パワードきりたん 作:ZND-1049-K
これきりたんじゃなくてもいいだろって言う人は、味噌の沼に沈めてきりたん砲に詰め込んでやる。
鋼鉄の大地に、砂塵が舞う。
人々に捨てられたこの辺り一帯は、あらゆるものが老朽化し、管理者の居ない施設に、風が運んだ砂埃が降り注ぐ。
そんな荒廃した景色に似合わぬ小さな人影。
後ろ髪を二つに括った艶やかな黒髪や、丈の短い着物とスカートという格好に、背後から砂が吹き付けているのを、気にもしない様子で立ち尽くす愛らしい少女。
見放された世界に放たれた少女は、何を思うのか。
風の鳴る音だけが響く世界で、時が凍っている。
(ど、どこ、ここ……?)
こんにちは、東北きりたんと申します。
ただ今わたしは、日本家屋然とした我が家から、基地のような場所で、変な機械の箱の中で目覚めて大困惑中です。
………いや、こんな現実逃避をしている場合じゃない。
体の形に凹んだクッションのおかげか、身体の不調はないにしても、わたしの寝床はこんな冷たい金属ではなく、暖かなベッド。
それが一転、見知らぬ寝床に、見知らぬ部屋、見た事もない機械。
少なくとも、理解の範疇外の出来事が起こっているのは間違いない。
「……え?誘拐?」
辺りを見渡せば、私が寝ていた機械の箱と同じものが、学校の体育館より広い場所に、数えるのも億劫なくらい並んでいる。
もちろん、私が通っている学校はこんな場所ではない。
少し特殊な学校ではあるが、基本的な施設はきっと他の学校と変わってないはずだし。
天井や床には、整然とした線が無数に走っており、おそらくここに電気が流れて、線がピカピカするんだな、とSFの回路のお約束的なのを想像する。
回路の合間に規則的に空いた、空から太陽の光を入れている小窓が、今が夜ではない事を示している程度だった。
もしかしたらわたしは、作られたクローン兵士なのかも……?
私の姉妹……ずん姉さまや、イタコ姉さまとの思い出は嘘だったのかもしれない。
学校の友達や、楽しかったゲームの記憶さえも、全部、全部……?
しかし、もうすぐ中学生相応の一般的な女の子レベルの記憶しか思い出せないので、そんなはずは無いと思い直す。
人よりちょっと賢い自覚はあれど、常人の域を出ず、兵士として役に立つ力は無いので、そんなはずは無い。
考えても仕方がない。
ひとまず、わたしは周りを確かめることにした。
人間、追い詰められてない奇妙な状況になると、冷静になるんですね、なんて思いながら、ゲームの主人公を思い描くように。
まずは付近数メートルを見て、その後、辺りをうろうろして。
声で誰かいないか呼びかけてみたものの、返事は返ってこないし、そもそもこの場所には電気が通ってないようで、その辺のスイッチをポチポチしてみても、何かが起こる気配はない。
よく見てみれば、辺りにはうっすら埃が積もっていて、全部を見た訳じゃないけど、それらはわたしの痕跡しか残っていない事を教えてくれていた。
周りの箱は、重そうな蓋がついていて、中身は分からない。
もしかしたら、わたしみたいに入ってる人が居るんじゃないかな、なんて思ったけど、わたしが非力なのか、頑丈なのか、重そうな金属の蓋が開かれることは無い。
………角や薄い部分が少し歪んでしまい、直そうとしたら折れたり欠けたりしてしまったのは内緒だ。
というか何をしても開かないなら、わたしの入っていた箱はどうやって開いたんだろうか。
結局、周りには何か分かるものは無かった。
広い部屋全部を調べる気も起きなくて、箱についてるスイッチもモニターも、何かを教えてくれることは無かった。
一応、スイッチに英語でボタンの機能が書かれていたので、どっか異世界、みたいなことは無いのかな、とは思うけど、ますます不思議だ。
簡単な英語しか分からないから、全部英語で書かれた何かが出てきたら不安だなぁ……。
出口らしき扉に辿り着いたけど、扉上についたセンサーらしきものは何も反応を返さず、当然のように扉も開かない。
扉についたくぼみ、取っ手に手をかけて扉を開けようとすると、硬い感触の後、じゃりじゃりと、砂が擦れるような音と共に開く。
最初の手応えや、音の割に扉は軽く、勢い余って叩きつけるような音と立ててしまったが、その音が反響するばかりで、何か反応が返ってくることはなかった。
恐る恐る部屋の外に出ると、長い長い通路があった。
