FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第三十七章・裏:雷光と支配する女

 アステリオスは必死だった。

 

『あれはヘラクレス、人類史上最強の英雄よ。あんなの、災害みたいなもの。雪崩に立ち向かう人間は、勇者じゃない。只の無能よ』

 

 そう女神が言った。それを分かっていて。自分が無惨な結末を迎える事も承知していてそれでも尚……彼は言った。それでも尚、誰かがやらねばならぬのであれば。自分がやるんだと。それが良いんだと。

 だって、アステリオスにとって。それは当然の役割を引き受けたに過ぎなかった。その役割を引き受けられるのは、きっと自分しかいない。そう思ったから。

 

『おれ、かいぶつ。なんにんも、こどもを、ころした』

 

 それは本心からの言葉だった。罪もない子供を殺した自分は、恐ろしい化け物なのだと思っていた。それ以外には成れないのだと思っていた。ずっと。だけど。

 そんな化け物が、旅をしたのだ。この海で。キラキラと光る、美しい蒼の上を、船で旅をしたのだ。薄暗い迷宮から飛び出して。

 

 楽しかった。

 見た事も無い景色を見た。船を直した。キレイな人を乗せて暴れた。仲間に助けてもらった。いろんな人たちに、頼りにして貰えた。全てが、初めてで、キレイな思い出。

 何よりも。皆が自分の事を、アステリオスと。名前で呼んでくれたのだ。

 こんなに嬉しい事は無かった。こんなに喜ばしい事は無かった。自分は化け物だ。けれどそんな事を気にせず、皆が自分をヒトであった頃の名前で呼んでくれた。

 

 こんな自分でも、彼等の仲間であった。

 だから、仲間を助けようと思った。自分が、助けようと思った。もし、自分が犠牲になっても、構わない。そんな無垢な献身の心で。

 

「――アステリオス!」

「ぐ……」

「■■■■■■■■―ッ!」

 

 ――だけど。

 一人じゃ、ない。

 

「よそ見をするな、筋肉達磨!」

「――■■■■■■っ!?」

 

 アステリオスの背後から。がっぷり四つに組んだヘラクレスに向けて、容赦のない一手が襲い掛かってくる。先ほどから、執拗に目を狙う容赦のない一発は、如何に最強の英雄ヘラクレスと言えど、無視は出来ない。

 一度蘇生する様を見せられた。だからなんだ。であるならば生かさず殺さず。じわじわと、先ずは足止めに徹する。アステリオスと、ゴルゴーン。二人の怪物が手を組んだ故の、奇跡の守勢だ。

 

 そしてヘラクレスを抑えられれば……周りが生きる。

 

「クソッ……ゴルゴーン、アイツさえいなけりゃ……! 化け物二匹が、身の程もわきまえないで逆らいやがって、クソ何やってるヘラクレス! さっさと潰せ! メディア、お前もヘラクレスをとっとと援護しろ! 何をやってる役立たず!」

「申し訳……キャッ!?」

「申し訳ないねぇ船長さんよ。アンタの嫁さんは此処で仕留めさせてもらう。女流作家さんよぉ、合わせなァ!!」

「分かりました!」

 

 ――ヘラクレスには、もう一つの危機がある。

 

 ゴルゴーンの石化の魔眼は、凄まじい力を持っている。如何に十二の命を持ち、生中な妨害等全く気にも留めない程の超人、ヘラクレスと言えど、一度は耐えられないと、言っていた。

 そして……もし石化すれば。アステリオスは、決してそこを見逃さない。ヘラクレスを海へと放り捨ててやるつもり満々だった。

 如何にヘラクレスとはいえ、石化された上に水の底に放り込まれれば、どうなる? 蘇生する間に大きく水の底へと沈んでいく。もし水圧がその腕でもどうしようもない所にまで至ってしまえば?

 回収も出来ない。不死身のガラクタの出来上がりだ。

 

 しかし、それを阻止しようにもヘラクレスを支援する他のサーヴァントは、マトモに援護に加われる状況ではない。

 メディアを狙うのは、遠距離からの打点を持つドレイクと紫式部。竜牙兵も、援護も。させない程の連続攻撃。そしてもう一人。接近戦に混じって、共にヘラクレスの周りをどうにか出来そうなランサーはと言えば……。

 

「メドゥーサ! アステリオス! もう少しよ!」

「う……ん!!」

「無様な石像になるか、頭を討ち取られるか……好きな方を選べ、大英雄」

「く……クソがっ!! ヘクトォォォル!! 何をやってる! 早くヘラクレスを助けろ! アイツが動ければこんな奴ら直ぐにでもぶっ潰せるんだ! 盾にでもなれ!」

「んな事言われたってなぁ! だったらアンタが此奴ら止めてくれませんかね船長ォ!」

 

 ヘクトールを狙うのは、引き続き、マシュとセイバー。以前よりもしっかりと連携が取れるようになった二人が、ヘクトールを此方に向かわせない。

 

