FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第四十一章・裏:そして海賊は次の冒険へ

『貴方達では敵わない』『だから星を集めなさい』。

 彼女は、初めから諦めていた。黒幕に敵わないと。魔術師である限り、『あのお方』には逆らえないのだと。そう言い残し、メディアは消滅していきました。

 

「……意味深な事言い逃げしてくれちゃって」

「マスター」

「ん?」

「メディアが口にしていた事。どう思われますか」

「それ聞くかい? 分からない程馬鹿じゃないやい、俺だって」

 

 神代の魔女。その実力は……私でも理解できています。正直、先程まで拮抗できていたのは、私が実力を抑え込めていた、と言う訳ではございません。

 マスターが直接、お相手の船長と一騎打ちをしていた事に、彼女は間違いなく気が取られていたと思われます。そうでなくては、私の実力では到底抑え込めなかったでしょう。

 

 相手をしていて分かるのです。圧倒的な実力の差。寧ろ、気もそぞろに私の相手をしていて尚、それでも彼女は積極的に攻勢に出ようとはしていませんでした。私は、本当に彼女がイアソンに対し何か特別に支援をしない様に気を引く……程度しか出来なかったのです。私としては。

 

 それ程の力と技術、そして神秘の深さ。魔術師としての全てで私は足元にも及ばない様な存在の方が……『戦う前から諦めた』様な存在が。彼女たちの背後に居る。

 

「……折角特異点突破したってのに。出てくる情報が悪い物ばっかり。やんなるねぇ」

「人類の歴史を焼き尽くした……これだけの大業にして大罪を成したのですから、恐ろしい黒幕が待っている、と思ってはいました、ですが」

「それ以上の闇が待ってるって? じょーだんじゃねぇや」

 

 本当に大魔王でも出て来るんじゃないかね。と言う言葉は、風に流れて何処かへと消えて行ってしまって。

 酷く冗談めかした言い方ではあるのですが。しかしそれを冗談だと笑い飛ばせる事は、私には出来ませんでした。本当に。

 

「……笑って欲しいんだけどな」

「笑えませんよ……マスターがやった事も含めて」

 

 ぎくっ、と言わんばかりの動きで、マスターの動きが止まりました。

 ちらと此方を伺う様子は、まるで親に叱られてしまった子供のようですが……ですけど、誤魔化されません。今度こそ。

 先ほどはマスターに誤魔化されてしまったので……正直、メディアの言葉もそうですが私としては同じくらいに、其方も気にしなければいけませんので。

 

「くっ、それに関しては納得してくれたじゃあないの、お前さん……」

「私は納得……というか、押し流されはしましたけど、ドクターはそうではありませんでしたよ」

「あ、そっかぁ……やべぇな」

 

 ――ゴルゴーン様などは、その紫紺の髪を揺らして笑っておられましたけど。

 

 私のマスターはとんでもない愚か者ではないのか、と。その上でやってみろ、と言ってらっしゃいました。マスターがイアソンとの一騎打ちに臨む事に。

 地雷踏まれたからぶん殴りに行く。全力で。という一言でぐいっと、前のめりで。私はどうすればいいのか、困りに困って……首を縦に振るしかありませんでしたが。ロマニ様にとってはどれだけの心労だったか。

 

「ロマニ、落ち着いて……!」

『止めるなー藤丸君。ぼかぁー、アイツに一発ガツンとやってやるんだ。脳味噌武闘派カブトムシな彼をなぁ、この言葉でぇ、ねじ伏せてやるんだよぉ』

「ドクター!? やめて!? 落ち着いて!? どうしたの口調が変だよ!」

「……あの、結局何があったんでしょうか、此方では」

「さぁ。私はマシュさんと一緒にヘラクレスを押し込むので精一杯で通信とか一切」

「フォーウ……」

 

 恐らく、観測室から此方の惨状を見ていたのでしょう。此方を担当していらっしゃったダ・ヴィンチ様が。それを聞いたロマニ様が、どんな表情をしていたのか。それは激昂しても当然かと思います。

 ……後でマスターがどんな状態になるか、それを想像するとやっぱり止めるべきでは無かったのか、と思ってしまうのは兎も角として。

 勝てたのは、正直幸運と言うしかないのです。

 

「康友ぉ……お前なにしたんだよぉ、ドクターが怒髪天だぞ!?」

「ダ・ヴィンチちゃんから詳細は聞いてくれ。こっちを見てたのはあの人だ」

「……通信のダ・ヴィンチちゃんめっちゃニヤニヤしてるんだけど?」

「そう言われましても。俺は一切そんな笑えるような事してないし」

 

