Monster Hunter : World War   作:Soh.Su-K

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第三章
紅蓮の空、殺戮の此岸


「村長はんにお使い頼まれてもうて、すぐ戻るさかい!」

 

 アルバートが目覚めた翌日、ソラタはそそくさと旅立つ準備をしていた。

 

「あと二日いるんじゃなかったんですか?」

 

 バーニエルが疑いの目でソラタを見つめる。

 

「バーニィ、そんな目で見んといてくれー!ワイが犯罪者みたいやないかー」

 

 ソラタは困ったように笑う。

 

「大丈夫、急いで戻って来るさいか、心配せんとってくれ!アルの事、頼んだで!」

 

 ソラタはそう言って村を出た。

 その様子を村長の家から、村長と教官が見ていた。

 

「村長、彼は間に合うのでしょうか?」

 

 村を去ったソラタを見つめながら教官が言った。

 

「……、難しいじゃろうな。バーニエルが登録書を焼いたのは予想外じゃった。もう時間がない、ユリーナとエミリアは予定通りに、あの二人には特別任務を出すしかない。出発は明日じゃな」

 

 村長が空を見ながら肩を落とす。

 

「承知しました。三日の予定で南部への任務を組みます」

 

 教官は既に任務の内容を粗方決めているようだった。

 

「手間をかけるの……」

「いえ、登録書の件は私の不注意でもあります」

「うむ……、上手くいけばよいのじゃが……」

 

 二人は静かに行動を開始した。

 

「バーニィ、何をそんなに疑ってんだよ?」

 

 ソラタの見送りが終わり、アルバートがバーニエルに訊ねた。

 

「ここ一週間ほど、村の様子がおかしいと思いませんか?」

 

 バーニエルの嫌な予感は、アルバートの怪我ではなかった。

 村の中でも、森や草原に立っている時でも、ずっとその違和感を感じていた。

 何者かに監視されているような、そんな気持ちの悪い感覚だ。

 

「う~ん、俺にはよく分からん。ただ、森や丘の空気がザラついてるのはあるな。よく分からんけど、頭に血が上りやすい気がする」

「そういう感覚ですよ、僕が言ってるのは……。その違和感の正体が分からないから余計に気持ち悪い……」

「う~ん……」

 

 何処となく腑に落ちないアルバート。

 

「とりあえず、教官に会いに行こうぜ。なんかクエストくれるかも」

「アルは怪我人なんだから安静にしてないとダメです」

「じっとしてるのは嫌いなんだよー」

 

 そう言ってアルバートはバーニエルを連れて教官の元へ向かった。

 

「教官、いらっしゃいますか?」

 

 バーニエルが訓練所の扉をノックしながら言う。

 

「いねぇーんじゃなねーの?」

「この時間ならいるはずなんですけど……」

「教かーん!」

 

 バーニエルの代わりにアルバートがドンドンと扉を殴りつける。

 すると勢いよく扉が開いた。

 その扉でアルバートが顔面を強打する。

 

「イデッ!」

「なんだお前たち、アルバートは大人しく寝てろ!」

 

 教官が顔を出した。

 

「教官、何かクエスト出してくれ」

「アル、お前は自分が怪我人だという事すら忘れたのか?」

「いや、怪我人だけど、採取くらいは出来るぞ。じゃないと身体が鈍りそうで」

「申し訳ありません、教官。僕が言っても動き回っちゃうんで……」

 

 教官は少し黙った後、ちょっと待っていろと言って一度扉を閉じた。

 

「何かあるのかな?」

「さぁ、どうなんでしょう……?」

 

 再び扉が開くと、何やら書類を一枚持って教官が出てきた。

 

「これだ。お前たちがこの間の討伐任務を成功させて、晴れてハンターズギルドに登録出来た場合に出す予定だったクエストだ」

 

 教官が二人に書類を見せる。

 採取、調査、討伐の複合的な任務で、完了までの設定時間は異例の七日間だった。

 

「何これ!機関長っ!」

「こんな任務見た事ないですよ……」

「当たり前だ、お前たちの為に作ったものだ。本来ならギルド登録に首都まで出向く必要がある。その首都への旅すがらの任務だ。誰かが登録書を焼いてしまったせいで、全てが台無しになった」

 

 教官がバーニエルを睨む。

 

「でも実際、討伐任務は失敗だったんです。まだギルドに登録してもらい訳にはいきません」

「はぁ……、バーニエルは硬すぎる……」

 

 教官が深い溜息を吐いた。

 

「暇なんだったらこれに行ってこい。首都へ用事はないが、行ってきていいぞ」

 

 アルバートが書類を受け取る。

 

「首都に行っていいのか?」

「うむ、用事はないがな。宿などはない、準備をして明日にでも出るといい」

「でも、アルの怪我は……」

「傷が塞がるまで二週間弱だろう。激しい運動をしなければ傷口が開く心配もない。獣車も用意できるだろうから心配はいらん」

「だったら大丈夫だな!行こうぜバーニィ、首都!」

 

 アルバートは嬉々としているが、バーニエルは腑に落ちない様子だった。

 

「とにかく、出発は明日だ。今日は大人しくしてろ。あと、ユリーナとエミリアを村長が呼んでいたぞ。おつかいを頼みたいとか」

 

