FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「――アアァァァアアアアッ!?」
全員が度肝を抜かれていた。
黒い影共が、突如としてブーディカの元へと集まって……突如、消えた。イヤ、消えたというより……黒い靄の様になって、ブーディカの周りに纏わりついたのだ。
直後響いた絶叫に、この場に居る者全て、手を止めて視線を送ってしまっていた。それ程に大きく、そして、胸を抉る様な叫びだった。
悲痛な叫びだった。
「ブーディカ!? どうしたのだ!?」
「先生!」
「――残っているシャドウサーヴァントを即座に片付けるんだ! 彼女にこれ以上近寄らせるな!」
シャドウサーヴァントは、まだ残っている。アレらがブーディカに異常を引き起こしたとするならば、その指示は確かに正しい。だが、先ずは……あやつをどうにかせねばならぬのだ。
「皇帝陛下! 残りは俺と式部さんでやる! アンタはブーディカさんを」
「――済まぬ!」
それを汲んでくれたのか。本造院と、式部がシャドウサーヴァントを蹴散らして。それに一言だけ返して、藤丸と共に、急いでブーディカに近寄った。
ブーディカは……頭を押さえ、声にもならぬ呻き声を上げて苦しんでいる。病か。呪いなのか。いずれにせよ、放って置けるような状態ではない。
「ブーディカさん!」
「私が抱えます!」
「急げ! 直ぐに医者……魔術師でも良い! 兎も角専門家の元へ!」
今は多少後退する事に成ろうとも。連合ローマを倒す為の人材を失う訳にはいかぬ。ならば今は――
「――ブーディカさんから離れろ!!!」
「お前らを……許さない!」
――そう考えていた、本当に、一瞬の事だった。
余の反応が僅かでも遅れて居たら死んでいる。それを、額から流れる紅い血が、証明していた。浅く切れている。本当に、僅かに切っ先が掠っただけだというのに。
そして何よりも、その剣には……殺気が乗っていたのだ。
「ネロ陛下っ!?」
「ブーディカさん、何を!」
「ローマ……ローマ……私の、大切な物を……奪った……! お前らを!」
抜き身の剣を揺らし、だらりと盾を下げ。髪を振り乱して此方へと迫ろうとする幽鬼の如きその姿……可愛がっていた、盾の少女すら睨みつけるその眼光に、最早正気は宿っていない様に見える。
こうなった原因について、知っているとすれば恐らくは。あのシャドウサーヴァントを従えていた二人だろう。
「藤丸! マシュ! ブーディカを抑えよ! その間に……そちらの二人に余から聞く事がある……!」
であるならば。
ここで短慮を以てブーディカを切り捨てるのは、皇帝として正しい行いでは無い。可能性があるなら、救える可能性を捨ててはならぬ。故に、カルデアの四人の戦力から考えて今の所、ブーディカを止めるのに最適な人材を選び、命を飛ばす。
二人が時間を稼いでくれているその間に、何としてもあの異常について聞き出して、ブーディカを助ける。否、助けねばならぬ。
だがそう思って振り向いた先。アレキサンダーの表情は、優れぬ。
「――君が望む様な事は、僕は知らないよ。残念ながら」
「ほざくな……! 知らぬ訳が無かろう!」
「いいや、本当だ。アレは僕のマスターと提携しているパトロンから無償で提供された戦力でね。運用しろ、との命令を受けているだけで、詳細は僕らも知らされていない」
「なんだとぉ!?」
思わず、殴り飛ばしそうになった。そんな物を戦力として投入する等と。連合ローマは何を考えているというのか。
「くぅっ……!」
「どけっ! ローマを……皇帝を! 殺す! 仇を取るんだ!」
「ブーディカさん、落ち着いてください! 今、我々が戦うべきは、ネロ陛下のローマでは無く……!」
「許さない! 此方を向け皇帝! 私と戦えぇ!!」
もし。
もし、戦場で、指揮官があの影に取り憑かれようものなら。最早正常な判断も出来なくなるやもしれぬ。ブーディカの様に、感情のままに全てを亡ぼす様になったなら。そうなったなら。誰がその暴虐を止めるというのか!
