FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第二十七章・裏:蛇と禿

 ――何故、こんな男が私を呼んだのか。

 

「いやー気持ちがいいなぁ船ってのは。俺、こう言う帆船乗ったの初めてなんだけど、普通の船だとかと違う感じが。こう。なぁゴルゴーンさん?」

「……」

「うん。ゴルゴーンさんも楽しそうだ! 水平線見つめちゃって!」

 

 全くもって楽しくはない。不愉快ですらある。私にとっては、この船は些かと狭い。とはいえこのまま苛立ちのままに暴れて船を壊し、水の底に沈む、等という間抜けを晒したくないから堪えてやっているだけだ。

 流石に私が不機嫌な事くらいは、他の人間共も察する事くらい出来るだろう。海賊共は遠巻きに怯えているし、怯えてはいないカルデアの他の連中たちも、ここまで露骨に話しかけては来ない。

 

 だが。この男は……その辺りに鈍いのか。それとも態とやっているのか。いずれにせよ神経が苛立つ。今すぐにでもこの男の首を締めあげてやりたい。喋れなくしてやりたい。普通に耳障りだ。

 

「あ、あのですねぇ……旦那、あの、ですね」

「ん? どした? もっぱつゲンコツ行くか?」

「いいえなんにもございませんはい!!」

 

 少しは努力をしろ。そこの愚か者の口を閉じさせろ。

 とはいえ、この愚かな召喚者にアレだけ叩きのめされたのだから、怯えるのは分からないでもないが。私からすれば退屈な争いではあったが、しかし、あの海賊共にとっては悪夢以外の何物でもなかったろう。

 

『――何なんだよ此奴!? なんだよその角!?』

『おしゃれアイテム!』

『ごあっ!?』

『俺、お洒落には気を使ってるから! このハゲ頭もお洒落の一環だから!』

 

 まるで、子供と大人の喧嘩だった。必死になって振り回された手を軽く受け止め、そして返しは拳の一発で確実に一発で殴り倒す。殴り掛かっていなくても、無造作に近寄って殴り倒す。呆然としていても殴り倒す。逃げようとしても殴り倒す。少しばかり、その滑稽な光景は多少の見物ではあった。

 まぁその中で可笑しな神秘を身に纏っていたのも確かではある。

 

 しかし、だからと言って。それは、私が目の前のサルを止めない海賊共に苛立ちを覚えない理由にはならない。だからと言って、私が反応しようものなら目の前のサルは間違いなく更に図に乗るだろう。

 だから、止められるのは周りの人間共と……もう一人。

 

「あの、マスター。ゴルゴーン様は、その……」

 

 このマスターが召喚しているもう一人のサーヴァント位な者だ。と、言いたかった。だが正直この女に関しては、あの海賊共よりも頼りにならん。

 そもそも気が弱すぎる。戦士でも無ければ、術師という訳でもないらしい。本領は作家との事だが。

 

「程々に、なされた方が」

「ん? いやだってねぇ? サーヴァントと会話もしない、それで普段から連携取ろうなんておこがましくないかい? ちゃんとアイコンタクトで意思の疎通が出来る位がサーヴァントとマスターの理想だし……だよなーマシュちゃん?」

「あ、はい! それは正にマスターとサーヴァントの理想形かと!」

「マシュ! 今、今その発言はマズい……!」

「? マシュさん何か間違った事言ってますか? マスター」

「セイバー、そうじゃないんだ、そうじゃないんだけど!」

 

 もう一人の方のマスターの方は……一応、それなりに見れる形ではある。姿形が、という事ではなく。キッチリとサーヴァントとのコミュニケーションとやらが成立しているようには、私には見える。

 少なくとも、この目の前のマスター擬きよりは、しっかりとマスターをやっている様に見える。

 

 向こうのマスターの様に、少しでもサーヴァントという物を……いや、そもそも『私』という存在を理解して行動して欲しい物だ。もし理解して居れば、この様な軽々しい態度などせず、生贄の一つでも進呈して来るものだろうに。

 

「……」

「まーまーそう怒らんでよ」

「怒ってなど居ない。『怒る』という次元の位に貴様は存在しない」

「あらそう……いやーでもさ、やっぱ戦いの後って、どうにも辛気臭くなっちゃうし。だからまぁ、誰かとの会話でも使って、色々熱を覚ましたいというかさ」

 