 そう言って教官は家に引っ込んでしまった。

 

「おつかいか?とりあえず、ユリたちに伝えよう」

「今日はやる事もないので、ちゃんと休んでくださいね、アル」

 

 二人は教官の家を後にした。

 

 

 丘を越え、山を登った先、山頂近くのその洞窟は、稀に繁殖期の飛竜が巣として利用する場所だ。

 そこに蒼い飛竜がいた。

 ソラタがその飛竜の元へ走る。

 

「待たせたな、スマン!」

 

 ソラタの声に飛竜は反応し、ゴロゴロと喉を鳴らし、頭を摺り寄せてくる。

 

「このままじゃ間に合わん、事態は深刻や!とにかく超特急で帰るで!」

 

 ソラタは飛竜に跨り、大空へ飛び去った。

 

「移動と手続きで三日は掛かるやもしれん……。ギリギリ間に合わんか……」

 

 ソラタは焦っていた。

 とにかく、やれる事をやるしかない。

 

 

「バーニィ!手伝ってくれよ!」

 

 考え事をしていたバーニエルに、荷物を獣車に乗せていたアルバートが言った。

 

「あ、ごめんごめん!」

 

 我に返ったバーニエルがアルバートに手を貸す。

 

「しっかし、なんで急にユリーナとエミリアが首都に?」

「村の産物を売りに行くのを若い世代に代わってもらおうって事らしいわ」

 

 ユリーナが倉庫から荷物を持ってきた。

 箱の中にはこの辺りで良く採れる『特産キノコ』が入っている。

 村の財政は、この様な採取した品やモンスターから剥ぎ取った素材を、村へやって来る行商人や首都で売る事で賄っている。

 行商人とは物々交換の場合が多く、首都まで売りに行くのが帝国通貨を手に入れるほぼ唯一の方法だ。

 

「悪いな、アルとバーニィ。お前らも連れて行きたいが、獣車に乗り切れなくてな」

 

 行商人のオジサンが言った。

 彼は『全国露天商組合連合会』の会員の一人で、辺境であるこの辺りの地域を担当している。

 定期的に獣車を村に貸し出し、商品を首都まで運んでくれている。

 首都まで運ぶ際、村の人間が一人から二人付いていくのが決まりとなっていた。

 

「いえ、俺たちも明日首都へ出掛けるので!」

「そうか、じゃあ向こうで会えるかもしれねーな。帰りは乗せてやれるかもしれん」

「お、じゃあ帰りはお願いしようかなー」

「喋ってないで働く!これで最後だけど」

 

 ユリーナが他よりも少し小さめの箱を持ってきた。

 

「これは『厳選スジタケ』が入ってる奴ね。取扱注意だから!」

 

 厳選スジタケとは、特産キノコの中でも最高級のキノコである。

 特産キノコ自体、希少価値が高いのだが、その中でも料理人もうなるほど上質な厳選スジタケは通常の特産スジタケの数十倍の値段で売買される。

 

「これで荷物は全部か」

 

 箱を荷台に乗せたアルバートが獣車を見ながら言った。

 

「うむ、今回は結構な量だな。いい稼ぎになるぜ」

 

 荷物の書類を整理していたオジサンが言う。

 

「一時間後には出発するから、それまでに自分の荷物を持って集合だ、お嬢ちゃん」

 

 荷物と書類の照合が終わったのか、持っていた書類をまとめ、肩から下げた鞄の中に突っ込みながらオジサンが言った。

 

「分かりました、エミちゃんにも伝えておきます」

「そう言えば、エミは何処行った?」

 

 アルバートは周りを見回す。

 

「なんか、村長の家の方に向かってたな、さっき」

 

 オジサンが頭を掻きながら言った。

 

「村長の家?何かあったんかな?」

「まぁ、すぐ戻って来るだろ」

 

 そう言ってオジサンは獣車に繋いでいるアプトノスの頭を撫でた。

 その頃、エミリアは村長を問い詰め、村長は観念し事の真実を全て話してしまっていた。

 

「……、嘘でしょ、村長さん……」

 

 床がグニャグニャと歪んでいるようだ。

 倒れないように踏ん張るのが精一杯だった。

 

「他の三人には言うでないぞ、エミリア。お主は賢い。我らの想いも理解してくれるじゃろ……」

 

 村長が優しくエミリアの肩を叩く。

 

「バー兄ぃは薄っすら気付いています……。あの人の方が私よりもずっと賢いし、空気を読めるから……」

「しかし、バーニエルは優しい。アルバートと一緒にやっていけるじゃろ。お主たちは首都で一度合流した方が良い。本当はアルバートとバーニエルのギルド登録にお主とユリーナを同行させる予定じゃったのだが、予定は未定とはよく言ったもんじゃ。こんな強硬手段しか出来んかった、すまぬ」

 

 そう言って、村長は小さな封筒を取り出した。

 

「これをアルバートとバーニエルに渡してくれ。()()()()()()にだけ開けろと伝えてな」

 

 エミリアが封筒を受け取る。

 

「ブヒッブヒッ」

 

 エミリアの足元に小さな子ブタがすり寄ってきた。

 

「プーギー……」

 

