FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第四十章・裏:怪物の言い分

「おいマジかよ……サシとか」

「よそ見をしている余裕はあるのか?」

「そう言われてもなぁ。アンタはどうなんだい? 自分のマスターがサーヴァントにサシの戦い挑もうとしてんだぜ」

 

 よく平気で居られる。

 アレが死ねば、私も自動で戦闘不能になるのは間違いない。

 それを目の前の男も承知しているのだろう。だからそう言う。まぁ、その心配は最もだろうが。にしても間が抜けている。

 

「それで動揺を誘おうというのは、些かと無茶ではないか。ヘクトール」

「……アンタ相手にどんな手を使おうが足りないのはそうだけど。割と本気で心配してるのは、マジッ! っとぉ……なんだけどねぇ」

 

 爪があと一歩のところですり抜けていく。随分と上手く戦う。カルデアの連中は、ヘラクレスばかりを怪物と警戒しているが、この男も大概だ。私の様な本物の怪物の牙や爪を、槍の穂先で『いなす』など。到底できる技ではない。

 あの男とて、私と真っ向からの戦いはしなかった。

 断言しよう。私を殺したあの男より、間違いなく守りの技量は上であろう。誇るがいい。兜輝くヘクトールよ。

 

「サーヴァント相手に勝てると思ってる?」

「さてな。アレが『そうしたい』というから手伝ってやっただけだ。結果がどうなるか等、さして気にもならん」

「おいおい、じゃあ見殺し同然で送り出したって事かい?」

「そうなるな」

「随分とまぁ……冷遇されてたとかそんな感じ? 恨み代わりにそういうことしちゃった?」

 

 とはいえ。

 

「いいや、そんな事は無い。それなりの待遇は受けていた」

「んじゃまぁ、その待遇がっ! お節介で、嫌になった、とか?」

「くくっ、言うではないかっ!」

 

 それを踏まえても、私の『髪』からこうも逃げつつ、良く口が開ける。余裕があるのかそれとも。余裕が無いからこそ、口を開いて、動揺させようとしているのか。

 もし後者であれば。怪物にそんな生易しいやり方が通じると思っているのか。言葉を解するとはいえ、私は人間を喰らう化け物だ。

 

 ――とはいえ、その化け物に対して『利用しろ』等と。生易しいどころか、バカではないかと誤解する程の言葉を投げかけたマスターが居るが。

 

「だとしたら冷たいねー。一応それなりの待遇貰ってたのに、一切心配だとかはしないってのは。それに……愚かだぜ。弱点を守らないってのは」

「私を人間の尺度で計るとは。愚かしいとは思わないのか? ヘクトール」

「そもそもそこに議論が無いんだよ。弱点を庇うのなんて動物として最低限の本能だろ」

 

 ヘクトールは、そう言って笑う。

 マスターが弱点。確かにそうだ。我々サーヴァントなどよりも余程虚弱。貧弱。サーヴァントが必死にマスターを守るのは、アレが外付けの弱点であるが故でもある。

 現世に死者の影法師を繋ぎ止める楔だ。それを破壊されては我々は現世に留まれないのも当然ではある。

 

 貴様から見れば、弱点を突かせる為に送り出したようにすら見えているのか? 成程、それは間抜けと笑うのも分からんではない、か。

 

「――貴様は、私のマスターがイアソンに負けると思っているか?」

「そりゃあ、幾らウチの船長が……まぁ、なんだ。戦力的に大したことないって言ってもさ。英霊と人間だぜ? 格の差ってもんがあるでしょうよ」

「英霊と人間の、か。まぁ、確かにそうだ」

 

 怪物が人間には敵わぬ様に。英霊が人間を圧倒するのも当然。どうしようもない存在としての格の壁。それは当然存在するだろう。挑むのも馬鹿らしくなってくる圧倒的な隔絶がそこにある。

 無数の勇士が我々に敵わぬと理解して、それでも尚、挑み、捻り潰される。そんな景色を確かに、私はよく見て来た。蹂躙する側だった。

 容易く千切り、石にし、その希望を握りつぶして来た。握りつぶすだけではなく、呑み込んでも来た。まぁ、やれるだけの殺し方をして来た。殺した数などまぁ覚えても居ない。

 

