FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「……うーん一隻に一中隊欲しかったわねぇんこの人材の皆様」
『如何でございましょう。主とこのリンボの合作である影傀儡兵の使い心地』
「最高にござるよぉリンボ氏ぃ! 拙者気に入っちゃったから追加注文しちゃう! オマケとかあるとうれちいのでつけど!」
『それはもう! 拙僧が手塩にかけて調整した怨霊もセットで――』
「あ、それはいらないわ」
バァン! という拳銃の音で、どうやら船長の仕事、と言うか商談が終わった事を、メアリーは悟った。テンションの上下は最早何時もの事なので気にもならないが、ちゃんと取引が成立しているのか。問題は其処だ。
「どうだったの?」
「いやーリンボ氏は太っ腹ですなぁ! 追加徴収にも快く応じて下すって! これでアイツらがおにゃのこなぼでーしてれば完璧だったのにナ~」
「ああそうだねとっとと死ね――まぁいいや。兵隊はまだまだ補充されるんだね」
「いえあ!」
「なら向こうとの衝突の時も問題なくやれるって事かい。兵隊が足りずに押し切られた、なんて間抜けな事が無くて良かったよ」
まぁ海賊らしい戦い方がアレらに出来るか、という疑問は残っていないでもないが。少なくとも命令に従うだけの頭脳があって、アレだけ動けるのであれば能無しの兵士よりは全然マシだ。
準備はコレほどないまでに整っている。船長も、正直いて欲しいか、いて欲しくないかで言えば後者だけど……無能ではない。そして、切り札となり得る用心棒も、いる。
負けるビジョンは、個人的には浮かばない程の布陣なのだけど。その用心棒曰く『割と五分五分かもしれませんぜ』とか。
「それでメアリー殿ぉ。アン殿は何処へ?」
「マストの上。一応、逃げられない様に周辺を見張ってるってさ」
「んもぉ~なんて頭の回るお方! 海賊とは思えない位!」
「そりゃあ『役立たず』判断受けたら背後から弾丸飛んできかねないからね」
その言葉に、一瞬目を細めた黒髭は……『そんな事しませんぞぉ拙者! 紳士故!』とか抜かして船の中へと戻って行ったけど。果たしてどうだかは、メアリーにはサッパリと分からない。
「お前が紳士なら、全ての獣は聖人だと思うんだけどね」
「――今の所動きはありませんわよー船長……って、あら?」
「今は船内に引き篭もって留守。向こうの動きでも考えに行ったんじゃない?」
「そうですか……偶には真面目になるんですのねあの人も」
何時もそうだったら良いのに、という意見には全くもって首を縦に振る。とはいえあの船長がずっと真面目にしてるっていうのも、ちょっと息苦しく感じないでもない。あのままっていうのは、だってずっと獣が牙をむいているような物だ。
結論として、黒髭には本物の紳士としての素養を求めねばならない。海賊にそれを求めるのが、土台不可能だというのは凡そ分かっているのだけれども。
海賊なんて、欲望をむき出しにして略奪を繰り返す、獣のような奴らしか居ないのである。紳士ぶってる奴ほど、寧ろもっと危ないまである気がするのが海賊だ。
「しかし、いつも以上に気合入ってますわね。船長」
「そりゃあ次の敵は……今まで相手にして来た木っ端海賊とかなんて目じゃない位の大物だろうしね。さっき仕入れた奴らと良い」
「信用は出来ますの? あの黒いの。船でうろついてる方は、とんと成果を上げてないみたいですけれど」
「アレは黒髭だってそんなに期待してなかったじゃない。でも、さっきのは色々と改造されてて……」
今隣にいるアンも、言葉遣いも丁寧で、マナーもしっかりしてるけども、その根底は女豹と表現しても全く無礼じゃない程の獣性というか、ワイルドさが根付いてる。好きな男はガッツリ襲って明日にはその腰掴んで連れ回す位には。
では、翻ってこの船の船長である男……世界でもっとも有名な海賊である、黒髭はどうかと、メアリーは考える。