「――とはいえ、アレを放置していたのは確かに僕に責任がある。先生」
「……アレをどうにかしろ、と言われても、無茶振りでしかないぞ」
「それでもやるしかない。ここで僕らがやらなきゃ――ネロ・クラウディウス。一応僕らも加勢する。僕は何処までやれるかは分からないけど……先生は『はぐれ』だ、マスターの影響を受ける事もない。頼るなら、彼を頼ってくれ」
「ぐぬぬぬ……!」
正直、改めて殴り倒してはやりたい。しかしながら、今そんな事をしている時間も何も無いのだ。ブーディカを正気に戻してやらねばならぬ。
正気に戻す……否、アレがもしやすれば、ブーディカの、本音なのやもしれぬ。だがそれを受け止めるのは、偽りのローマを討ち取ってからだ。今ではない。
ブーディカを……処すのは、最悪の、最悪の場合だ。連合ローマとの戦いにおいて迂闊に戦力を浪費するなど、愚の骨頂だ。ならば先ずは余が。皇帝として知恵を巡らせねばならない。だが、余一人で突如として変貌したブーディカについて、解決は……出来ぬ。
故に、今はこの軍師と言う男が何処まで役に立つか、という話になってくる。
「それで! 其処な軍師! 何か妙案は!!」
「無い」
「ふざけるな! 冗談は通じんぞこの状況で!」
「落ち着け。今は無い、という話だ。私はどんな魔術も一発で看破するような、そんな大それた術者ではない。故に……見て判断する必要があるのだ。アレが、どんな術式なのかをな」
……未だ実力が見れた訳ではない。しかし、未だこの状況で冷静さを失わず、落ち着いて対応が出来る辺り、間違いなく優秀な軍師ではあるのだとは思う。
「ただ私見になるが、あの状態は……一種の憑依現象にも見える」
「憑依?」
「そうだ。悪霊などに憑かれた時のそれと酷似している。ああいう類は、当人の正気を失わせるモノが多い。到底本人の物とは思えぬような言動をしたり、と」
そう言われると、確かにそうではある。
あの取り乱しようもそうだが、何よりも先日までアレだけ可愛がっていたマシュに、何の躊躇いも無く剣を振り下ろすその姿は、確かに正気を保っている様には……一見見えぬ気がする。
さりとて。余が見る限りではあるが。その目が狂気に囚われているようにも見えぬのも確かだ。
「……伯父上の様ではない」
「む?」
「正気を失っている。狂気に囚われている……伯父上の事を何度も見た。アレは……もうどうしようもない。言葉も。理性も。全て」
伯父上も、彼女の様に、余を狙っていた。だが、感情のままに、余を守ろうとする者どころか、周りにも関係なくがむしゃらに突撃して来るその姿。まるで爆炎の様に撒き散らされる感情の渦。そんな印象を抱いた。
「――退いてっ! そいつを!」
しかし、ブーディカはどうだ? 彼女は……余に、ローマに。明確に恨みを向けている様に見える。
マシュの盾に阻まれつつも、剣を振るい……彼女を横へと押し除けようと足掻き。その癖、視線は余から一切外れていない。ブーディカは、間違いなく余、ただ一人を殺そうとしている。
その感情には、明確に指向性がある様に見える。伯父上が爆炎ならば、ブーディカのそれは槍の如く、鋭く、一点を狙って来ている。
「くっ……い、かせません……!」
「ローマだ! 私が殺すべきは……! ローマなんだ、ローマだけなんだ!! アンタ等じゃない! 邪魔、しないで!」
「マシュ! 礼装で強化を入れる、持ちこたえて!」
「わかりました!」
その研ぎ澄まされた殺意に、ブーディカは……
「……一つの感情に、振り回されている様にも見えるのだ。余には」
「そうなる様に、仕向けられていると?」
「あくまで、個人的な意見ではあるが……本当に正気を失った者とは、似て非なるものなのではないか、と」
「ふむ」
正直。こうしてのんびり考えている場合なのか。余としては、今すぐにでもブーディカを助けねばならぬ、と思わないでもない。だが……余の感情のままに突っ込んで、あやつを失う事になれば。
「成程、悪霊の類とは少し違う、か……そうなると」
「――ねぇ先生」
「ん?」
焦る心に、ふと聞こえる少年の声。
ふとその方向を見てみると……カルデアの女術師、式部に親指を指す、アレキサンダーの姿。どうやら、シャドウサーヴァントの殲滅は終わった模様だった。
その表情は……勇気を出して腹をくくったかのような顔をしていた。
「彼女、何か思う所があるみたいだよ?」
アヴェンジャイ!!