FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第二十三章・裏:憎しローマ 前編

「――アアァァァアアアアッ!?」

 

 全員が度肝を抜かれていた。

 黒い影共が、突如としてブーディカの元へと集まって……突如、消えた。イヤ、消えたというより……黒い靄の様になって、ブーディカの周りに纏わりついたのだ。

 直後響いた絶叫に、この場に居る者全て、手を止めて視線を送ってしまっていた。それ程に大きく、そして、胸を抉る様な叫びだった。

 

 悲痛な叫びだった。

 

「ブーディカ!? どうしたのだ!?」

「先生!」

「――残っているシャドウサーヴァントを即座に片付けるんだ! 彼女にこれ以上近寄らせるな!」

 

 シャドウサーヴァントは、まだ残っている。アレらがブーディカに異常を引き起こしたとするならば、その指示は確かに正しい。だが、先ずは……あやつをどうにかせねばならぬのだ。

 

「皇帝陛下! 残りは俺と式部さんでやる! アンタはブーディカさんを」

「――済まぬ!」

 

 それを汲んでくれたのか。本造院と、式部がシャドウサーヴァントを蹴散らして。それに一言だけ返して、藤丸と共に、急いでブーディカに近寄った。

 ブーディカは……頭を押さえ、声にもならぬ呻き声を上げて苦しんでいる。病か。呪いなのか。いずれにせよ、放って置けるような状態ではない。

 

「ブーディカさん!」

「私が抱えます!」

「急げ! 直ぐに医者……魔術師でも良い! 兎も角専門家の元へ!」

 

 今は多少後退する事に成ろうとも。連合ローマを倒す為の人材を失う訳にはいかぬ。ならば今は――

 

「――ブーディカさんから離れろ!!!」

「お前らを……許さない!」

 

 ――そう考えていた、本当に、一瞬の事だった。

 余の反応が僅かでも遅れて居たら死んでいる。それを、額から流れる紅い血が、証明していた。浅く切れている。本当に、僅かに切っ先が掠っただけだというのに。

 そして何よりも、その剣には……殺気が乗っていたのだ。

 

「ネロ陛下っ!?」

「ブーディカさん、何を!」

「ローマ……ローマ……私の、大切な物を……奪った……! お前らを!」

 

 抜き身の剣を揺らし、だらりと盾を下げ。髪を振り乱して此方へと迫ろうとする幽鬼の如きその姿……可愛がっていた、盾の少女すら睨みつけるその眼光に、最早正気は宿っていない様に見える。

 こうなった原因について、知っているとすれば恐らくは。あのシャドウサーヴァントを従えていた二人だろう。

 

「藤丸! マシュ! ブーディカを抑えよ! その間に……そちらの二人に余から聞く事がある……!」

 

 であるならば。

 ここで短慮を以てブーディカを切り捨てるのは、皇帝として正しい行いでは無い。可能性があるなら、救える可能性を捨ててはならぬ。故に、カルデアの四人の戦力から考えて今の所、ブーディカを止めるのに最適な人材を選び、命を飛ばす。

 

 二人が時間を稼いでくれているその間に、何としてもあの異常について聞き出して、ブーディカを助ける。否、助けねばならぬ。

 だがそう思って振り向いた先。アレキサンダーの表情は、優れぬ。

 

「――君が望む様な事は、僕は知らないよ。残念ながら」

「ほざくな……! 知らぬ訳が無かろう!」

「いいや、本当だ。アレは僕のマスターと提携しているパトロンから無償で提供された戦力でね。運用しろ、との命令を受けているだけで、詳細は僕らも知らされていない」

「なんだとぉ!?」

 

 思わず、殴り飛ばしそうになった。そんな物を戦力として投入する等と。連合ローマは何を考えているというのか。

 

「くぅっ……!」

「どけっ! ローマを……皇帝を! 殺す! 仇を取るんだ!」

「ブーディカさん、落ち着いてください! 今、我々が戦うべきは、ネロ陛下のローマでは無く……!」

「許さない! 此方を向け皇帝! 私と戦えぇ!!」

 

 もし。

 もし、戦場で、指揮官があの影に取り憑かれようものなら。最早正常な判断も出来なくなるやもしれぬ。ブーディカの様に、感情のままに全てを亡ぼす様になったなら。そうなったなら。誰がその暴虐を止めるというのか!

