FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「――」
「やっぱり狭い? 外で待ってたほうが良かった?」
「いいや。そうではない。そうではないが……ふむ」
マスターでは分からぬであろう。この迷宮の事。ちらと壁を見てみれば、その作りはどうしてか……私の過ごした、あのエーゲ海を思い出させた。私が神殿を作った時、それとそっくりの様式。
そしてこの匂いは。人間が過ごしているモノとは、明らかに違う。そこ迄、濃く、分かりやすく漂っている訳ではないが、私の鼻なら、分かる。
同族にのみ分かる様に、と言う訳でもないだろうが……ここに住んでいるのは、間違いなく私と同種の、化け物だろう事は、余りにも分かりやすい。
「気になる事でもあった?」
「ふむ……さて? どうだろうな。石造りの建物など見て、私の時代の事を思い出しただけやもしれんぞ」
まぁだが。それを今、隣を歩いている間の抜けた禿げに教えてやる義理があるかと言えば無いのだが。精々驚いて醜態をさらして見せろとすら思う。
「そんなセンチメンタルある?」
「私がそんな風な輩には見えんと言う事か? くく、随分と愉快な事を言うではないか」
「いや寧ろそんな軟弱な感傷なぞ抱くか、って言う方じゃないゴルゴーンさん」
「……」
「ま、マスター。そんな言い方」
……全くもって可愛げが無いマスターだ。もう少し怯えるだとかやって見せろと思うのだが。個人的な願望なのだが、可愛らしい儚げな女の召喚者であれば、もう少しやる気も出るという物だが。
その女の生き血でも啜れればなお健康に良い。
そこを考えると、この男の生き血なんぞ啜ってもマズいばかりか、変な病気にでもかかりそうだ。想像もしたくない。
「いやこの人弱い扱いされる方が地雷でしょ。式部さんが本焼かれるのと同じ位嫌なんじゃない? ねぇゴルゴーンさん」
「えっ」
「ふん。理解した気になるんじゃないぞ、マスター」
「理解してるって言うより、流石にそれは猿でもわかるんじゃないか」
……分かりやすく示している、と言うつもりはない。だが、別に隠している積りも無いのだから、察しても何ら不思議ではないが。しかし何となく知った風な言葉を言われるのは相当に、感情を逆なでして来る。
「――あ、敵が」
「ッチ!!!!!!」
思わず怒りのままに敵に一発を叩き込む位には、感情が高ぶっている。マスターが間抜けた面を晒している。それどころかカルデアの面々が悉くこっちを見ている。
だが、どうにも怒りは収まらない。確かにマスターに生意気な事を言われたのは間違いないがしかし、どうしてここまで感情が揺れるのか。と言うか感情が安定しないのか。
理由は何となくわかってはいる。
なんだ、分からぬのだが。さっきから感じるのだ。何かが私の背筋に、忍び寄ってくる。この奥に居る何か……私と同族の気配だけではないのだ。きっと。
それを具体的に表せ、と言われても不可能な程に曖昧な感覚なのだ。強いて言うのであれば……嫌な感じ、というしかない。
寒気も無いのに震える。この感覚、覚えがある様な、無い様な。
「……どしたの」
「煩い」
この可能性を無視すると、間違いなく……間違いなく、致命的な災厄が私に付し注いで終わる様なそんな……そんな気がするのだ。私を恐怖のどん底に叩き落す、そんなとんでもない物が来る予感がする。
この私にそんな物がある、等とあり得ぬ。そう言いきれれば良いのだが。サーヴァントとなって蘇るなど、生前には想像もしない事態だった。私の想像など軽く超えてくるような珍事が飛び出して来る事等、幾らでもあるのではないか。
弱気な思考だ。しかし、それを想像させるほどの、嫌な予感がするのだ。私には……
「――ダサい大盾女。さっさとアイツの所に連れて……あら?」
「マスター外に敵の気配がするさっさと迷宮から抜けるぞ急げ、命を賭けて逃げきれ」
「ふーん。成程ね」
出会ってはいけないモノが目の前に居た。小柄だとか、到底戦う力がなさそうだとかそんな……そんな生易しい話じゃない。あの人が目の前に居るだけでどうにもならん。私はもう逃げる。知らん。
「メ ド ゥ ー サ ?」
「ひぃっ」
一瞬だった。不可能だった。秒殺だった。昔を思い出す位に圧倒された。有象無象の勇士なんて相手にもならなかった怪物の私が。腰が抜けた。抜けちゃった。何という事だ。向こうもサーヴァントなのに。なんであんなにあの頃のままなんだ。
というかそこのデカいの。なんで姉上を肩の上に乗せている。ふざけるな。代われとは言わんがちょっと見せるな、それを私に。やめろ。辛い。
