FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第四十章・裏:成功者

「――っ!?」

「よぉ腰抜け野郎……漸くお目見えだなぁオイ」

 

 ――下民風情が、王たる俺の元に立ちはだかるな。ふざけるな。誰の許可を得て俺の前に立ってやがる。ふざけるな。潰せヘラクレス。

 

「くそ、役立たず共が!」

 

 聞かせてやりたかった。この恨み言を。だが、周りにはヘラクレスは愚か、メディアも、ヘクトールも、敵の相手をしていてこっちには来れない。。今ここには、船長の俺しかいない。

 ふざけるな、どいつもこいつも、役に立たない無能の癖に、船長の俺の足を引っ張りやがって。守り以外何も出来ないオッサンに、疫病神同然の魔女が。苛立ちしか募らない。だからこうやって俺が……

 

「とりあえずアステリオスに会いに行け」

「うわっ!?」

 

 だが、そんなこっちが悠長に何かをする間もなく、男は先ず挨拶の代わりに、とでも言わんばかりに前蹴りをくれやがった。その頭にはいつの間にか一本、角らしきものが生えてやがる。なんだ、カルデアって所は、化け物でもマスターが出来るのか。

 

「こ、このっ……お前、誰を足蹴にしようとしてやがる! 無礼者が!」

「あぁ無礼者で良いさ。お前みたいな奴には無礼で丁度良い礼儀作法だろ」

「な!?」

「おらっ、無礼ついでだ」

 

 額に、バチリと何かがぶつかった。

 痛くは無かったが、男はにやにやと笑ってる。

 

 虚仮にしてやがる、この俺を。

 

「正義って言ってたな。そうだな、お前は正義をこれ以上なく求めてる……お前は正義って言う甘い蜜に集る『蛆虫』だ。正義になんてなれやしない、足も手も無く、本当に美しいものにあこがれて蠢く悍ましい蟲」

 

 ――蟲風情が、囀るなよ。

 

 だけど、こっちが言葉を差し挟む暇もなく、男は更に殴りかかってくる。握り固められた拳はギリギリ俺の傍を掠めて……後ろの樽を軽々と叩き割った。

 ゾッとする。コイツも普通のパワーじゃない。見掛け倒しじゃない。、目の前の男はマジのバケモノだった。そりゃあ、ヘクトールや、もちろんヘラクレスだとかと比べればカスみたいなもんだが……俺と比べたら?

 

「こ、こいつっ……!?」

「やっぱ喧嘩は慣れてねぇなぁ船長さん」

 

 腰が引けそうになる。俺は荒事なんざできない。肉体労働は他の奴の役割だろう。こんな奴と殴りあいするなんて冗談じゃない。メディアも、ヘクトールも、ヘラクレスも! 揃って何やってやがる、船長の危機だって言うのに。

 だが……ダメだ。俺は今、サーヴァントなんだ。人間なんかと格が違う存在なんだ。こんな存在として格下の相手に背を向けて逃げ出すなんざ、論外だ。

 

 逃げたら終わりだ。

 

 どんな戦いだって、勢いを失った方はズルズルと負ける事だって全然あるんだ。

 俺が逃げれば確実にこっちの勢いは削げる。人間相手に逃げたって言うのが特にアウトだ。勝つなら、ここは逃げたら終わりだ。

 

「――は、ははっ。たかが下民風情が、多少ケンカが出来る位で、私に勝てる訳が無いだろうが……! 俺が作る理想郷の、礎にもなりもしない分際で!!」

「ほぅ。言うねェ。後悔すんなよその言葉」

 

 幾ら此奴が化け物染みてるとしても、俺は世界の王となるべく英霊としてこの地に降り立った男だ。こんな奴とは格が違うんだ文字通り。そうだ。俺が負ける訳ないんだ。俺は無敵だ。最強なんだ。このアルゴノーツの船長が、こんな下等な輩に!!

 

「――死ね! 死ね! とっとと俺の目の前から消えろ!」

「その発言、全部まとめて返してやるよ船長さん……!」

 

 真っ直ぐ、走り出す。

 拳を固めて殴り掛かる。当たれば、こんな奴一発で殺せる。当たれば――前のめりに振り下ろしてやった。だけど、当たった感触が無い。

 俺の横で、男は笑っている。角はいつの間にか引っ込んでた。そんな物、必要ないとばかりに。頭がカッとなる。見下すのは、俺だ。お前じゃない。

 

 今度こそ殴ろうとして、無理矢理振り向こうとして、体勢を崩した。倒れない様に踏みとどまったけど、殴るどころじゃない。歯噛みしながら振り向いて……

 

「どうした坊や。人の殴り方も知らねぇか?」

 

 男は、こっちを笑ってみていた。

 

「――死ねッ!!」

 

 コイツの頭をカチ割ってやらないと気が済まない。兎も角、拳を振り回す。一発位当たるだろう。俺は、人間なんかと違うんだ、と。

 でもダメだった。腕の間合いの一歩外を、まるで遊んでるみたいにすり抜けていく。避けられる度、胸にドロドロとしたものがこみあげてくる。

 

 苛立つ。苛立つ苛立つ苛立つ苛立つ苛立つ苛立つ――!!