 ――その後、藤丸様が駆け付けて魔神柱を討ち果たす……その前。アルゴノーツとの激闘の一部始終を聞いた藤丸様も顔が渋くなりました。そしてロマニ様を止める事をやめられました。

 

「……まぁ、それは置いておくとして。あのメディアが言っていた星ってなんなんだろ」

「さーな。頭脳労働は俺らの担当ちゃうべ」

「いやぁ、俺達も頭脳労働しないと駄目だろうよ。だってマスターってそう言う職業じゃないのか?」

「じゃあアレだ、俺達は頭脳労働第一、ダ・ヴィンチちゃんロマニが第二、って事で。こう言う策略的な頭脳労働は俺達の担当じゃないって感じで」

「お前なぁ」

 

 そして納得した結果……戻ってくるのは、やはりメディアの言葉です。何者にも負けぬ輝きを持つ星。

 そう言った時。チラリと、ドレイク船長を見た気がしたのです。メディアは。

 星、というのはドレイク船長に関係があるのでしょうか。

 

「――ったく、アンタ等ホント。あんな化け物倒した後だってのに随分と呑気してるね」

「あ、船長。大丈夫ですか?」

「あん? まぁちょいと喰らいはしたけど……この程度なら慣れっこさね」

「頭から血ィ流して慣れっこって流石キャプテンですなぁ。というか、そんな傷が気にならないレベルで大暴れしてたしなぁ」

 

 確かに。あの怪物を相手に全く怯まず、寧ろ前線に出張って誰よりも苛烈、怒涛。自ら敵の押し寄せる攻勢を切って落とす如き奮戦。マシュ様の鉄壁の守りとの阿吽の呼吸、リリィ様正道の剣舞と踊る邪道の武闘、ゴルゴーン様と張り合うほどの無数の弾幕、私が一切周りを気にしなくていい程のフォローの技巧。

 

 夜空に輝く星の如く、確かに彼女は輝いておられました。間違いなく。

 

「全くだ。汝、本当に人間か?」

「聖杯もってるにしてもねぇ。いやホント、正直ヘラクレスよりも恐ろしく見えたよ」

「冗談は止しとくれ。あんなバケモノと比べられる程じゃないだろう」

「いんや? アルテミスもちょっと目を丸くしてたしな。まぁ並大抵じゃねぇよ」

「むー、ダーリン。私も頑張ってたよー?」

「おうそうだな」

 

 船に乗っていた皆様をも惹きつける輝き……そう言う事を『星』と例えてメディアは言っていたのか。それとも。

 私には分かりかねますが……

 

「――あ」

 

 それは、此処から戻ってから考える事になるでしょう。

 私達の足元から立ち上る黄金の光。それは、元の時代へと我々が帰還する合図です。あの魔神を討ち果たし、無事に聖杯を回収した事で、この特異点が修復される時が来たのでした。

 ドレイク船長が、此方を見ています。

 

「……なんだい、帰るのかい?」

「えっと、はい。そう、ですね」

「あー……ったく、アンタ等程惜しい船員をみすみす返す事になろうとはね」

「すいません、一緒に海賊出来たらよかったんですけど」

「そーだよ。アタシとアレだけド派手にやり合った剣士なんざそりゃあ惜しいよ畜生。盾の嬢ちゃんだって、ウチの船で派手な冒険に付き合わせたかった」

 

 そうドレイク船長はカラカラと笑ってらっしゃいます。

 

「――ま、でもそんな湿っぽい感想で見送るのもアレだね。アタシの流儀じゃない」

「キャプテン……」

「楽しかったよ。藤丸。マシュ。カルデア。今までの旅は、アタシの中で一番派手で愉快な冒険だった。何時までも酒の肴には困らない」

 

 分かれは、決して湿ったものではなく。

 その輝きは最後まで曇る事無く。

 そして、決して後ろを振り返る事もなく。

 

「お互いに暇でもあったらまた会おうじゃないか。今度こそ、世界を救うなんて重苦しい仕事じゃなくて、宝を追い求めるみたいな、そんな冒険を、な」

「――はいっ! 船長! また何れ、何処かで!」

「おう、アタシが次の冒険でもしてる時に、駆け付けてくれや!」

 

 少しだけ。メディアの言っている言葉の意味が、分からないでもありません。

 確かに、世界を亡ぼす様な巨大な脅威に立ち向かえるのは……彼女の如く。決してどんな脅威にも怯まず、新たな世界へと踏み出して逝けるような。そんなお方なのでしょう。

 

 同時に。

 そんなお方でなければ、この先の旅を乗り越えていけない事に。改めて、身が引き締まるような思いがしたのです。

 




前回挫折した第三特異点、突破。
未知のエリアへ、いざぁ……!♂

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