FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
船という特殊な場所での戦闘を、本当の意味で理解していたのか?
そう言われてしまうと、首を傾げざるを得ない。そもそも、現代社会で船に乗る機会なんてそこまでない上に、自分の知ってる船は、そこ迄揺れない。
結論として……今こうして、目の前に広まっている現状を、想定してなかった。
「くっ……ダメです姉御、向こうの一発、ウチ等よりも格段に上です! 馬鹿見てぇな水柱立ってます!」
「んなもん分かってる! こっちの砲弾が全く通じてないのもね!」
「――っ、踏ん張り、きれないっ!」
「へばってんじゃないよお嬢ちゃん! アタシとやり合った力見せな!」
砲弾の一発一発が、波を巻き起こし、船にぶつかり、甲板を揺らす。その時に発生する船の揺れと言うのは……完全にランダムだ。しかも甲板は、濡れて滑りやすくも変わっているのだから、力を下手に入れれば、足を余計に滑らせかねない。
船の上での戦いに慣れていないのであれば、サーヴァントであっても苦しい、という現実がそこに有る。
寧ろ、向こうはそれを理解して、砲弾をドンドン撃ち込んで来ているのだろう。これが船と船との戦いという物だと、理解させるかのように。
「――ガァアアアアアッ!」
「「「――」」」
ところでそれは向こうさんには適応されないのかと思ってしまう訳で。全然船が揺れようとなんだろうと関係ないとばかりに大暴れしている。
サーヴァント、エイリーク。再召喚された彼と、シャドウサーヴァント達の動きは最早攻撃以外考えていない程に、狂った前のめりだ。
いや、寧ろがむしゃらなその動きこそが、この戦いで必要なのかもしれない。それこそ自分の守りなんて関係ない位の前のめりぶりが必要なのかもしれない。それをマシュやリリィに命じろ、って言うのも心苦しいけど。
「ゴルゴン閣下! 今仕事出来るの貴女だけなんで頼みますぜ!」
「ええい他も少しは踏ん張れんのか!」
「やっぱりここまで激しい船上での戦いってのがヤバいんですよ!」
「船がひっくり返ってるって訳でもないだろう! っち、私と、そこの牛とで踏ん張れるのも限度があるぞ!」
尻尾を上手に使って事態勢を立て直しているゴルゴーンさんと、そして重心がしっかりとしているアステリオスが、今、前線を何とか維持し、そして……この中で、唯一遠距離が出来る式部さんが、二人に加勢できている。
「一応式部さんも仕事してますからそこは忘れないで上げて!」
「申し訳ありませんあんまり関係ない感じで!」
「関係あるさ。少なくとも、式部さんの援護がなけりゃ、持ってかれてたろうよそこのワガママ女神さんは」
「誰の事言ってんのよそれ!」
……言い訳になるようだが。マシュも、リリィも。時間さえあればこの船の上でも戦えるだけの力があるのは、俺だって分かってる。けれど最悪なのは重要な最初の初手で、いきなり足場である船を盛大に揺らされ、そこから船と船が、乱戦に入ってしまった事。
度重なる揺れと、ドンドン乗り込んで来る敵に、凌ぎつつ、一気に押し寄せられない様に自ら対処するので精一杯。戦う体勢を築く事も出来ない。
そして。恐らくではあるのだが。それをきっと狙っているのだろう。あのサーヴァントである黒髭は……エウリュアレを狙いつつも。
「ハイハイどんどんどんどん! 弾無くなっタラバ、君達を身を解して玉に積めてドカンするからそうならない様に気を付けてねぇ!」
「船長、君もこっち来て手伝ったらどうだい!」
「いやー拙者そう言う危ない事したくないっていうかぁ~? あ、そこですわよ」
――銃声一発。瞬間、響く甲高い金属音。
「マスター! 大丈夫ですか!」
「ゴメン、マシュ……油断してた!」
「いいえ。それにしてもエドワード・ティーチ……言動からして非常に奇天烈な人物だと思いましたが。恐ろしい人物です!」
そこで、直ぐに気を引き締め直す。さっきからコレだった。
黒髭はちょくちょく、安全な自分の船の上からマスターである俺達二人を狙っているのだ。いや、正確には、マシュとリリィの行動を縛るために、俺一人を。
ふざけた言動なのに、やっている事は悪辣で、冷徹で。そして合理的。伝説の海賊黒髭の名前は、全くもって伊達なんかじゃない。