 

「――とはいえ、アレを放置していたのは確かに僕に責任がある。先生」

「……アレをどうにかしろ、と言われても、無茶振りでしかないぞ」

「それでもやるしかない。ここで僕らがやらなきゃ――ネロ・クラウディウス。一応僕らも加勢する。僕は何処までやれるかは分からないけど……先生は『はぐれ』だ、マスターの影響を受ける事もない。頼るなら、彼を頼ってくれ」

「ぐぬぬぬ……!」

 

 正直、改めて殴り倒してはやりたい。しかしながら、今そんな事をしている時間も何も無いのだ。ブーディカを正気に戻してやらねばならぬ。

 正気に戻す……否、アレがもしやすれば、ブーディカの、本音なのやもしれぬ。だがそれを受け止めるのは、偽りのローマを討ち取ってからだ。今ではない。

 

 ブーディカを……処すのは、最悪の、最悪の場合だ。連合ローマとの戦いにおいて迂闊に戦力を浪費するなど、愚の骨頂だ。ならば先ずは余が。皇帝として知恵を巡らせねばならない。だが、余一人で突如として変貌したブーディカについて、解決は……出来ぬ。

 故に、今はこの軍師と言う男が何処まで役に立つか、という話になってくる。

 

「それで! 其処な軍師! 何か妙案は!!」

「無い」

「ふざけるな! 冗談は通じんぞこの状況で!」

「落ち着け。今は無い、という話だ。私はどんな魔術も一発で看破するような、そんな大それた術者ではない。故に……見て判断する必要があるのだ。アレが、どんな術式なのかをな」

 

 ……未だ実力が見れた訳ではない。しかし、未だこの状況で冷静さを失わず、落ち着いて対応が出来る辺り、間違いなく優秀な軍師ではあるのだとは思う。

 

「ただ私見になるが、あの状態は……一種の憑依現象にも見える」

「憑依?」

「そうだ。悪霊などに憑かれた時のそれと酷似している。ああいう類は、当人の正気を失わせるモノが多い。到底本人の物とは思えぬような言動をしたり、と」

 

 そう言われると、確かにそうではある。

あの取り乱しようもそうだが、何よりも先日までアレだけ可愛がっていたマシュに、何の躊躇いも無く剣を振り下ろすその姿は、確かに正気を保っている様には……一見見えぬ気がする。

さりとて。余が見る限りではあるが。その目が狂気に囚われているようにも見えぬのも確かだ。

 

「……伯父上の様ではない」

「む?」

「正気を失っている。狂気に囚われている……伯父上の事を何度も見た。アレは……もうどうしようもない。言葉も。理性も。全て」

 

 伯父上も、彼女の様に、余を狙っていた。だが、感情のままに、余を守ろうとする者どころか、周りにも関係なくがむしゃらに突撃して来るその姿。まるで爆炎の様に撒き散らされる感情の渦。そんな印象を抱いた。

 

「――退いてっ! そいつを!」

 

 しかし、ブーディカはどうだ? 彼女は……余に、ローマに。明確に恨みを向けている様に見える。

マシュの盾に阻まれつつも、剣を振るい……彼女を横へと押し除けようと足掻き。その癖、視線は余から一切外れていない。ブーディカは、間違いなく余、ただ一人を殺そうとしている。

 その感情には、明確に指向性がある様に見える。伯父上が爆炎ならば、ブーディカのそれは槍の如く、鋭く、一点を狙って来ている。

 

「くっ……い、かせません……!」

「ローマだ! 私が殺すべきは……! ローマなんだ、ローマだけなんだ!! アンタ等じゃない! 邪魔、しないで!」

「マシュ! 礼装で強化を入れる、持ちこたえて!」

「わかりました!」

 

その研ぎ澄まされた殺意に、ブーディカは……

 

「……一つの感情に、振り回されている様にも見えるのだ。余には」

「そうなる様に、仕向けられていると?」

「あくまで、個人的な意見ではあるが……本当に正気を失った者とは、似て非なるものなのではないか、と」

「ふむ」

 

 正直。こうしてのんびり考えている場合なのか。余としては、今すぐにでもブーディカを助けねばならぬ、と思わないでもない。だが……余の感情のままに突っ込んで、あやつを失う事になれば。

 

「成程、悪霊の類とは少し違う、か……そうなると」

「――ねぇ先生」

「ん?」

 

 焦る心に、ふと聞こえる少年の声。

 ふとその方向を見てみると……カルデアの女術師、式部に親指を指す、アレキサンダーの姿。どうやら、シャドウサーヴァントの殲滅は終わった模様だった。

 その表情は……勇気を出して腹をくくったかのような顔をしていた。

 

「彼女、何か思う所があるみたいだよ?」

 




アヴェンジャイ!!
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