「……あぁ成程。もしかして、これを感じ取ってたのかなぁ」
「お二人は、神霊ですので。そう言う繋がりの様なものを感じ取れる……のでしょうか」
「「?」」
「うーん、姉が強いっていうのは相場だけども」
おいカルデアの者共。離れるな。こっちへ来い。頼むから今の私から離れてくれるな。姉上が目の前に居るんだぞ。私一人だったら対処しきれん。頼むから。助けて。もう今だけはプライドとか全部投げ捨てるから。
「……えう、りゅあれ。なんか、うれしそう」
「シャラップアステリオス。で? 何をしているのかしら? この愚妹」
「あ、あのですねこれは姉上決して姉上を害そうとかそんな大層な事を考えていた訳ではございませんのではい」
「何を突っ立ってるの?」
「へ?」
「頭を、下げなさい。顔が良く見える様に。髪で顔を隠そうなんていい度胸ね。そんな小細工覚えるなんて随分じゃないえぇ? あ、それに見上げるのも疲れるし」
いやそんな積りは一切ございません。等と言う間も無く畳みかけられる言葉。
取り敢えず、尻尾を畳んで、ゆっくり地面に足を下ろし、その上で石の床に膝を突く。冷たくて、地味に痛い。それが私をまた苛んでいるようにも感じてしまう。
辛い。このいたたまれない感じは、道理であの悪寒を感じる訳だ。本当に無理だ。本当に泣きたい。姉上に顔を向けられない。床ばかり見てる。助けてくれ。誰でも良いから。
「アステリオス。肩車しなさい。一番天辺から見下ろしてやる。このバカ妹……」
「えうりゅあれ。げんきになった。嬉しい」
「アステリオス。いいから。もう角に掴まるから」
「――あー、そこまでにしてくれないかな。麗しの女神様」
――最近聞きなれた声が割り込んで来たのは、その時だった。
見上げた先には、キレイな禿げ頭。姉上と私の前に、マスターが割り込んでいた。
「……何アンタ」
「ゴルゴーンさんの……アレだ。マスターですよ」
「マスター。あぁ、そう言えばサーヴァントってそんなんだったわね――それで?」
その割り込んだマスターに、姉上の声色がワントーン落ちたのが丸わかりだった。明らかに機嫌が悪くなってる。余計な事をするな、と言いたかったが……しかしながら、迂闊に割り込むと、姉上の機嫌を余計に損ねそうで。
「なんの用?」
「えっと、アンタと、ゴルゴーンさんの関係は……一応、知識としては知ってる」
「知識として、ねぇ。じゃあ詳しくは知らないのよね。姉妹の間の話にそんな他人が割り込んで来る、なんて無礼なんじゃないのかしら?」
「無礼は承知。だけども、ゴルゴーンさんは俺が召喚した人なんだ。その人について責任を負うのは当然のことなもんで……いきなり正座させられて、でそんな死にそうな顔してんだぜ」
だが、一歩も引かない。こっちが何を考えているのかも知らないで、姉上に相対している。その後、被害を被るのは私なんだぞ。姉上の機嫌を損ねてくれるな。
「私が妹をどういう風に扱おうが文句を言われる筋合いは無いわ」
「アンタの妹かもしれねえが、俺と一緒にカルデアで戦ってる……仲間? か? 分からんが。そう言う人でもあるから。だから先ず、いきなり正座強要とかじゃなくて。ちゃんと話して貰えれば、と」
あぁもうダメだ。大分ご機嫌が斜めになる。この後、ボロカスに言葉で嬲られるのが余裕で想像できてしまう。おのれマスター、許さんぞマジで。お前もボロボロにしてやるから覚悟しろ。後で。
「ふぅん、姉妹の間に入り込んで。ずけずけと」
「別に特別な事言ってるつもりないんだけど。で? コレを続ける? こんな事するよりも、やることだってあるんじゃない?」
「んー……そうね。ちょっと知ってる顔が出て来たから反応しちゃったけれども。そもそも、先ずアンタ等が何者なのかも教えてもらわないといけないかしら。メドゥーサ?」
「は、はいっ!」
思わず背筋がピンと伸びてしまった。
「――良かったわね」
「え?」
また何か言われるか、と思ったのだが。特に何も言われない。姉上はデカブツの上に乗って、カルデアの連中のほうへと向かって行く。特に何か言われる訳でもなく……なんだか機嫌が良さそうですらあった。
……もしや、助かったのか。
「気の強いお姉さんだな」
「貴様は許さん」
「えっ。なんで?」
「……はぁ……」
本当に。何を勝手に割り込みおって……とは思うが。しかし。何をどういう心境の変化なのか、マスターが割り込んだ事で、姉上はどうやら気を変えた模様だった。
正直な話。助けられたという形になってしまうのは間違いないだろう。
借りを作ったなどとは決して思いたくはないが。
エウリュアレとゴルゴーンの絡みを書きたかったのに想像した通りにかけなくて難産でござった……