 名前を呼ぶとエミリアの足に頭を振りつける。

 この子ブタは村長が飼っているもので、村のマスコットのような存在だ。

 

「そうじゃった。プーギーも一緒に連れて行ってくれんかの」

 

 エミリアが優しくプーギーを抱き上げた。

 

「村長さん……」

「泣くでない。笑いなさい。若者の未来に幸多からんことを」

 

 村長は優しいエミリアの頭を撫でた。

 

 

 ユリーナとエミリアが首都へ旅立った翌日、昼前にはアルバートとバーニエルの出発準備が整った。

 

「忘れ物はないか?」

 

 教官が見送りに来てくれた。

 

「はい、大丈夫です」

 

 バーニエルが答える。

 何処となく声のトーンが低い事に、教官は気付いていた。

 

「路銀も渡しておく。これで足りないなら、ハンターらしく、狩猟して稼げ!」

 

 巾着袋をバーニエルが受け取った。

 

「教官!ちょっと多過ぎます!」

 

 その重さにバーニエルは驚いた。

 

「村の人たちからの分も入っている。初めての首都だから楽しんで来いという事だ」

「マジで!いいの!」

 

 アルバートが目をキラキラさせた。

 それとは対照的に、バーニエルの顔は曇るばかりだ。

 

「……、大切に使います」

 

 バーニエルが鞄の奥に仕舞った。

 涙を堪えていることに、教官だけが気付いている。

 

「それじゃ、張り切って行ってこい!」

 

 いつも通り、教官が元気よく二人を送り出した。

 二人は村の出入り口に止まった獣車に乗り込む。

 アルバートは小さな荷台に乗り、バーニエルは御者台に座った。

 手綱を握り締め、繋がれたアプトノスを歩かせ始めた。

 

「行ってきまーす!」

 

 アルバートは荷台から身を乗り出し、村に向かって手を振っていた。

 そこ声を聴きながら、バーニエルは静かに涙を溢す。

 

「行ったか……」

 

 二人の乗った小さな獣車が見えなくなる頃、教官の隣に村長がやってきた。

 

「はい……、やはりバーニエルは勘付いているようでした……」

 

 教官は見えなくなった獣車を見つめ続けている。

 

「あの子たちは大丈夫じゃ、ワシのお墨付きじゃからな」

「はい、あの二人ならどんな状況でも二人で切り抜ける事が出来るでしょう……」

「……、教官、最期の仕事じゃ。気張って行こうか」

「はい、村長の露払いは私が」

 

 二人の後ろに、村人全員が集合していた。

 村は異様に静かだった。

 

「村長……」

 

 パブのオヤジさんが言う。

 

「皆、今日までよく我慢してくれた。若者の未来を祈り、ワシらの仕事を全うしようぞ」

 

 村長のその言葉は、村の空気を一変させるものだった。

 

 

 出発して半日、アルバートたちは村の南方の森で特産キノコの採取に励んでいた。

 

「昨日出荷したのに、また集めないといけないのかよ……」

 

 アルバートが溜息を吐く。

 教官から示されたクエストの最初が、この特産キノコの採取だ。

 しかも依頼数が百という、正気の沙汰とは思えない内容である。

 下手すると二十程度集めるのすら一日を要するのが特産キノコの採取なのだ。

 二人で行うにしても数が多過ぎる。

 

「バーニィ、ある程度で見切りをつけて首都に向かわないか?」

「ダメです。これには意味があるんですから」

 

 きっぱりと断るバーニエルに少しアルバートはたじろいでしまった。

 

「そんなに怒らなくていいじゃねーか……。なんでそんなにピリピリしてんだよ」

 

 昨日のエミリアの様子から、バーニエルは全てを察していた。

 だからこそ、特産キノコの採取を疎かにする訳にいかない事も、それでも急いで首都に向かわなくてはならない事も分かっていた。

 とにかく早く採取を完了させ、先に首都へ向かったユリーナたちと合流する必要がある。

 

「それにしても、なんか森が静か過ぎないか?」

 

 アルバートがぼやくように言った。

 

「……、静か過ぎます。早く終わらせて行きましょう」

 

 バーニエルは採取した特産スジタケを箱詰めし、荷台に積む。

 既に四十を超え、一杯になった箱が四ケース荷台に乗っている。

 

「バーニィ、スゲーな。キノコ採り名人じゃん」

「いいからアルも探してください。この辺りは獣車での往来が殆どで、徒歩の人は滅多にいません。道から外れたら結構な量のキノコが群生してます」

「それなら百個くらいすぐ終わりそうだな!」

 

 バーニエルは能天気なアルバートを見て、少し羨ましくなった。

 日が暮れる頃にはキノコ採取も終わり、二人は森の中で野宿する事にした。

 

「今、どこら辺なんだ?」

 

 バーニエルが広げたマップにアルバートも目を落とした。

 

「ここがココット村です。今、僕らがいるのがこの辺り。あと二時間程進めば森も終わって平原に出ます」

 

 既に村からかなりの距離離れいた。

 

「とにかく、明日は早く起きて出発しましょう」

「そうだな」

 

 二人はランタンの火を消し、眠りについた。

 翌朝、バーニエルが目を覚ますと、アルバートは既に起きていた。

 

