FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第二十三章・裏:憎しローマ 後編

 ブーディカは死んだように眠っていた。とはいえ、命に別状はない。カルデアの姿を見せぬ術師曰く、『酷く疲労させられている』らしい。回復するにはしばしの時がかかるとの事であった。

 とはいえ、無事に戻って来ただけでも儲けものである。そして……後は。

 

 一応、協力していた、というか。停戦関係であった、本来の敵との決着を付けねばならないだろう。それを分かっているのだろう……余の目の前には、アレキサンダーと、その軍師が立っている。

 

「――全く、君を試そうと思っていたんだけど。とんだ水を差されたものだ」

「黙れ。貴様に試される理由も無い」

「あはは、そりゃあそうなんだけども。でもどうしてもと思ってしまって。ごめんね」

 

 しかし。

 どうにも目の前の小僧の様子に、些か毒気を抜かれてしまうのも確かだ。悪意がある様には見えぬのである。歳が若いというのも恐らくは影響しているのだろうが。それを分かっている節があるのが、引っ掛かるが。

 

「けど、試す必要も殆ど無かったと思うよ。例え味方が自分へと襲い掛かろうとも、それが嘗ての因縁に起因するものだろうと……君は堂々真っ向から向き合って見せた。怖気づく様子など、全く見せなかった」

「ふん、当然だ」

「そして……僕との勝負も、最早決着はついたようなものだ」

 

 そう言って傍らの軍師に笑いかける姿にも、何も後ろ暗い所は一切ない。その軍師は頭が痛い、という表情をしているのが何とも言えないが。

 

「全く。アレだけ直接対決の時には援護してもらうだとか色々言っていたくせに、結局はそれか。ひとの事を振り回す性質は若い頃からだった模様だな」

「うん。そうじゃなきゃあ王様になんてなれないでしょ。大人しくて、清貧な王様なんてそれこそ悪い冗談だよ」

「……そうだな」

「何? その顔。何か言いたい事でもある?」

「いいや。無いとも」

「ふーん。ならいいけど」

 

 ――さて。

 という言葉と共に、赤毛の少年は改めて此方を振り向いた。その顔は、微笑を浮かべていた先ほどまでと違い、真剣なものだ。

 

「さて。君達は勝者だ。敗者は勝者に全てを持っていかれるけど。でも僕には奪われる者すらない。死者の身だからね」

「……それがどうした」

「でも、何も無いという訳でもない、って事さ。ヒントを最後に遺すよ。消える前に」

「何?」

 

 消える、とはどういう意味か。そう言う前に、アレキサンダーは腰に履いていた剣を下ろし……そして、大きく手を広げ、胸を張って此方を見つめた。意図も分からず、取り敢えず見つめ返してみる。

 その後、見つめ合う事数秒程。溜息を吐かれた。意図が分からぬのだから仕方ないだろうと言い返したかったが。

 

「君は勝者だ」

「あぁ。そうであるな」

「であれば、敗者の将をどうするかは決まっているだろう?」

「――馬鹿な、戦場では無いのだぞ。将を殺さねばならぬ法は無い。寧ろ、お主に聞きたい事は多くある。捕まえた方が有用なのだぞ」

「いいや。僕は生かしておいてはいけない。死者は基本的に眠っているべきだ。余程の事が無い限り、消えておく方が良い。ロクでもない事になるのは凡そ決まってる」

 

 そう語るアレキサンダーの瞳は……自らを殺せと言っている割には、なんだか酷く落ち着いている様に見える。寧ろ、余に殺される事を当然としているかのようである。

 隣の軍師に目を向ければ、さして驚いている風には見えない。少し目を伏せてはいるがしかし、特に何かを言う事も無かった。

 

「そんな……」

「盾の少女。そんなに悲しむ事は無い。元に戻るだけなんだから」

「で、ですが貴方は……ブーディカさんを戻すのに、力を貸してくれたでは無いですか」

「力を貸したのは主に先生だよ。僕は基本的に何もしてはいないさ……いや、本当に何もしてないんだよねコレが」

「一応、彼女の意を汲みはしたがな」

 

 だが。しかし。別に余は殺しをしたくて皇帝をやっているのではない。如何に敵将とて活かせる時は活かす。相手とこうして話が出来るのであれば。即座に殺すなど短慮にも程があるのではないだろうか。

 

「まぁ正直な話、こうして相性が宜しくないマスターの下で働き続ける、って言うのも肩が凝るんでね。早めに成仏させて欲しい、って言う欲望もある」

「自殺の幇助でもしろと?」

「そこは、勝者が敗者への情けとして。頼めないかな?」

 

 ――する訳がない。

 勝手に死ね、とすら言いたい所ではある。勝者が敗者をどうしても何も文句は無いだろうが。それをなぜ殺せだの指図されねばならんというのか。舐めるな。貴様こそ、皇帝を一体何だと思っているのか!

