FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
―ここに軟禁されてから、どれほどの時間が経っただろうか。
等と思ってみるけど、凡その時間は分かるのでやめた。何せあの黒白半分分け怪人、見た目とは異様な程マッチせず、時間にはキッチリとしているのだ。
ここは外界から隔絶されているため、詳しい時間は全くもって分からないのだが。それでも何度も何度も来たなら『全く同じ時間』に来ている事くらいは分かる。
私の管理も徹底している。一応私はサーヴァントではあるのだが、しかしながら私の性格を理解しているのか、私の生活環境は実に良い。というか、下手すると生前よりもレベルが高いかも知れない。
今、私が着ているのはとんでもなく上等な布で織られた和服、と言う奴だ。何枚も重ねて着るというのは初めての経験だが、しかしこの煌びやかさは、あの地中海の美とはまた違う物がある。
服だけではない。
部屋に置いてある家財はどれもこれも上品な物ばかり。タンス、そして……文机、だっただろうか。手触りだけでも、コレがどれだけ良い物なのかは分かる。私への貢物として持って来られても、恐らく及第点を与える程度には。
和装の侍女は常に五人以上は近くに文字通り侍り、朝になれば私の髪を梳きに来るし、食事の世話もすれば、眠るまで話し相手にもなってくれている。
私の扱いは虜囚、というよりは……まるで、姫の如しである。
『――麗しの女神、失礼いたします』
「どうぞ」
困惑している、というのは無いでもない。だが私、こう見えてちやほやされているのに慣れてしまっているので、この状況には寧ろ『なつかしさ』という物を感じてしまっているのは、向こうの思惑通りなのだろうか。
まぁそんな風に管理している怪人は、今回も当然のように私の部屋に尋ねて来る訳なのだけれども。
「お時間となりました。しばしこの部屋から動かず、お待ちいただければ」
「はぁ……何時だってここから出た訳ではないのだけど?」
「ンンン、それは一つの様式美、と言う奴でございます。そこはお分かりいただければ、と」
そしてこの男が基本的に来るのは、この事を伝える為……部屋から全く出て居ないというのに、必ず『自分が戻ってくるまで動かずにいて貰えれば』とだけ言い残して消えていくのである。
その間に、怪人が何か私にしているか、と言えば……なんにもされていない。驚くほどに何もされていない。部屋で大人しくしているだけで良かった。誘拐されておいてなんだが、これでいいのかと相手の側に立って考える事も少なくない
此方は一応女神なのだ。それを攫っておいて何もしない、と言うのは流石に私の無駄使いではなかろうか。
「……ねぇ」
「はい?」
と言う事で。慣れぬことをしてみようという気にもなる。
そもそもあのうさん臭い自称僧侶が、一体どこの誰なのか、と言う話だ。今まで全く気にもしていなかったが、キャスター・リンボなんていう趣味の悪い名乗りで納得なんて欠片もしていない。
「あの、あのお人……えっと……」
「法師様ですか?」
「そう。法師。彼奴って、どのような人なのかしら?」
ちらと、傍らに控える侍女に問うてみる。侍女は小首をかしげて……少しばかり間を置いてから、口を開いた。
「えっと。えらいえらい、術師様です」
「……そう」
そして、私の目論見はあっという間にとん挫した。まぁそりゃあそうだ。流石に自分の素性を知られる様な隙を晒している訳が無いか。あの怪人が。そこまで間抜けなら、そもそも私だって逃げようという気になっているだろう。
私に付けている侍女も、自分に関する情報なんて殆ど持っていない様な……要するに私の傍においても問題無い者を選んでいるのだろう。流石に油断していたとしか言いようがないだろう。
「この千年続く都たる平安京にて、我々を守って下さっているのですよ」
「――守っている?」
「はい、えっと。急に居なくなってしまった、安倍晴明様に代わって」
――とか思ったら、予想以上になんかボロボロ出て来た。
誰か、と言う話は兎も角として。そもそもここが何処かも分からなかったのが急にここに『平安京』という言葉が出て来た。
何処か僻地かとも思っていたのだが。しかし、どうやら相当に大きな集落に、私は連れてこられていたらしい。そしてもう一つ