反対側の壁には何も無く、出てきた部屋側には多くの扉があるが、出てきた部屋の扉がいくつもあったので、しばらくの扉は同じ部屋に帰るだけだろう。
うっすらと埃の積もる通路を歩く。
後ろを振り返れば、私が歩いた足跡が見えるだけ。
虫も、鼠も、何者もここを汚した痕跡がない。
しばらく歩いて、扉も何個か置きに開けて確かめていると、これまでの扉と違って、ネームプレートらしき物がついた扉が見えた。
ただし、これもモニターのようで、何かを映してくれている訳ではなかった。
部屋に入ったけど、そこは先ほどの部屋とは違って、小さい場所だった。
壁に付いた大きなモニター、拳大の謎の穴の開いた幾つかの長机、その上にある手の形をした絵が描いてある機械。
長机が、モニターを囲うように置かれている事から、何かの会議室のような場所なのだろうか。
長机の一つに、ガラスで出来た円柱状のケースがあるのを見つけた。
中には、何か白い棒のようなものが浮いている。
棒は、両端が丸くなっているだけのもので、ボールペンの倍くらいの太さで、手で握るのに丁度よさそうだった。
白くて分かりづらいが、よく見ると棒には穴が開いており、これは筒の形をしているのかもしれない。
なんとなしに、そのままケースに触れると───
≪ピピッ≫
「ひぅっ!?」
急に電子音が聴こえて、ケースの上の蓋のようなものが、淡く光りだして、咄嗟に手を引く。
完全に油断していたせいで、変な声が出て恥ずかしく思ったけど、それを見ていたものが居るわけでもない。
嫌な汗をかくような感覚を逃がすために、深呼吸をする。
ケースの蓋が淡く、ゆっくり点滅しているが、近くにあった手形の絵の機械も、手形の部分が淡く光っていた。
これまで見た機械は全て動きを止めていて、電気は通っていないと思っていたのに、これらは何かの反応を示して来た。
そしてこの手形は、よく考えたら、指紋認証的な、そういう機械なんじゃないか、と思って、何気なしに手を重ねてみる。
≪ピピピッ≫
『キーレベル10、ロック解除します。』
「動いた……。」
聴こえて来たのは、聞きなれた言葉、日本語だった。
ただしそれは安堵するとともに、わたしが実験とかのために誘拐されたのではないかという仮説を、わたしの中に生み出すのに十分なものだったけど。
蓋と思っていた物は関係なく、円筒の前半分が、スライドして後ろ半分に重なるように開いた。
どういう原理で浮いていたのか、液体に入っていた訳でもないらしい棒は、ゆっくりとケースの底に落ちて、かたりと音を立てる。
恐る恐る手に取ると、硬い樹脂のようなそれは、急に斜めに切ったような形で、ぽろりと半分に分かれてしまった。
予想通り端から端まで、一本穴が開いていたそれは、なんというか──
「……きりたんぽ?」
わたしの名前の由来でもあるだろうそれと、よく似ていた。
もちろん、こんな歯も即堕ち2コマしそうな硬さではないし、手に取った感触も違うが、見た目だけなら、それはまさしくきりたんぽ。
ぐっと力を入れても曲がりそうにない硬さのそれは、尖った先端部分は、武器として使えなくもなさそうだった。
きりたんぽ(仮)を持ったまま、他の機械にも手を合わせたり、ボタンをポチポチしたりしてみたが、他の機械は、何の反応もしない。
きりたんぽ(仮)の入っていた機械も、不自然にぷつりと電気が消えてからは、うんともすんとも言わない。
結局、きりたんぽ(仮)以外は、何も分からないまま、他に部屋も無かったので、その建物を出る事になってしまった。
これまでの扉と違う、水密扉のようなハンドルのついた扉を開けて出る。
そうして、陽光が眩しい外へ出て、目にしたもの。
基地や空港のように広く、
実用性だけを見据えたような無機質な建物が並び、
更に極めつけは、あちこちが損傷したような、謎の巨大な機械の塊。
21世紀初頭のわたしの時代、特に一般人だったわたしの環境からは、想像も出来ない世界が広がっていて、その全てが手入れもなく、まさに捨て置かれている状態だった。
茫然としながら、数歩前に歩くと、わたしの後ろから強い風が吹きつけてきて、二つ結びにした後ろ髪が、風に煽られて頬に触れる。
よく見れば、銃弾のようなものが転がり、砕け散ったような欠片と、それが中身だっただろう、謎の円盤状の機械。
他にも、機械の犬の頭みたいなものが落ちていたり、直視したくはないが、少し黄ばんだ、白骨のようなものも見えた。
現実味の無い世界で、わたしの心境はただ一つだった。
ど、どこ、ここ……?