向こうを援護させない様に、此方が援護している。アステリオスが集中して戦えているのは皆のお陰だ。アステリオスは、体の中から力が湧いて来るようだった。こんなにも沢山、化け物を助けてくれる仲間がいるという事実が、とても心強い。

 相手も自分以上の怪物だ。でも……負ける気がしない。

 

「――おれ、は……おまえを、にがさな、い……!!」

「■■■■……!」

「ここ、で、しずめ……だいえいゆう……!」

 

 一歩、踏み込む事すら出来る。決して負けない。退かない。ここで此奴を打ち倒し、エウリュアレを取り返してハッピーエンドだ。ミノタウロスとしてではない。アステリオスとして――

 

「――あー、クソ。こんなやり方、正義のやり方じゃない……私の本意じゃない……だが、だが……っ! ここで、やられるくらいなら……いっそ……!!」

「ん? 船長?」

「おいヘクトール! メディア! 撤退だ! 船を一旦離す!」

 

 ――その時、アステリオスは、感じ取った。信じられない程に、冷たい予感を。

 それは、きっと野生の勘だったのだろう。敵の船に視線を向けた。その先には、金髪の船長が居る。イアソンが、此方を嘲笑う様な目で見ている。

 メディアが、ヘクトールが、怪訝な表情をしている。その名前の中に、ヘラクレスの名前が無いのに気が付いたのだろう。

 

「マシュさん!」

「は、はいっ! 撤退するなら……」

 

 敵船に取り残されるのは愚の骨頂。マシュと、セイバーの二人が船へと戻ろうとするのが見えた――その瞬間の事だった。

 

「――今だヘクトール!!! やれ!! 奴諸共!!」

「……オイ船長、それマジで言ってます?」

「当然だ! 目論見通りに事が運ばないのなら……いやでもそうなるようにするのが、トップの仕事だろう?」

「ったく、しょうがねぇなぁオイ! 嫌になって来たよホント!」

 

 その後方で、躱されたやり取りを、確かに聞いた。言われた奴が誰なのかも分かった。どんな卑劣なやり方を取ろうとしているのかも分かった。だけど、今、逃げれば……どうなるのか。

 分かっていたから。アステリオスは、一歩も退かず、震える奥歯をかみしめた。

 

「――『不毀の極槍』!!」

 

 飛んで来る槍は、完全に、アステリオス以外にとっては予想外の動きだったのだろう。全員が動きを止めていた。その軌道は間違いなく……自分を、否……アステリオス諸共、ヘラクレスも串刺しにする、軌道だったのだから。

 

 

 

『いや……! アステリオス……!』

『ヘラクレスは十二の試練を乗り越え……それに相応しい報酬を手に入れた! 十二もの命のストックという、破格の報酬をな!!! 貴様が死んでも、ヘラクレスは蘇る。コレが力の差という物だ化け物、理解できたか! ハハハハハハハハッ!』

『アステリオスの野郎、まだ生きてやがる』

『……撤退だ!!』

 

 

 

 体から抜けそうになる力を、必死になって押し留める。命を、さらに削ってでも。

 エウリュアレが逃げ切るまでは。そしてこいつを、海の底に沈めるまではまだ自分には付き合ってくれる、仲間がいるから。

 

「離すなよ……アステリオス! もう少しで、望み通りの姿だ!」

「まかせ、ろ、めどぅ、さ!!」

「■■■■ッ……」

 

 目の前の怪物諸共、自分の体が、足の先から石になっていくのが分かる。今は、それが嬉しかった。足から力が抜けても、立っていられる。コイツを、逃がさないでおける。頼んで良かった。コイツ諸共、石に変えろと。

 この化け物から、出来るだけ皆を引き離すには。逃げられるようにするには。それがきっと一番良い。

 

 エウリュアレの泣き声が聞こえる。悲しませてゴメン、と言いたい。でもそれよりもいう事は、きっとあるから。アステリオスは、大きく口を開けた。

 

「――えうりゅあれ! ますたぁ! きゃぷてん! みんな! ありがとう! ぼくは、ぼく、は……たのしかった! たのしかった! いっしょに、ぼうけんが、できた! あすてりおすのままで!」

 

 声を張り上げる。

 喋るのは苦手だから、出来るだけ最後に残った力を籠める。もう殆ど力を籠めなくてもいい。首から下は殆ど……石になっていた。

 

「だから……ありがとう!」

 

 ぐらり、体が傾く。

 その先には……青い海が広がっている。その直前。

 

「――姉上は、任せろ」

 

 そんな、涙ぐんだ声を、聞いた気がした。

 




ゴルゴーンさんが彼を『ミノタウロス』と呼ぶか『アステリオス』と呼ぶかで最後まで悩みました。

あとアステリオス君ゴメンホント……ユルシテ……ユルシテ……
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