FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「サーヴァント、キャスター。紫式部と申します。文に親しみ、詞に焦がれ、ひとの想いに寄り添う女にて……どうぞ良しなに……───」
――目を開けた時、ちょっと泣きそうになってしまいました。。
「……む、紫式部って。偉人ってのはそう言うくくりもありなんだ……なんか、最強の使い魔だとか書いてあったから、もっと筋肉隆々の奴が来るのかと思ってたけど……いや、寧ろこの筆を、触媒、だったかに使ったからか。はっ、山のガラクタがこんな縁を繋ぐとは」
何せ、私を呼び出したマスターは、一目見るだけでも明らかに危険と申しますか。その……失礼な言い方をすれば、素行が良さそうな方だとは思えない。そんな、物凄い、強面で。昔宮廷で見かけた、お武家の方々にも匹敵する程に。
その怖い、という印象は、その直後の言葉でひっくり返ったのですけれど。
「貴方が、マスターで宜しいでしょうか」
「あー、そう……なるのかな」
「そう、なる、ですか?」
「すまんね、目の覚めるような別嬪さんに聞かせるような話じゃないんだが。こっちはこういう事態に、全くの素人童貞でね」
「素人……どっ!?」
「家の中探ってたら出て来た『物凄い存在を呼ぶ呪文』ってあったもんで。それに全てを賭けただけなんだ……いやー、アレを俺が相手出来たら、良かったんだけど」
その顔で、ケラケラと軽く笑う姿は……なんと言うか、迫力という言葉からは最もかけ離れている、と申しますか。寧ろ、剽軽と申した方が良い気がしてしまいました。というかそもそも、言い方が、ちょっとふざけてる部分もあって。
『――この気配は……ほぅ?』
恐らく、それが気になっていたからだと思いますが。
ふと、上の方から漂ってくる、妖気にも似た淀みに、その時になって初めて気が付いたのです。マスターは、その存在から逃げおおせる最中に、私を呼んだのだと。
――バキャアッ!!
「――やはり小癪にも、サーヴァントを召喚していましたか。諦めの悪い事」
「そりゃあ、こんな所で死ねませんしなぁ……」
降りて来た相手は、女性。
髪も長い、美しい女性でした。人ならざる、という言葉がとても似合う……しかし、その視線の鋭さはその美貌であるからこそ、心胆寒からしめる程の迫力を醸し出していて。間違いなく、私より格上でしょう。それでも……!!
「って事で、アレ、どうにか出来ます?」
「……少々の陰陽術ばかりが頼りですが、出来るだけの事は、させていただきます」
「頼もしいお返事ありがたい。ならお願いするよ。戦い方は……取り合えず――!!」
「はいっ!」
「――逃げよう! 全力ぶっぱしてから!」
「はいっ! ……えっ?」
――思わず、その言葉に勢いで頷いてしまって。そのままの勢いで、私の出来る全力を放ったのですが……逃げる、という言葉に思わずビックリしてしまって。どうしてなんでしょう。マスターからの初めての指令が、逃走の為の全力攻撃って、それは、普通なのでしょうか。サーヴァント的に。
「くっ……!?」
「っしゃ入り口空いた! 離脱だ離脱、あーばよーねーちゃーん!!」
「は、はいぃ!?」
私の放った呪力の弾丸は、直撃する事はなく、そのまま入り口の周りを抉るばかりで……しかし、その相手が避けた一瞬を待っていたかのように、マスターは上への階段へ、私の手を引いて逃げ出してしまいました。全力でした。有無を言わせぬ手際でした。
「ま、マスター!?」
「あんなんと閉所で殴り合うとか誰だっていやっしょ! お外に出るに限らぁ! 真っ当に戦ってやる必要がどこにあるってんだ! ――でもって、式部さん扉に今攻撃! 急いで!」
けど、その視線が……ただ逃げ腰になっただけではない事には、直ぐに気が付きました。唯逃げただけではなく、恐らくはこの機を作り出す為に。意表をついて逃げ出す、という行動に打って出た、ということでしょう。
「――分かりました!」
「全力ブチかましてくださいよォ!!」
指先が虚空に触れ、そこから生み出される黒い墨の如き呪の矢。それが……扉を通って丁度私達を追いかけて来た女性に向けて殺到する。
流石に、こんな所に攻撃が置いてあるとは思って居なかったのでしょう。そのままぶつかる様に――直撃。くぐもった呻き声が、聞こえた気がしました。私自身、そこまで戦いが得意という訳でもありませんから、ここまでピタリと当たるとは、思ってませんでしたが。
「っしゃあドンピシャア!!」
「やりましたね」
「いやーハマって良かった……獣相手にする感じでやったけど、行けるもんだな」
