FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「――う、ぁああああああ……!!」
少女が、我が剣より放たれた一閃に耐える姿は、いっそ痛々しいまである。
戦いに身を置いていたようには見えぬ、そもそも鍛えられている様にも見えぬ。いや寧ろ戦いになど連れてはいけぬ程に、『儚い』という言葉が似合う少女だ。私が僅かに首に力を入れれば……ぽきん、と。
だというのにその手に構えられた盾は、重荷になっている様には見えぬ。寧ろ……その傍らにある、年若い少年を守ろうと手に握られている盾は、彼女に――
「いや、戯言か」
とはいえ、目の前の少女に集中しているばかりにもいかない。此方を狙って飛んで来る、魔力……ではない何かによって象られた矢を打ち払う。魔術師が組み上げた物……とは少し違う。威力自体は、マーリンやらの魔術師に及ぶものではないが。
しかし、ほんの僅かの残滓に触れた時……同じく僅かではあるが、この身を蝕む力を感じ取った。
恐らくは、この身が変生した理由が関係してくる。人間の悪性、呪いの類、それを受けて反転したこの身は、それなりに呪いを纏っているのだ。それに、退魔、若しくは呪いを退ける類の術が切り込んだのだろう。
「――私に多少通じる魔術師を連れてくる辺りは最早、向こうに天運が付いているとしか言いようがない、か」
しかし。
その程度の戦力に屈してやるほど、私は物分かりが良い訳ではない。続いて飛んで来る弾丸も全て打ち落とし……その術者に目を向ける。
盾の少女とは、別の意味で儚げな女だ。その顔立ちから、恐らく東洋の英霊だとは想像できる。そして、そのマスターと思われるのが……その傍らのハゲ頭だ。
その目を良く知っている。酷く厄介な類の眼だ。マーリンや、ヴォーディガ―ン。諸王達とは全く違う……サー・ケイに感じた光だ。
相手をよく見て、弁舌を振るう。同時に、自分自身も客観視し、決して強いと驕る事はない。寧ろ自らの弱さを良く知り、全てをよく見て戦い、決して負ける戦いをしない。『弱さ』と『強さ』を良く知っている眼に他ならない。
「私が彼女に目を向けた瞬間を的確に狙い……そして、私が攻撃を打つ時は、必ずあの盾の少女の影に、サーヴァントを連れて逃げる。小賢しいマネを」
私と、自らの圧倒的な力の差を理解しているからこその行動だ。少しにやけた面をしているのは、彼とは少し違うが……それが彼なりの処世術なのだろう。怯えた内心を晒さぬようにと、軽薄な笑顔で内面を覆い隠している、と言った所か。
こういった輩は、過去、現在、未来を通して酷く厄介な手合いである事は間違いないだろう。軍師として知恵を磨けば、それだけで英雄の座に上り詰める事も難しくない程に。
――アレを先に潰しておくべきか、と私の王としての勘が告げている。
――少女を目覚めさせねば未来が終わる、と私の微かな善性が告げている。
優先すべきは――
「――まあいい。これから先を思えば、アレくらい悪辣な小僧が居る方が、上手い事行くだろう」
目の前の、彼の盾を携えた少女であろうと、手元の剣を構えなおす。その盾を手にした物の前に立ち塞がるのが……アーサー王としての、最後の役割だろうと、自分勝手なエゴを胸に抱きながら。
「見ていて下さい、マスター……!」
――我が一閃を、穢れ無き盾が跳ね返す。
「よくぞここまで持ちこたえた――倒壊するは……ウィッカーマン!!」
一瞬の隙を突き、アイルランドの光の御子がその宝具で我が身を焼く。
「――っ!」
力は、もう残っていない。
先の一撃の上に、忌々しいアイルランドの御子の全力だ。威力は分かっていた。もはやこの体はあっと言う間にひび割れて使い物に――ならなくなる、筈だったのだが。しかしながら。予想を遥かに超えて、体は頑丈にできていたらしい。
ここまでやったのだ、合格、として舞台から去っても構わぬのだが……しかし。こう見えて私は負けず嫌いなのだ。
「……ふむ」
ちらと見れば、やはり油断している様に見える。盾の少女と一緒に居るマスターらしき少年は勿論、その後ろに控える女術師も……その傍らの禿げた小僧は?