これに加えて、向こうには未だサーヴァントと思われる人物が二人ほど残っているのが此処からでも見える。
「藤丸、頭出すな!」
「でも伏せてるだけじゃどうにも……!」
「俺達が吹っ飛ばされたら元も子もないだろ! 今は堪え時って奴だ!」
「堪えているのは貴様等ではないがな!」
「ごめんよ! あーでも、つったって!」
康友が苦しそうに周りを見つめる。その意味は、凡そ理解できた。
向こうの残りの戦力。こっちの大混乱。流石に特異点修正も三度目。素人マスターでも分かる戦の流れ。今までにない程に俺らは明確に――不利。
世界を亡ぼす軍勢。その強さという物を、今、再確認している。
でも、このままやられる訳には行かないのは、流石に俺だって分かってる。皆、まだ諦める積りなんてない。
「――船長!」
「分かってるさね! ああ畜生、死ぬほど……煮えたぎりそうだけどなぁ! 頭も! 腹も! 煙玉用意! 兎も角、今は!」
撤退だ、と。船長が船全体に届くようにと号令を発する。
タイミングとしては、恐らく早い方だろう。そしてこれ以上の機会もない。ドレイク船長の判断力に一切の疑いはない。
それでも。開戦からそう時間は経っていない。だというのに状況は余りにも目まぐるしく悪化し、圧倒いう間に状況は最悪、混戦も混戦の最中になってしまった。此処から如何に、逃げ出すか。
「おーいBBA無理すんな。そっちが持ってる聖杯くれりゃあ見逃してもいいですぞ~……あ、出来ればエウリュアレちゃんも!」
「――喧しい」
……そんな混乱の船内。
一閃の光が、全員の目を引いた。その一撃はまるで草むらに潜んでいた、蛇の不意の一撃にも等しい脅威で。それは、間違いなく……黒髭の頬を裂いていた。
「囀るな。姉上が怯えている」
「――」
ゴルゴーンさんの冷たい視線が、黒髭を刺す。
目立つ見た目。巨躯。人から見れば異形。しかして、その美貌は正に女神。鼓膜を震わせる冷ややかな声は、この不利の中でも絶対性すら思わせる。
それを見ていた康友、そしてドレイク船長が笑った。
「……ナイス」
「お前らぁっ! 気合入れな! ここで逃げ切らねぇと終わりだ! ここで逃げ延びて必ず
敵の船長を直接狙った、その一矢は、状況を変えた。感情も無い様に見えたシャドウサーヴァント達ですら、一瞬黒髭の方に視線を向けた。集団行動が出来ていている様にも見えていたのだが、あの様子では、船長を守る程度の指令は下りているのだろうか。
しかし、今までだったら強化だと思えたそれが、完全に此方の風向きを変えたのは流石に分かった。
黒髭がやっていた事だ。一足飛ばしに頭を狙うその一手。やられていたこっちがキツイからこそ、コレがどれだけの影響を持つか。
好き勝手やり込められていたからこそ、ここで相手の王座への直接攻撃と、相手のあおりの言葉を一閃するその両断具合が。船の士気を、確かに高めた。
「「「了解ッ! 撤退!」」」
「オォォォォォォォオオオッ!!!」
「グ、ギ」
「マシュさん!」
「はいっ!」
船員の号令に合わせて、アステリオスが蘇った血斧王を押し返し、海に向けて吹っ飛ばす。自分達を抑えていたシャドウサーヴァント達に、マシュとリリィが、今度はこっちから攻めかかった。
打開、出来たかと言えば分からない。けれど……良い風が、吹いた。
「――メドゥーサ」
「へへっ。かっこいいでしょ。ウチのゴルゴーンさんは――」
後は、俺達マスターが何とか無事で済めば。そう思って振り向いた先の康友の顔が……凍り付いていた。どうしたのか、という暇もなく……
「きゃっ……?」
「……ッ!」
響く銃声の直後。
床に押し倒したエウリュアレを庇うように、鮮血が飛んだ。目を見開く。康友の腕が裂けていた。銃弾……誰が。そんなの、想像出来てしまった。
「――ッチ、しくじったか」
さっきまでの奇天烈さなど欠片も無く。
冷たい顔で。無表情に。黒髭が。その手に持った単発式の拳銃の銃口を、二人に向けていた。しくじった、というのなら。そして康友が庇ったのなら……狙いは、エウリュアレなのか。
何故。先ほどまで、寄こせとまで言っていた彼女を。
今まで、戦ってきた敵の中で。
目の前に居る男、黒髭、エドワード・ティーチと言う男……その底が、未だに、見えてこない。
ヒント:ゴルゴーンさんによって回復した士気を一番崩しやすい方法。彼女自身を大きく動揺させる事。