FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「……」
「……」
――取り敢えず、ゴルゴーンさんについては俺が頑張るから、式部さんは他の奴を上手い事、抑えてくれれば……多分下手に話しかけたりすると噛み付いてきたりするくらいにヤバい状況だと思うし。ん? なんで分かるかって? ……まぁ色々?
等と。マスターが言われてからというもの。ずっとお二人の様子を見ているのですが。
マストに寄りかかって一言もしゃべらず、表情も硬いゴルゴーン様。そんなゴルゴーン様の裏で、のんびりと青い空を見つめていらっしゃるマスター。そんな構図がずっとずっと続いています。
藤丸様も何かしら元気づけよう、とはおっしゃっていましたが……私がマスターの事を伝えると、それなら、とマスターにお任せするとの事でした。
周りの方々の顔色は……正直宜しくありません。
ゴルゴーン様から溢れ出す、とんでもない迫力、怒りの感情を、どんな方でも感じ取れてしまうのでしょう。
アステリオス様も少しばかり居心地悪そうにしてらっしゃいます。ドレイク船長は……口笛など吹いていらっしゃいます。アルテミス様は、不安げにオリオン様を抱き締めていらっしゃいます。
間違いなく、弾けたら大変な事になるでしょう。起爆する直前と言った感じです。それをマスターも感じている筈なのですが。どうにも、マスターは涼やかな表情をしていらっしゃいます。
流石にそんなマスターに気が付いていない訳もないでしょう。というか、マスターが何も言わず傍に座った時に、舌打ちすらされていたような……
もしや、今マスターは、とんでもない無茶をしていらっしゃるのではないかとすら思えて来るのですが。
「――マスター」
「やっていいよ」
……声をかけたのです。ゴルゴーン様から。明らかに不機嫌そうな声で。マズい、とだれもが思ったと思いますが……それ以上に驚いたのは、マスターの即答かと思います。本当に、何の躊躇いも、戸惑いも無く。間髪入れず、回答したのです。
「……まだ何も言っていない」
「アイツをぶっ飛ばしたいんだろ。邪魔なんてしないよ。出会ったらぶっ飛ばせ、なんて生ぬるい事は言わんともさ。消し飛ばしてやれ。跡形もなくな……藤丸、任せて貰って構わないな。あのランサー野郎はよ」
「え、あ、あぁ……うん」
マスターは、当たり前のようにゴルゴーンさんの言葉に答えました。まるで、なんていうのか分かっていた、とでも言いたげに。笑って――
「俺達は、アンタのやりたい事を否定しないし、サポートだってするからよ。取り敢えず今は落ち着いてもろて、な?」
「落ち着いていられないのが見てわからぬのか?」
「浮ついて牙が鈍る方がヤバいんじゃないの」
――そう、口を開きました
「……何?」
「言っとくけどな。助けられるのは俺じゃない。幾らでも利用されてやれるし、サポートも出来るけど……強いサーヴァント相手なんて出来る程強靭じゃない。アンタの思ってる通り貧弱な人間だ。出来るのはアンタなんだよ」
私の周り、当然私も含めて。全員の背筋が凍った音が聞こえた気がしたというのにさらにマスターは畳みかけるのです。ゴルゴーン様に。怒涛の勢いでした。頭が少しクラッとした気がしました。
確かに言っている事は、間違いないのですが。しかし、正論と言う名の鈍器で、相手の頭を殴りつけるかのような暴挙。些か感情的になっている今のゴルゴーン様に対して、それは、余りにも。
「貴様」
「俺は。アンタならやれると思ってる。でも……」
「だまれ」
ひっ、と。喉の奥がなってしまうのを抑えられません。
突如としてマスターの周りを取り囲んだのはゴルゴーン様の髪が変じた化生の蛇。顎を大きく開いたその姿は、明らかに怒りに満ちている様にしか見えませんでした。
思わず、と言った様子で盾を構えたマシュ様を、藤丸様が手で制したのと同時でした。マスターはその蛇に……当たり前のように触れたのです。
「……良い感じだ。俺だったら一噛みだろうな」
「そうだ。貴様の体など当然のように嚙み切れる」
「んで? それでこの世に存在する為の楔を噛み切って自滅か?」
「……」
「俺はな。姉妹を奪われててブチ切れてるアンタの気持ちが分かる。分かるから言ってるんだよ。他がどうでもよくなるだろうな。でもそれでヤケなんぞ起こしたらパァだ。全部纏めて。それを許してくれるほど、この世界は優しくない」
冷たい目でした。
今までも、マスターが威圧的な表情をしたりするような事はありましたが……何方かと言えば、激情に刈られたような表情が多かったのです。ここまで冷えた瞳をこの人がするのは初めて見たと思います。
「それを一番分かってるのはアンタだと思ったけど……違ったかな」
「ぐ、ぬ」
「――イライラすんのも当然だ。感情的になるな、なんて言わないよ。人間の方がよっぽど感情的になって暴走する事なんてよくある事だ」
宥めている、と言うよりは。ゴルゴーン様を……叱っている、と言うべきでしょうか。人が。怪物を。見る人が見れば、傲慢にも思えるそんな無茶を、しかしながらマスターは一切目を逸らさず、焦らず。当然の事をしていると、自分で信じていると、態度で堂々と示している様に見えます。
「だからその感情を効率的に相手を潰す為に向けた方が、合理的だ。お姉さんを取り戻すんだろ?」
「……当然だ、姉上は必ず取り戻す。私の手で」
「オーライ。じゃあ俺に八つ当たりする前に、研ぎ澄ませてくれ。あのランサーへの怒りって奴をさ。まぁこれはマスター命令だ。ムカつくとしても、そこで自分を納得させてもらえれば、ってな」
ゴルゴーン様が、眼を釣り上げて睨んでいらっしゃいます。マスターが、相も変わらずの顔をしていらっしゃいます。
とんでもない無茶でした。皆様が息を吞んでいました……そんな中で、ふぅ。と一つ息を吐いたのは、誰あろう……ゴルゴーン様。眉間に刻まれていた険しい皺と、固まっていた表情をふっと緩めて、マスターへと差し向けていた蛇をゆっくりと退かせました。
「利用しろ、と言うのは嘘偽りなしと言う事か」
「言ったとおりっしょ? 何時だって利用してくださいな」
「そうだな。ここで無駄に感情を爆発させても無為だ。利用させてもらうとしよう」
ゴルゴーン様がゆっくりと元の位置に戻られたのを見て、今度は皆が詰まっていた息を一気に吐き出して……そのままゴルゴーン様の尻尾部分に倒れ込んだマスターを見てもう一度皆が血の気を引かせました。
そんなマスターを、ペイっとゴルゴーン様は尻尾で持ち上げて投げ捨てて。マスターは笑っていらっしゃいますが、ゴルゴーン様は……残念な方を見る目で見ていらっしゃいます。けれど、先程よりも、明らかにのんびりとした空気が流れていて。
漸く。今度こそ。
船内に居た皆様は、固まっていた体から、力を抜いたのです。
「――雨降って地、固まる……って奴でいいのかな?」
「恐らくは。って式部さん!? どうしたんですか!? 先輩、式部さんが!」
ただ。
私にはちょっと、一連の出来事が些かと刺激的過ぎて。ゴルゴーン様が尻尾でマスターを投げ捨てた時点で、腰が抜けてしまったのですが……はい。
殺意の鋭敏化。