「珍しいですね、アルの方が早起きだなんて……」

 

 眠い目をこすりながらバーニエルがあくびをする。

 

「バーニィ、やっぱおかしい」

「おかしい?」

「昨日は静かだったのに、今日はざわめきだしてる」

 

 アルバートの言葉を聞いて、バーニエルは目を見開いた。

 

「今日なんだ……。アル!出発の準備を!すぐに森を出ます!」

「待ってくれ!あっちの方向は村の方向だろ?」

 

 アルバートが指差したのは北の方角、ココット村の方向だ。

 

「いいからすぐに逃げますよ!」

 

 バーニエルは荷物をまとめ、それを荷台に放り込み、御者台に飛び乗った。

 

「バーニィ!待ってくれ!どういう事なんだよ!」

 

 アルバートはバーニエルの腕を掴んだ。

 

「恐らく、北からの略奪です……」

「略奪……?」

 

 バーニエルは静かに説明を始めた。

 

「アル、この国は今、北の連邦と休戦状態だって事は知っていますよね。帝国の北、ヘ=ニヴル福音連邦の国土の多くは雪と氷に閉ざされ、食糧を自国で賄う事もままならない程です。それを補うために、略奪は連邦にとっての大切な生業になっています」

「それって、ココットが襲われてるって事じゃないのか!」

 

 アルバートが走り始めた。

 

「アル!走っても間に合いません!」

 

 バーニエルの声にアルバートが立ち止まる。

 

「じゃあ、尻尾巻いて逃げろって事かよ……?」

「相手は恐らく連邦の正規兵です。下手するとこの近くまで侵入している可能性もあります。森を抜けて平野に出ないと、僕らの身も危ない」

「……」

 

 アルバートは押し黙っていた。

 握り締めた拳がブルブルと震えている。

 

「アルの気持ちは分かります。しかし、僕らを逃がしてくれた村長たちの気持ちも分かって下さい」

「村長たち……?」

 

 アルバートが振り返る。

 バーニエルを睨むように、しかし感情を抑えながら言った。

 

「村長たち……、村の人たちは()()を知ってたのか……?」

 

 アルバートの怒りは自分自身にも向けられている事に、バーニエルは気付いている。

 

「恐らく、一週間以上前から知っていたと思います。その辺りから村の雰囲気がおかしかった……」

「バーニィも、知ってたのか……?」

「詳細までは知りませんでした……。何かおかしいとしか……。ただ、村長たちが僕らを村から遠ざけようとしているのは何となく分かっていました」

 

 アルバートの拳が血が出そうなほどに赤く染まる。

 

「じゃあバーニィは、村長たちが死ぬ気だって知っていながら、村を出たんだな……?」

「……、はい」

「あの時の涙は、そういう意味だったんだな……」

「……、はい」

「俺は……」

 

 アルバートが不意に空を見上げる。

 

「俺は、バーニィみたいに諦められない」

 

 そう言い捨ててアルバートは北へと走り始めた。

 

「アル!もう間に合いません!」

 

 バーニエルの声はアルバートの耳には届かない。

 アルバートはすぐに木々の向こうへと消えていった。

 

「アル……、君はどうして……、いつも僕に出来ない事をいとも容易くやってしまうんだ……」

 

 村へ向かいのはバーニエルも同じなのだ。

 しかし、どうしても脚が動かない。

 まるで地面に根が張ったように、両足がピクリとも動かない。

 とにかく怖かった。

 今、村の人たちが殺されている。

 それを考えただけで何も出来なくなる。

 

「こんなんじゃ、アルの隣に立ち資格なんか……」

 

 バーニエルは力なく、その場に座り込んでしまった。

 そんな自分自身が情けなく、涙が出る。

 しかし、いつまでも泣いていられない。

 アルバートを追いかけるか、森を抜けてアルバートを待つか、決めなくてはならない。

 バーニエルは立ち上がり、獣車に向き直った。

 その時、北の方向から()()が近付いてくる気配を察知いた。

 

「人じゃない……、四つ足だ……」

 

 バーニエルは足音からそう判断した。

 しかし、四足歩行と言ってもジャグラスとも少し違う。

 嫌な予感がする。

 バーニエルは背負っていた弓を手にし、矢を番えた。

 間もなくして気配の主が現れた。

 ジャグラスのように四足歩行だが、その身体は鱗ではなく体毛で覆われていた。

 頭から背中にかけてと手足の先の方が黒、他が白のツートンカラーの毛並みだ。

 そして何より、そのモンスターの背中に一人の男が跨っていた。

 

「なんだ、声が聞こえると思ったらガキか……。どうせなら女が良かったぜ」

 

 男は面倒臭そうに頭を掻いた。

 明らかに一般人ではない。

 

「白を基調とした防具に、その独特の訛り……。連邦の兵士ですね……」

 

 バーニエルの言葉に、男は片眉を吊り上げた。

 

「ご名答、森向こうから来たモンだ。一応、騎士(ナイト)なんだぜ?訳あって今はウルグに乗ってる」

「ウルグ?」

 

 聞きなれないモンスターの名前に、思わずバーニエルは復唱した。

 