あの怪人というのは、想像以上に好印象を抱かれているという事。驚いた。見た目と最初の印象で、今まで『紛れもない悪』という印象を抱いていたが意外にも……
「……? どうしました姫様。そんな微妙そうな顔をして」
「いいえ。なんでも無いわ。気にしないで」
いや、そもそも。私は誘拐されてここに来ていた。アレが悪人である事に一切の疑いはない。誘拐犯をどうして『意外にも』とか思ってしまったのか。実に良くない。アレには厳しく当たらないといけない。
「それに、あのお方が居なければ、この先の儀は執り行えませんもの、ねぇ」
「ねー」
「儀式? 何、邪教の儀式でもするの?」
「まさかそんな。えぇっと……なんだったかしら」
「お公家様方が『千年平安京の為の儀式』なんて言ってらしたけど。私達は詳しくは知りませんわ」
アレが。
都の平穏を守るための儀式を。
正直な話、全くもって似合わない。寧ろその裏で間違いなく何かしら策謀を練っていて当然くらいにしか思わない。
……恐らく練っているのだろうとは思う。こんな所まで私を連れてきて。その儀式に利用するつもりなのだろうか。
「ふぅん」
「ですけれど……彼の左大臣様が、これと推していらっしゃるのは宮中でもう持ちきりなのですよ」
「でしたら私達に疑う余地なんてありませんわ」
こうして話を聞いていると、平安京。左大臣。幾つかの聞きなれない単語が耳に残る。そしてその話し方から、恐らくは役職名、と思われる方が時の権力者である事は容易く分かる。
大きな力の傍に隠れているのか、その権力者そのものが、あの怪人の後ろ盾、黒幕であるのか。それとも……別の意味があってその元に付いているのか。
こう見えても、人の営みを見て来た女神だ。その辺りの面倒な事だって、知らない訳じゃない。一つの見えている面が幾つにも捻じれて、その根元を見たその結果、色んな悪だくみに通じてる事なんて当たり前だ。
私が想像した全てを、あの怪人が内包している事だって、全然あり得るのだ。知性体の悪性というのは、私達の想像を容易に超えてくる。
権力者も、都も、全てを巻き込んで……アレは、私をどのように使う積りなのだろう。
「そう……であれば。私を態々ここに連れて来たのも、その儀式の為かしら?」
「あ、いえいえ。そうではないようです」
「え?」
「法師様、以前におっしゃってましたから。私達に。『彼の姫君は我が貴重な宝物。決して傷つけぬように兎も角、丁重に扱え。儀式の折は遠くへ離し、改めてお前たちに世話を任せるからそのつもりで居ろ』って」
そう笑って言う彼女の言葉に、余計に眉を顰める事になる。
確かに、その儀式とやらに使うなら、態々私を離す必要もない。というか、こんな侍女に堂々と話している時点で、それが重要な事ではない『話してもいい事』なのかしら。
本当に、私はその儀とやらに、無関係?
「……じゃあなんで連れて来たのかしら、あの変態怪人」
「それより! 姫様、御髪が乱れております、整えますのでしばしお待ちください」
「あ、ちょっと待ちなさい……もう」
……分からない。私を攫って、何もせず。こうして軟禁しつつも、しかし一定の自由を容認し……下手をすれば、愛でている様にすら感じられる今の生活。
まるで、本当に『私がここにいる』事自体に意味があるような。私自体に、そんな大層な神格がある訳でもなく。そう思えるような要素も無いというのに。
不気味だ。あの法師、一体何を考えているのだろうか。
「ンンン、いえいえ脅迫などでは……寧ろ、やる気を上げるご提案でございます」
「我々としましても、貴方が現地で怨嗟を吠えたてる事は大きなぷらす、でございますればえぇ、えぇ!」
「貴方様が新鮮な『怨念』を排出して下さる内は、あの女神には出来る限り世話を致しますので。それは、問題無く……」
「我が『亜種特異点』。予定していた物が無くとも、スポンサーのお陰で安定した運営が出来るようになった僥倖にて、最大限の勢を尽くさせて頂きますとも」
「そうそう。決して彼の『王』の配下には気取られぬよう。お気を付け下さいませ」
「それでは失礼いたします……魔獣の母、恩讐の女怪、
黒幕等の関係上、どう足掻いてもここしか使えないという。