先ほど言った唯一の王聖という言葉を本当に理解しているのか。それを言う前に、余の一歩前に出て来たのは、式部のマスター……本造院。

 

「――アンタを潰せばいい訳だろ」

 

 そう言って、ちょいちょいと手招きしたのは、自らのサーヴァントである式部だ。それは要するに……アレキサンダーは、自分達で始末するという事だろうか。

 

「おや。意外だね。君が真っ先に出て来るとは」

「別に。誰がやっても変わんないし。だったらさっさと終わらせるのが一番だと思ったもんでね。式部さん。ごめんね任せちゃって。サーヴァントを倒せるのは、基本的にサーヴァントだけらしくて」

「は、はい……ですが、マスター。あの……」

「死ぬ覚悟が出来てる人を無理に生かすのは、あんまり良くない。というのが個人的な意見なんだよ。まぁだから」

 

 容赦なく行く。

 口には出さなかったが、そう言う積りだったのだろう。そして一瞬、マシュと藤丸の方を見てから、改めてもう一度口を開いた。

 

「……悪いな」

「いいや。君の所為じゃない。寧ろ、君はこの場において正しい行動を取った。他の人が取れない行動を、ね」

「褒められた事じゃないのは確かだと思うけど。自分でやる訳でもなく、誰かの手を借りてさ……介錯くらい、自分でやれって言う話じゃない」

 

 式部が黒い輝きを指先に貯える。本造院は彼女に改めて頭を一つ下げて。彼女はそれに目を伏せ、少し悲し気な顔をした。

 アレキサンダーはと言えば。自らを狙う凶器が準備されているにもかかわらず、何も恐れている様子すらなく。寧ろ穏やかな顔をしている。堂々と、自ら胸を張って『ここを撃て』と言わんばかりだ。

 

「そう言う律儀な所は、君の美徳だ。大切にしたまえ。カルデアのマスター」

「……マスターは俺だけじゃねぇさ」

「申し訳ありません。介錯、務めさせていただきます」

「構わないよ。ああそれと……僕の先生兼、臣下は、よろしく頼むよ」

 

 ――放たれた弾丸は、一撃でアレキサンダーの胸の中心を貫いた。

 

 

 

「……全く、貴方らしい気遣いではあるな」

「お主は、どうする」

「本来なら、彼と共に戦って消滅するつもりではあったが……まぁよろしくと言われたのでな。ブーディカ将軍が戻るまでの代打程度には仕事もしよう」

 

 そう言って立ち上がる軍師。その実力は……一応先程は見た。ブーディカが倒れてしまった以上、連合ローマを叩ける人材は一人でも多く欲しい。

 

「と言っても流石に矢面に立て、というのは」

「問題無い。お主は元は連合の立場。後方にて指揮を執って貰う」

「ああいや、そう言う事では無いのだが……まあ、お気持ち、ありがたく頂戴させて頂くとしよう」

 

 さて、後方の補給路と、前線への指示。その中間に立ってもらうのが一番か……等と考えていた時、ふとカルデアの面々の方に視線をやった。

 地面に座り込み、本造院が、アレキサンダーの立っていた場所を眺めている。それを少し離れた所から、藤丸が見ていた。

 

「……」

「――強く、ならないとね」

「ならなくていいさ。お前は……そのままでいいよ」

「そんな事。今だって……」

「俺がロクデナシなだけだから。それで良いんだ。あんまり、マシュちゃんの大事な先輩が強くなりすぎてやるな。一緒に強くなってけ」

「偉そうに」

「エラいんだよ」

 

 その二人を。

 少し、寂しげな顔で、式部が。

 覚悟を決めた様な、凛々しい顔をしながら、マシュが。

 

 それぞれ、見つめていた。

 




Q.なんでエルメロイは前線行きに難色を示したのか?
A.幾らサーヴァントになったとはいえ元から全線で戦える程逞しくないから。
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