FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第四十四章・裏:『霧の都』にて

「さて――何処から説明したものかな。カルデアの諸君」

 

 ライネス・エルメロイ・アーチボルトと名乗った少女が私達を導いたのは、古びた、集合住宅。ですが、今にも崩れ落ちそうなその見た目からその内部は、まるで想像も出来ませんでした。

 絨毯に、重厚な作りで、しっかりと色塗りも厚い収納付きの机、そしてそれに見合う豪華な椅子。そして部屋を煌々と照らす確かな天井の明かり。

 

 何処か、探偵事務所を思わせるようなその部屋の中心で、彼女は傲慢に、尚且つ楽し気に笑いながら、此方を見ているのです。

 

「……先ず、一つ聞きたいんだが」

「うん? なんだい?」

「アンタ普通の人間か?」

 

 その表情が驚きに変わったのは、マスターの言葉から。

 色々訊きたい事は、間違いなくあるでしょう。しかし先ず状況の説明を求めるのではなく自分の素性を聞きに来たのが、相手の意表を突いた。

 マスターとしては、特異点をこうして越えて来たからこそ、先ずこうして自分の目の前に居る存在が信じられるか、と言うのを優先したのでしょう。だからまず、相手について尋ねた。

 

「ふーん。その顔に見合って、しっかり疑り深いね君は。可愛げが無い」

「疑ってる訳じゃないよ。俺達を助けてくれたんだから、アンタを信用できなかったら詰みだし俺ら」

「じゃあいきなり『普通の人間か』なんて失礼な質問ぶつけて来るかなぁ、普通」

「だってここが普通な場所じゃないのは、アンタだってご承知の上だろう?」

 

 マスターは、先程追われていた私達を見て、それでも尚当然のように私達を助けてくれたこの少女が、恐らくこの町の住人ではない、と言う事を分かっているのだと思います。

 

「アレだけの数の機械人形がドンドコ現れた所を、まるで待ってたみたいに、なんて。そんな偶然……流石に信じられる程、純真でも無い。だったら初めから協力して下さる何者か、って言うのをはっきりさせた方が、お互い良いんじゃないかと思うんですよ」

「結局私の素性を疑ってるんじゃないか」

「だから信じてるは信じてるんだよ。でもここでアンタが人間である前提で話し勧めるのは絶対に違うって思っただけで」

 

 ……なんでしょう。このやり取りの、何と申しますか……間の抜けた感じは。ライネス様は『謎の助っ人美少女』を演出したいのに対し、マスターはそれを一切考えずに真正面から『腹を割って話そう』と猪突猛進なため……まぁ、あの、全くもって噛み合わないと申しますか。

 

『いやぁ、ゴメンね。お嬢さん』

 

 お二人の会話に割り込んだのは、ダ・ヴィンチ様。

 ここに来た直後、そもそも一体何処かも分からない状態で、取り敢えず藤丸様を探しに行くか、今の所は体の調子は悪くないが直ぐに行動して良い物か……。

 

 そんな中でただ一人、カルデアから連絡をして下さったのがダ・ヴィンチ様でした。

 ロマニ様他、カルデアの通信機構で、唯一マスターに連絡を繋げられたのがダ・ヴィンチ様であった、との事で。

 他の方では、どれだけ調整しようと繋げる事すら出来なかったのだと言います。

 

 ロマニ様から、自分に代わって、色々な事を任された……突如の事とは言え『まぁ一応こっちも大人だしね』と、笑って任せてくれと言ってらっしゃいました。

 

『彼はここに急に送り込まれて、混乱してるんだ……出来るだけ、分からない事は一切排除しておきたいんだよ。真面目な話』

「……情けない話ですけれどもね」

「特異点を察知してきた訳じゃないのかい、君達は」

『いんや、情けないが全く察知していなかった』

「俺はその時ダウンしてたから分からないんだが……どうやら、そうらしい」

 

 しかしマスターがそう思うのも不思議ではなく。そもそも、我々は此処に来ようと思って来た訳ではありません。

 

 ――第四の特異点。ダウンしたマスターを運ぶその最中。遭遇したその影が打ち出したのは、呪符。私にも馴染み深いそれを以て、陣を組み上げ。気が付けば……この場所に連れ去られていた。