あの男に関しては、その獣欲に関して一切隠す様子無しに見える。酒、金、女。分かりやすくデフォルメされた海賊であったとしてもアイツ以上に下品ではないと思う。イヤな所で想像を軽く超えてくるのが黒髭だ。
女への執着心は尋常ではなく、財宝と酒に溺れる速さは恐らく人類最速。多分だらしの無さもずば抜けている……
「まぁ兎も角、カルデアとフランシス・ドレイク相手に役立たず、って事はないんじゃないかな。実際見てみた印象としては」
「大丈夫ですの? カルデアだって、決して容易い相手ではないというのに」
「流石にそれを分かってない訳じゃないでしょ」
――と思わせるのが、あの化け物は非常にお上手なのである。
女にだらしなく、金と酒に頭を鈍らせる。分かりやす過ぎる『悪の海賊像』だ。あの野郎にとって、その着ぐるみがどれだけ利便性が高いか。
世界一の名探偵。伝説の軍師。稀代の政治家。
恐らく、もし、奇跡的な確率を引いて……今の奴とは全く正反対の『属性』を抱いていたとして。間違いなく、奴は何れかの名で呼ばれていても全く不思議じゃない。それくらいには、奴は恐ろしく頭が回る。
自分が侮られる事のデメリットなんて、殆ど気にも留めていない。寧ろ、侮られている方がメリットが大きいとまで思っているのだろう。
実際、今だって普通に船員が居れば、船の中で戦略練るフリして、酒飲んでサボってるくらいはする、と思われても不思議じゃない。寧ろそう思うようにふるまってすら居たと思うのだが。
で、それで迂闊にも、舐めた態度する奴らが出てきたら、自ら出て行って粛清する。撒き餌に食らいついた魚を網で楽々掬うように。黒髭にとっては、それすらそう難しい事ではないのだろうし、寧ろ日常茶飯事くらいだ。
「……あー、ホントですわね。コレ。ちょっと近づいただけで大分」
「でしょ。相当に尖り切ってる。部屋の中でどんな顔してるとか想像もしたくない」
「口でも裂けてるんじゃありませんの?」
「そうしたらもう完全に化け物じゃないかなぁ」
で、今の船長は?
いよいよ迫る、カルデアとフランシス・ドレイクとの激突に、そりゃあ熱量を爆発させている事だろう事は分かった。
どうあのカルデアの連中を攻略するか。どのようにフランシス・ドレイクを攻略するかに脳味噌を回して、そりゃあもうラリっているのではないだろうか。
「一応近寄らない様に、黒子に指令出しときます?」
「万が一近寄って反逆者判定受けて粛清とか笑えないからね」
「……でも動きませんわよ?」
「いや、船が揺れてその拍子に、とか」
「それで切られたらもう運が悪かったのでは?」
「それくらい今の船長は危険って事だよ」
船の船室の方を見つめる。あの辺りは今、間違いなく魔窟だ。ドラゴンの巣窟に踏み込む程度には危険である。
「……で、船長に連絡する時はどうするの、メアリー?」
「今の船長に話しかける事自体が地雷だからね。短い付き合いだけど、これが珍しいって言うのは分かるし。お邪魔したら悪いし現場判断で――」
『構いませんぞー。全然話しかけてきて^』
一瞬、彼女はその言葉の違和感に、戦慄した。
平坦だった。話し方のテンポは、間違いなく何時もの黒髭のソレだ。
しかし、声に一切の上下が無い。ピクリとも。間違いなく正気のそれじゃない。
何時もの口調だというのに気持ち悪い、という感じが全然しない。寧ろ、変に抑揚が無いのに何時もの口調なのが余計に寒気を誘う。
口調からニマニマ笑っている何時もの船長が想像、出来なくもない。しかしながら。今の声色から想像できるのは、人でも喰った直後かと思う様な……
文字通り、化け物が笑っている姿だった。
間違いない。今、船長の精神は相当に危うい。下手に刺激したら吹っ飛ぶ、文字通りの爆弾である。
今のを聞いて……
「――スルー安定ですわね」
「ん」
話しかけるバカは、存在しないだろう。
タイミング的にここしかないと思った。差し込むのは。