「こいつを見るのは初めてか?こいつはウルグっつってな、北の雪原なんかによくいるモンスターだ。この辺りのジャグラスみたいなもんだな。見ての通り、手頃な毛皮の材料になるし、大型モンスターが操れない兵士でも乗りこなせる簡易的な移動手段でもある」

 

 そう言って男はウルグの頭を撫でる。

 

「それで、連邦の騎士様が帝国領内に何の御用でしょうか?軍服を着て国境を超える事は、停戦協定違反ではありませんか?」

 

 停戦協定違反、つまりこれが表沙汰になれば、即刻開戦となる事案だ。

 しかし、男は落ち着いている。

 そんな事にはならないと分かっているのだ。

 

「お前はなかなか賢いな。高く売れそうだ」

 

 男は感情なく喋る。

 ウルグの背中に載せた大きめのポーチの中から縄を取り出した。

 

「僕を捕まえるんですか?」

「ああ、じゃないと俺の取り分がないんだ。村の方はレウス隊が全部持って行っちまった。あいつら出し抜くために、一日早く出たってのに、渡された地図が出鱈目だったんだよ、クソッタレ」

 

 男は悪態を吐きながら束ねられた縄を解く。

 

「レウス隊……、リオレウス?」

「リオレウスくらい知ってるだろ?お前もハンターなら」

 

 バーニエルは絶望した。

 村がリオレウスに襲われているのである。

 飛竜種(ひりゅうしゅ)・リオレウス。

 火竜(かりゅう)雄火竜(おすかりゅう)とも呼ばれる、天空の王者。

 赤い甲殻に身を包み、性格は極めて凶暴。

 世界的に広範囲に分布する、最も有名で恐れられる飛竜である。

 『火炎袋』と言う内臓器官を持ち、ここで作りだした炎の塊を吐き出して外敵を攻撃する。

 そのリオレウスが村を襲っているのだ。

 絶望するしかなかった。

 

「その様子だと、村の関係者だな。取り逃がすところだったのか、運が良かったぜ」

 

 そう言って男が近付いてくる。

 

「許さない!」

 

 バーニエルは弓を展開し、男に向かって矢を放った。

 

「おっと!」

 

 男は咄嗟に背負っていた大剣でガードする。

 

「粋が良いじゃねーか。抵抗するつもりなら肢体を斬って、タンヤクの材料だな」

 

 感情のない声で男が言う。

 

「タンヤク……?」

 

 バーニエルも聞いた事のない名前だった。

 

「聞いた事ないか?北の地に、労咳に効く薬があると」

 

 労咳とは結核の事だ。

 特効薬もなく、治療法もないため、不治の病とされる。

 アルバートの母親が結核で亡くなった事をバーニエルは思い出した。

 

「労咳の薬……?特効薬は存在しない筈です」

「あぁ、特効薬じゃねーよ。実際、タンヤクを飲んでも労咳は治りはしないし、進行を止める事も出来ない。だが、呼吸が楽になるんだとよ。咳が出なくなるとか言って、重宝されてる」

 

 初めて聞く話だった。

 

「そんなものがあるんですか……」

「あぁ、あるぜ。実際に効くかなんて、知らねぇ。俺は労咳になった事がないからな。ただ、世界中から注文が来てるみたいでよ、原料はいつでも大歓迎らしい。いい小遣い稼ぎになるんだよ」

 

 何とも良く喋る男だ。

 ソラタも良く喋るが、それとは全く違うタイプだ。

 

「まぁ、知らなくても仕方ねぇ。こいつは裏の話だからな。村で伸び伸び育った少年には関係のない話だ」

「そんな話を、何故今、僕にするんですか……?」

 

 聞かずともバーニエルには分かっていた。

 しかし、聞かない訳にはいかなかった。

 

「そら、お前がなるからだよ、その()()()()に」

 

 あっけらかんと男が言った。

 

「タンヤクは、人間の内臓、(キモ)を使った薬なんですね……」

 

 バーニエルが弓を握り締めた。

 

「正解だ、少年。大人しく材料になってくれや」

 

 男が地面を蹴る。

 

「お断りです!」

 

 バーニエルは矢を矢筒から取り出しながら、振り下ろされる大剣を回避した。

 

 

 目の前に広がる惨劇に、アルバートは立ちすくむしかなかった。

 それはまさに地獄だ。

 村は無残に破壊され、()()()()()()が散らばっている。

 血と人肉の焼ける臭いが立ち込め、アルバートは嘔吐した。

 胃の内容物を全て吐き出し、それでも止まらず胃液を吐き続けた。

 顔は涙と鼻水でグシャグシャだ。

 

「クソ……、なんでこんな事に……」

 

 間に合わなかった。

 何も出来なかった。

 アルバートはただ後悔する事しか出来ない。

 ギリリと奥歯を噛み締めたその時、話し声と複数の足音が聞こえてきた。

 

「何も残ってねーだろ」

「レウス隊の奴らふざけやがって!」

 

 五人の男と五匹のモンスターだった。

 

「結局、アイツら総取りかよ」

 

 村の入り口から現れた男たちは愚痴をこぼしながら、辺りを物色している。

 

「目ぼしい金目のものは全部持って行ったみてーだな」

「おい、見ろよ!」

 

