FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「――アレは、恐らくは怨霊の類に取り憑かれているのかと思われます」
口元を抑え、目を伏せて。少し、自信も無さげにそう式部は口火を切った。まずオンリョウ、という言葉に関して言えば……
「ふむ。聞きなれぬ言葉だな」
「時間がありませんので簡単に説明すれば……他人を恨んで死んだ方が、霊の類となった姿、というのが一番分かりやすいかと」
カルデアの女術師曰く。
その怨霊に取り憑かれた人間というのは、その怨霊の感情に引っ張られる事があるのだという事で。確かに……いきなりブーディカが豹変した、というよりは。その取りつかれたことにより、感情が引っ張られている、という方が現実味がある気がする。
「ではあの黒いシャドウサーヴァントが、それだと?」
「……確証は、ありませんが」
「ふむ。どうだ。其処な軍師」
「――シャドウサーヴァントとは、サーヴァントに成り切れなかった者の総称だ。その状態にもよるが……怨霊の如く、呪詛を撒き散らす者も出て来る」
「つまり?」
「それを怨霊の様に定義づける事も不可能ではない。サーヴァント、というのは霊的な存在でもあるからな」
黒い影……シャドウサーヴァント、という者をその『怨霊』という者に寄せるようにして、ブーディカを操っている。
「――という認識で、合っているか?」
「そう、ではないかと」
「では簡単な話ではないか。ブーディカから、そのシャドウサーヴァントとやらを払えば良い。それで終わりであろう?」
「いいや。あくまで仮説な上、霊を体から退散させる、というのは簡単な話ではない。それこそ、専門家の知識が必要な話に……」
そう言われ、自分の浅慮に歯噛みしてしまう。
確かに、自分には怨霊、とやらの知識など存在しない。魔術に類する類の知識であるなら多少ではあるが、門外漢の事に手を出したとて……下手をすれば、それこそブーディカをそのまま失いかねない。
「……専門家」
「えっと……」
「ミス・式部。貴方の知識はどの程度あるのかね」
そう悩んでいた所に、ふと軍師が向いたのはカルデアの女術師。そう言えば、怨霊に付いて、彼女はある程度知識を有していたではないか。
専門家と呼べるかどうかは兎も角として、余たちよりは。
「わ、私は陰陽道を少々齧ってるくらいなので、怨霊の類を払ったり、鎮める方法などはあの……ほ、本当に専門家なんて言えない位で……」
「余達よりはあるのだな?」
「は、はひ」
半泣きになっているが、泣いている場合では無いのだ。その知識が無ければブーディカを助け出せぬやもしれぬのだから。
「――マシュ! 藤丸! もうしばしだ! 時を稼ぐのだ!」
声を張り上げた。
式部と、兎に角出来得る限り最速で詳細は詰めた。後は、実行に移せるか否かという話になってくる。その時ブーディカを如何に足止めをしておけるか。
ブーディカの裏に、既に式部より作戦を伝えられた本造院が密かに回り込んでいる。やはり母国の言葉や文字を理解しているマスターの方が、という事で式部が選出した人材である。
『……俺、式部さんの助手役、慣れてきちゃいそうな気がするよな、いい加減に』
「分かりました! マシュ、もうちょっとだけ、頑張って……!」
藤丸の言葉に答える様に輝く藤丸の服。それに合わせ、マシュを緑の光が包み……些かと圧されていた所から、息を吹き返す。ゴリゴリとぶつかり合っていたブーディカの盾を無理矢理に押し返す。
「了解しました、マシュ・キリエライト……マスターの期待に応えます!!」
重厚な盾がまた、その力強さを取り戻す。
ブーディカの勢いは異常だ。それに圧されるのも不思議では無かろう。しかしながらその後ろには、信じられる仲間の存在が居る。藤丸という存在が、マシュという少女の輝きを更に増すのである。
「ぐっ……!」
「まだです、ブーディカさん……私が……! ここで止めて見せます!」
その気迫は、ブーディカの様な暗い物ではない。決して未来を諦めぬ、強い輝きより生じる強い迫力。決してブーディカにも引けを取ってはいない。否、寧ろブーディカが気圧されている様にすら見えるではないか!