――にやり、と口が弧を描く。
やはり、サー・ケイとは経験の差が出ている。
流石に、とでも思ったのか。明らかに体から気を抜いていた。勝った瞬間に見える、油断が見えていた。他の者に比べれば少ないだろうがしかし。それでも。私が反撃して来るとまでは考えていないのだろうか。
それでは教育してやろう。悪役というのは、最後の最後まで、醜く足掻くものだという事を。それを経験とし、先に進むか。それとも私の最後の一矢で何人かもぎ取られるかは。
「……お前たち次第だ」
膝を、態と着く。剣にもたれかかるように、体勢を崩して見せる。そうして見せれば、あぁ、向こうから私は限界を迎えたように見えるだろう――キャスターの奴めも、ほんの僅か気を抜いたのは、演技の才能があったようだと、ほくそ笑みたくなった。
これで、完全に気を抜いたか。その油断が手に取る様に、見ずとも分かる。戦を繰り返して来た故の、血なまぐさい経験則……決着の最後まで、息を吐かぬ事。それが如何に大切な事かを……教示する。
「そこだ」
緩めた体を、一気に引き締め……膝を突いたままに、剣を腰だめに構える。大技は撃てずとも一人を狙い撃ちにする程度は、出来るだろう。狙いは、一番外側。最も気配の薄い白い髪の女――一撃で、消し飛ばす積りで。
「――っ!?」
気づいたのは……いや、気付いたというよりは、向けられた殺気に怯え、気付かされたというべきなのか。女は、その顔を青ざめさせて。
そして。それに気が付いたのは、やはりと言うべきか。あの禿げ頭。勝利に沸くでもなく呑気に周り等見ていたのが幸いしたのか。顔色を変えた女に、直ぐに気が付いた。私が溜めを必要とする分、先んじて動けたのだろう。
他は……間に合わない、私が誰を狙っているのか、把握できたのは一人だけだ。
「――伏せろっ!!!」
「その反応の良さが命取りになったな……一人、貰っていくぞ」
地面を走る魔力の塊が、地面を走り、そして……男に辿り着く。飛び込む様に、ではなく体を丸める様に突っ込んでいったのが幸いしたのか、直撃ではなく、体を掠り、弾かれるように吹っ飛ばされるだけ済んだのが見える。
致命傷にはならないだろう。中々に、運がいい。
「……これで、本当に限界か」
今度こそ、力が入らない。そう遠くない内に、体も瓦解するだろう。まぁ少しは悪役としての仕事は仕切ったか、とは思う。最後の一発は余計ではあったが……これも、最後まで世界を救おうと足掻いた私の執念、という事で、許してもらおう。
とはいえ、傷程度は残るか、そう思って、男の方を見つめ――
目が、合った。
「っ!?」
立ち上がっている。
致命傷ではないにせよ、それなりのダメージを与えたはず。立てるような怪我ではない筈なのに。立っている。そして、今、私と合っているあの目は。目は。
男が、一歩を踏み出す。確かな足取りで、更に、もう一歩。
更に、もう一歩――いや、大きく、足を踏み出して、そこから、地を蹴った。
「――」
「――」
正に、一足飛びだった。
普段ならば、問題にもならぬ速さだろう……しかし、問題はそこではない。それなりに離れていた距離を、当然の様に一足飛びで詰めて見せた、その化け物染みた脚力だ。人間離れしている、としか言いようがない。
そして、その額の……雷の様な、角は。
「おい、調子コいてんじゃねぇぞ」
「貴様――」
何よりも。目が違う。
今までの若い、それでも理性的な目ではない……暗く、沈んだ。
――ゴキ
僅かな衝撃が、体に響く。これだけボロボロになった体でも、神秘を纏わぬ拳など意味をなさない……そう、思っていた。しかし。
こめかみに叩き込まれた男の手には、確かな神秘が纏わりついていた。それが、サーヴァントの神秘の法則を通過する。それなりに神秘を纏った一撃であるのならば。この崩れかけの体に僅かな傷を入れる事も、叶うだろう。
「死にかけなら、とっとと沈め――愚か者」
地面に体が吹っ飛ぶ。そして……体が、解けていくのを、感じる。
最期に思ったのは、無念ではなく――疑念だった。
先ほどまで、ただの小僧だった男が、突如として身に纏った神秘。魔術をやっている様にも見えない。そしてこの神秘は、現代のそれとは、匂いが違う……私が生きていた。あの頃に感じた、確かな……古い、古い神秘の匂いだ。
現代の魔術師であっても、容易くは纏えぬ……そんな物をどうやって。
考えられる可能性は二つ。
一つは、この男が術師としての技量を隠し切れるだけの服芸を会得しているか。
もう一つは。
――古い神秘の、濃い、濃い血族であるか。
そこまで考えて……私の意識は、死の時には余りにも不釣り合いなほど、美しい……黄金の光の中へと溶けて行った。
黒王の口調が分からな過ぎてクッソ難産だったゾ……