 一人が他の男たちを呼ぶ。

 男の足元には、彼らと同じ鎧を着た死体が転がっていた。

 

「こいつ、レウス隊の下っ端だろ?だっせー!村の奴に殺されてんじゃん!」

 

 白い鎧の死体は一つではなかった。

 

「なんだよ、こいつら!いつもは偉そうにしてる癖に、こんな辺境の村の奴に殺されるとか、笑えねー!」

 

 男たちは大笑いしながら、仲間であった筈の死体を蹴っていた。

 

「レウスに乗れる素質があるとか言って、散々えばってたよな、こいつら!」

「そーそー!まだまだレウスに近付けもしねーあまちゃんだったぞ!威張るなら自分のレウス捕まえてからにしろってんだ!」

「そんなんだから、こんなしょーもない村の襲撃でトチって殺されるんだよ!」

「ま、とりあえずもったいねーからこいつらのも頂こうぜ」

 

 そう言って、男たちは()仲間の死体をまさぐり始めた。

 すると、一際大きな足音が聞こえてきた。

 鹿のような顔に、湾曲した巨大な角。

 巨躯を覆う体毛は長く、この森には不釣り合いだ。

 北の地に生息するそのモンスターの名は猛牛竜・バフバロ。

 初めて目にする名も知らぬ大型モンスターを、アルバートは物陰から伺っていた。

 

「隊長、やっぱダメです。全部レウス隊に持っていかれてます」

 

 死体をまさぐっていた男の一人が、バフバロに跨っていた男に話掛けた。

 

「だろうな。まぁいい。使えそうなやつは全部集めろ。ここはココットだ。あの()()の遺品があるはずだ」

「英雄?」

「知らんのか?『ココットの英雄』の話だ」

「あぁ、ハンターの祖と言われる竜人のおとぎ話ですね」

「おとぎ話じゃない。あれは全て事実だ。その英雄が治めていたのがこの村だ。探せばいい品が出てくるかもしれん」

 

 隊長と呼ばれたその男はバフバロの背中から降りる。

 

「あれ、実話だったんですか!だったら、入念に探せば何か出てくるかもっすね!お前ら、瓦礫ひっぺがして探すぞ!」

「その前にだ」

 

 男たちが躍起になった途端、隊長がランスを抜刀する。

 

「そうしたんすか……?」

「お前ら、気付かんのか。まぁいい。そこの者、隠れてないで出て来い」

 

 隊長はアルバートが陰に隠れていた木をランスで指し示した。

 

「この村の生き残りか、はたまた音を聞きつけた野盗か……」

「野盗はお前らだろ……」

 

 アルバートは怒りに震えながら木の陰から姿を現した。

 

「子供か。村の生き残りだな。出掛けていた先で異変に気付いて戻ってきたのか。運のない……」

 

 隊長は憐れむように溜息を吐いた。

 

「黙れ野盗ども……。よくも村を……」

 

 アルバートは拳を握りしめた。

 

「勘違いするな。我々が直接手を下した訳じゃない。やったのはレウス隊だ」

 

 隊長は冷たく言い放つ。

 

「お前らの仲間だろ……、同じだ」

「まぁ、同じ連邦の軍人である事は確かだがな」

 

 そう言って同じ鎧を着た死体を一瞥する。

 

「これが軍人のやる事か!」

 

 感情の読み取れない隊長の様子に、アルバートの怒りが爆発した。

 

「あぁ、これが北の軍人のやる事だよ。しっかり見て学ぶ事だ。まぁ、学んだ所で君にはここで死んでもらうんだがな」

 

 隊長が持つランスが鈍く光る。

 

「騎士は人の為に力を行使するもんだろ!」

「あぁ、だから行使したまでだ」

 

 怒るアルバートに対して、全く感情を乱さない隊長。

 それが余計にアルバートの神経を逆撫でした。

 

「何だと!」

「君は何か勘違いをしている。『騎士とは常に人民の為にのみ力を行使すべし』君も知っての通り、これは騎士の根幹となる世界共通の理念だ」

「だったら!」

「君は馬鹿かね?」

 

 隊長は鼻で笑った。

 

「は?」

「騎士とは軍人であり、軍人とはそれぞれ帰属する国がある。国があるから軍人がいるのだ。分かるか?」

 

 ランスを撫でながら隊長は温度変化のない口調で喋り続けた。

 

「つまり、この理念に出てくる『人民』とは国民の事であり、他国民の事なぞ知らん。国民を生かす為ならば、他国民を犠牲にする。至極当然の話だろ?」

 

 隊長は口角だけを吊り上げて笑って見せた。

 

「そんな……」

「君の様な人間を何と呼ぶか知っているか?」

 

 ゆっくりとした足取りでアルバートに近付いてくる。

 

「『平和ボケ』って言うんだよ」

 

 隊長が地面を蹴った。

 盾で身を隠しながら跳躍してくる。

 咄嗟に双剣を抜刀しながら攻撃するが厚く重い盾に軽々と弾かれる。

 

「双剣ごときで勝てるとでも?」

 

 跳躍の勢いを利用したシールドバッシュ。

 アルバートは吹き飛ばされた。

 

「武器の心得はあるかもしれんが、ハンター風情ではその程度。人間相手の戦いなど経験がないだろ?」

 