──そう考えていたわたしの視界の端で、何かが動くのが見えた。
ここは夢なのかもしれないし、夢じゃないかもしれないけど、覚めない夢で現実を願って命を絶つなんて馬鹿なことは出来ない。
怖いし。
よく考えなくてもわたしはちょっと頭がおかしかったのかもしれない。
だってほら、こんな状況なのに冷静な感じで考えられてる。
明らかに過酷そうな世界のここが現実だったとしても、希望はあるかもしれない。
だからそう、絶対壊れてると思っていた機械の塊が動き出して、カメラが私の方を見ているなんてのは、なんとかなるはずなのだ。
例えばそう……20m先から、猛スピードで迫ってきたとしても────!?
バゴッ!!
「痛ァ!?」
キュイィィン、なんて愉快な音を立てて突っこんできた金属塊に跳ね飛ばされて、地面に叩きつけられる。
遠目で見ても車より大きかったそれは、キャンピングカーくらいのサイズでもってわたしの身体と衝突した。
ただ、何が起こったのか、さっき見たよりもフレームが派手に歪んでいる機械は、残っていた装甲もはじけ飛んだ状態で、横倒しになっている。
こちらには、虚しく空回りする車輪が見えており、しばらく見ていると動きを止めた。
そっちもそうだけど、わたしの身体は!?
慌てて服の上から身体をまさぐるも、怪我らしい怪我もなく、血も出ていない。
衝突時に当たったお腹と額と手が痛むけど、それも歩いててテーブルとかに強打した程度の痛み。
うつ伏せに叩きつけられた時にも、膝を打ったからか、少しジンジンするけど、その程度。
そんな訳がない。
感触も、硬い感触──金属の感触だったし、その速さは、ドッジボールのボールくらい速く目の前に迫ってきた。
車と真正面でぶつかって、無事でいられる小学生はいますか?
そんな訳がない。
いよいよわたし=改造人間説が現実味を帯びて来た。
ただ、分からないのは、わたしの身体のどこを触っても、これまでどおりのぷにすべボディ。
同じくぷにすべな友達とつつき合うこともあった、お餅みたいな頬も、変わらない。
わたしが知っているわたしと、何一つも変わらな───なんてことを考えていたら、倒れた機械、ロボットが、アームを伸ばして立ち上がろうとしているのが見えた。
体当たりしてきたこともあるし、アイツは敵だ。
奇跡か必然か、怪我はしていないけど、あんなことをされて恐怖を覚えない人間はいないだろう。
先ほど見たのと同じように立ち上がり、こちらにカメラを向けて来たロボットに、目を瞑って、手から離さなかったきりたんぽ(仮)を闇雲に投げつけようとした。
両手から無くなるきりたんぽ(仮)の感触。
そして同時に感じる、肩への、ランドセルほどの重み。
ガインッ!という音の直後、爆発音とともに、再度わたしの身体は後方に吹き飛んだ。
びっくりして吹き飛びながら目を開けたわたしが見たのは、ど真ん中に大きな丸い風穴を開けて、砕け散っていくロボットの姿だった。
『あ!新しく目覚めた人だ!でも案内ロボの応答が無いから、ボクが案内しなきゃ!今行きま──うわ!センサーが壊れててぶつかっちゃった!大変だ!早く助けないと!とりあえず起き上がって……あれ?なんであの人無事なん───』