FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「おいマジかよ……サシとか」
「よそ見をしている余裕はあるのか?」
「そう言われてもなぁ。アンタはどうなんだい? 自分のマスターがサーヴァントにサシの戦い挑もうとしてんだぜ」
よく平気で居られる。
アレが死ねば、私も自動で戦闘不能になるのは間違いない。
それを目の前の男も承知しているのだろう。だからそう言う。まぁ、その心配は最もだろうが。にしても間が抜けている。
「それで動揺を誘おうというのは、些かと無茶ではないか。ヘクトール」
「……アンタ相手にどんな手を使おうが足りないのはそうだけど。割と本気で心配してるのは、マジッ! っとぉ……なんだけどねぇ」
爪があと一歩のところですり抜けていく。随分と上手く戦う。カルデアの連中は、ヘラクレスばかりを怪物と警戒しているが、この男も大概だ。私の様な本物の怪物の牙や爪を、槍の穂先で『いなす』など。到底できる技ではない。
あの男とて、私と真っ向からの戦いはしなかった。
断言しよう。私を殺したあの男より、間違いなく守りの技量は上であろう。誇るがいい。兜輝くヘクトールよ。
「サーヴァント相手に勝てると思ってる?」
「さてな。アレが『そうしたい』というから手伝ってやっただけだ。結果がどうなるか等、さして気にもならん」
「おいおい、じゃあ見殺し同然で送り出したって事かい?」
「そうなるな」
「随分とまぁ……冷遇されてたとかそんな感じ? 恨み代わりにそういうことしちゃった?」
とはいえ。
「いいや、そんな事は無い。それなりの待遇は受けていた」
「んじゃまぁ、その待遇がっ! お節介で、嫌になった、とか?」
「くくっ、言うではないかっ!」
それを踏まえても、私の『髪』からこうも逃げつつ、良く口が開ける。余裕があるのかそれとも。余裕が無いからこそ、口を開いて、動揺させようとしているのか。
もし後者であれば。怪物にそんな生易しいやり方が通じると思っているのか。言葉を解するとはいえ、私は人間を喰らう化け物だ。
――とはいえ、その化け物に対して『利用しろ』等と。生易しいどころか、バカではないかと誤解する程の言葉を投げかけたマスターが居るが。
「だとしたら冷たいねー。一応それなりの待遇貰ってたのに、一切心配だとかはしないってのは。それに……愚かだぜ。弱点を守らないってのは」
「私を人間の尺度で計るとは。愚かしいとは思わないのか? ヘクトール」
「そもそもそこに議論が無いんだよ。弱点を庇うのなんて動物として最低限の本能だろ」
ヘクトールは、そう言って笑う。
マスターが弱点。確かにそうだ。我々サーヴァントなどよりも余程虚弱。貧弱。サーヴァントが必死にマスターを守るのは、アレが外付けの弱点であるが故でもある。
現世に死者の影法師を繋ぎ止める楔だ。それを破壊されては我々は現世に留まれないのも当然ではある。
貴様から見れば、弱点を突かせる為に送り出したようにすら見えているのか? 成程、それは間抜けと笑うのも分からんではない、か。
「――貴様は、私のマスターがイアソンに負けると思っているか?」
「そりゃあ、幾らウチの船長が……まぁ、なんだ。戦力的に大したことないって言ってもさ。英霊と人間だぜ? 格の差ってもんがあるでしょうよ」
「英霊と人間の、か。まぁ、確かにそうだ」
怪物が人間には敵わぬ様に。英霊が人間を圧倒するのも当然。どうしようもない存在としての格の壁。それは当然存在するだろう。挑むのも馬鹿らしくなってくる圧倒的な隔絶がそこにある。
無数の勇士が我々に敵わぬと理解して、それでも尚、挑み、捻り潰される。そんな景色を確かに、私はよく見て来た。蹂躙する側だった。
容易く千切り、石にし、その希望を握りつぶして来た。握りつぶすだけではなく、呑み込んでも来た。まぁ、やれるだけの殺し方をして来た。殺した数などまぁ覚えても居ない。
種としての圧倒的な格差という物を、私は一番よく知っているだろう。
「――く」
ああだが、しかし。
しかし、その言葉に、思わずして――
「くくくっ、ハハハハハハッ!」
我慢できず、笑いが漏れてしまった。
「……アレ、なんかオジサン面白い事言った?」
「いいや、語るに落ちる、と言う言葉を文字通り聞く事になろうとは、私であっても全く想像だにしてなかったからな」
「はぁ?」
「――怪物を打倒して来たのは、人間だ」
そうだ。人間共は、我らの様な反英霊を、怪物を、打倒して来た。
戦力、彼我の差。そんな物を、承知の上で、だ。
自分では敵わぬ。圧倒的な存在を相手に、しかしながら人間は当然のように挑んで来たというのに。
そして――本来あり得ぬその軌跡をたどり、そして奇跡を掴んで来る。それが忌々しき『英雄』と言う存在ではないのか。お前たちそのものではないのか。それを。どの口がそのセリフを吐く?