 どこまでも感情のない喋り方だ。

 感情を押し殺している感じでもない。

 元々欠落しているように見える。

 

「アンタ……、何なんだ……」

「何って、ただの軍人だ。貴様らにとって狩る対象でしかないモンスターを使役して人を殺す事を生業としている、職業軍人だ」

 

 感情なく、一切の淀みもなく喋る隊長に、アルバートは言い知れない恐怖を感じた。

 

「何故……、村が襲われた……」

「この村を帝国領内でも北の辺境に位置している。『北壁(ほくへき)』などと貴様らが呼んでいる北部の国境線の警備など、我々には意味がない。いつでも越えられる」

「そんな筈はない!」

 

 アルバートは立ち上がり、再び双剣を握り締めた。

 

「現に我々はここにいる。帝国の北方警備など、穴だらけだ。金や権力が一点に集中すると、途端に腐る。典型的ないい例だ。それにここは()()()()だからな。金になるものも多いだろうと思ってな。理由なんてそんなもんだ」

「英雄……」

「ここの村長の事だ。『ハンターの祖』と言われる伝説の英雄。遺品なんかはオークションで高く売れるだろ」

 

 そう言って隊長は当たりを見回す。

 

「とは言っても、これじゃ残ってるかすら怪しいがな」

 

 隊長は溜息を吐く。

 

「アンタらは……、略奪を生業にしてるんだろ……。何が軍人だ!ただの野盗や山賊じゃないか!」

 

 怒りに任せ、アルバートが斬りかかる。

 

「そうだな」

 

 それを難無く盾でガードし、槍を横に薙ぐ。

 アルバートは弾かれた勢いを殺さず、そのまま後ろへ飛ぶ。

 ギリギリで槍を回避した。

 

「貴様らから見ればそうかもしれん。しかし、我が国ではそれが当たり前だ。軍人は国益のためにのみ力を行使し、人を殺すのだ」

「そんなの、許される訳がない!」

「文化の違いだ。貴様の許しを請う必要などない」

 

 アルバートと隊長の問答は剣戟と共にしばらく続いた。

 アルバートの攻撃は全て盾で弾き返され、槍の攻撃を躱すだけで精一杯だ。

 

「隊長、いつまで遊んでるんですかー?」

 

 部下の一人がニヤニヤしながら言った。

 

「この様な多勢に無勢でもなお歯向かってくるのが珍しくてな」

 

 隊長の息は全く上がっていないのに対し、アルバートは息も絶え絶えだった。

 

「そんなガキ、さっさとやっちまいましょうよー」

「そうだな。悪く思うなよ、ガキ」

 

 槍を横に薙ぐ。

 アルバートはどうにか避けるが、狙いはアルバートではなかった。

 槍の先端がアルバートの右の剣を捉えていた。

 金属が擦れ合う音と共に、アルバートの剣が宙を舞った。

 すかさずガードステップで距離を詰める隊長。

 シールドバッシュで左の剣を弾く。

 無防備になったアルバートの胸を狙い、薙いだ槍を逆手に持ち替え、柄で付いてくる。

 

「クソ!」

 

 身体を捻り何とか避けようとするが、右上腕に石突が食い込む。

 ボクッという鈍い音が体内に響いた。

 

「グワーッ!」

「ほぅ、避けたか。なかなかいい反応だ。しかし、もう利き腕は使えんぞ」

 

 隊長が腰を落とす。

 終わらせるつもりだ。

 一矢報いる事も出来ずに死ぬ。

 アルバートは悔しかった。

 何も出来なかった自分が何より情けなく、腹立たしかった。

 ふら付く脚で立ち上がる。

 残された左の剣を振り上げる。

 

「クソォ!」

「無駄な……」

 

 振り下ろさせる剣は盾に阻まれ、シールドバッシュで大きく吹き飛ばされる。

 終わった。

 目を閉じ、そうアルバートが思った時だ。

 

「どういう事だ……」

 

 今まで冷静というより冷酷だった隊長の声が上ずっていた。

 見ると、隊長は後ろを振り返っていた。

 その背中越しに、今まで大人しかったバフバロやウルグたちが妙に興奮している。

 

「静かにしろ!バフバロ!」

 

 誰も事態を把握していない。

 他の兵士たちもモンスターを落ち着かせるのに必死のようだ。

 

「どういう事だ!」

 

 隊長はバフバロに近付こうとするが、既に興奮を通り越して怒り状態だ。

 全く近付けない。

 

「これはどういう事だ!主従権が書き換えられたのか!」

 

 隊長はアルバートを睨み付ける。

 

「貴様……、余計な事をしてくれたな!」

 

 先程までと打って変わって、隊長の眼は激情に染まっていた。

 

「騎士の能力だと……?こんな辺境の村に、俺を凌ぐ能力者が?バカな!」

 

 アルバートにはサッパリ意味が分からない。

 

「殺す以外にない!」

 

 隊長は槍を構えなおす。

 しかし、隊長がアルバートに向き直った瞬間、バフバロが先に地面を蹴った。

 

「クソ!」

 

 隊長は連蔵ステップでバフバロの突進を回避。

 バフバロはアルバートを庇う様に目の前で向き直る。

 