「獣相手?」
「いや、なんでもねい。それより急ごう!」
暗い家の中を駆け抜け、マスターは……どうやら外を目指している様で。当然と言えば当然でしょうか。自らの危機になり得る相手がいるような所に留まるなんて、絶対に出来ないと思いますし。
「で、アレで仕留め切れたと思うか否か!」
「えっと……否かと!」
「おーらい、じゃあもう十発くらい軽くぶち込んでやって!」
「手当たり次第ですか!? お、お家が壊れますけれど!」
「全然構わん! 狙いなんかつけなくていい! 兎に角数!」
そう言われ、三度、呪力の弾丸を打ち出します。先ほどの女性の方が居た方に、只管に。無数に。狙いなど付けていないので、四方八方にぶつかっては弾け、埃や塵を撒き散らしてまるで煙幕の様に広がっていきます
……一応、本などにぶつからない様に気を付けて撃ってはいます。そんな細やかに撃てる程、腕は良くないので。本を見かけた方向に撃たない、位の積りではありますが。
「あ。あの! アレは当たっているのでしょうか!?」
「いんや? 一発も当たってないと思う」
「……えぇっ!? 当たってないんですか!?」
「さっきみたいなハメ技でもない限り、狙わなきゃ当たらんよあんな奴相手に……でも、当てなくて良い」
えっ、と思って目を向けた先、マスターは……室内に巻き上がる、煙を見つめています。
「ドーブツと一緒よ。デカい音がしてたら警戒して頭を出せない。頭を押さえて……で、一旦隠れるんだ! 兎に角! 殴りあい得意なタイプじゃないでしょ!?」
「え、えっと。はい……」
「なら兎に角逃げて仕切り直して、その後有利な場所から一方的にぶち込む! それが一番でしょう」
……人に指示するなど、マスターは得意ではない、とはおっしゃっていましたが。しかし荒事に関しては相応に慣れていらっしゃるようで。
少なくとも、素人の私よりも。
「つってもあんな化け物相手に何処から有利に弾丸をぶち込むのか……それに関しては正直分からんけども」
「……それに関してなのですが」
「ん?」
「そのマスターの稼いでくれた時間で……一つ、提案が」
「……えっと、これでおしまい?」
「はい。特別な触媒を使っている訳でもないので、簡単な物ですが……」
「そうかそうか。で、これで倒し切れる?」
「わかりません。ごめんなさい……私も、陰陽術を極めた訳では無くて」
「さっき聞いた時は驚く暇も無かったけど。紫式部って陰陽術が使えたんだなと、初めて知ったよなぁ。歴史の妙は複雑怪奇」
「へ、下手の横好き程度で申し訳ないのですが」
マスターは、綺麗に陣を書いてくださりました。曰く『山の看板を書くのでそう言うのはなれてる』だそうで。術が発動しているのが、分かりました。
「――随分と、好き勝手やってくれましたね」
そして、その完成した直後に、彼女は此方へとやってきました。私達の事を探して居たのでしょう、明らかにその表情は、怒り狂い、猛っています。あの術を使わずとも、余りにも分かりやすく。
自分が……死地に入った事も、気付かぬ程に猛り狂っているのでしょう
「舐めた態度を取った報いは、受けさせてあげますよ。人間に、木っ端サーヴァント風情が」
「へっ、その木っ端サーヴァントに、これからアンタは消し飛ばされるんだけどな」
「……なんですって」
彼女の足元には、マスターの描いた……いいえ、刻んだ陣が。多少踏まれても、効果は変わらず発動する程に、しっかりと刻んでいただきました。
その陣は……酷く単純な。晴明様に言わせれば『単純すぎて見なくても書けるようなお呪い程度の代物』だそうですが。私から言わせれば、十分強力な、退魔の陣。妖気を撒き散らす邪鬼には十分通じるでしょう。
「じゃあ式部さん一発宜しく!!」
「承知いたしました。拙い術では、ございますが……!」
「――なにっ!? これは――」
陣の縁から現れた壁、そしてその内に満ちていく光は、間違いなく内に佇む女怪を焼き。苦悶の嘆きを上げさせることすらせず、その影は溶ける様に、消えていきました。
――晴明様曰く、『御山の鬼相手には力不足に過ぎる術だから、君が覚えるのが適当だろう』との事でしたが。正直私が扱っていい規模の術ではないのではないのでしょうか……晴明様。
「おーおー、本当に消えた。すっごい威力」
「ふぅ……上手く行って良かったです。これ、生前には、上手く行ったためしがなくて……」
「えっ?」
まぁ、でも。
今は、兎も角余計な事を考えず。このマスターと共に。生き残れたことを純粋に喜びたいと思いました。
ケダモノ相手に余計な行動が出来ない様にルートを限定させるのはありふれた手法らしいですね。