「……(コクコク)」
「ネロ陛下。準備が整いました。後は……」
「うむ。余の出番であるか」
そんな輝きに、余が遅れる訳には行かぬ。皇帝として、仕事を果たす。たとえそれがどのような役回りでも。
「マシュ! もうよい、下がれ!」
「ネロ陛下……!? ですが!」
「そやつは余と話をしたがっているのであろう。であれば、逃げる訳にも行くまい。それにこれ以上はお主も、辛かろう」
「――!」
顔が少し悲痛に歪む。
当然だ。マシュは、誰よりもブーディカに可愛がられていた。そもそもの話、味方であった相手が急に此方を狙う。そんな景色に慣れている訳も無かろう。
そもそも、彼女を止める為に戦うのすら辛かった筈である。
であるならば。本来向き合うべき余が……そろそろ立つべきだろう。
「ブーディカよ! お主の憎しローマが来たぞ!」
「――あぁ、そうだなぁ……ローマ! 私の国を、汚した国! お前を……お前たちを潰せって、皆が叫ぶんだよ……皆って、誰だ……ああそうだ、私の国の皆が!!」
「そうか。お主には、その様な叫びが聞こえるか」
「聞こえるとも! 耳の傍で、囁く様に!! さっきからずっと!」
――それはきっと、あの黒い影が取りついた時、からなのではないのだろうか。
式部の言っている事が本当ならば、あの黒い影共はこの世に恨みを持って死んだ死霊共の群れだ。そ奴らがブーディカの恨みを煽ったのだろう。
ブーディカの耳元に張り付き、あやつが愛した民の名を騙って。
……もしそうだったとして、自らの国の為にブーディカの民を殺した余に、それを責める資格があるかどうか。煽られるだけの恨みを生んだのは、余に違いないだろう。
だが。それでも言いたい。
「――では向かって来い」
「あぁ、行ってやる、お前の元へ、その喉首掻っ切ってやる! お前の全てを奪い去ってやる! 私の国の様に……!」
「ただし! お主の恨みを以てだ!」
「……なに?」
それは、お主の恨みではない。
お主が燃え滾らせた恨みでは無いのだ。ブーディカ。お前が、自分の意思を以て燃え上がらせた恨みであれば。受け止めてやるのもやぶさかではない。しかし今お主が燃え上がらせているのは、元はお主の恨みであって、今はそうではない。
それを受け止めるのは、余には到底出来ぬ。お主自身の恨みで無ければ、余が受け止めるなど、死んでも嫌だ!
「そのように他所からの横やりからの恨みでなど、余は相手してやらぬ!!」
「なんだと!!」
「しっかりと、改めて! お主自身で! 恨みを向けてこい! 正気に戻った後で!」
万が一、巻き込まれてはマズいので一歩下がり……ブーディカは、止まらずそこへと到達した。余達の狙い通りに
向かってくるブーディカ。真っ直ぐ、一直線。そしてその直線上には、誘導するように言われていた、術の円の、中心がある。
「――今です!」
「キャスター二人がかりの対ゴーストタイプの結界だ! 少しは効いて貰わねば困る!」
「なっ!?」
余達の周辺が光り始める。式部と軍師が作り上げた結界が、輝きを以てブーディカを閉じ込めそして……その動きを縛り付けた。
「ぐ、あああ……!」
「先輩、見てください! ブーディカさんに纏わりついていた、黒い靄が……!」
「消えて行く!」
結界の中に満ちる光に、黒い影が少しずつ溶けて行く。それにつれ、ブーディカは少しずつ、地面へと膝をついて行き、そして。最後には地面にゆっくりとその身を横たえて。
その時には、もう……黒い靄は、ブーディカから完全に消え去っていたのだった。式部と、サムズアップを交わした。
その様子を……アレキサンダーが、実に面白そうな顔で見ていたのが、少しイラっとは、した。
主人公の出番? そんな物、ウチにはないよ……