「その人間の英霊が、『格の差を越えられると思うのか』とはな! それではまるでお前たち、
「……っ!?」
「お前ら英霊は、そんな物を言い訳にして、戦うのを諦めた事があるか?」
違うだろう。
お前らこそが、最も、最も、諦めもせず、格差も捨てて。我々に必死になってくらいついて来るというのに。
どれだけそれが鬱陶しく、そして此方にとって苛立たしいのか。脅威であるのか。お前たち以上に、私達は熟知しているぞ。
それでも『上位者』であるが故に。我々は確かに格差を知って尚、挑んで来るかと挑戦者を笑うのだ。しかし……お前たちはそうではあるまい?
「なんだ、正義の軍団が、悪に傾倒している自覚があるのか? これを笑わずして何を笑うヘクトール」
「あーっ、ったく……それは……」
「貴様等と違い、私は利用しているあのマスターが、そこ迄はやわだとは思っていない故な。格の差とて存外、飛び越えるやもしれん、程度には評価している」
あの男は。私の様な化け物に対し、自分の事を利用しろ、自分も利用する、とまで言ってのけた愚か者だ。その呆れかえるような胆力だけは嫌と言うほど理解できている。
肉体の差など、そんな精神の強さと小細工でひっくり返す。そんな光景を、我々は嫌と言う程見せつけられてきた。殆どアレはずるではないか。
故に……相手が倒されるべき『怪物』の様な言動をしているのだから。
それは此方もずるの一つでもやってしかるべきだ。そうだろう? 『英雄』。
「まぁ相手は、口は兎も角、体の方は貧弱な小僧だ。行けるのではないか?」
「――それを聞いて、オジサンがこのままここに居ると思ってる?」
「良いぞ。背を向けても構わん。だが貴様が私の弱点を突く前に、私は貴様の喉首を掻っ切って……いや?」
ああいや、違うな。こんな普通の問答では面白くない。相手が英雄であるのであれば。此方は怪物らしく言ってやろう。精々姉上に良い報告が出来る様に、出来る限り、嬲ってやろうではないか。
「『おぉ、恐ろしい
「……生前から生半可な挑発には乗らない様にしてるんだけど。乗る乗らない以前に、『負け』を認めさせられるような挑発は、初めてだよ……!」
男は、槍を構えた。
英雄らしく、怪物を討ち取る為に。
だが敵に酔いしれる大義は無く、そして私を討ち取る為の武器も無い。私を相手に怯まぬ覚悟は、踏み込む一歩は、突き出される槍は、確かに強いやもしれんがしかし……強いだけの輩など。
私は生前、幾ら討ち取って来たか。
「――随分無様な格好で固まったな、槍兵」
「そうだねぇ。全く。悪役らしいって言えば、らしい最後だ――」
そうして。
強いだけの輩の最後など。何時も決まっている。
無様な石像となって、立ち尽くすだけだ――
書いてて楽しかった(なお難産)