 それがどれだけの神業か……それを想像するだけでも脅威だというのに、我々は此処について、何も知らない状態なのです。それは余りにも心細い。

 

『だからさ、此方としては……先ず、そっちの全てを明かして欲しい。そうじゃないと怖くてたまらない、って事』

「そんな顔には見えないけどなぁ」

「元がゴツイもんでね。そう言われても仕方ない……かな」

『当然、此方も全てのカードを切ろう。それが誠意ってものだし』

 

 ――そう、ダ・ヴィンチ様が申し上げた所で、ライネス様はゆっくりと両手を天井に向けて上げました。やれやれ、とでも言いたげに。

 

「下手に小出しされるより、一番最初に分かっててオールベットしてくる輩の方がよっぽど厄介だよね。こういう場合……分かった分かった。白状しよう」

「白状って事は、アンタは普通の人間じゃない、って事で良いのかい?」

「そもそも人間ですらない。私は――サーヴァント。それも、少し特殊な事例なのさ」

 

 ライネス様曰く。

 自分はここ……『霧の都』と呼ばれるエリアに縁深い故に呼ばれた。というより『現界するに辺り最も縁も近く丁度いい代理人として呼ばれた』のだそうで。

 

「私の中のサーヴァントは、この特異点にて活動するにあたり、ここら辺と相性の良い私を選んで、能力だけ託して今は思索の時間と決め込んでいる」

「そ、それは、なんとも」

「驚きだろう? 全く……その癖『真名に関しては相手にバレた時面倒になる可能性があるからギリギリまで伏せてほしい』なんて言い出すし。全く、信用を得るには、それなりの餌が必要なのは理解しているだろうになぁ」

 

 大きくため息を吐く彼女は、そのまま……視線をマスターに向け直しました。

 

「……成程な。カウンターとして呼ばれたサーヴァントって事か。なら納得」

「全く疑り深いねぇ。そんなんで人理修復やっていけるのかい」

「誰であろうと先ず信じるのはもう一人の役目でね。俺はあくまで俗人、自分に紐づけられてる人が居るんだから、その人たちの為にも下手は打ちたくないんだ」

「――へぇ?」

 

 その表情は、次第に呆れ顔から、ニマニマとしたお顔に変わって行っています。その相手を値踏みするような……小悪魔の如き笑みが、とても、とても彼女に良く似合っているのです。

 

 三日月に口を象った笑顔を浮かべるライネス様。

 目を閉じて澄ました顔を浮かべるマスター。

 相対する二人の表情は、余りにも対極で。

 

「君と言うのは『自分以上』の事を出来ない……いや? あえてしないタイプなのか」

「自分の身の丈以上の事なんざ出来ないし、やれない。それを嫌って程知ってるから。だったら自分が『どれくらい』なのかを知って、その上でやれる事をやるのが一番だろ。まぁそう上手くいかんけどな」

「なるほどなるほど。自分以上に自己を膨張させた老人共やら、身の丈に合わない下卑た欲望に手を伸ばす謀略屋気取り達よりは、よっぽど誠実で、マトモだ。イヤ失敬。先ほどの発言は撤回しよう。『カルデアのマスター』くん」

 

 いいだろう、と。

 ライネス様は、しっかりとマスターと目を合わせ……マスターも、ライネス様から目を逸らす事はしません。

 先ほどまでは、前哨戦。マスターをライネス様が値踏みしていた――となれば。ここからが漸く、本題になるのでしょう。

 

「では、そろそろ腹を割って話そう。私がサーヴァントとして召喚された理由、この特異点――四つの領域に分かたれたこの世界について……調べた事を、ね」

「四つの領域……?」

「そうとも。先ずは此処からかな。四つの中で最も危険な領域、『霧の都』についてだ」

 

「――おい」

 

 その最中に、一つ。割り込む声。

 

「その話。長引くか」

「……まぁ、それなりだから、もう少し我慢してもらえると嬉しいかな」

「そうか……狭いな」

 

 私の後ろ。

 明らかに窮屈そうに体を縮めたゴルゴーン様が、少しイラついた、しかしながら何処か哀しそうな声で、現状を訴えておられました……

 




出入り口には若干ヒビが入りました。
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