まれる利というのは他にもある。敗北すれば、その相手に次は勝つ、というやる気、モチベーションになる。それもまた利ではあるが。それ以上に溜まる事があるモノが在る」
「というと、恨み、つらみだったりとかかな?」
「そうだな。相手への恨みは、あらゆる行動への原動力ともなり得るものだ。それを生み出すのが目的……という策も、無いわけではない」
……恨み、辛みを残す為の戦い。
それは次への布石になるのかもしれないけど。しかし。余りにも悪辣な。悍ましい策であると言わざるを得ない。
そんな事を平然と実行できたとすれば。その相手は、余程『恨み』という物事を理解して……その上で。
「『人』とは思えないなぁ、そんな事を当然の様に出来るとしたら」
酔拳の知識は某史上最強の弟子育成漫画から。