「助けて……くれるのか……?」

 

 バフバロが再び隊長に向けて突進した。

 

「チッ!仕方ない!」

 

 隊長は盾に身を隠しながら、クラッチクローの準備をする。

 バフバロの攻撃が当たる瞬間、カウンターの要領で頭をクローで掴み、張り付いた。

 その状態でスリンガーに装填した石を頭部に撃ち込み、飛び降りた。

 バフバロはヨタヨタを走り、大木に頭をぶつけ、地面に倒れ込む。

 すかさず隊長が駆け寄り、バフバロの額に手を乗せて『主従権』の上書きを行う。

 

「どういう事だ……」

 

 アルバートが周りを見ると、ウルグたちが兵士たちを襲っていた。

 巻きつかれ締め上げられる者、噛み付かれ引き摺られる者、跳び付かれ切り裂かれる者。

 まともな状況ではない。

 

「俺の……せいなのか?」

 

 アルバートが呆然としていると、転倒から回復したバフバロに跨った隊長が近付いてきた。

 

「貴様のせいで私の隊は壊滅だ!ショックで起きたフラッド現象だろうが、貴様の能力は危険だ!ここで殺す!」

 

 バフバロが湾曲した巨大な角をアルバートに向けて走り始める。

 すると、巨大な影がバフバロの脇腹に激突した。

 

「なに!」

 

 その影はドスジャグラスだった。

 それと共に大量のジャグラスが声を上げながら森から村の中に侵入してくる。

 それは余りに異様な光景だった。

 

「ジャグラスが集まってきているのか!貴様のフラッドはどれだけ広いのだ!」

 

 バフバロとドスジャグラスが威嚇し合っている。

 その周りを無数のジャグラスが取り囲み、今にも飛び掛かりそうだ。

 

「なんなんだ、これ……」

 

 アルバートには全く意味が分からなかった。

 

「くっ!仕方ない」

 

 隊長は村から逃げる様に出て行った。

 その後を追うのはドスジャグラスとジャグラスばかりで、彼の部下は既にウルグとジャグラスの餌になり果てていた。

 

 

 アルバートは亡くなった村人たちの墓を建てていた。

 よく分からないが、ドスジャグラスやジャグラスがその作業を手伝ってくれている。

 

「これって、騎士の能力なのかな……?」

 

 その問いに、ジャグラスたちは答えてくれない。

 遺体の残っていた分は全て埋め、破壊された家屋の木材で十字架を作る。

 ジャグラスたちが穴を掘ってくれたお陰で日が暮れる頃には全て終わった。

 ウルグに殺された兵士たちの墓もついでに建ててやった。

 

「これで終わった。ありがとな、お前たち」

 

 アルバートは近くにいたジャグラスの頭を撫でた。

 ジャグラスは気持ちよさそうに目を細めた。

 すると、他のジャグラスたちも撫でろと言わんばかりに頭を寄せてくる。

 

「分かった分かった」

 

 順番に頭を撫でていると、妙な荷物を背負わされたジャグラスが近付いてきた。

 

「なんだ?」

 

 荷物を開けると、中から村長が飼っていた子豚のプーギー出てきた。

 

「プーギー!なんでここにいるんだ!」

 

 そう言っても、プーギーはブヒブヒと鳴くだけだ。

 

「ん?なんだその首輪?」

 

 顎の下の位置に、ブリキの小さい筒があった。

 伝令犬の首輪についている書簡入れを小型にしたようなものだ。

 開けてみると、そこには手紙が入っていた。

 差出人は村長だ。

 そこにはバーニエルが言った通り、連邦軍の略奪を予期していた事、村人たちはあえて逃げなかった事、アルバート達若者に一言も言わなかった事、そして村から無理やり遠ざけた事。

 全てが記載されていた。

 

「あのクソじじい……。勝手に死にやがって……」

 

 そして、もう一枚。

 『好きなものを取っていけ』と端に書かれた紙には、村長の家の近くの地図に赤い印がつけられていた。

 その場所は瓦礫が散乱していた。

 ドスジャグラスが瓦礫をどかし、ジャグラスがその場所を掘る。

 そこから大きな箱が出てきた。

 どうやら武器が入れられているらしい。

 

「好きな武器を持っていけって事か……」

 

 蓋を開けると、アルバート達が使っていた武器よりかなり強い武器だった。

 アルバートはおもむろに太刀を手にした。

 鉄刀【楔】Ⅲ。

 

「これ、貰っていくな、村長」

 

 アルバートは太刀を背負い、変わり果てた村をもう一度眺めた。

 

「とにかく、バーニエルを探さないと。それから、首都に行こう。ユリーナとエミリアも待ってる筈だ……」

 

 村を出るとき、ワラワラとドスジャグラスやジャグラス、ウルグすら付いてきた。

 

「悪いな、お前ら。お前らは森に帰れ。俺には面倒見きれない、ごめんな、ありがとう」

 

 アルバートのその声にジャグラスたちはバラバラに森へ消えていった。

 

「バーニィ……」

 

 緊張の糸が切れたのか、怪我と疲れからか、アルバートはその場に倒れ込んだ。

 五匹のウルグが心配そうにクンクンと匂いを嗅いでいた。

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