 

 さっさと負けを認めろ。ヘラクレスがこっちには居るんだ。お前らが幾ら足掻いた所でヘラクレスが戻ってくれば終わりだ。足掻くな。面倒を掛けるな。お前らが居なけりゃ俺はもうこの世界の王になっているんだ。

 

「人間が! 英霊に! 勝てる訳もないってのに! 調子に乗りやがって!」

「その英霊様のへなちょこパンチは掠ってもいませんなぁ……?」

「うるさいっ! 黙れっ!」

「口以外もしっかり動かせよ。動かしても当たんねーけどな」

 

 俺は理想の国を作りたかっただけなんだ。叔父に追い落とされて、馬屋に捨てられて。クソ見たいな思いをした。天上からどん底に突き落とされる気分が、お前らに分かってたまるか。俺には、王になる資格があるんだぞ。

 誰だって踏みつけて良い。誰だって利用して良い。その先に出来る物を考えりゃ何をしてもお釣りがくるんだ。俺が作り上げた理想郷があれば! 全て! チャラになる!

 

 そうだ。そうだってのに……なんでコイツは、俺を見て、笑う。

 俺が必死になってるのを、なんで嘲笑ってみてられるんだ!!

 

「――気に入らねぇのはその眼だ」

 

 それはこっちのセリフだ。

 嗤ってるくせに。その癖、目は酷いほど冷えてやがる。見た事がある。零落した俺を哀れみながら、ざまあみろと見て来た俗人共の目だ。俺が見返そうと思った奴らの目だ!!

 

「自分が被害者だから何をしても良い……本気でそう思ってやがる」

「ああそうだ! 俺は追い落とされたから! 王になる権利を有してるんだ!」

「ちげぇよ。そんな権利ある訳ねぇだろ」

「うるさい!」

 

 なんで見下されなきゃならない。なんでこんな目に会わなきゃならない。悔しい、悔しい、悔しい――だから、必死になった。俺の力で! 俺は! のし上がった! 金色の羊の皮を求めて、大冒険に出た!

 凡人共じゃ、俗人共じゃできない事だ! 俺だから出来た英雄譚だ! そうだ、俺は真に英雄足り得る男なんだ! 本物の英雄だって、俺の船に乗ってたんだ。そいつ等を束ねた俺も、また英雄だ!

 

「自分らが被害者だって思ってる奴らは、本当になんだってするな……良く知ってるさその事は。俺達がそうだったよ」

「っ!」

「自分達が傷ついたのなら、周りが傷ついたって問題無い。人間の心理らしいな。そう思っちまうのは。哀れだと思わないでもねぇよ。そんな考え方しか出来ないんだから」

 

 そうだ。俺が見下されたんだ。今度は俺が見下してやるんだ! 王になって! 自分の国を取り戻して! あのどん底から立ち直ってやったぞと!

 

「自分が失ったもの以上の事を取り戻さないと止まれない」

「だまれっ!」

「成果が出なければ全てが無駄になる」

「だまれぇっ!」

「傷ついた自分が哀れで哀れで、だから余計に成果を求めるんだろ!! そんな自分がやった事だから! 賭けた労力を失うのが怖くてしょうがなくなる!」

「だまれぇっ!!!」

 

 そんな事、言われなくたって……!! 嫌って程分かってる! 船を出した時から、もう後戻りはできない! 誰が犠牲になったって! 俺は王になるために進んだんだ! そして王になって、俺は……!

 

「――目的を果たして」

 

 ――男は、酷く、冷えて目をしていやがるんだ。

 

「気持ちよくなって、良かったな」

 

「俺は、目的を果たした後に来る、ツケだ。お前らが踏みつけにしたものだ。それを思い知りやがれ、『成功者』」

 

 一瞬だった。

 

 腹に物凄い衝撃が来た。と思ったら、もう俺は倒れてた。力が入らない。

 腹が、馬鹿みたいに痛ぇ。立ち上がる力もねぇ。体が消える様な感覚は無い。吐き気もしてくる。立ち上がりたい。この無礼者に一発くらわしたいのに、自分の足が言う事を聞かない。

 

 嫌だ。どうして俺がこんな目に会ってるんだ。どうして殴られなきゃいけないんだ。

 ちくしょう。ちくしょう。

 

「――サーヴァントってのは本当に凄いんだな。これだけ全力で漸く、ダウンだけか。こっちは全部の切り札切ったってのによ」

 

 ちくしょう――!

 

「まぁそれが、お前らが踏みつけにして来た奴らの一発だ。受け取っておけよ。素直に」

 




イアソン君の描写が上手くいった気がしない……
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