そんなのは貴様の都合だろう。

そう思い、ふと言葉の違和感に引っかかった。使って、という言葉が、付けるべきではない所に付いていた気がするのだが。会話でも、使う。

気になって、禿げた頭に視線を向ける。その視線に気が付いたマスターは、ニヤリといたずらっ子の様な笑みを返した。少し苛立ったので髪で噛み付いてやった。

 

「……まー、単純な理屈な訳だよ。ゴルゴーンさん。俺がこうやって話しかけてるのは。俺からすれば、なんだけどね」

「ほう?」

「あの、マスター。噛まれてます。大丈夫ですか?」

 

 男はしかし、一切動揺する事無く、此方の目を見て、口を開いた。流石に私を呼んだ時もそこ迄反応を見せなかっただけはあって、肝はそこそこ据わっているらしい。文句を言わないのであれば、とそのまま続行しつつ、話を聞いてやる。

 

「アンタは召喚する時に、自分も、俺も、互いにうまく利用しろと言ったな」

「あぁ。確かにそう言ったな」

「ちょっとな。最近は暴れてると、熱が……頭に籠っちまう事が多い」

「あの、マスター。牙が。血が。本当に大丈夫ですか?」

 

 残虐性なんてのは、少しの事で溢れだす……等と知ったように語る顔に、とはいえ一切わからない訳ではない。人間の残虐性は、私の様な怪物のそれよりも余程悍ましく、そしてほんの小さな事で膨れ上がるものだ。

 男は、あの様に暴れるのは、最近ではそう珍しくもない、と語った。そしてそれに少しずつ慣れて行くにつれ……それが脳の内に溜まるのだと。

 

「それが、私に話しかける事と何の関係がある」

「話しかける事で頭の中の熱を引かせるのさ。自分を、日常に戻す為に」

「あのマスター、本当に熱が引いて来てます。血の量が、量が」

 

 その言葉に、ふと思い出す事がある。マスターは、サーヴァントを現世に留める楔の役割をしている。その役割は、まるで……

 

「私が、日常への楔という事か」

「端的に言えばな。もちろん他の人達でも良いっちゃ良いが、個人的な理由でアンタに話しかけるのが一番、自分で自分を律しやすいからな」

「ご自分を律する前にご自分の状態を見てくださいマスター、もう凄いです、血が滝の様に、もう滝です、コレ」

 

 随分と可笑しな話だ。

 この男にとっては、私のようなあくびの出るような平和から程遠い怪物こそが、自分を諫めるのに必要なのだという。私に期待する役割としては、恐らく何よりも遠い場所にある仕事ではないか。

 

 兵士が、故郷の娘を思い出す事で、戦場にはびこる獣になるのを何とか堪える……そんな話を聞いた事がある。その娘が私か。思わずして笑みがこぼれた。遠いどころの話ではない。この男、感性が死んでいるのではないか。

 

「――成程、間違いも無く、この上なく自分勝手に私を利用している訳か」

「そう言う事だ。今度こそ怒ったかな?」

「何度も言わせるな。怒るなどという次元に居ない。それに……利用しろ、と貴様に言ったのは私だ。貴様が利用するなら、私も精々利用してやるのに一切の手心も要らん」

「……いいね。やっぱり、話が分かるよアンタ」

「ご自分の事は一切わかってませんマスター。もうお顔が真っ赤です。真っ紅です」

 

 しかし……目の前のマスターを見る。頭が沸いている、平和ボケのマスターかと思っていたがしかし。存外と、捻くれた精神をしている。

 そう言った輩を好むわけではない。ないが、純真で、何も知らぬ子供の様な相手をする、というのも得意ではない。何も知らぬ輩を利用する……というのは、何も感じぬ訳ではない。人間の様に、そこ迄悪辣にはなれん。

 

 しかし『今からお前を利用する』と宣言されているなら、僅かなしこりも残さず、問題なく利用できるという話だ。

 

「成程……貴様が私を呼んだのは、相性の良さゆえだった訳か?」

「さぁて、どうなのかね。俺は意外といい関係を築けると思ってるからだけど」

「調子に乗るな。まぁ……だが、評価を少し修正してやってもいい」

 

 愚かなマスター。

 その評価を、多少は付き合い方を分かっているマスター、程度に上方修正してやる位なら。別に問題も無いだろう。

 

「――で、早速ゴルゴーンさんにマスターとして、一つ話題提供だ」

「なんだ」

「この蛇って、何時外してくれるのかな」

「……まぁ、そのうちな」

「その内じゃなくて今すぐ外してください!!!」

 




話している間ずっと血がドクドクと漏れている事実。
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