 種としての圧倒的な格差という物を、私は一番よく知っているだろう。

 

「――く」

 

 ああだが、しかし。

 しかし、その言葉に、思わずして――

 

「くくくっ、ハハハハハハッ!」

 

 我慢できず、笑いが漏れてしまった。

 

「……アレ、なんかオジサン面白い事言った?」

「いいや、語るに落ちる、と言う言葉を文字通り聞く事になろうとは、私であっても全く想像だにしてなかったからな」

「はぁ?」

「――怪物を打倒して来たのは、人間だ」

 

 そうだ。人間共は、我らの様な反英霊を、怪物を、打倒して来た。

 戦力、彼我の差。そんな物を、承知の上で、だ。

 自分では敵わぬ。圧倒的な存在を相手に、しかしながら人間は当然のように挑んで来たというのに。

 

 そして――本来あり得ぬその軌跡をたどり、そして奇跡を掴んで来る。それが忌々しき『英雄』と言う存在ではないのか。お前たちそのものではないのか。それを。どの口がそのセリフを吐く?

 

「その人間の英霊が、『格の差を越えられると思うのか』とはな! それではまるでお前たち、怪物(こちら側)の言い草ではないか! えぇ!?」

「……っ!?」

「お前ら英霊は、そんな物を言い訳にして、戦うのを諦めた事があるか?」

 

 違うだろう。

 お前らこそが、最も、最も、諦めもせず、格差も捨てて。我々に必死になってくらいついて来るというのに。

 

 どれだけそれが鬱陶しく、そして此方にとって苛立たしいのか。脅威であるのか。お前たち以上に、私達は熟知しているぞ。

 それでも『上位者』であるが故に。我々は確かに格差を知って尚、挑んで来るかと挑戦者を笑うのだ。しかし……お前たちはそうではあるまい?

 

「なんだ、正義の軍団が、悪に傾倒している自覚があるのか? これを笑わずして何を笑うヘクトール」

「あーっ、ったく……それは……」

「貴様等と違い、私は利用しているあのマスターが、そこ迄はやわだとは思っていない故な。格の差とて存外、飛び越えるやもしれん、程度には評価している」

 

 あの男は。私の様な化け物に対し、自分の事を利用しろ、自分も利用する、とまで言ってのけた愚か者だ。その呆れかえるような胆力だけは嫌と言うほど理解できている。

 肉体の差など、そんな精神の強さと小細工でひっくり返す。そんな光景を、我々は嫌と言う程見せつけられてきた。殆どアレはずるではないか。

 

 故に……相手が倒されるべき『怪物』の様な言動をしているのだから。

 それは此方もずるの一つでもやってしかるべきだ。そうだろう? 『英雄』。 

 

「まぁ相手は、口は兎も角、体の方は貧弱な小僧だ。行けるのではないか?」

「――それを聞いて、オジサンがこのままここに居ると思ってる?」

「良いぞ。背を向けても構わん。だが貴様が私の弱点を突く前に、私は貴様の喉首を掻っ切って……いや?」

 

ああいや、違うな。こんな普通の問答では面白くない。相手が英雄であるのであれば。此方は怪物らしく言ってやろう。精々姉上に良い報告が出来る様に、出来る限り、嬲ってやろうではないか。

 

「『おぉ、恐ろしい英雄(怪物)よ。一騎打ちの邪魔はさせぬ。この世界の平和の為に、貴様を討つ』……こんな感じか? ククク」

「……生前から生半可な挑発には乗らない様にしてるんだけど。乗る乗らない以前に、『負け』を認めさせられるような挑発は、初めてだよ……!」

 

 男は、槍を構えた。

 英雄らしく、怪物を討ち取る為に。

 

 だが敵に酔いしれる大義は無く、そして私を討ち取る為の武器も無い。私を相手に怯まぬ覚悟は、踏み込む一歩は、突き出される槍は、確かに強いやもしれんがしかし……強いだけの輩など。

 私は生前、幾ら討ち取って来たか。

 

「――随分無様な格好で固まったな、槍兵」

「そうだねぇ。全く。悪役らしいって言えば、らしい最後だ――」

 

 そうして。

 強いだけの輩の最後など。何時も決まっている。

 

 無様な石像となって、立ち尽くすだけだ――

 




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